八十三話 クマロ・クノテベス
前回、描写を忘れていました。
坑道から出た時点で夜になっています。
ボスっぽい悪魔を倒した。
しかし、ここはゲームではない。魔物を倒して、はい終わりとはいかない。
取り調べの時間だ。
相手は、曹長さんだった。マリアンヌさんもいてくれるので気が楽だ。
と思っていたら、またニワトリ頭の監査官が現れた。このパターン、いつまで続くのだろう。
後ろから、シッカーリト氏も来た。監査官をブロックしてくれる。次期領主として、先生と王都の貴族との間を取り持たなければならない。今は、そこに甘えよう。
採掘所の詰所の隅っこの机で聞き取りを行うことになった。狭い部屋の中でなくて良かった。
長椅子に座る。フェンフェンは私の隣で丸くなる。
とりあえず、悪魔がどうして私を狙ったのかが本題だ。ボルグの記憶を読んでの行動の可能性がある。それで、私とボルグの関係性を兵団でも把握しておきたいそうだ。
この件は正直、訳が分からない。
つい先日、ボルグは唐突に表れた。私は"はじまりの森"を攻略し、ボルグは馬車の護衛依頼を受けていた。全く接点がなく、私は彼の存在自体を知らなかった。
馬車に乗ったのは、この街に来た日だけだ。
その時の護衛は、ロバートさんのパーティだった。同乗者はアッシュさん。この縁で、ルーシー、カレン、ミレイとパーティを組んだ。
思い返すと、非常に運が良い。初日にボルグたち不良冒険者に会っていたら大変なことになっていた。
それから、キャベツ帯での出来事を簡単に説明する。
曹長さんが珍妙な顔になっていた。あと、本当にエンマの父親だったので、マリアンヌさんに感謝を述べていた。
その日の最後に、レイトたち不良冒険者が暴れて、カールが刺された。私とボルグは、それっきりで接点はない。
それなのに、ボルグは妄想で私を追いかけて来た。
聞き取りは、すぐに終わった。本当に無関係なのだから、話せる事がない。
今度は、監査官がちょっかいをかけてきた。身を守る為に王都へ来るべきだと言う。
私は言い返す。
「悪魔を倒したのは、私の仲間と先生ですよ?」
監査官は舌打ちした。話をすり替えて、また喋り始めた。
こんな調子でよく出世できたものだ。貴族の権力は、それだけ大きいのだろう。
私には前世の記憶と先生の後ろ盾がある。もし、ただの一般人だったら、恐ろしくて言い返せない。
すると、後ろからヘルミンさんが現れた。大きな箱を三つ持っている。箱には窓の様な穴があり、中が見えた。
これは人体切断マジックだ。
止めるかどうか迷う。しつこいので、監査官には退場してほしい。
そんなことを考えていると、シッカーリト氏が止めに入った。うっかりでシッカーリト氏がバラバラになると大変なので、私もヘルミンさんを止める。曹長さんに他の兵士も止める。
その隙に、マリアンヌさんが私を避難させてくれた。フェンフェンは、あくびをしながら後をついてきた。
今日はもう眠らせてもらう。疲れて、よくわからない。
次の日。
目を覚ますと、横に先生がいた。
「街に戻るぞー」
「えぇ……」
修復した結界は、うまく機能しているそうだ。それで、先生は一度街に戻ることになった。昨日の悪魔の件の調査もある。
「魔王と関係あるかもしれないしね」
魔王の事はまだ秘密だ。ストーリーが予定と違うので、襲来しない可能性もある。
それから、チミリート伯爵領との間にいるワイバークロウを倒しに行く。現状では、補給が儘ならない。再封印ができていれば、ワイバークロウは再配置されないはずだ。
「早く、用意しろー」
私は急いで着替える。
フェンフェンは眠たそうに体を動かしている。
外に出ると、騎士たちが馬車の準備をしていた。
シッカリート氏もいた。ヘルミンさんが立ったまま眠っていて、倒れないように体を支えていた。
私は朝の挨拶をする。
すると、男爵家の騎士が走ってきた。
何でも、監査官が私たちと一緒に街に戻ると言っているそうだ。
先生がプリプリ怒る。
「しつこいなー、もう!」
ヘルミンさんを馬車の中に寝かせると、シッカーリト氏と騎士は詰所に戻った。
「あのニワトリ、いつまでついてくるんだろう?」
「死ぬまで毎日きますよ……」
カールの時もそうだった。
それとも、どこかに退ける選択肢があるのかもしれない。
「死なれても困るんだよね。国王の使いは、めちゃくちゃ大事な仕事なんだから」
もしもの事があれば、男爵家が責任を取るのかな? 男爵家がおとり潰しになるとか?
私はナディアと知り合い、兵士や騎士の家系との関係を知った。ナディアたちの頑張りを見ていたので、監査官の軽はずみな行動に腹が立ってきた。採掘場まで来るだけでなく、坑道にまで潜るなんて、ありえない。
結局、監査官は私たちに同行することになった。先生は、ここに置いておくよりマシと言った。
マリアンヌさんの部隊は残ることになった。代わりに、ロバートさんのパーティが護衛につく。
あれよあれよと言う間に出発した。
あっさり、街に戻ってきた。
魔物は一匹も現れなかった。本来は殆ど魔物の出ない道らしい。
馬車を下りると、すぐに冒険者ギルドに向かった。
連絡が無かったのか、出迎えの住人はいなかった。街を歩いていると、ざわめきが起きた。理由はよく分からない。先生は気にしないように言っている。
ギルドに入る。
先生は奥に行くと言う。
フェンフェンがまた吠えて、カリーナがいることを知らせてくれた。私とフェンフェンがフロントに残った。ヘルミンさんは近くのソファーで二度寝した。
カリーナの所に行くと、仲間の男子たちもいた。顔を覚えていないけれど、雰囲気でそうだと思う。他にも新人冒険者が固まっていた。
カリーナは、昨日のボルグの話を始めた。
そして、空を指差す。
「アチョーアチョーって聴こえたの」
指をぐるぐる回す。どうやら、悪魔化したボルグは怪鳥音を発して、街の上空を三周したらしい。
「もう、大騒ぎだったんだよ」
街の上空に悪魔が出現したんだ。住民たちの不安は計り知れない。
私は悪魔が倒されたことや結界の修復に成功したことを話した。このままマナの暴走を封印できれば、事態は丸く収まるはずだ。これから、チミリート伯爵領の間にいるワイバークロウを倒しに行くことも伝える。
カリーナのパーティのリーダーは、早急に街を脱出することを考えていた。私たちに付いてくるつもりだ。私は伯爵領まで行くかどうかは聞かされていなかった。返答に困った。
そうしていると、先生たちが出てきた。一時間ほど休憩を取るらしい。
相談すると、伯爵領までは行かないとのこと。安全が確保されたら、また合同の乗合馬車が出る。街からの脱出には、それを待ってもらうしかない。
先生が、カリーナたちや周りの新人冒険者にアドバイスを送った。
「まずいかな~と思ったら、すぐに行動するんだ。ちょっとまずいと感じたら、その時点で手遅れだぞー」
カリーナたちは苦い顔で聞いていた。
そして、ギルドの奥からニワトリ頭の監査官が出てきた。ギルマスとトムさんに挟まれている。
ワイバークロウの退治にも同行する気でいるらしい。二人は監査官を説得していた。
屋敷に戻る。
街の中では、奇異の目で見られて疲れた。
ソファーでくつろぐ。フェンフェンは横に、先生は反対側に座る。ヘルミンさんは……ギルドに忘れてきた。
トムさんがいない。監査官が屋敷にまでついてこようとしたらしい。仕方がなく、ギルマスと一緒に監査官を連れて南門へ向かったそうだ。
「封印が成功したら、あの監査官も止まりますか?」
「さすがに、関係ないんじゃないかな? この件は、"クマロ"が悪いよ。あんなの寄こすなんて。後で、お仕置きだ!」
知らない名前が出た。
「"クマロ"とは、誰ですか?」
「えー」
先生が白い目で私を見ている。
「王様だよ。この国の国王"クマロ・クノテベス"様」
「あー」
確かに、私が悪い。でも、本当に初耳なんだ。
「ちゃんと調べときなよ。私が何度も言った気がするけども。"クマロ・クノテベス・カーケ・ワーウイゥド"。メモっておけば?」
意味は分からないけれど、ゾクッとした。聞いてはいけない名前のうに感じた。
「どうしたの?」
「……変な気分です」
「フラグか何か? まぁ、連絡が行ってるだろうし、仕方がない。十五歳になったら、王様に会いに行くよ」
「うぐぅ……」
できれば、会いたくないと思った。
それから、十分に休憩を取って、南門に向かった。
大通りに出た所で、ヘルミンさんと合流した。
南門には、監査官だけでなく、彼の部下までいた。全員、ついてくるみたい。監査官が無事に帰ってきたので、状況を甘く考えているようだ。彼らを不安に思ったギルマスが、私たちに同行することになった。
再び馬車に乗り、魔物退治に出た。
戦闘中も馬車の中にいる様に言われたので、私はジッとしていた。フェンフェンも横で丸くなっている。
戦闘では、先生とヘルミンさんが我先にと獲物を奪い合っている。騎士たちは活躍できず手持ち無沙汰だ。
トムさんとギルマスは大変みたい。監査官たちが素人の癖に戦闘に混ざろうとしているらしい。ケガもしてはいけない立場なのに、どうしてジッとしていられないのか?
そして、肝心のワイバークロウが出た。
馬車から外を覗く。数は、一匹。全快したヘルミンさんの人体切断マジックにより、あっという間にバラバラにされた。
これで大物の魔物は最後の気がする。
ようやく、終わりが見えた。




