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秘密の協定

「……あなたも魔女ということなのね?」


 私が聞くと、リサは小さくうなずいた。


「あなたが私の代わりに土地の権利書を守り、お母様も守ってくださると?」

「ええ、そうです。その代わり、報酬としてロベールベルク公爵家の土地の4分の1をいただけますか」


 リサは報酬を要求してきた。


「4分の1は多いわ」

「でも、あなたは今すでに一文無しです。あなたの大嫌いなド貧乏を期間限定ではなく、一生続ける瀬戸際に立っていらっしゃいますわ。受けないならこの話は聞かなかったことにしてください。私一人でやりますから」


 リサは見切りをつけた様子で会釈をすると、身を翻して歩み去ろうとした。


「待って!」


 リサは立ち止まった。


「待って!話に乗るわ!」


 私はリサの後ろ姿に言った。


 リサは静かに振り向いて、こちらに戻ってきた。


「一生ド貧乏は困るの。私はともかく弟がまだ2人いるの。お母様も救いたいの。執事や侍女や従者や馬番、庭師に至るまで、路頭に迷わせるのは嫌なの。我が公爵家が面倒を見ている教会や貧しい家の子たちはきっと困るのよ。うちがいきなり破産したら困るの。だから、あなたの力を借りるわ。報酬については承知したわ」


「では、こちらの契約書にサインをお願いしますわ」


 手際よく彼女が差し出した紙に私は目を走らせて、うなずいた。


「執事を呼ぶわ。他に聞いておくべきことはあるかしら?」


「女王陛下のご子息もヘンリード校の寮生ですわ。入れ替わって偽者のリサ・アン・ロベールルベルクだとバレないように気をつけていただけますか」


「ヘンリード校?」


「先ほど申し上げましたように、アイビーベリー校からさらに選抜されて、私はある特別な寄宿寮に入学することが決まりました。そこがヘンリード寄宿学校です。そこにフラン公爵令嬢には行っていただきたいのです。抜きん出て優秀な生徒だけを集めるそうです。クラスメイトに王子もいます」


「分かったわ。薬草学なら、母の真似で乗り切れるかもしれない。私には魔力はないけれど、バレないように頑張るわ。あなたは確実に我が公爵の土地の権利書を取り戻して、母を守ってくださいね。よろしくお願いします」


「承知しました」


 私は遠くから見守っていた執事に合図をした。執事に羽ペンとインクを取ってきてもらい、私は庭の東屋のテーブルで契約書にサインをして、リサに渡した。


「今晩寝て明日の朝になれば、時間が戻ります。朝早くに馬車でアイビーベリー校に向けてご出発ください。なるべく質素な服装でお願いします。私はそこで待っています。お昼に入れ替わりましょう。私は帰りの馬車で公爵家に戻ります」


「分かったわ。弟と母のことをどうぞよろしくお願いしますね。それから、アネシュカという従姉妹がいるわ」


「承知しております。あなたさまの環境のことは調べ上げましたので、大丈夫です。それより、ヘンリード校でバレないようにお願いします」


「頑張るわ」


 私はリサに力強く頷いた。母を取り戻すにはこの方法しか今はなさそうだ?家も弟たちのために守りたい。それについてもこの方法しか今はない。私がミカエルに入れ上げて騙されたせいで、我が公爵家を破綻させる訳にはいかない。


 リサは仮面をつけて、すっと背筋を伸ばして我がロベールベルク家を静かに立ち去った。


 家庭教師に学ぶしかなかった公爵令嬢の私は、思いがけず、女王陛下が設立した特別な寄宿学校に入学することになったのだ。私の心臓はドキドキしていた。


 いつのまにか夕暮れが近づき、幾何学模様に刈り込まれた美しい庭園で、剣を引きずるように持ち、母屋の元あった場所に戻そうと歩いた。



 さあ、2週間前に時間が戻るのだ。頑張って今度こそは盗まれないよう、母が誘拐されないようにしよう。私の役目として彼女の代理を果たそう。



 この時点で私が命を失うとは敵も含めて誰も考えていない。ただ、計算違いは何事にも起きるものだ。







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