公爵邸へ リサSide
私は馬車の中で緊張のあまり気持ち悪さを感じていた。そもそも二週間も時間を戻したことが今までなかったので、今日は体がフラフラだった。本当にフランのフリをし通せるのか、自信がなかった。御者は私を見るなり驚いたが、私のことを疑うことはしなかった。
「お嬢様、お顔が真っ青でございますが、大丈夫でしょうか。そしていつの間に着替えを?」
御者はアイビーベリー校の門を出てきた私を見るなり、驚いた様子で聞いてきた。私は服を全部寄付して、貧しい子と服を取り替えたと説明して「疲れたから家に戻りたいわ」と御者に告げた。
「かしこまりました」
御者は私を完全にフランと間違えた。
馬車の中にはフランがパンの入ったカゴを残しておいてくれた。水の入った壺もおいてあった。
私はフランが残しておいてくれたことに感謝して、すぐにパンを食べて水を飲んだ。しばらくは平気だった。目を瞑って、時間を戻したことによって疲れ切った体を癒そうとした。
しかし、はちみつ色の壁の可愛らしい村が見えてくる頃には、私は緊張のあまり目がぱっちり覚めてしまい、目を瞑っていられなくなった。窓の外は、フォーチェスター城のあるどかな田園地帯から美しい森やカモや白鳥の泳ぐ川の流れるロベールベルク公爵領に近づいていた。春の新芽が吹き出し、あたりは夕暮れながら春の躍動感に溢れていた。
――あれが噂の森ね……。私はあれを何がなんでも死守するわ。
ただ、私がそれを成し遂げるには、周りの人を残らず騙し通さなければならない。
――婚約者のミカエル、魔女の母親、二人の弟。執事、侍女、従者……。私の作法は公爵令嬢として通じるのだろうか。
私は御者が騙されてくれたことに心底ほっとしていたが、これから大勢の者に自分はフランだと思い込ませなければならないことに、不安が込み上げてきて仕方がなかった。握りしめた手は汗ばみ、体が震えてくる。
フランと非常に仲の良いと聞くカールとルドルフという二人の弟をうまく騙せるだろうか。魔女の母親に私の魔力を見抜かれないだろうか。
フランと結んだ契約書は私の鞄の奥底にある。小さなカバンには契約書しか入れてこなかった。服も何もかも公爵令嬢であるフランのものを使うしかないからだ。昨日の夜、フランの署名を何度も何度も真似して、完璧に真似できるようにしたつもりだが、まだ自信がなかった。
――あぁっ、一体私は何を企んでしまったのだろう……?
そもそも私は貧しい家の娘だ。父がロベールベルク公爵だと知ったのは、つい最近のことだ。母が亡くなる直前に教えてくれた。
そして、私はその後女王陛下の設立された学校の選抜試験を受けて、見事にアイビーベリー校への入学が決まった。それだけでも幸せだった。試験を受ける時に、実は裏の手を使った。時間を1日戻したのだ。一度受けた試験問題を暗記して、答えを準備して再度受けた。だから合格したのだと思う。
しかし、アイビーベリー校の入学の後に、私の秘密に気づかれた。咎められるかと思ったが、女王陛下選抜のヘンリード校への入学が決まった。特殊な魔力を有する者だけを集めているというその学校への入学が決まったころ、私は父の公爵家に仕掛けられた罠を偶然知った。
私は本当は18歳だ。ちょうどフランより2つ歳が上だ。戻した2週間の間に誕生日が来るから、まもなくもう一度18歳になる。3日後に2回目の18の誕生日を迎える。フランには私は16歳だと嘘をついた。フランは信じた。
愚かなフランは16歳だが、婚約者ミカエルの謀略により、貶められようとしていた。私は許せなかったのだ。せっかく恵まれた公爵家に生まれながら、まんまと詐欺師に財産を奪われてしまう彼女が許せなかった。父であるロベールベルク公爵の土地と森を奪われる彼女はどうかしている。
ワガママな公爵令嬢であると悪名高いフランと入れ替わり、私がロベールベルク公爵領を守ろうと思いついた。
馬車がロベールベルク公爵領についた頃、美しい夕暮れが訪れようとしていた。
私はこの時、激しい恋に自分が落ちると思ってもいなかった。フランの婚約者ミカエルは私より数枚上手だった。私はこの後彼に骨抜きにされることになる。
ただ、私はこの時、貧しい家に生まれた私は、父のロベールベルク公爵の生家に公爵令嬢として馬車を降り立った。期待と不安が入り混じったドキドキの心臓の鼓動を感じつつ、ゆっくりとロサダマスケナのピンクの花が咲き乱れるロベールベルク公爵家の門を歩いて通った。
フランの誕生日も戻した2週間の間にあった。もうすぐ2回目の16歳になる。そのフランのフリを完璧にしなければならない。私が昨日直接会ったところ、ワガママ公爵令嬢のフランは貧しい家の娘より大人びて見えた。
気をつければできるはずだ。私の方が色々発育が良いように思ったが、そこはなんとでもなるはずだ。
御者には門のところで降ろしてほしいとお願いした。歩いて公爵令嬢フランとして庭を抜けて行きたかったのだ。
私は人生で初めて美しい家という者を知った。父の公爵家は素晴らしい屋敷だった。
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