第0話 デウス・エクス・マキナ
「システム最終段階へと移行。以後のコントロールは当機に譲渡。姿勢制御完了……システムオールグリーン。3、2……1」
暗やみの中に光る緑色の眼光。漆黒に包まれているので何があるかは分からないが、電子音とオペレーターのノイズの混じった声が聞こえるということは、どこかの研究施設なのだろう。
緑色の眼光に刻まれている赤く発光している文字……それは漆黒の中からでもはっきりと見えた。
―――DEUS EX МACHINA―――
機械仕掛けの神、デウス・エクス・マキナ。関節部らしき場所から緑色の光が漏れる。それは機体の各部を濡らしてゆく。それを全身に浴びた機体。
「デウス・エクス・マキナ、システム起動」
オペレーターの女性の声が聞こえた。それと同時にマキナは右腕を鈍い金属音とともに前に出す。その瞬間、管制室が歓喜に包まれた。四方、百メートルはあるであろう管制室。そこに各国から集められた、七十人もの腕利きのオペレーターたち。
前方のモニターはまだ漆黒に包まれているが、そこに緑色の眼光がはっきりと映っているのを見ると起動実験は成功したようだ。オペレーターたちは目の前にあるコンピューターも見ずに親しいもの同士、抱き合い喜びを分かち合っていた。
今、人類は贖罪計画の実現……すなわち、人類存亡への希望の光の欠片を手に入れたのだった
そこは冷たいシートの上だった。コックピットの中は三次元構造の球体となっていた。そのシートの上に座っている一人の少女。茶色のロングヘアーを靡かせて、閉じていた漆黒の瞳を開ける。そして呟く。
「大丈夫……落ち着いて、私」
少女は胸部から腰まで紺色のぴっちりとしたタイツのような防護素材を着ており、胸部にはその上から強化装甲が取り付けられている。腰から足までにかけては何も着ていない。それと同様に、両肩から先にも何も着ていなかった。頭には純白のインターフェイスを付けている。
彼女は慣れた手つきで操縦桿を握る。そして、前に倒して足元にある右左ステップを勢いよく踏みつける。少女の眼前には擬似宇宙空間が広がっている。漆黒の中、彼女の駆る機体はスラスター展開しバーニアをを吹かせて、目標に接近してゆく。
距離、あと1000……900……800!
敵が攻撃可能距離に入ると少女はマシンガンのトリガーを引く。それと同時に目の前に現れた十七機の無機質な3D球体が、赤く発光しているレーザーを放った。
少女の機体の五十八ミリマシンガンから放たれた銃弾は球体を貫いてゆくが、それと同時に後方に回り込まれたようだ。少女の機体は赤いレーザー網を回避しながら、マシンガンを撃ち続けている。しかし、回り込まれた一機を捉えることができなかった。
「ちッ!」
少女は舌を打つと、右ステップを踏みつける。攻撃を回避したかに思えた次の瞬間、機体から見て二時の方向にいる敵を少女はレーダーで捉えた。しかし、刻すでに遅し。
球体の放った赤い閃光は少女の機体の右肩を貫く。炎と黒煙を噴出させる機体の右肩。
「第三関節部切除! オート姿勢制御にいこ……ッ!」
しかし、右肩を切除した瞬間、機体のコックピットをレーザーが貫く。そして、少女の目の前は漆黒に包まれた。
「戦闘シュミレーション終了。お疲れ様……と言いたいところだけれど、この結果は芳しくないわね」
女性の声が聞こえた。さすがに日本人のような声ではなかったが、端正な日本語ではあった。モニターから顔が見えた。整った顔立ち。中国系で水色のロングヘアーだった。このシュミレーターを造った一人でもある、オペレーターのチェ・ヨムナだ。
「はぁ……」
少女は重い吐息とともに、シュミレーターから出た。電子機器が山積みになっている場所の隙間から出た彼女は、ヨムナの元へ向かった。
研究者たちが動き回っている場所。コンクリート打ちの外壁の広い空間……だったはずだが、電子機器が大量においてある為、かなり狭く感じてしまう。
空気も濁っているように感じる。ここがNASAの管轄にある施設だとは到底思えない。
管制室から出て、少女のいるシュミレーター室へと向う、白衣を纏ったヨムナ。彼女が目の前に現れたとき、少女は申し訳なさそうに寄ってきた。まだ、十六歳ぐらいの少女。普通なら、このような場所にいるはずの無い存在なのだが、今回は違う。
彼女しかできないことがあるからだ。
「芳しくない……って言っても、まだ一ヶ月もあるのよ? そう、落ち込まないの。ね?」
ヨムナは優しく少女に語り掛けた。すると少女は返した。
「はい……でも、これ以上の反応ができなくて。私、限界なのかな?」
「あなたは頑張っている。だけど、気持ちがあまりないの。もっとこう……地球を守るんだ!、っていうようなものが」
「そう……ですか」
「あくまでも推測の域を超えていないけれど、マキナはあなたの気持ちに呼応する機体よ? 気持ちの持ち方で、二倍も三倍も十倍も強くなる……」
ヨムナがそう言うと少女は無言で頷いた。
「ま、明日からあなたは学校に復帰できるのよ? とはいえ……一週間だけなんだけどね。これが最後になるかもしれないから、思う存分遊びなさい」
「それで……一緒に贖罪計画に参加できる親しい人物を探すんですか?」
「あくまでも強制とかじゃないからいいんだけど……でも、本当の友達とか恋人がいるのだったら、声ぐらいはかけておいたほうが良いわ。あとで後悔しないためにも……ね」
「はい……」
「あなたは四ヶ月も宇宙空間にいるの。私たちは、あなたのメンタル的な面を支えてあげたいから、こういうことを許しているの。もし、ダメだったとしても、私がいるわ」
「ヨムナさんがいれば、安心できると思います……」
そう言うと少女はシュミレーション室から出ていった。ヨムナはそれを、じっと見つめていた。
「藤崎弥生十六歳。デウス・エクス・マキナの臨時パイロット……か。あんな子に地球を守る使命を背負わせるなんて、世界はなんて残酷なのかしら……」
ヨムナは鬱々とした頭を抱えて、仕事に戻った。
さて……SF小説に挑戦するのは二回目のわさび豆腐です。高い頻度で更新すると思うので、評価・感想、どんどん送ってきてください! わさび豆腐は滝のように涙を流し、喜ぶことでしょう……。