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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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七十九話 ミーティング


 先生が馬車を降りて、曹長さんの所に行く。数人の騎士が御供する。

 私は馬車の中にいるように言われたので、ここで大人しくする。

 フェンフェンは私の横で丸まっている。先ほどの事で怯えている。

 ヘルミンさんが空いたスペースに寝っ転がると言う。私に膝枕してほしいそうだ。もちろん、断る。


 ぼんやりしていると、フェンフェンが私を呼んだ。誰か来たみたい。

 馬車の外にいる騎士にも呼ばれた。

 ロバートさんのパーティが私に会いに来た。


 馬車を下りる。

 すると、憂鬱な顔のボブさんが目に入った。彼は巨漢のパワータイプなので、そういう表情とのギャップが酷い。

 他に、ロバートさん、アイラさん、リッカルドのおっさんもいた。やっぱり、さっきのヴァイオリンはリッカルドのおっさんだった。そして、フルートはアイラさん。


 それで、事情を聞くと、私が"勇者職"であることが広まった件だ。


 まず、ボブさんはルーシーの母親の弟だ。この縁で、ルーシーとカレンに出会った。

 それから、カレンが話した秘密をルーシーの母親が兵団の間で広めてしまった。

 その事をボブさんは負い目を感じている。


 二つ目は、ケビンおじさん。耐え切れずに、奥さんに話してしまった。

 奥さんも胃痛が出て我慢できなくなり、内緒の話だからとあちこちに言ってしまった。

 何ということだ。

 

 三つ目は、男爵夫人。案の定、自身の派閥の人間に言いふらしていた。


 そうして、昨日の男爵家の騒動の後、秘密が解禁になったと勘違いした街の人たちが、次々と話を広めたらしい。

 一体、どこに解禁する要素があったのだろうか?

 何でも、"勇者キック"で私が男爵を倒したことになっているみたい。


「蹴ったのは、ヘルミンさんです。相手は、部屋のドアだけれども……」

「そうでしたっけ?」


 ヘルミンさんがきょとんとした顔で馬車から出てきた。もう忘れているようだ。

 

 それから、男爵と男爵夫人が担架で教会に運ばれて行く姿を大勢の人が目撃した。先生が騎士を引き連れて歩いたことで、街の中は大騒ぎになっていた。

 こんなことなら、マリアンヌさんに男爵邸で治療してもらうべきだった。

 そんな訳で、混乱した民衆には、勇者が悪い領主をやっつけたシナリオの受けが良かったようだ。

 

 もう面倒だ。これが終わったら、すぐに街を出よう。

 そう話すと、ロバートさんたちが申し訳なさそうな顔になった。自分たちの故郷が嫌悪されるのだから、気分の良いものではない。

 けれども、配慮する心の余裕は、もう私には残っていない。早くアルベーデン辺境伯領に戻って、ぐっすり眠りたい。

 ヘルミンさんは私と一緒に来るつもりだ。どうにかして、追い払わないといけない。


 すると、突然、机を叩く音が聞こえた。


 バン! バン!


 さらに、ニワトリ頭の監査官の怒鳴り声がする。何て言っているかは、わからない。

 間を置かず、先生とアッシュさんたちドワーフの声がした。


「かーえーれ! かーえーれ!」


 何度も子供みたいに合唱している。エルフとドワーフは、こんな時には仲が良いのだろうか?

 向こうも荒れている。




 ようやく再出発だ。

 その前に、注意を二点受けた。

 ニワトリ頭の監査官が、私と話をさせるように要求してきた。勇者職の噂を聞いたらしく、何かを企んでいるみたい。

 そして、ボルグのこと。盗んだ馬で走ってきたそうだ。止めるギルマスを振り切って、先へと走って行った。何が起きるか、わからない。

 先生の騎士隊の傍にいれば、安全のはずだ。

 そもそも、この状況で魔物以外に警戒しないといけないのがおかしい。先生もプンスカ怒っている。街の危機なのだから、大人しくしてほしい。




 しばらくすると、魔物が出た。

 馬車が止まる。危険はないので降りなくてもいいと言われた。

 

 先ほどのミーティングの結果、腕自慢大会を開くことになった。先生やドワーフの独走ではなく、みんなで仲良く戦ったという事にする為だ。


 次は、シッカーリト氏と男爵家の騎士隊の番と教えてもらう。シッカーリト氏が来ていることに驚いた。跡取りだから街に残っていると思っていた。きっと、"ノブレスオブリージュ"だ。

 相手は、切裂スラッシュホーク。Dランクの魔物。

 上空を見ると、二体飛んでいた。

 いつの間にか、私の乗っている馬車は隊列の後ろにいた。

 前で何が起きているのかは、わからない。火の魔法と弓矢が飛んで、切裂スラッシュホークは灰になった。

 拍手が聴こえる。私も拍手する。


 少しして、馬車が進み出した。特に、変わった様子もない。シッカーリト氏はケガも無く戦闘を終えたようだ。


 それから、ワイルドビーストにディーノさんのパーティ、兵団の精鋭部隊が戦闘をした。

 伝令の兵士が来て、ここからは通常のローテで行くと連絡してくれた。

 ロバートさんたちは参加しなかったみたい。冒険者はBランク以上のパーティだけが出たのかもしれない。トムさんは疲れた顔をしているので、詳細は聞けない。




 休憩地点に着く。

 先生から馬車を降りるなと言われた。自分も降りないから、と。

 そして、アイテム袋からお菓子を取り出して、モリモリと食べ始めた。何個か貰ったので、私も食べる。フェンフェンにも分ける。


 外にいる騎士から、ニワトリ頭の監査官がこちらを見ていると教えてもらう。

 一体、何を企んでいるのだろう?


「私に何の用なんです?」

「取り込みたいんじゃない? 手柄が欲しいって顔に書いてあったし」

「取り込みとは……改革派に引き込みたいとか?」


 ニワトリ頭の監査官は、岩砂糖の採掘を推進している改革派の人間だ。保守派の先生の弟子である私をヘッドハンティングするとは、大胆というよりも状況を考えれば傲慢な行為だ。

 

「今回の件で、保守派に責められるのを恐れているのかもね。やたらと仕切りたがってたみたいだし。貴族の権威をひけらかしてたけれど、トムが頑張ってくれた。それで、兵団から感謝されたよ。もう、ケガ人や亡くなった人が大勢いて、大変らしいね。あいつが仕切っていたら、街が滅茶苦茶になっていたよ」


 ニワトリ頭の監査官がナディアやエンマを虐めている姿が思い浮かんだ。身震いする。

 トムさんに感謝だ。さすが先生の懐刀。

 

「どこまで情報が漏れたのか……サンドラの勇者の直感頼りに今回の作戦は進んでいる訳だけどさ」

「えっ……そうなんですか?」

「表向きは、私の我儘だけどね。で、このままだと、あいつと派閥の面子が台無しじゃん?」


 ニワトリ頭の監査官は、王都では若手のエリートらしい。敵対派閥の前で失態を犯せば、今後の出世にも響くことになる。それでムキになっている。


「サンドラがあっちに入れば、自分たちが問題を解決したって言えるでしょ? それで、岩砂糖が駄目になっても、勇者をお土産に持って帰れば万々歳じゃん」

「お土産って……」


 人を物扱いだ。前世でも、人材という言葉が嫌いだった。そんな風に呼ばれるほど立派ではなかったけれども。


「ガゥッ!」


 フェンフェンが吠える。

 イナレートオオトカゲの声を聴いた。それも大群だと言う。

 先生も耳で索敵する。エルフなので、耳が良い。


「百匹くらいいるね」


 馬車の中にいた騎士が、慌てて外に知らせる。

 先生は目をつぶって、ジッと集中する。


「さっきの変なモヒカンもいる。こっちに引き連れてくるつもり?」

「えぇっ!?」


 先生は、馬車の外に出る。


「偵察の兵士を呼び戻して! さっきの馬鹿が、こっちに魔物を引き連れてくる」

「ボルグめっ!?」


 今のはギルマスの声だろうか? 近くにいたみたい。 

 モヒカンの名前は、ボルグだった。記憶を辿っても、彼が私の子分を名乗る理由が思い出せない。私の関与していない所で、また何か不思議なことが起こったのだろう。


 大きなラッパの音がする。偵察の兵士への伝達だと思う。


 外にいたヘルミンさんに呼ばれた。フェンフェンに止められたけれど、腕を引っ張られて、外へ出た。

 隊列の前の方に移動する。後ろから、マリアンヌさんの部隊の騎士が付いてくる。どちらかと言うと、止めて欲しい。

 そこへ、先生が後ろから追ってくる。


「コラコラ、待て待て」


 先頭の馬車を追い越した。部隊の一番前に行く。

 奥の森で木々が揺れている。僅かながら魔物の声が私にも聞こえた。

 Cランクの魔物の大群を前にしても、ヘルミンさんはノリノリだ。


「オカリナはミルちゃんがいるので、サンドラさんはドラムをお願いします」

「ミルちゃんって、呼ぶな!?」


 先生の抗議を無視して、ヘルミンさんは私にマーチングドラムを渡した。いつも使っている小さいドラムが四つ付いたものだ。

 慌てて装着する。

 先生は自分がやるから、ヘルミンさんに下がるように言う。


「協力して戦うべきですよ?」

「私が本気を出すと、周りを巻き添えにするから危ないんだよ」

「味方に攻撃を当てない様に気を付けないといけませんよ。基本中の基本です」

「子ども扱いするな!」


 先生はプンスカしている。

 そこに、ヘルミンさんからフレンドリーファイアされたことのあるリッカルドのおっさんがやってきた。手にはヴァイオリンを持っている。アイラさんたちもいた。

 他にも演奏したい人がいるらしい。混ざってもいいか相談された。

 後ろで演奏するなら、先生とヘルミンさんの巻き添えになることはない。騎士たちも賛成した。

 トムさんとマリアンヌさん、ギルマスも私たちの所へ来た。先生が雷魔法を使い範囲攻撃でドカンとやることに決定したみたい。

 玉乗りをしてラッパを吹くヘルミンさんを見て、先生は匙を投げたのか、二人で先制攻撃すると言った。演奏したいものは、先生の騎士たちの後ろに来るように連絡が行った。

 後ろの方から、馬車が動く音がする。人の足音も。陣形を組んでいるようだ。

 私は楽譜を思い出しながら、前方に集中する。

 偵察の兵士二人が戻ってきた。焦っている。

 地響きがする。魔物の声がはっきりと聴こえる。

 そして、馬に乗ったモヒカンの男が現れた。


「勇者様! ヘルプミー!」


 最低だ。


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