第12話【私専属のメイドになっていただけませんか?】
隆之に怪我はなかったようだ。英子はほっと胸をなでおろし、アルバイト先に戻った。隆之は藤原に「お店の人に少しお話がありますので車で待っていてください」と言って、英子について店に向かった。英子は店に戻るなり、その場にいた女性店員達やお客様に向かって深々と頭を下げる。年配の男性が心配して英子のところに駆け寄った。どうやらこの店の店長のようだ。
「大丈夫? 二階堂さん、お連れの方にお怪我はなかったの?」
「はい、大丈夫です。三人のお客様はそのままお帰りになりました」
ほっとしている店長に隆之が話しかける。
「あの、すみません。お話があるのですがよろしいでしょうか?」
「はい、かまいませんが」
「フロアではなんですので事務所の方でお話しできればありがたいのですが」
店長は「どうぞ」と言いながら事務所へ案内した。隆之が後をついていく。英子は小首をかしげそのまま店の仕事に取り掛かった。しばらくすると事務所から隆之と店長が出てきた。店長が英子に声を掛ける。
「二階堂さん、今日はもういいですよ。南郷さんからお話を聞きました。今までありがとうございました」
「え? あの、どういう意味でしょうか?」
店長が二人に深々と頭を下げる。
「英子さん」
隆之が英子の後ろから肩を叩く。隆之は英子を促して店の外に出ると一緒に車に乗り込んだ。シートに座って一呼吸おいてから隆之が英子に話しかける。
「英子さん、あの三人の男性の支払いは私が済ませました。今日はもう帰っていいそうです。店長とのお話は済みましたから」
藤原が運転する車の中で隆之はどう話を切り出していいのか考えていた。英子は先ほどから黙ったままだ。しばらくして英子が隆之に話しかけた。
「あの、隆之さん、聞いてもいいですか?」
「はい」
「店長が私に『今までありがとうございました』と言われたのですが、隆之さんが店長とお話されたというのはどういったことでしょうか」
隆之は唇を軽くかみしめるように話し出した。
「英子さん、私はあなたにアルバイトなどはしてもらいたくない。あなたは学生であり、学業が最優先です。ましてや、夜お酒も出すカフェの給仕なんて、今日のようなことが今後も起こりえることは多いにあります。もしあなたの身に何かあったらご実家の義兄様に顔向けできません……」
「私は学業の合間にアルバイトをして、南郷さんに出していただいている学費や生活費をできるだけ早くご返済したいだけです」
車の中に重い時間が流れる。返済についてこんなにも心を苦しめている英子を前に隆之は心臓が締め付けられる気分であった。
「英子さん。店長さんとお話しし、お店は今日で辞めてもらうことになりました」
「え? そんな!」
驚きとともに悲しそうな目をする英子に隆之が話しかける。
「英子さんの返済に関してのお気持ちは十分わかりました。しかし、カフェでのアルバイトは辞めてください。そこで一つご提案があります。私専属のメイドになっていただけませんか?」
「え?」
「仕事内容ですが、私の身の回り全般の手伝いをお願いします。その他に鶴丸の世話、冬風の餌やり、これは藤原さんと一緒にお願いします」
「え? あの……」
「ただし、勉強時間を最優先にしてください。それから、食事は一緒にすること。また、私の勤務時間と英子さんの通学時間が合う時は一緒に出かけましょう」
英子には隆之のメイドになるという提案が理解できない。隆之が言った仕事内容は自分がいつもやっていることであり、そんなことが仕事だとは思えないのである。
「隆之さん、私にはお金が必要なのです」
英子は少し強い口調で言った。隆之は続ける。
「英子さん、先ほども言いましたが、私はあなたを絶対危険な目に合せる訳にはいかない。お金でしたらカフェでのアルバイト料の二倍出します」
隆之にしてみれば、そうすることで英子といつでも一緒にいることができる。英子にとっても今までと変わらぬ生活をすることでお金を貯めることができて返済も早くできるのだ。しかし英子にしてみれば、やはりいつものお手伝い程度でアルバイト料が二倍というのが理解できないのであった。
「隆之さん、私、そのメイドというお仕事がよくわからないのですが、南郷家の使用人の立場で隆之さんご専用のお世話をすればよろしいのですか?」
「そうです、英子さん。やっていただけますか?」
英子はしばし考えを巡らし、小さくうなずいた。隆之はようやくほっとした表情で車のシートに体をもたれた。
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