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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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八十話 あなたもですか?


 モヒカン頭のボルグが魔物を引き連れ、こっちに向かってくる。


「勇者様~!!!」


 どうしていいかわからず、先生を見る。先生は微妙な顔で私を見ていた。そのまま、見つめ合ってしまう。

 マリアンヌさんから、ジッとしているように言われた。


 ボルグは私の所に走ってくる。


「アンビリーバボー♪」


 危機のはずが、満面の笑顔で笑っている。スリリングなアトラクションでも堪能しているかのようだ。

 私が何とかしてくれると本気で思っているの?


 マリアンヌさんが前に出た。ボルグは馬に乗っている。どうするのかと思ったら、走っている馬を受け止めてしまった。さすが、Aランクの神官戦士。凄いパワーだ。

 ボルグは反動で落馬した。

 マリアンヌさんはボルグを放置して、馬を避難させる。兵士が馬を受け取り、後方に連れて行った。

 そして、兵士が飛び出して、ボルグを回収する。私に向かって何かを言っている気がする。騎士たちがブロックしてくれた。聞こえないし、見えない。もう関わらなくていいはず。


 そして、地響きが近づいてきた。

 騎士たちが前に出て、盾を構える。

 ヘルミンさんが『ウィリーソウ・コウ 序曲』を演奏して欲しいと言った。音楽に合わせて、玉乗りで踏み潰すそうだ。

 先生も精霊魔法の詠唱を始める。体の周りに小さな雷が鳴る。


 そこからは、もう別ゲーだった。

 次々と吹っ飛ぶ魔物たち。あっという間に、Cランクの魔物の群れが壊滅した。Bランクの大型の個体もいたけれど、誤差だった。

 本来の"クノテベス・サーガ"はランダムエンカウント制で、戦闘になると画面が切り替わる。現実化して、レベルを上げた結果、アクションゲームになっていた。


 兵士たちがドロップを拾いに行く。大変そう。

 当の本人たちは、喧嘩している。


「私の方が多く倒した!」

「はいはい、ミルちゃんの方が一杯倒しましたよー」

「子ども扱いするな!?」


 何とも締まらない状況だ。

 冒険者や兵士たちも苦笑いしている。

 私は演奏に参加した人たちにお礼を言った。


 ドロップを拾い終わると、道の安全を確認してから出発するそうだ。

 私は馬車の中で待つことにする。

 そこで、ニワトリ頭の監査官に呼び止められた。二度もヘルミンさんから襲撃されたのに、まだ懲りてないみたい。

 しかし、用件は私の勧誘でなく、私の子分の起こした問題に付いてだった。


「ヘルプミー、勇者様!?」


 捕縛されたボルグが出てきた。

 そういえば、私の子分を自称していた。

 トムさんとギルマスが、私とボルグが無関係だと説明する。

 けれども、監査官は引き下がらない。彼自身がそうだと言っていると食い下がる。私に、子分が作戦の妨害をした責任を取らせたいようだ。つまり、監査官の子分になれということだ。

 ギルマスが待ったをかけて、ボルグに話を聞く。突然、子分だと言い出した理由は何か。私自身には微塵も心当たりがない。


「夢の中に、死んだおばばが現れたんだ!」


 意味不明な言葉が次々と出てきた。まとめると、お告げを受けて、私の仲間になり、最終的に英雄になるらしい。頭が痛くなる。

 監査官は目を丸くしている。本当に子分だと思っていたみたい。

 兵士や街出身の冒険者は、頭を抱えている風に見える。

 とりあえず、私と無関係であることが証明された。ギルマスが私に馬車に戻るように言ってくれた。

 

 しかし、ニワトリ頭の監査官は引き下がらない。今回のような事態を繰り返さない為に、自分が指揮を執ると主張する。

 周囲の人間から、ため息が漏れる。私の知らない所で、この主張が何度も行われていたのだろう。

 そして、私を指差した。睨みながら話す。


「君は勇者としての自覚がなさすぎる」

「私は勇者ではありません」


 咄嗟なので、変な言い回しになってしまった。レスバは苦手なので止めて欲しい。

 監査官は、私の言葉を無視して、勇者には国に貢献する義務があると力説する。


「私は国王の命を受けて来たのだ」

「私は先生の指示に従います」

 

 もう、先生に投げるしかない。一般的な転生者なら完全論破するのだろう。けれども、私にはチート要素が何もない。前世から引き継いだ知識で有効なのは、黙っていることだ。幸いにも、この場には先生とトムさんがいる。余計なことを言わずに、黙っていよう。

 トムさんが物理的に私と監査官の間に入ってくれる。今度は、監査官が右に左に移動して、私の前に出ようとした。そこをギルマスと曹長さんが止めてくれた。

 

「サンドラ君!」


 名前を呼ばれた。

 監査官は勇者の義務について力説を始めた。

 もう手遅れだろうけれど、広めないで欲しいと思った。


「神の家で私に暴行を働いた件は、王都の議会に」

「聞き捨てなりませんね!」


 この声は、強欲シスターだ。監査官の後ろから、憤怒の声がした。


「あなたは孤児院に不法侵入しました! それも、静止する若いシスターを突き飛ばして! あまつさえ、大道芸をタダ見するなど言語道断! 全ては天罰なのです!」


 突き飛ばしよりも、タダ見の方に力が入っている気がした。

 ひとまず、監査官も問題を行動を起こしているようだ。これでヘルミンさんの件はイーブンかな?

 監査官は若いシスターのことを事実無根と否定する。その場にいたのも、芸が終わるのを待っていただけらしい。

 シスターは、マリアンヌさんに頼んで、王都の大聖堂に報告すると言った。

 監査官は激怒して、声を荒げた。 


 そこに、トムさんが加わる。ヘルミンさんのことは、前日の会議で念入りに注意したと言った。破茶滅茶な冒険者だが、重要な戦力である。近づいて問題を起こすことは避けるようにと。

 先ほどの戦果もあり、ヘルミンさんの有無で作戦の成功率は大きく変わる。街の防衛を真剣に考えるなら、トムさんの言い分は正しい。


 追い詰められた監査官は、私と一対一で話をさせろと要求した。

 何それ、怖い。

 私を脅して、どうするつもりなの?

 今度は、トムさんたちを押しのけようとして、マリアンヌさんに拘束された。

 すると、大きな声で泣き始めた。

 出世が、お家が、と口にする。


「こんなはずではなかったんだー!!!」


 そんなことを言われても、知らないよ。


「勇者様、お助けをー!!!」


 あなたもですか?

 監査官の家系は、代々勇者職を支援してきたらしい。でも、そんな事を聞いている暇はない。

 

 トムさんも事態を収拾させようとする。二度目の輪っかは、ヘルミンさんに非がある。お互い悪いことにして終わりにしようと提案した。

 トムさんは先生にも確認を取る。

 後ろを向くと、先生はヘルミンさんに寝技をかけていた。


「サンドラさ~ん! 助けて下さい~!」


 ……ヘルミンさんまで。


「取り込み中だから後にして!?」

 

 トムさんは無言で前を向いた。慣れている。


「キュウ~ン」


 フェンフェンが呆れた様子で私を見ていた。頷いて、私も前を向く。

 

 少し話をして、解散になった。丸く収まった訳ではないけれど、作戦の継続に支障はなさそうだ。

 前世の営業職の記憶がある身としては、監査官の事情も理解できる。でも、強制は良くない。王都でも同じようなことをしてきたのだろう。ヘルミンさんはやり過ぎだけれど、彼自身にとっては天罰だったのかもしれない。

 この世界では、神はシステムとして存在している。私も罰が当たらない様に気をつけないと。


 張本人のヘルミンさんは、先生に怒られても反省せず、ケラケラと笑っている。作戦が終わった後に逮捕してくれれば、アルベーデン辺境伯領に来ることもなく、お別れできる。




 しばらくして、馬車は採掘場に到着した。

 空は明るいけれど、雨が降ったのか濡れている。

 よく見ると、トロッコがひっくり返っていた。建物のあちこちに傷がある。魔物との戦闘の跡だ。

 先生が耳で索敵する。フェンフェンも張り合う。


「外に魔物はいないみたいだね」

「つまり?」

「中にいる」


 先生が坑道を指差す。

 集まって、ミーティングが行われた。

 ワイルドビーストの魔法使いが曰く、結界の修復には坑道に入る必要はない。けれども、作業の妨害や修復したばかりの結界を破壊されることを考慮すると無視できない。何名かを坑道の中に派遣することになった。

 それから、知らない間に私も行くことになっていた。

 そして、先生は私にどの坑道がいいか聞いた。私は正面にある一番大きな坑道が気になっていた。私と先生は、ここに決まった。

 他には、ドワーフのアッシュさんも坑道に入る。


「洞窟の中はドワーフの十八番だぜ」


 本来のドワーフは洞窟の中に住んでいる設定だ。日本のゲームや漫画だと、街の中に普通に住んでいる。このゲームもそうだ。


 とうとう、元凶の岩砂糖のある所まで来てしまった。

 先生から、岩砂糖を見つけても採掘しない様に言われた。マナの乱れは極力避けたいそうだ。

 これにアッシュさんがヤジを飛ばす。


「エルフじゃあるまいし、嬢ちゃんの手癖が悪いものか、なぁ!」

「えぇ……」

「そもそも、ドワーフは止めたのに堀った側でしょー!」


 また喧嘩になりそうだ。トムさんとマリアンヌさんが間に入って止める。

 ワイルドービーストの魔法使いの意見では、魔物がドロップした岩砂糖なら平気らしい。

 これを聞いて、先生は上機嫌になった。


「ドロップはいいんだね、ヨシ!」


 先生も食べたかったみたい。

 そうなると、私も欲しい。

 苦労の連続だけれど、最後は美味しい岩砂糖でティータイムができると良いな。


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