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公爵家の破綻の予感

 森に薬草を採りに行こうとしていた私の決心は揺らいだ。うちの公爵家の領地だったはずの森が、いつの間にかミカエルのものになっていたと分かったのだ。


 私が思案していると、弟のカールがやってきて話しかけてきた。


「フラン、お母様はどこだろうね?無事かな?」

「森に薬草を探しに行きましょう。お母様が戻ってきた時のために薬を準備しておきましょう」

「やったー!でも、森には魔物がいるよ」


 カールは10歳だ。飛び上がって喜んだものの、魔物のことを思い出して一瞬で冷静になった。


「でも、お母様の病を治せる薬がないと、お母様は死んじゃうよ」


 横から口を出してきたのは12歳のルドルフだ。身長がどんどん伸びてきて、私を追い越しそうだ。


「そういうことよ。お母様が森で薬草を獲ってきていたでしょう。お母様の代わりに私たちが準備しておきましょう。戻ってきた時にお母様がすぐに薬を使えるようにしておくのよ」


 ――ミカエルは、お母様から森の権利書を盗んだ?


 盗んだミカエルをそのままにはしておけない。なんとかして取り戻さねばならない。他の土地の権利書も無いということは、公爵家が破綻することを意味している。


 私は恐ろしい予感に震えた。


 でも、まずは森をなんとかしないとならない。母を探し出して母の病を治すことが先決だ。


 私は二人の侍女になんでもないわよという表情を作って微笑んだ。念の為に書斎には鍵をかけて出た。あとでこっそりよく調べるつもりだ。


「最近、ミカエル兄様は来ないね」


 無邪気なカールの言葉に私はグッと言葉に詰まった。唇が不覚にも震える。しかし、弟の前で泣くわけには決していかない。



 弟が肺炎になった時は、本当に大変だった。ミカエルが医者を連れてきてくれた。夜通し看病してもう医者にダメだと言われた後に、カールは奇跡的に助かった。


 私は、たくさんの間違いを犯した。今朝までは、ミカエルに甘え過ぎていたのだと思っていた。そのことを考えると今朝まで胸が痛かったのに、今はミカエルに騙されていた可能性に気づいて、悲しさと腹立たしさでどうにかなってしまいそうだった。


「最後に来た時に狩猟旅行に行くと言っていたから、忙しいんじゃない?」


 ルドルフがカールに言っている声がして私はハッとして、空を仰ぎ見た。


「そうねえ、ミカエルはミラー湖畔の先まで行くと聞いたわね。きっと忙しいのよ」

「そうだね」


 カールは納得したようだ。


 いつかは、私は弟にミカエルは兄様にはならないと伝えなければならない。私と結婚する気は無くなったと言われたのだから。ミカエルは永久に義兄にはならない。そもそも、母から権利書を盗んだに違いないと思われるミカエルが義兄になるはずがない。


 だが、それは今カールに言わなくても良いだろう。今は、私はそのフレーズを平常心では言えないのだから。


「さて森に行くと決まったら、さっさとお昼を済ませましょう」


 ――何がなんでも森に行くわ。私から森を取り上げたつもりでしたら、おあいにく様。必要な薬草を手に入れるわ。そして森の権利書もあなたから取り返すわ。


 私は心の中で誓った。


 ***


 そして、今は何も知らない料理人や侍女が準備してくれた豪華な昼食が終わった後だ。私は森に行く準備をするために剣を用意しようとしていた。もしもミカエルが現れたら、剣を使って彼を脅して、母から盗んだ森の権利書を返してもらおうと考えた。


 怒りのあまりにミカエルを傷つけてしまうかもしれない。私は剣を使う前に自分を傷つけるのではないかと思った。


 私は剣を使えない。ミカエルに遭遇しなくても、母の言葉通りなら、森には危険生物がいるはずだ。剣を使う前に危険生物に襲われてしまいそうだ。


 私は泣きたかった。私は庭で途方にくれた。


 そこに、彼女がやってきたのだ。


 それは運命だった。





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