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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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八十四話 立つ鳥跡を濁さず


 馬車は進む。私は中でぼんやりしている。

 それなりに時間が経って、ジマーリ男爵領とチミリート伯爵領の境に到着した。

 ここから先には、スタンピードに関係した魔物は出現していないそうだ。帰り道に再配置が起きていなければ、封印が完了したということになる。


 少し進んで、遅めの昼食をとることになった。

 私は馬車の外に出る。

 開けた場所があり、建物と武装した兵士がいた。それぞれの紋章を見るに、チミリート伯爵領の施設と兵隊だ。

 冒険者らしき姿もある。ミレイを探したけれど、いなかった。


「あっ! サンドラ!?」 


 私の名前を呼ぶ声。ルーシーのライバル?で、曹長さんの娘で、兵団に就職したエンマだ。

 後ろから、同じく兵団に就職したナディアも現れた。確か、街中の警備の仕事をしていたはず。何で、ここにいるのだろう?

 聞けば、先生と監査官の護衛任務らしい。入団して、数日の新兵のやる仕事ではない。


 兵団は今、ボルグに悪魔が取り憑いた件で大混乱しているそうだ。

 昨日の夜、ボルグは兵団の牢屋にいた。丁度、訪問していた教会の神父が異変を感じ取り、兵士たちは無事に逃げることができた。

 けれども、何日か前に私を襲ったレイトたち不良冒険者は、牢に入ってたまま被害に合った。生気を吸われ、ミイラの様になって命を落とした。襲われた身としては同情できないけれど、むごたらしい死にざまには哀れに思う。

 それから、悪魔ボルグは牢屋を爆破して、空を飛んだ。怪鳥音を発して、街の上空を三周した。

 そして、南方へと飛び去って行った。

 あまりのことに、あちらこちらから指示が飛び、街の兵団はパニック状態になった。

 エンマは手をバタバタさせて説明する。


「大変だったんだよ。どこに行けとか、あそこで待てとか」


 ナディアは街を南北に三度も往復したらしい。


「男のベテラン兵士に混じって走ったんだから!?」


 二人は笑い話の様に話すけれど、大変だったみたい。


「サンドラはどうだったの? 悪魔を相手に囮を務めたって聞いたけど」

「囮? あー、その場に立ってただけだったよ」


 悪魔ボルグのおかしなノリに茫然としていた。けれども、先生やヘルミンさんがいなければ、怯えていたとは思う。


 それから、二人に先生のことを聞かれた。それらしい貴族の人が見当たらない、と。

 探すと、先生はヘルミンさんにプロレス技をかけていた。

 エンマとナディアは、小さい女の子がいると思っていた。

 エルフは子供の容姿をしていると二人には説明はしていた。けれども、本当に子供だったので信じられなかったみたい。

 近くで見れば、耳の形と、髪や肌の色の輝度が高いので見分けがつくと説明した。しかし、恐れ多いみたいで、二人は近づかなかった。それとも、ヘルミンさんと喧嘩しているのを見て、ドン引きしたのかも。


 


 それから、街に戻るのか、馬車は南へと進んだ。

 しばらく進むと、今度は西へと曲がった。

 この先には、村がたくさんあると聞いていた。

 防衛のために、街から冒険者が大勢派遣されている。戦闘があったという話は聞かない。みんな、無事だと思う。


 馬車を降りる。村の中心部のようだ。大きな冒険者ギルドの建物が見える。二軒隣には、食堂か酒場のような建物が見える。

 近くで揉める声がした。出迎えの村の人たちと先生、ギルマス、監査官の一味だ。

 よく聴こえないけれど、勇者の単語が出た気がした。私は馬車の中に隠れる。

 フェンフェンが面倒臭そうな顔をしている。

 すぐに、先生たちが戻ってきた。出発するそうだ。

 馬車は村を後にした。

 仲良くなった新人冒険者には会えなかった。ここには魔法使いのモーガン、弓手のロレッタたちが来ているはず。

 それと、男の冒険者で、ウィルたちに小麦パーティもいた。

 今は、どこかで警備に付いているのかもしれない。邪魔する訳にもいかない。また今度だ。


 馬車の中で、急に出発することになった事情を聞く。

 先生が、自分たちと監査官の一味を同一視されたくないからだそうだ。


「割り込んできてさ。足引っ張てる癖に偉そうにするんじゃない!?」


 一味が村人相手に威張り散らしたらしい。このまま噂になれば、先生まで威張っていることになるかもしれない。早々に退散するのが得策だ。

 ひとまず、村の方に魔物は出現しなかったそうだ。派遣された冒険者も無事とのこと。良かった。

 



 街に戻ってきた。

 魔物は出現しなかった。封印が成功したようだ。

 馬車を降りると、近くにナディアがいたので話しかける。魔物が出現しなかったことを確認した。


「兵士の方でも誰も見てないよ。これで……終わりなの? あっ、終わって欲しくないとかじゃないよ」


 今回の騒動で、ナディアは仲間や友人を失った。冒険者の道も捨てることになった。

 話していると、ナディアが涙を流した。私は慌てた。


「あー、泣ーかしたー、泣ーかしたー」


 先生が茶化してくる。むかつく。

 そして、しっかりお別れするようにと言われた。


「どういうことです?」

「男爵夫妻と監査官の一味を連行して、王都に行くのさ」


 話がどんどん先に進んでいる。

 私はナディアとエンマと別れた。また来ると簡単に挨拶した。次に会うまでに慰めの言葉が思い付くのだろうか。


 それから、先生とトムさん、監査官の一味は兵団の本部へと向かった。

 私は屋敷へと戻る。こっちにも騎士が二人ついてきてくれた。


 ヘルミンさんからお茶に誘われた。すっかり、事態が解決した気でいる。呑気な人だ。

 先生は王都に行って、政争をするらしい。ここからが本当の戦いだとか。

 それで、準備をする為に屋敷に戻るそうだ。私は王都には行かなくていいと言われたので、そこで冒険は終わりだ。

 問題は、ヘルミンさんをどうするかだ。

  

 先生からの連絡が来た。

 これから、また採掘場へと向かう。一泊して、男爵家の長男のシッカーリト氏を連れて戻るそうだ。

 私にも一緒に来るように言われた。

 ヘルミンさんはどっちでもいいみたい。けれども、ヘルミンさんは私についてくると言う。街の防衛に参加しなくていいのかな。

 

 南門に到着する。

 先生の家の馬車はすでに運ばれていた。

 兵団の馬車も何台かある。見張りを交代するみたい。

 混乱していると聞いていたので、ナディアやエンマが混ざっていないかと思って探した。全体は見れなかったけれど、たぶんいない。

 

 フェンフェンが震えている。採掘場には、あの変態店員がいる。何とか回避するしかない。




 採掘場へは、あっさりと着いた。魔物は出てこなかった。

 日が沈む。今日はかなりの距離を往復した。

 守備隊は健在だ。殆ど魔物は出てこなかったらしい。


 夜になると、宴会が始まった。宴会と言っても、お酒を飲んでいるのはヘルミンさんだけだ。

 アッシュさんから、先生の所が嫌になったら街に逃げてくるように言われた。


「この街はちょっと……」


 うっかり正直に言ってしまった。


「だよなぁ、ガハハハ!!!」


 アッシュさんは気にせず笑っている。

 一方で、ディーノさんたちは苦笑いしていた。




 次の日、朝早くに出発することになった。


「アレが起きる前に行くよー」


 アレとはヘルミンさんだ。かなりの量を飲んでいた気がする。

 誰が勧めていたかは気にしていなかった。全員グルの可能性もある。そう考えると、ちょっと怖い。


「ヒャア! クレイジーピエロ抜きだぜ!」


 ワイルドビーストのパーティも街に帰還するようだ。先生の護衛も兼ねている。

 ディーノさんはシッカーリト氏の護衛で街に戻る。

 採掘場に残るアッシュさんや強欲シスターには、ここでお別れを言った。

 マリアンヌさんの騎士隊も、しばらく残るみたい。その後は、王都には行かず、アルベーデン辺境伯領に帰還するそうだ。お説教の予感がする。

 フェンフェンを見ると震えている。変態店員は現れなかった。けれども、フェンフェンの耳には笑い声が聴こえてくるらしい。


 こうして、私たちはヘルミンさんを置き去りにして、採掘場を後にした。




 街に戻ると、馬車に乗ったまま北門へと向かった。

 街の中央で、先生は騎士を連れて馬車を降りた。男爵邸に行くらしい。私には馬車の中に隠れて、このまま北門に行くように言われた。

 

 北門に着くと、残っていた騎士たちが降りて、作業を始めた。馬車の点検や馬の管理、門兵と話している騎士もいる。

 私はフェンフェンをモフモフして待つことにした。しかし、触らせてくれない。変態店員のこともあって、気が立っている。


 しばらくすると、たくさんの馬車の音がした。

 先生やトムさん、ギルマスの声もする。

 このまま出発みたい。まだ挨拶していない人もいる。ロバートさんたちに、ステラさんに……。

 

 先生が馬車に乗り込んできた。

 男爵夫妻と監査官の一味を縄で縛って無理矢理に連れてきたと言う。そんなことをして大丈夫なのだろうか。


 あっと言う間に出発だ。

 展開が滅茶苦茶なので、今の私の力では立つ鳥跡を濁さずとはいかない。先生の元で脱出するのが一番安全だ。

 

「ウォン!」


 フェンフェンに言われて、馬車の外を見る。

 白い装束を纏った中年の男性がいる。ケビンおじさんだ。風の神のほこらマップで採取をするグループのリーダー。

 よく見ると、あれは"HARAKIRI"だ。ヨーロッパ風の世界観なのに、おかしい。おそらく、超司教様か誰かがゲームの中のイベントに設定したんだ。

 確か、コンナトキー伯爵との会談の内容を奥さんに喋ってしまったのだ。それから、奥さんもどんどん話して、街中に噂が広がった。その責任を取るつもりなのだろうか。

 慌てて、先生と騎士に頼んで止めて貰った。

 

 最後まで騒動が続いた。

 私はジマーリ男爵領を後にした。


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