八十二話 ついに出た
出発前に、"よくばりパーティ"と地図を見せ合う。
進んでいるときに違和感があった。ダンジョン化したことで、元の坑道よりも広くなっている。
相談して、私たちの通ったルートで戻ることになった。距離は遠くなるけれど、坑道の幅が広い。戦闘をすることを考えれば、こちらが楽なルートになる。
ひたすら、登り道を進む。
辛い。足が痛い。息が上がる。戦闘も行っているので、冒険者や騎士も辛そうだ。
そんな中、先生とヘルミンさんは元気そうだ。
「サンドラさん、おんぶしましょうか?」
「無理するなー」
いろんな目に会ったからか、おんぶされるのも担架に乗るのも、体が拒否反応を起こしている。意地でも歩くしかない。
数回の戦闘を行い、無事に地上へ出た。
すっかり日が暮れていた。
地上では、何事も無かったようだ。魔物は一匹も現れなかった。
私たちはテントへ案内された。
テントの中で休憩する。
先生が再び岩砂糖を取り出す。甘い物の採り過ぎは良くない。けれども、野暮になると思うので、そんな注意はしない。おそらく、久しぶりの冒険で羽目を外している。
コーヒー、紅茶、白湯に岩砂糖を入れて配り、皆で乾杯した。
今度は、アッシュさんがウイスキーを取り出す。周りの人が止める。先生は茶化して、飲むように言う。
それから、各々が和気あいあいと戦果を語る。糖分とカフェインを大量摂取したので、お酒を飲んだように興奮している人もいた。
すると、ニワトリ頭の監査官が得意げに自分語りを始めた。人生初の実戦を経験したこともあり、妙なテンションになっている。
嫌な予感がした。もう、恒例のパターンだ。
案の定、喧嘩になった。それも私の話題で……。
アイラさんと強欲シスターが、私の前に座りブロックしてくれた。
監査官は、今の勇者が使いものにならないので代わりがいると言っている。上から目線で一方的な主張だ。
先生も怒りを爆発させている。
「あの勇者もお前たちも、みーんなみんなバカなの!」
アッシュさんも今の勇者を知っているみたいで、しきりに悪口を言っている。
今の勇者の事は、派手に空回っては、後ろ盾の権力者たちを次々と不幸にしていると聞いていた。
私に彼の代わりをさせるのが監査官の目的のようだ。
話を聞いていると、王都にはもう私のことを知らせてあるらしい。勝手過ぎる。勇者の件は、本人の意思で断れるはずなのに。
そして、先生が気になることを言う。
「サンドラは言い付けを破ったから、あと三年は領地の外に出るの禁止! 勇者の仕事なんて、させないよ!」
アルベーデン辺境伯領から出られなくなってしまった。どの言い付けかは、心当たりがたくさんある。
冒険中に命を落とす勇者は多い。ここ百年では、ロッキー以外の勇者は全員若くして亡くなっている。
勇者職の特徴として、レベルが上がるのが早い。それで自身の力を過信してしまう。ゲームと違い、力を使いこなすには精神の成長も必要なのだ。
もう一つ、監査官のような人間に使い潰される事例もあったそうだ。正義感を利用して、ぞんざいに仕事を振る。相手の負担を考えることはしない。
こうなると、身の安全のために、引き籠るしかないのだろうか?
ヘルミンさんが提案する。街の外なので、火を吹く大道芸を見せると言う。
つまり、監査官を塵一つ残さず焼き尽くすという意味だ。
本人は否定して、軽く脅かすだけと言う。信用できない。
隙を見て、シッカーリト氏が間に入る。監査官を落ち着かせようとする。
そうなると、私は先生をこちらに引っ張てくるべきなのだろうか? 出しゃばらない方がいいの?
すると、フェンフェンが先生の所へ行って、何かを伝えた。
先生は、むすっとした顔でこちらに来た。
「子ども扱いするなよー」
「知りません。フェンフェン、何か言ったの?」
「ウォン?」
知らんぷりしている。何を言ったの?
先生は面倒臭そうに腰を下ろす。
「しつこいなー、もう」
「ずっと、このパターンの繰り返しですよ」
「こういうのは、ロッキーとスーデがうまくかわしてたんだよね。冒険はさ。仲間の存在が大事なのさ」
私が口八丁手八丁になれる気はしない。トラブル気質を補うためには、交渉の上手い人物が必要になる。
残念ながら、ソロで冒険はできない。今回の冒険の反省点であり、先生から何度も言われたことの再確認だ。虚しい結末である。
そんな辛い冒険も、そろそろ終わるはず。結界が修復できれば、スタンピードも止まる気がする。
突然、先生の騎士がテントに飛び込んできた。
「ミルルム様、至急の知らせです!」
マリアンヌさんが魔の気配を感知したらしい。
「サンドラは後方で待機!」
そう言い残して、先生はテントを出た。
アッシュさんも続く。
ディーノさんは、ロバートさんのパーティに私を守るように指示を出す。
私は皆に続いて、最後の方にテントから外へ出た。
すると、妙な声が聴こえた。
「ほわっほわっほわぁ~! あっちょ~い♪」
拳法家か配管工のような怪鳥音だ。
聞き覚えがある。不良冒険者のボルグだ。あれからどうなったのかは知らない。
ロバートさんたちが話している。
「ギルマスが連れて帰ったはずじゃ!?」
思い返すと、採掘場に着いてからギルマスを見ていない。
「アーーー! ホゥーーー!」
馬鹿にされている気分だ。こんな不快な声を上げて、何がしたいのだろう?
大声がする。
「"鑑定"を使うな! スキルも魔法も何もするな!」
先生の騎士の声だと思う。聞き覚えがある。
「うわぁ~!?」
ディーノさんの仲間の魔法使いが倒れた。
一体、何がどうなってるの?
「ガゥガゥ」
フェンフェンが「上を見ろ、バカ」と言っている。
「ウォォォン」
今度は「やっぱり見るな」と言っている。どっちなの?
ヘルミンさんは呑気に笑っている。
「悪魔に取り憑かれているみたいですね」
つまり、どういうこと?
私は恐る恐る上空を見た。
夜空にモヒカンの男が浮いていた。禍々しい闇のオーラを纏って。
「ほわっはぁーーー♪」
畏怖よりも脱力感が込み上げてくる。
何だ、これ?
倒れた魔法使いを神父と強欲シスターが治療している。"鑑定"の魔法を使ったことで呪いが飛んできたようだ。
先生の騎士が走ってくる。
「Aランクの魔物だ! 下がれ!」
ついに出た。
思っていたのと違うけど。
ヘルミンさんが、私にどうしてほしいか尋ねてくる。思考が追い付かない。ヘルミンさんに近くにいてもらうべきか、前に出て戦って貰うべきか。
「こっちだ!」
「結界の中に入れ!」
「アルベーデン卿に任せるしかない!」
後方の詰所の様な所に特別な結界があるらしい。Bランク未満の実力者は、そこに後退する様に指示が出た。
結界があるなら、ヘルミンさんには残ってもらおう。
すると、ボルグが叫んだ。
「オー! マイ! 勇者様ー!!!」
私ですか?
関係ないよね?
結界の中に入ろう。
今度は先生が走ってきた。
「サンドラ狙いだ。ここにいて」
何で、そうなるの?
先生が私に小さい盾を渡す。"悪魔特攻"のエンチャントが付いているらしい。
「Bランクは、サンドラのガード! 私とマリーと遊び人で、やつを倒す!」
ヘルミンさんは戦闘ができるとウキウキしている。
シッカーリト氏が先生に「頼みます」と言い、私には「すまない」と言って、結界の中へ走って行く。カールとは大違いだ。
ロバートさんたちは私を守る為に残った。ボブさんが残ると言い、それで全員残った。
「こっちにはリッカルドがいる」
「ボクは悪魔にだって殺せないよ♪」
おっさんもテンションが高い。
"ワイルドビースト"の人たちが来た。神官戦士が"プロテクション"の回復スキルを使い、聖なる防壁を作る。
先生は準備ができたか確認をする。兵士も冒険者も殆どが結界の中に退避したようだ。
しかし、ニワトリ頭の監査官が残っていた。
「私には見届ける義務が……」
「あー、もう、勝手にしろ! 始めるぞぉ! 先手は遊び人だ!」
「頑張りますよ~♪」
先ほど、ディーノさんのパーティの魔法使いが呪いにやられた。下手に接触するのは危険が伴う。あえて、ヘルミンさんを生贄にしたのだ。
ヘルミンさんは大きく息を吸込み。火球を吐き出した。火を吹く大道芸と言っていたが、これではドラゴンブレスだ。
「ちょえええ~~~!?」
直撃。悪魔が落ちてくる。
マリアンヌさんと先生が立て続けに攻撃する。
最後の一撃は、ヘルミンさんが蹴った玉乗りのボールだった。
戦いは、あっさり終わった。
「ヒャア! 悪魔より"クレイジーピエロ"の方が怖いぜ!」
ワイルドビーストの人たちの感想に、私は納得する。
ひとまず、取り憑いた体がDランク冒険者だったこともあり、満足に力を発揮できなかったという見解が出された。
マリアンヌさんが苦い顔で歩いてきた。
「あいつ、生きてるわよ。目が覚めると面倒だから、結界の中に入っていて」
ボルグは無事らしい。派手に攻撃を受けていたみたいだけど、どういう仕組みだろう。
フェンフェンが急かすので私は結界の中に行く。もう、これで終わりのはずだ。さすがに、これ以上はないはず。安産な場所に退避だ。
ロバートさんたちと数人の騎士が一緒に来る。
そして、私たちと入れ替わりに、曹長さんたちが出てきた。
「やったか!?」
それ、フラグだって……。




