第13話【自転車、二人乗り】
隆之の提案により南郷家でメイドの仕事を始めた英子なのだが、屋敷の掃除や馬小屋の清燥はいつもと変わらない。特に変わったことと言えば、隆之を朝起こすことと衣類の準備、カフェのバイトを辞めたので、朝食と夕食の時間にみんなと同席するようになったことくらいである。屋敷内での格好なのだが、作業用のエプロンとメイド服を新調した。黒を基調とした落ち着きのある色合いで、レース状のフリル付きの服である。渡瀬の仕立てで、自分がもう少し若かったらこういう格好をしたかったと言っていた。
学校に行くときも以前と同じように隆之と桜子と一緒に車での通学だ。しかし、英子にしてみると早く登校したい日もあるし、自転車で行きたい日もある。当分の間は車で一緒に登校していたのだが英子は相変わらず校門の前の路地をまがったところで下してもらっていた。
隆之は英子を見送りながら、英子から聞いた話を思い出していた。英子は、南郷家とかかわりがあることが学校の人たちに知られると南郷家の迷惑になってしまう。それに自分は女学生に大変人気があるため、一緒に通学していることが知られると不愉快に思われてしまうかもしれない。また、英子は南郷家に学費を融資してもらっている身であることに後ろめたさを感じていたのである。隆之はそういう英子の気持ちを少しは理解してきたようで、悲しい気持ちでいる。
ある日の夜、車での通学に気乗りしない英子を気遣った隆之は自転車で登校することを提案した。英子は了承し、自転車通学することにした。次日の朝、英子は南郷家の駐輪所へ向かった。隆之がすでに待っていた。
「やあ、僕は自転車通学は初めてなんだよ。道は大体わかっているから大丈夫だけどね。さあ、乗って」
隆之は用意した自転車にまたがっている。後ろの荷台には大きめのクッションを括り付けてあった。
「え? 隆之さん、自転車は他にはないのですか?」
「今、これしかないんだよ。そもそも自転車なんかうちの人たちは乗る機会がほとんどないからね」
英子は困惑したが時間がない。それに今はメイドという立場でもあるので断るわけにはいかない。英子はあきらめた様子でスカートの裾の端をつまんで少しまくしあげ、隆之の後ろの荷台に両足をそろえ横座りに乗った。
自転車に二人乗りしての登校。学校までの道沿いの桜並木が綺麗だ。「しっかりとつかまって」と言う隆之の背中にしがみつく英子。暖かくて大きい背中に安心感を覚える。英子は静かに目を閉じた。なんだか幸せな時間だ。南郷家に来てこんなに落ち着いた気持になったのは初めてかもしれない。こんな時間がいつまでも続けばいいのにと思っていたら自転車が止まった。
「英子さん、着きましたよ」
校門から離れた路地をまがったところだ。南郷家を出て30分くらいであったが、英子にとってはとても短く感じられた。隆之は「帰りもここで待っています」と言って自分の務める病院へと向かった。
英子たちから遅れて車で南郷家を出た桜子であったが、いつもは一緒に車に乗っているのに今日は自転車で行くと言う隆之と英子を訝しく思い、車の中でもずっと不信感を募らせていた。車通学した桜子は先に学校に着いた。教室へと行き、教室の窓から外を眺めていると、いつも英子を車から下ろしている路地のあたりに人影が見えた。自転車に二人乗りをしている。よく見ると隆之の乗る自転車から英子が降りようとしているところであった。
『そういうことだったのか!』。桜子は嫉妬の表情を浮かべながら窓から二人の姿を見やった。
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