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第3話 ハッキング・ルスル・アタック(3)

「デウス・エクス・マキナが出撃したのか?」


 幸蔵は回線の繋がらなくなったフラガラッハ三号のブリッジで指揮を執っていた。その時、格納庫から来た整備班の一人が荒い息を吐きながら、マキナが出撃したことをブリッジに伝えた。幸蔵は険しい顔をするが、すぐにオペレーターたちに指示を出した。


「フラガラッハ三号はこれより、接続口の強制切除を行う! このままだと共倒れだ! だが、完全に通信が回復するまでは、この宙域を動き回るな!」


「見捨てるんですか! ヴァーミリオン2を!」


「リアナ……私たちは人類の希望だ。ここで倒れるわけにはいかないのだ!」


「分かりました……第十七から二十八固定ボルトを解除。フラガラッハ三号のコントロールをメインブリッジに移行」


「フラガラッハ三号……発進!」




 マキナはカタパルトから射出され、間接部から緑色の粒子を放出させて宇宙へと舞う。弥生の目の前の三次元モニターに敵の位置が映された。ヴァーミリオン2に取り付いている射撃型が十機。一機の指揮型の護衛に付いている射撃型が三機。そして、見慣れないタイプのルスルの周りを十八機の射撃型が陣形を整えていた。


 見慣れないタイプのルスル……キノコのようなドーム状の頭部に長細い腕。フロートタイプなのだろうか、脚部がない。おそらく、このルスルが強力な妨害電波を発生させているのだろう。電磁攻略型……と呼ぶのが妥当だろう。しかし、まずはヴァーミリオン2に取り付いた射撃型の殲滅からだ。


 射程圏内まであと100……50……30……20……10……7……3……1……ロックオン。ロックオンサイトが赤く点滅。敵の動きを捉えた! そして、ヴァーミリオン2に被弾しないように両手の五十八ミリマシンガンを発射。ロックオンされた二機の射撃型は穴だらけになり、紅のねばねばした血液を噴出させて爆発した。


「次!」


 1・2・3、ロックオン!


「ヴァーミリオン2から引き剥がさないと!」


 マキナは両手に持っていたマシンガンを連射しながら、ロックオンサイトが緑色の状態で撃ち続けていた。砲撃に押された七機が大破。マキナは機体に覆いかぶさった鮮血を振り払い、両手のビーム刀を展開し、残りの二機を切り刻んだ。


 しかし、指揮型の護衛に回っていた三機の射撃型がヴァーミリオン2へ高速移動を開始し始めた。そして、射撃型が一斉にレーザーの発射体勢に入る。


「やらせない! ジーブノックさんはッ!」


 マキナは旋回し、発射体勢に入っている射撃型をマルチロックオンする。そして、脚部ミサイルポッドを展開。無数の弾頭が現れた。そして、マキナの脚部から大量のミサイルが発射される。無数のミサイルが射撃型の退路を断ち、追尾してゆく。鮮やかな弾道を描きホーミングするミサイルは、射撃型に突撃し爆発した。視界が紅煙に覆われた瞬間、指揮型の単眼が光る。


 残った指揮型は無数のレーザーを放った。マキナの視界はレーザーの赤い閃光に覆われた。ここで回避行動を取れば、後方にいるヴァーミリオン2に当たる……しかし、これを防除する術も無い。弥生は操縦桿から手を離してしまった。震える体を抑えて、再び操縦桿を握る。マキナは緊急防御体勢に入り、レーザーを受け止める。


「うぁぁぁッ!」


 コックピットが熱される。弥生は体中に炎が纏わり付いたような感覚に襲われる。皮膚が焦げる臭いもしたが、まだ感覚はある。痛む体を抑えて受け止めようとするが、既にマキナの装甲は限界に達していた。その時「オートパイロットモードに強制移行します」と無機質な電子音が響く。


「だめ! まだやれ……うぁぁぁッ!」


 そして、マキナはオートパイロットモードに強制的に切り替えられて、包み込んでいた赤い閃光を振り払い離脱。その瞬間、赤い閃光はヴァーミリオン2の中心部を貫いた。そして、高温になった内部から膨張を始めて、弾けるように爆発する。無数の命が焼かれるその瞬間を目撃した弥生。断末魔が聞こえる。鈍い声で弥生に迫ってくる。


 私が駄目だったから? 守れなかった……?


 背後に感じる、恐怖と苦悩。弥生は操縦桿から手を離して、両手を頭部に当てて爪を立てた。恐怖と苦悩は弥生に、その鎌を突き立てて切り裂く。自分が守ると決めた存在を守れなかった。無責任にも「守ります」と言ってしまった自分。


 大嫌い。身代わりになるべきだった、私。


 爪は頭部に食い込んで、鮮血が滲む。真っ赤に染まる顔面。瞳に入る鮮血も無視して弥生は、翼を広げて自分の苦痛をあざ笑うかのようにいる指揮型を睨み付けた。コックピットに落ちる鮮血。操縦桿を握る手は真っ赤に染まる。鉄分の臭いが鼻を突く。


「…………」


 弥生の中で何かが、激しく弾けた。無機質な存在になった感覚がしたと同時に、マキナと一心同体になった感覚……いや、そうなったのだろう。憎しみを食らったマキナの間接部から大量の粒子が噴出する。


「……死んじゃえ」


 弥生は右ステップを踏みつけたと同時に、左サイドブレーキを押す。マキナは急速旋回を行い、指揮型に向かってバーニアを吹かせた。一気に間合いを詰めたマキナは、指揮型の左翼を両手のマシンガンで穴だらけにして、右手のビーム刀を展開して右翼を切り落とす。動きが取れなくなった指揮型を、ゼロ距離でマシンガンを乱射させて撃破する。舞い上がる鮮血の海を抜けて、マキナは電磁攻略型を護衛する射撃型に向かって突貫。


 マキナは右マシンガンの接続を解除して、射撃型群の中心部まで投げつける。そして、切り離したマシンガンを左マシンガンで狙撃して、大きな爆発を起こさせた。マキナを包み込んだ黒煙。その瞬間、マキナは脚部ミサイルポッドを展開し発射。無数のミサイルは黒煙を吹き飛ばして射撃型を焼き尽くした。


 残るは電磁攻略型のみだ。弥生は瞳に入った鮮血を拭いて、両ステップを踏みつけて電磁攻略型めがけて突撃を開始する。電磁攻略型の頭部にあるレーザー砲が真っ赤に発光し、巨大なレーザーを放った。指揮型の三倍ほどの大きさの閃光がマキナを飲み込む瞬間、マキナは左マシンガンと脚部ミサイルポッドを切除して離脱する。大きな爆発を確認した電磁攻略型は、レーザー砲のリロードをしなかった。しかし、マキナは健在。


挿絵(By みてみん)


 電磁攻略型がそれを再び確認した時には、既に自身の姿は右斜めにビーム刀で両断されていた。マキナは後方に回りこんで、頭部三十八ミリバルカンを至近距離で電磁攻略型の頭部に向かって発射。体中から鮮血を噴出させる電磁攻略型……しばらくすると付近に飛び散った鮮血とともに激しい爆発を起こして消滅した。


 弥生は硬く握っていた操縦桿から手を離して、頭を抱えた。出血は表面のみなので問題は無かったが、少しふらつく。弥生は頭を上げると、そこにはヴァーミリオン2の残骸があった。そして、クルーたちの肉片と贓物。流れ出た鮮血は球体状になって宇宙空間を途方も無く漂っている。


「私が……私が……いや……いや……なんで……なんで……」


 自分が起こした悲劇なのだろうか。それともルスルの起こした悲劇なのだろうか。ただ、オートパイロットモードのままにしたのは自分が死にたくなかったためだったのは確かだ。つまり、あの時点で再びマニュアルに変えておけば、身代わりになり続けられたということだ。どうして、そうしなかったのだろうか?


 私は……最低な人間だ。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ! ああッ! あぁぁぁぁぁッ! あぁぁぁぁぁぁ……」




 その時のマキナはオートパイロットモードだった。格納庫の収納されたマキナはルスルのレーザーによって黒焦げになっていた。肩アーマーと胸部の先端部分は、溶解されて醜く歪んでいた。もちろん、桜色の装甲も剥げてしまっている。パイロットの無事は確認された。しかし、いっこうに回線を開こうとはしなかった。


 黒焦げになったマキナを見て整備班は参ったというような顔をして、格納される様子をゆっくりと眺めている。ヨムナと皐月は急いで格納庫に向かい、弥生を迎えに行こうとした。コックピットハッチがフラガラッハ三号の操作によって開かれて、中にいる弥生の姿が現れる。


「どうしたの! 弥生!」


 そこには倒れこんで、ひそひそと泣いている弥生の姿があった。操縦桿や周辺機器に残る鮮血の跡。たちこめる鉄分の臭い。真っ赤になった弥生の体。その泣き声は、笑い声にも聞こえた。そして、完全に笑い声に変わってしまった。


「ははは……最低だよ私……ははは。 ははは、ははははははは…………」


 私のせいで何十人もの人間を殺してしまった。守ると約束していた人間を殺してしまった。あの人はちゃんとフラガラッハ三号を切り離してくれたのに、私は何もできなかったの。命をかけて守るとか言っておきながら、その場の恐怖感情に負けてしまった私は、最低な人間だ。あの人の家族にも酷いことをしてしまった。家族という存在をなくした子供……私のせいだ。


 最低な私には世界を守る資格なんてないんだ……。どうせ、最後は恐怖に負けて、逃げて、死んでしまう。何で、私なのだろう。何で、こんな私なんだろう。もう、苦しみない。殺してくれるなら、早く殺して欲しい。こんな狭く息苦しい場所にいても、何も嬉しくない。苦しんで死ぬべきだ……。すべて、なくなってしまえばいいよ。


 だから、私はもう乗らない。デウス・エクス・マキナに……。

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