とてつもない魔力 王子Side
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俺は王子用の部屋に戻ると、鏡を使って背中を確認した。確かに傷が消えているようだ。薬は少なかったのか、塗ったことが分からないほどの量だったのか、薬の後もなく傷もなく、俺の背中はツルツルになっていた。
ドアを静かにノックする音がした。
「入れ」
ウォルター・ローダン卿が部屋に入ってきた。
「な……っなんとっ!」
俺の背中を見てウォルターは目をしばたいた。
「傷が消えていますよ」
ウォルターは恐れをなした様子で俺にささやいた。
「そうなんだ。薬草学でフランが特別な薬を作ったんだ。それを塗ったら新しい傷だけでなく、古傷までが即座に消えたんだ。そんな力は聞いたこともない。薬草学の力なのかさっぱり分からないんだが、彼女は特殊な魔力があることは間違いない」
俺の説明にウォルターは「フラン嬢がですか?」と半信半疑の様子で聞き返してきた。
「そうだ。全員がその凄まじい薬の効果を見た。バロン教授は母上に説明せねばと慌てていたくらいだ」
「となると、報告書とだいぶ違いますね」
「あぁ。違う」
「ロベールベルク公爵家の奥方は薬草学の権威です。しかし、その娘のフラン嬢はまるで魔力が無いという報告は誤っていたということになりますね」
「そうだ。間違っている。あの娘はロベールベルク公爵家夫人以上の力だ」
俺の言葉にウォルターは押し黙った。
「今日まで誰も気づいていなかったんだな。本人すらさっき驚いていたようだ」
俺はポツンとつぶやいた。
教室に入った時は、フランは1点を見つめて集中して記憶を呼び覚ましているようだった。その後、まるでトランス状態になったかのようにフラフラと心ここにあらずの状態で薬草をどんどん手に取り、不思議な歌うような呪文を唱えながら薬草を煮てすりつぶし始めた。俺は驚いた。本当に魔力があるように見えたのだ。
だが、その後にもっと驚くべきことが起きた。
フランは、できた薬をなぜかバロン教授の手の傷に塗り出した。そんな所に傷があるとよく気づいたな思うような傷だった。その傷は一瞬で消えた。
俺はその間、訳が分からない思いでフランを見つめていた。彼女はワガママし放題の公爵令嬢で、魔力はまるでないという報告だったはずだ。
エヴァの古いやけどの跡が一瞬で消えた時は、俺の心も震え上がった。そんな薬は見たこともない。そんな薬は聞いたこともない。
興奮状態の皆がフランに殺到して、我も我もと薬を塗ってもらっていた時、俺は無意識にフランの腕をつかんでいた。
なぜそんなことをしたのかは自分でもよく分からない。
ただ、だ。フランが俺の背中に息を吹きかけた時はゾワゾワして何か腹の下が落ち着かず、胸が熱くなった。俺は耳まで真っ赤になっていたに違いない。身中に電流が走ったようだった。
そのことを思い出しただけで、俺はまた真っ赤になった。
「王子?いかがされました?お顔が真っ赤ですが……「なっなんでもないっ!」」
俺は慌てて服を着始めた。夕食はヘンリード校の皆と食べることになっている。
――俺は、馬番、馬番、馬番、馬番、彼女にとってはただの馬番、馬番、馬番……。
「さっきから馬番と繰り返しているのはなんでしょう?」
ウォルターに不思議な顔で聞き返されて、俺はハッとした。
「なんでもない!」
危ない。口に出して言っていたようだ。このままでは心の声がダダ漏れになってしまう。
俺は服をきちんと着込むと、そのまま部屋を飛び出した。夕食の前に馬に乗って気を紛らわそうと思ったのだ。
フォーチェスター城の夕暮れはとても美しい。夕暮れの中の城と庭の景色を楽しんで馬で駆けているいるうちに、この心のときめきも忘れるだろう。
――ときめき?今俺は『ときめき』と思ったのか?
「彼女にときめいた!?」
俺は思わず声に出して小さく叫んでしまった。俺は顔が真っ赤になるのが自分でも分かった。
フォーチェスター城の春の庭は、とてもロマンチックだ。赤い夕日に染まる地平線と、ライラックとリンゴの花の並木道はなぜか俺の心をふわふわとさせた。
それは生まれて初めての経験だった。
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