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第16話【舞踏会当日、黒く輝くレースに包まれたドレスの裾が揺れ動き】

 舞踏会当日となった。今回隆之が持ってきた舞踏会の案内には参加人数が300名と書いてあり、かなり大規模の舞踏会である。南郷家では準備に大忙しだ。舞踏会に出席するのは隆之と桜子と英子の三名である。隆之はすでに準備が終わりリビングにいた。洗練されたタキシードに身を包み誇らしげにしている姿は、いかにも南郷家の御曹司であるという風格がある。ドレスアップした桜子がリビングにやってきた。

「まあ! 隆之さん、タキシードがよくお似合いで素敵です。わたくしの出で立ちはいかかでしょうか?」

「良く似合っていますよ」

 桜子は顔を赤めながら仰々しくお辞儀をすると喜びながら軽く体を一回転させた。フリルがたくさんついた明るいピンク色のドレスが風をはらんで大きくたなびく。

しばらくして英子がやってきた。リビングのドアが遠慮がちにゆっくりと開けられる。扉の端から恥ずかしそうに英子が顔を出した。隆之は英子のドレス姿を見て息をのんだ。黒く輝くレースに包まれたドレスの裾が揺れ動き、繊細なシルクの布地に添えられたクリスタルビーズとパールの煌めきが光の加減によって微妙に輝き、英子の体を美しく包み込む様は、まるで夜空に浮かぶ星々のような儚さと輝きを持っている。とても多江のお古とは思えないドレスだった。

背中が広く開いたドレスを着て、少しうつむき加減にしている英子の頬が、うっすらとピンク色に染まっている。少しはにかんでいる様子だ。隆之は何か言葉を探しているようにも見えるがうまく声に出せない。やっとのことで隆之が言葉を発した。

「英子さん。とても、とても綺麗だ」

 そう、隆之の目の前に現れたのは、隆之が今まで見たこともないような美しい女性の姿だった。英子は隆之の感動をよそに初めて着るドレスが恥ずかしいのか、どことなく落ち着かない。

「隆之さん、お褒めに預かり光栄です。でも、背中あたりがスースーして落ち着きません」

 思わず吹き出しそうになった隆之が一つ咳払いをして笑いをこらえる。そんな隆之の前で緊張しつつもほっぺを膨らませる英子であった。

英子は思った。それにしても、風岡さんは自分のドレス姿を見てどう思うのだろうか? 少し恥ずかしい気持ちもあるが、風岡の驚く表情を思い浮かべ期待に胸が膨らんだ。


 準備が整った隆之達は南郷家の駐車場に行った。すでに車を用意していた藤原が英子のドレス姿を見て一瞬動きが止まった。

「これはこれは、英子様。なんと申しましょうか。わたくしは言葉が見つかりません」

藤原は軽く咳払いをして深くお辞儀をしドアを開ける。後部座席へ先に隆之が乗りこみ、その隣に素早く桜子が乗った。桜子はどことなく不機嫌な表情をしているのだが隆之はさほど気にしていない様子だ。

英子が前の助手席に乗ろうとした。そのとき、日頃履き慣れていないヒールでドレスの裾を踏んで、ドアの手前で転んでしまった。地面には昨夜小雨が降ったみたいで小さな水たまりができている。英子がドレスの裾を手に取り広げて見ると、少し泥水の汚れがついていた。英子は申し訳なさそうな顔をしている。

「ごめんなさい、汚れを取るので先に行ってください」

「まだ時間があるから待ちましょう」

 隆之が応える。

「いえ、多江様からお借りした大切なドレスです。しっかりと汚れを落としてから舞踏会へ参りたいと思います。どうぞ先に出発してください」

 隆之はそれでも待つと言うのだが、その様子を見ていた藤原が声を掛けた。

「隆之様、舞踏会の会場は当家から近うございます。隆之様達を先にお送りし、すぐに英子様をお迎えにまいりますので、先に参りましょう。その方が英子様もゆっくりと身支度できると思います」

 隆之は、英子が慌てないようにと気遣う藤原の気持ちがわかったようで、「お待ちしています」と言って車を発車してもらうことにした。桜子は久しぶりに隆之と二人っきりで車に乗れるのがうれしくて仕方ない様子だ。先ほどから不機嫌そうにしていたのだが少し落ち着いている。そして、隆之と桜子を乗せた車は英子を南郷家に残し舞踏会会場へと向けて出発した。

 隆之と桜子が会場に到着する。二人は並んでダンスホールへと足を運んだ。会場にはすでに各財閥の来賓客、華族関係といった豪華絢爛な貴賓客であふれていた。舞踏会は上級貴族の社交の場であると同時に御子息御息女らの出会いの場でもあるのだ。隆之と桜子が大きな扉の前に来ると、両隣りにいた黒服に身を包んだ背の高いドアマンが扉を開けた。

二人がホールに入ると、会場からどよめきが起こった。南郷財閥の御子息と黒澤財閥の御令嬢のツーショットである。ブリティッシュ・スタイルのスーツを纏った隆之の隣に、派手な装飾を凝らし煌びやかに輝くドレスを優雅に着飾った桜子。見る者を魅了してやまない二人の出で立ちに会場にいる者は息をのんだ。この上なく上機嫌な桜子の隣で隆之は、早く英子が来ないだろうかと心配してばかりしているのであった。

 しばらくして英子が会場へとやってきた。舞踏会会場の門をくぐった英子は、ホールへは向かわず、先に化粧室に入った。ドレスの方は何とか綺麗になったのだが、急いで屋敷を出たせいで身づくろいが出来ているのか不安であったのだ。

ダンスホールにはすでに音楽が奏でられ、紳士や貴婦人たちが優雅にダンスに興じている。ホールの隅で桜子がワクワクしながら隆之に声を掛けた。

「隆之さん、一曲お相手願えませんか?」

「あっ、ええ……」

 ドアの方を気にしながら英子のことが心配でたまらない隆之であったのだが、桜子からのダンスの誘いを断るのも礼に反する。まだ時間はある、英子が来るのをゆっくり待っていればいいのだ。隆之は桜子の誘いを受け、しばらく踊ることにした

ホールの中では音楽が流れ、華やかな雰囲気に包まれている。『英子さんはどうしているのだろうか? そろそろ見えてもいいはずなのだが』。隆之がダンスに集中できないでいることを感づいた桜子が、ツンとした目で隆之を見つめながら隆之の手を強く握りしめた。ふと桜子を見る隆之。何食わぬ顔で踊りを続ける桜子が顎を上げてすましている。

そのころ、化粧室に入った英子は何とか身だしなみを整え、化粧室のドアを開け通路へ出た。その時、少し場違いな雰囲気に見える男性が目に入った。風岡だ。久しぶりに箪笥の奥から出したようなよれよれのスーツを着て、どことなく落ち着かない様子でいる。驚いた英子が声を掛ける。

「お義兄さん!」

「英子ちゃん?」

 以前と変わらない風岡の姿を見て安心した英子。初めて着たドレスと、舞踏会という慣れない場に参加して緊張していた英子であったのだが、懐かしい顔を見た瞬間、張り詰めていた心の糸がほぐれていくのを感じた。いつもと変わらぬ優しいまなざし。いつもと変わらぬ穏やかな声。英子は込み上げてくる思いを胸に、ジワリと潤んだ瞳をこらえながら微笑み、ゆっくりと風岡に近づいた。

「お義兄さん、お久しぶりです、お元気でしたか? 子供たちは元気にしていますか?」

「うん、富雄や早苗は元気にしているよ。そうだ子供たちが英子ちゃんの似顔絵を描いたんだ。良かったらもらってくれないか」

 スーツのポケットから小さく折りたたまれた紙を出す風岡。英子はその紙を手に取り広げた。小さな画用紙の上で色鉛筆で描かれた自分の似顔絵が微笑んでいる。一生懸命描いている二人の姿が目に浮かぶ。英子は思わず泣きそうになった。

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