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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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八十一話 坑道の戦い


 坑道に入るパーティを編成する。

 先生によると、カミキリムシ型の魔物"バイトル"がいる。Cランクの上位種の声も聴こえたらしい。狭くて、入り組んだ坑道の中なので、詳しいことはわからない。


 事前の打ち合わせで、この場所で戦ったことのあるマリアンヌさんが地上で先生の騎士隊の指揮を執ることになっていた。

 先生は私のパーティに交じり、三人と一匹で進むと言う。

 騎士たちは反対した。部隊の一つを連れて行くか、冒険者のパーティを一組増やすべきだと主張した。

 すると、リッカルドのおっさんがヴァイオリンを弾きながら飛び出してきた。華麗にブレイクダンスも披露する。

 先生は呆れた顔になっている。


「また、変なのが出てきた……」

「……他のパーティメンバーは、まともな人たちです」


 ロバートさんたちと話す。

 それでも、騎士たちは不満のようだ。どうやら、先生ではなく、私の心配をしてくれていたみたい。変質者を二人も混ぜていいのか、と。良くはないけれど、ロバートさんたちがいれば平気といった感じに答えた。リッカルドのおっさんとペアだったら、私は逃げる。

 今度は、ヘルミンさんがおかしなことを言い出した。


「ミルルム様は変質者なのですか?」


 あなたのことです。

 とりあえず、先ほどの取っ組み合いで、"ミルちゃん"呼びを直したようだ。


 話し合いの結果、二組のパーティが坑道に潜ることになった。

 もう一組は、アッシュさんとディーノさんのパーティに、シッカーリト氏と男爵家の騎士隊、さらに教会の神父に強欲シスターも加わる。"ジマーリ男爵領よくばりセットパーティ"だ。

 男爵家が参加するのは張り合う訳では無く、街の威信の為だ。余所の街の領主に任せきりにする訳にはいかない。それに先生は採掘に反対した側だ。けじめの様なものなのだろう。


 それから、ニワトリ頭の監査官も同行すると言い出して、また揉めた。追い詰められて、謎の使命感に目覚めたらしい。

 時間が惜しいと、ジマーリ男爵領組が彼を引き受けた。シッカーリト氏の今後の立場を考えると、王都が寄こした監査官とは懇意にする必要があるのだろう。

 シッカーリト氏を見ると杖も持っていた。後衛ならBランク冒険者が二人もいるので、そう簡単に怪我はしないはず。あとは、監査官が事故を起こさない様に願う。


 今度は、中での行動について打ち合せをする。

 これまで採掘場を襲撃していたのは、南方のダンジョンから溢れ出た魔物と考えられた。それらが攻めてこないのは、坑道の奥にいる魔物の影響に違いない。

 ここで、ヘルミンさんがまた余計なことを言う。


「奥にAランクの魔物がいるということですね」


 皆も、げんなりした顔になる。


「変なフラグは立てないで下さい」

「立てたのは、サンドラさんですよ?」

「何で!?」

「東門でゴブリンと戦った時のこと、覚えていませんか? 城壁から遠くのゴブリンを眺めて、そろそろAランクが出ると言っていましたよ」

「数日前の話でしょう……」


 周囲から視線を感じる。顔を向けたくない。

 そんな訳で、Aランクの魔物がいることを想定して動くことになった。発見せずとも、兆候があれば、すぐに地上へと帰還する。

 こちらには、Aランク以上の実力者が先生、マリアンヌさん、ヘルミンさんと三名いる。一体くらいなら問題なく勝てると思う。だから、怖くない。たぶん。


 あとは、想定以上の数がいた時だ。この場合も地上に引き返す。私のいるパーティは、先生とフェンフェンがいるので、索敵は余裕だ。"よくばりパーティ"には、Bランクのレンジャーのディーノさんがいる。早々、飲み込まれることはないはず。

 

 地上組みの配置が完了するのを待って、私たちは坑道へと突入した。




 坑道の中は不自然なくらい明るかった。


「あ~らら、ダンジョン化が進んでるね」


 先生が言うなら間違いない。

 ゲームだと、何もしなくても洞窟の中は明るかった。その影響で、この世界でもダンジョンになっている洞窟の中は明るい。

 進むと、キャベツが落ちていた。こんな所に生えているはずもない。これはダンジョン内に落ちているアイテムだ。


「まー、封印すれば直るでしょ」


 先生がそう言うなら、たぶん間違いない。

 気楽に考えて行こう。

 今度は、ヘルミンさんが相談があると言う。

 

「私がスキルを使うと崩落の危険性があります。どうしましょうか?」


 それはもう、使わない一択である。通常攻撃で戦闘をしてもらう。

 先生が、坑木を壊さない様に注意する。坑道の壁は木材で補強されていた。これらを壊しても崩れる可能性がある。

 フェンフェンもファイヤーボールを控えることにした。

 アイラさんは風魔法で戦闘をする。

 私は演奏の必要が無くなったので、サポーターに徹する。地図を書いたり、アイテムを拾う。


 話していると、バイトルが数体現れた。大きなカミキリムシだ。顔がハチのようで怖い。奇妙な斑点がある。

 そして、上位種でCランクの"兵隊ソルジャーバイトル"もいた。何故か、二足歩行をして、ポップなデザインになっている。顔もコミカルな感じだ。もう少しデザインを統一して欲しいと思った。

 戦闘は一瞬で終わった。

 サポーターの出番だ。アイテムを拾う。魔石は全て。他のドロップは、Cランクの魔物のものだけ拾う。


 どんどん進む。

 地図とアイテム拾いだけでも大変だ。ロバートさんたちが手伝うと言ってくれたけれど、先生が甘やかしてはいけないと断ってしまった。

 本来なら、身の安全にも細心の注意を払わないといけない。最高ランクの冒険者と組んでいる分、まだ楽な方だ。

 気合を入れて、頑張る。


 しかし、私より疲れている人がいた。ボブさんだ。

 先生も気がついた。

 ボブさんは、姉であるルーシーの母親の件を引きずっているようだ。精神的疲労で、具合が悪そうだ。

 話を聞いた先生は、間の抜けた顔になっていた。呆れよりも、不思議な話を聞いた様子だ。


「もう、聞かなかったことにするよ」


 スルーした。

 厳しい貴族だと、処罰もあり得た。

 ヘルミンさんが何か余計なことを言いそうだったので、口を塞ぐ。

 

 今度は、ボブさんが積極的に前に出るようになった。責任を感じたのか。

 ボブさんは巨体なので、狭い坑道では不利だ。

 ロバートさんたちが落ち着かせる。

 私はその間に地図を書き、ドロップを拾い、拾ったドロップをメモする。忙しい。

 途中で、岩砂糖が落ちていた。パーティと相談して、特別に拾うことにした。

 私が拾おうとすると、先生が後ろから「ドカーン!」と言って脅かしてきた。

 しかし、辛い日々が続いて、私の精神は枯れているので無反応だ。先生は、つまらなそうな顔をしていた。

 


 広間に出た。

 ここから坑道が五か所に別れている。

 先生が隣の坑道を指差す。"よくばりパーティ"がすぐそこまで来ているらしい。

 私たちは休憩しながら、待つことにした。

 

 声が聞こえてくる。アッシュさんの怒鳴り声だ。

 戦闘の音が一度だけした。

 そして、"よくばりパーティ"が現れた。向こうも探知スキルで私たちに気がついていたようだ。

 全員ヘトヘトになっている。

 シッカーリト氏は見るからに顔色が悪い。話を聞いていると、実戦経験が殆どないらしい。かなり無理をしている。

 ニワトリ頭の監査官は半泣きだ。アッシュさんにお尻を叩かれている。彼は実戦経験が皆無だった。

 そんな中、強欲シスターだけは、元気満々だ。手にはモーニングスターを装備している。きっと、酷い死体をたくさん見てきた口だ。


 先生が奥の坑道を指差す。あそこに、ボス格のバイトルがいるらしい。幼虫の声が聞こえたので、クイーンかゴッドマザーの可能性が高いそうだ。前者がBランクで、後者がAランクだ。


「そこまで多くないと思う。クイーンかな?」


 私たちは地上組と合流せず、このまま討伐に向かう決断をした。


 ボスのいる坑道に入ると、魔物の沸きが激しくなった。

 先生とヘルミンさんが我先にと突撃する。

 アッシュさんも張り合う。

 バックアタックを警戒して、ディーノさんのパーティは後方に配置された。

 ドロップの回収は後回しになった。私は身を低くして進む。隣にはフェンフェンと、シッカーリト氏に監査官がいる。パーティ全体で、安全な位置取りだ。


 前方の戦闘が激しくなる。

 アイラさんが"ウィンドウォール"を使ってくれた。

 後方のディーノさんのパーティから戦士が一人、前方の戦闘に加わる。 

 こうなると、何もできない。一応、杖と盾を持って警戒する。

 フェンフェンが勝っていると教えてくれた。当然だ。


 そして、音が止んだ。

 進むと、広間があった。

 中は、メチャクチャだ。えぐられた地面や壁。落ちている無数の魔石とドロップ品。

 対して、先生とヘルミンさんは余裕しゃくしゃく。鎧袖一触だ。

 アッシュさんたちは肩で息をしながら、勝どきを上げた。


 早速、乾杯を始める。クイーンから、上質の岩砂糖が出たらしい。

 先生、ヘルミンさん、アッシュさんのパーティ、それから強欲シスターがお茶の準備を始める。

 

 私は先にドロップを回収する。途方もない量がある。

 ロバートさんたちが手伝ってくれる。さすがに、先生も今回は止めない。

 "よくばりパーティ"にもサポーターはいたけれど、こちらも残り全員で拾う。シッカーリト氏も手伝う。カールとは大違いだ。監査官もいる。

 

 ひたすら、メモを取って、アイテム袋にドロップを放り込む。広間の真ん中辺りで、フェンフェンの警戒の元に作業をした。


 一通り終わると、瞼が重くなった。

 先生がコーヒーを持ってきてくれた。

 飲むと、天にも昇る甘さだった。

 これまでの冒険の成果だ。


 飲み干すと、本格的に眠たくなった。先生から寝てもいいと言われたけれど、そういう訳にもいかない。

 来た道を変える。今度は上り道。大変だ。

 

七十六話を、監査官への対応が過剰だったので修正しました。

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