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第24話【思想犯・栗林、娘との別れ】

毎日投稿予定。

 栗林は担いでいたイノシシを地面に下ろすと、隆之たちを山小屋へと招いた。山小屋の中は思ったよりも広い。隆之たちは栗林に促され、板張りの床の上に座る。隆之たちは軽く自己紹介をして、ここに来た理由を述べた。

「1年くらい前です。私たちはここから少し登ったところにある青葉山にキジ狩りに行きました。そのとき英子さんが川に落ちてしまったのです」

 英子の方とちらっと見る隆之。

「来る日も来る日も英子さんを探し続け、そして、こちらの山奥に人が住んでいるらしいとの情報を得た。もしやと思い、本日こちらにお邪魔しました」

「そうでしたか」

 目を閉じて隆之の話を聞いていた栗林が、英子がここに来たいきさつを話し出した。栗林によると、英子は川でおぼれていたところを助けられ一命を取りとめた。しかし、川の水を大量に飲み込んで気を失った英子は回復したあと記憶を失っていたのだ。自分の名前さえも思い出せないので、今は仮の名前で『里美さん』と呼んでいる。説明を終えた栗林は小さく息を吐いた。隆之たちはみな黙ったままだ。栗林が英子に話しかける。

「里美さん。いや、『英子さん』、でしたね。どうやらあなたの帰る場所が見つかったようです」

 先ほどまでうつむいていた英子が顔を上げる。

「わたし、帰る場所などありません。ここで暮らしているのが幸せなのです」

「英子さん!」

 隆之が困惑した表情を浮かべる。風岡も心配そうな顔で黙ったままだ。栗林が続ける。

「英子さん、あなたは一時的に記憶を失っているだけなのです。この人たちの元へ帰ると、きっとあなた自身のことを思い出してくると思います」

「でも……」

 言いよどむ英子の袖を紗智子がぐっと握る。

「里美お姉ちゃん、どこにも行かないで」

 黒い瞳には大粒の涙があふれている。

ここでふと、渡瀬が何かに気がついたようだ。栗林の顔をちらちらと横目で見ている。自分の記憶の中から何かを手繰り寄せていた渡瀬が、はっと目を見開いた。栗林の顔に見覚えがあったのだ。町のあちらこちらに設置されている警察の掲示板の中に栗林によく似た写真があったのを思い出した。渡瀬は連続ラジオドラマ『解決使用人』の影響で事件への関心が深いため、指名手配の掲示板にはよく目を通している。

栗林の顔を横目で見ていた渡瀬の記憶が鮮明になってきた。この人は指名手配犯に間違いないと確信している。こんなところに潜伏していたのか。しかし決して悪い人ではない。罪状は確か『思想犯』とのことだったようだが、いうなれば平和活動だ。それにこんなに可愛いお子さんもいるし、ましてや、今目の前にいるのは英子の命の恩人ではないか。

渡瀬はふと思い出した。そういえば、藤原が警察にこの場所を連絡していたのだ。自分たちが先に到着したのだが、もうじき地元の警察もここにやってくるだろう。渡瀬は考えを巡らせ、意を決して藤原にそれとなく声を掛けた。

「藤原さん、確か地元の警察の方にもこの場所を連絡してあるのですよね」

「はい、そろそろこちらへ来ると思うのですが」

 慌てた英子が栗林を見る。英子は栗林が指名手配中の身であることを栗林本人から聞いていた。栗林の顔に緊張が走る。体を硬直させる栗林が紗智子の顔を見て「紗智子」と小さくつぶやく。自分が思想犯として捕まれば娘と離ればなれになってしまう。父親が刑務所にいるとなれば世間から受ける風当たりも強くなるだろう。突然英子が栗林に叫ぶ。

「栗林さん、逃げて!」

「し、しかし」

「紗智子ちゃんは私が面倒を見ます! あなたは戦争反対を訴えているだけなのです。戦争が終わればきっと許される日が来ます」

「里美さん」

 栗林は小さくうなずき、紗智子の肩に手を掛ける。

「お父さん!」

 紗智子が泣きじゃくる。

英子は紗智子の小さな体を抱きしめながら栗林に話す。

「栗林さん、今までありがとうございました。戦争が終わったらこの山小屋へ寄ってください。連絡先を置いておきます」

「里美さん」

 栗林は"英子"ではなく、娘が付けた名前で呼んだ。

「わかりました、里美さん。必ず紗智子を迎えに来ます。きっと、きっと迎えに来ます。それまで紗智子のことをどうか……」

 泣きじゃくる紗智子を見つめながら栗林の目にも熱いものがあふれ出した。その時小屋の外で足音がした。

「早く!」

 英子が叫ぶと、栗林は山小屋の裏にある小さいドアから外に出てそのまま森の奥深くへと走っていった。泣きじゃくる紗智子。英子が抱きしめる。鶴丸が紗智子のそばにきて紗智子の顔を心配そうにペロペロとなめた。

「鶴丸……」

 英子がつぶやいた。それを聞いた隆之が驚きながら英子に声をかける。

「英子さん! 鶴丸のことは覚えているのですか?」

 英子が目を見開いた。『私はなぜこの犬の名前を知っているのだろうか?』。一番驚いているのは英子自身であった。

「面白かった!」

「続きが気になる!」

「今後どうなるの?」

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