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第2話 ライズ・オブ・エンカウンター(1)

 快晴の空。宇宙船を飛ばすには絶好のステージだ。しかし、そこに迫る無数の闇があった。赤い瞳を光らせて。


 今日、フラガラッハ三号は宇宙そらに上がる。本部の職員たちは休む間も無く、動き続けている。一方、弥生も最後の戦闘シュミレーションを終えていた。


 弥生はシュミレーターから出ると、周りの者たちは一斉に拍手。そして、歓声を上げる。戸惑う弥生にヨムナは得意げな顔で近づいてきた。そこには皐月も一緒だ。


「満点合格よ。レベル27のシュミレーションをクリアしたら、もう上はないわ。おめでとう!」


「は、はぁ……」


「もっと胸を張りなよ! 弥生!」


 皐月は弥生の右手を持って上に挙げさせる。


「皆さん、今までありがとうございました!」


 弥生が叫ぶと、更に拍手の音は大きくなった。なおも続く歓声の中、三人はフラガラッハ三号の発射台まで移動した。発射台までは三十分ほどかかる。三人は車で移動することにした。相変わらず殺風景な荒野。その真ん中に発射台が見えた。


「これがフラガラッハ三号?」


 皐月は発射台を指差して言った。発射台には三基のブースターパックを装着したフラガラッハ三号がセッティングされていた。三基のブースターパックが船体を隠しており、全体像ははっきりと見えい。


「そうよ、あれでアルカディアスまで行くの」


 運転席にいるヨムナは答えた。すると、今度は弥生が訊いた。


「太陽フレアとか熱とかは大丈夫なんですか?」


「太陽フレアに関してはお手上げね。紫外線なんかは防げるけれど、通信障害とかはどんなに頑張っても無理だったみたい……三日で本部と繋がらなくなるわ」


「じゃあ、指揮は誰が執るんですか?」


「艦長の水和幸蔵と副艦長のイーサン・ドレイクが指揮を執るのよ。あ、そろそろ着くわよ!」


 そう言うとヨムナはブレーキを踏んで車を止めた。




「なんかこれカッコいーっ!」


「うん……」


 フラガラッハ三号の中に入った二人はヨムナに連れられてデウス・エクス・マキナの格納庫に来た。発射まで三時間ほど時間があるからだ。


 格納庫には上部に二つの管制室があり、灰色の分厚い鉄板の壁に囲まれていた。所々、汚れている。二人がいるのはマキナを横に二分するように掛かっている鉄橋の上だ。とはいっても柵は無く、ここからマキナに搭乗できるようになっているようだ。重力制御によって構造も変わるようになっており、重力下ではマキナが立っているように見えて、無重力下であると横たわっているように見える。


「すごいね……」と弥生。


 マキナの全体像。それはまさに機械仕掛けの神だった。全長二十四メートル。


 頭部の両側面部には鋭い極細のアンテナが付いており、球体状のメインカメラは緑色に光っている。それを覆うバイザーも緑色に発光しているように見える。また、後頭部には二酸化炭素を放出する為の排出口があり、前頭部に付いている黒いドーム状の装置は、全方向を把握するためのレーダーとなっている。


 楕円形の胸部の突き出している場所の下にコックピットがある。胸部の両側から出た肩と胴体を繋ぐ関節は、灰色の特殊防護シートに覆われている。両肩には灰色のスラスターが装備されており、それを覆うように各肩に翼が付いている。腕部の関節は灰色だが、戦闘時になるとメインカラーと同じ色に変わる。腕の第二関節部分の裏側にはビーム状の剣を発生させる装置が付いており、それをスライドすることで使用可能となる。


「とは言っても、私は乗らないんだよな……はぁ」と皐月。


 股関節の後部には接続口があり、燃料補給用の接続口にもなる。脚部と胴体を繋ぐ関節も、腕部のものと同じように戦闘時になるとメインカラーと同じ色に変わる。太股にあたる部分にはスラスターが四基ずつ備えられていた。足には星面上の戦闘時姿勢制御用の突起物があり、サッカーのスパイクのようになっている。武装として、脚部ミサイルポッドと頭部三十八ミリバルカン砲がある。


 基本カラーは桜色、サブカラーは純白だ。これはパイロットが女性ということで、精神面を考慮した上で考え出された色であるらしい。基本フォルムも女性の体にフィットするように、重装甲ではなくスリムなスタイルとなっている。


挿絵(By みてみん)


「どう? NASAの技術は? こんなスーパーロボットを造れたりするのよ。とはいえ……弥生の力に頼らなくちゃ動けないんだけどね。遺伝子とか特別な資質の問題で」


 ヨムナは少し残念そうな顔をして言った。


「すげぇな! 弥生って! こんな才能があっただなんて!」


「ホント……偶然なんだけどね」


 少し照れる弥生。弥生の本部での様子は皐月が来てから、だいぶ変わった。もちろん良い方に。明るくなったのはもちろんのこと、マキナとのシンクロ値も二倍に上がった。傍に親友がいるだけでこんなに変わるとは誰も思っていなかったことだ。


 研究所内でも「マキナの操縦には精神的な面が関係しない!」と言い張っている者も口を閉ざすようになった。人類存亡の光は次第に、その輪郭を現すようになったのだ。


「弥生? 外はどうなっているのかな?」


「出てみる?」


「やめやめ! マスコミのシャッター音と眩しい光しかないわよ」


 ヨムナは呆れて言った。外ではフラガラッハに搭乗する三十九名のクルー(ヨムナと皐月と弥生を抜いた)が記者の相手をしていたようだ。もう終わったらしいが。


 その時、艦内放送が聞こえた。


「フラガラッハ三号に搭乗している全クルーに告ぐ。これよりフラガラッハ三号は緊急発進することになった。ルスルが本部を目指して進行しているからだ。このままだと、本部はルスルにやられてしまう。一刻も早く殲滅しなければならない。クルーは所定の位置に就くように。繰り返す……」


「聞いた? これよりフラガラッハ三号は緊急発進をします。私と皐月はブリッジに。弥生はパイロットスーツに着替えて!」


「え、え?」


 弥生は突然のことに驚いている。


「ルスルと戦うのよ! あなたが!」


「で、でも……」


「シュミレーションでは何回もやったでしょ? ああいう感じにやれば良いの」


「突然……言われても」


「ルスルが現れるときはいつも突然よ!」


 そう、ルスルは特殊な粒子を周りに散布しているため、レーダーに捕捉されにくいのだ。


「大丈夫、私がいるから! 安心して!」


「怖いよ……怖いよ! 私、戦いたくない!」


 覚悟していたはずだった。だが、いざとなると体が動こうとしない。弥生はしゃがみこんで震える。中々、動こうとしない足。震えが止まらない手。


 死ぬかもしれないという恐怖が弥生を掴んでいるのだ。


「ここで逃げたら、みんな死ぬ。弥生はそれを見殺しにしようとしている! だめよ! 逃げちゃ!」


「皐月……」


「死ぬときは一緒だよ、弥生」


 優しく手を差し伸べる皐月。弥生は震えた手を皐月の右手に重ねた。暖かい鼓動が感じられた。ここに守らなければいけないものがあった。ずっと助けられてばかりの自分が、今度は人を助ける立場に立つ。この計画に参加するときの決意も同じようなものだった。


 もう助けられてばかりじゃ駄目だと。


「待ってるよ、私は」


「うん!」


「行って来い!」


 皐月が弥生の背中を押すと、弥生の足は動き出した。そして、フラガラッハは発進した。鳴り響く轟音。重力制御装置が一瞬だけイカれたよう気がした。


 もう、逃げない。助けるんだ、みんなを。


 弥生は更衣室に入り、マキナ用のパイロットスーツを専用のロッカーから取り出した。そこには二つの蒼いインターフェイスと、パイロットスーツが掛けてあった。


 頭に装着するインターフェイスで、搭乗者の脳波と機体をシンクロさせて、脳波コントロールモードに切り替えることができる。また、簡易索敵情報などの情報も直接、脳に送り込むことができる。

上半身から足の根元までは強化保護シートで包まれる。これは伸縮性に優れて、圧縮することもできるため、装着者の体系を選ばない。通常状態は透明であるが、強化装甲着脱時には装着者の任意で黒くなるらしい。シュミレーションの時も似たようなスーツではあったものの、細かい部分でデザインが違った。


 弥生は恐る恐るパイロットスーツを着てみる。ガバガバだったが、ボタンを押すと圧縮されて体にぴったりと張り付く感じがした。そして、透明だった胸元や腰の部分が黒く変化する。


「うぇ……これってどこのコスプレ? なんかこういう服着るのって苦手だよ……」


 弥生はげんなりとするが、これも安全のためなのだと思い我慢した。そして上から強化装甲を装着し、頭にインターフェイスを左右一つずつ取り付ける。


 着替えた服の中から一枚の写真が落ちた。それは自分と栄治が写っている写真だった。中学の頃、修学旅行で一緒に撮ったやつだ。それを拾い上げた弥生。


「生きて帰る……絶対に。栄治くん」


 弥生は想い人が写った写真を着替えた服のポケットに入れて、ロッカーを閉めた。彼女の決意はさらに固まった。


 そして、マキナのコックピットの前に戻る。大きく深呼吸して、右手のひらに「人」の字を書いて食べた。少しはましになったかもと、弥生は思う。無重力になったのだろうか、一瞬だけ体が軽くなった。そして、すぐに元に戻った。


 格納庫では整備班の人々がマキナの最終メンテナンスを行っていた。動作不良が無いか入念にチェック。


「おーい! パイロットさんのご到着だ! 急げよーっ!」


 下の方で整備班の指揮を執っている中年男性。


「はいよ、おやっさん! おーこりゃセクシーなパイロットスーツだことでっ!」


 ぎこちない日本語。弥生を見上げた青年は金髪だった。背も高いようでアメリカンなイケメン……だが、性格が軽そうだ。弥生は恥ずかしくなったのか、胸元を両手で隠す。


「おい! 無駄話はやめろ! ほら、コックピットを開けて!」


「へいへい」


 青年はそう言うとハシゴを登り、マキナのコックピット部分を暗号入力し開けた。


「開いたよ、さぁ」


「あ、ありがとうございます……」


「俺はラット。ラット・シュナイダーだ。よろしく」


「は、はぁ……」


 そう言うとラットはハシゴから降りて作業に戻った。弥生は開いたコックピットの中に入り、シートに座り左右の操縦桿を握り締める。そうするとコックピットは閉まり、漆黒に包まれる。


「藤崎弥生……確認しました」


 電子音がすると、視界は開けた。球体状のコックピットは三百六十度、すべての方向にシートを回転できる。足元にある二つのステップ。そして、左右にある操縦桿をサブコントローラー。他はすべてインターフェイスで接続された脳波にて操作が行われる。


「緊張する……うんん、私なら……やれ……る!」


「どう? テストの時に何回か乗ったことがあるでしょ?」



 弥生の右側面部にある立体映像モニターが開いた。そこにヨムナの顔が映って弥生に喋りかける。


「はい……でも、落ち着きません」


「肩の力を抜く! 私に言ってくれてたじゃない!」


 前方のモニターから皐月の声がした。


「うん……私、頑張る」


「よし! 生きて帰って……な」


 そう言うと皐月はモニターから姿を消した。全面のモニターは消えて、代わりに女性オペレーターの声のみが聞こえるようになった。


「ブースターパック切除!」


 轟音とともに船体は少し揺れた。ブースターパックを切り離したようだ。それとともに、コックピットのモニターに敵の位置情報が移された。すべて大気圏外におり、数はおよそ三十。敵のタイプは不明。と書かれている。


「デウス・エクス・マキナ、起動。第七ハッチ開放」


 マキナの瞳は緑色の光を放つ。それと同時に、下部のハッチが開放。カタパルトへの移動が開始される。


「第二、第三ロックボルト解除。シンクロシステム、メインコンピューター正常。ペテロ、演算を開始。第四、第五、第一ロックボルト解除。出撃ポイントはブラボー7・21・エリアF。搭乗者は最終確認を行ってください」


 弥生は音声パネルを開き、前方のメインコンピューターのキーボードを叩く。暫くすると、確認を完了し報告する。


「アイ・ハブ・コントロール。EXシステム設定完了、CPC設定完了。次……酸素濃度、イオン濃度ともに正常値。次……パワープロー正常、機体制御よし。システムオールグリーン。デウス・エクス・マキナ、システム起動を確認」


 マキナは格納庫のハッチの奥にあるカタパルトに脚部を固定。そして、出撃ハッチが開き、漆黒の宇宙そらが見える。カタパルトが外部へと展開。微かに冷たい風を体に感じた。


「X―3Bデウス・エクス・マキナ、発進どうぞ!」


 弥生はゆっくりと顔を上げる。見つめる先は漆黒の宇宙そら。真空で極寒の死の世界。そこへ少女は足を踏み入れる。


「デウス・エクス・マキナ、藤崎弥生……行きますッ!」

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