七十八話 一番槍
馬車が進む。
私たちは、"再封印作戦"に向かう"再封印遠征部隊"ということになっている。それなりの人数がいるみたい。
私の乗っている馬車は、先生の家の馬車だ。他の馬車と比べて、幌の色合いが綺麗だ。車輪もどっしりして頑丈そう。乗り心地も抜群だ。
ゆったり揺られていようと思った矢先、警告のラッパが鳴って、馬車が止まった。
「上だ!? ワイバークロウだ!?」
街を出たばかりなのに。せっかちな魔物だ。
Bランクの魔物なので、私の出る幕はない。騎士隊の後ろで待機していよう。
すると、ヘルミンさんが立ち上がった。
「サンドラさん、行きますよー」
「え!?」
「一番槍は、"サンドラのパーティ"が決めます!」
「何で!?」
「私たちは、ジマーリ男爵領とアルベーデン辺境伯領、それから王都出身者の混成パーティですよ! 色々なしがらみを超えて、皆が団結する為に、チームワークを見せつけるのです」
「そうなのですか?」
そうは言われても、前に出るのが怖い。
先生も私に行けと言う。一応、マリアンヌさんの部隊がガードしてくれるみたい。
馬車を下りて、車列の前に行く。
空を見上げると、大きなカラスが二羽も飛んでいた。ドラゴンと見間違うくらい凄い迫力だ。
ヘルミンさんは黄金の大きな輪っかの中に入って、くるくると回っている。
「"ローリングリングリン"をお願いします」
私は返事をして、タンバリンを取り出し、フェンフェンに渡す。しかし、嫌そうな顔をして受け取らない。
すると、先生が横に来て、オカリナを取り出す。混ざる気だ。
笛の音が聞こえる。後ろの騎士が二人ほど、楽器を取り出したみたい。
振り返るのが怖いので確認はできない。兵団の人が横に何人かいる。他はわからない。遠征部隊の全員から見られているのかもしれない。
フェンフェンは嫌々ながら、楽器を受け取った。
私はオカリナを取り出す。
ヘルミンさんの合図で演奏を始める。
すると、後ろからヴァイオリンとフルートの音がした。ヴァイオリンは、リッカルドのおっさんだと思う。
そして、黄金の輪っかが光り始めた。
「"ゲハィムニス・ヘルミン・カーニバル" 『演目 インフィニット・スカイ・ホイール』!!!」
輪っかが高速で回り始めた。
すると、輪っかの外周にトゲのようなものが現れた。マルノコと呼ぶにはトゲが大きい。悪役が身に着けている装飾品の様だ。
トゲトゲ輪っかが走り出す。
キキキキキキキ♪
そして、ワイバークロウ目掛けて飛び上がった。
シュバァァァッ!
トゲトゲ輪っかは、フリスビーのように舞う。飛んでいるのかもしれない。空中で方向転換して、ワイバークロウを襲う。UFOと巨大カラスの空中大戦争だ。
そして、トゲトゲ輪っかがワイバークロウを何度も斬りつける。
シュィン♪ シュィン♪
やがて、一匹が左の羽を裂かれて落下した。
ヘルミンさんの輪っかは、さらに加速して、大きく距離を取り、空中にいるもう一匹のワイバークロウに体当たりした。
ザシュッ!?
首が飛ぶ。ワイバークロウは灰になった。
輪っかは、落下した方へと向かう。残った右の羽を大きく広げて威嚇する。
そこに真正面からトゲトゲ輪っかが突っ込む。
チュイイイイン!
ワイバークロウは縦に真っ二つになった。そして、灰なって消えた。
後ろから歓声が上がる。少し遠慮しがちなトーンだ。
横にいる先生は微妙な顔をしている。
「何あれ? 空飛んでるよ?」
確か、この世界には飛行魔法は存在しなかった。超司教様が二段ジャンプを使っていたくらい。
今のヘルミンさんのスキルは、物凄く奇怪な部類に入るようだ。
その本人がフラフラしながら戻ってきた。
「目が回りました~」
常人なら命の危険があるくらい回っていた。さすがに応えるようだ。
私は周りの人に、拍手で迎えるようにお願いする。
微妙なテンションの拍手が鳴った。怖がっているのか、戸惑っているのか。
「ど~も、ど~も」
ヘルミンさんはふらつきながら、両手を振る。
そして、私に抱き着こうとした。マリアンヌさんがヘルミンさんの襟首をつかんで、ポイと放り投げた。
「あーん」
助かった。後ろから、どよめきが聴こえる。喧嘩ではないけれど、説明したくない。
マリアンヌさんが、先に進もうと周囲に促す。
後ろで、いそいそと馬車に乗り込む音がした。スルーしてくれるみたい。
ワイバークロウのドロップは兵団が回収していた。
馬に乗った偵察の兵士が先行する。
すぐに、馬車は動き出した。
ヘルミンさんは馬車の中でぐったりしている。反動の大きいスキルだったみたい。
観客が多いので、"遊びポイント"の消費は抑えられたはず。けれども、体力の方を回復しないといけない。
しかし、またすぐに、警告のラッパが鳴った。
偵察の兵士が報告する。
前方に、"歩行プラント"が出たらしい。キャベツ帯にいた"尻尾プラント"の上位種だ。ランクは、C。足があって、自在に歩き回る。
馬車が停止すると、先生が飛び出した。
「はーい、次はエルフの番ね。決定!」
さっきので、エルフが仲間外れにされたと考えたのか、妙に意地を張っている。
光翼銀の短剣二刀流に、火属性をエンチャントした。周りの返事も待たずに走り出す。
そして、ドタドタと歩いてきたウォークプラントを一瞬で切り刻んだ。
殆どの者が馬車を下りる間もなかった。
兵団がドロップを回収する。
また、偵察の兵士が先行する。
すぐに出発すると思ったら、何やら揉め始めた。
アッシュさんが次はドワーフの番だと言う。ドワーフの冒険者と兵士が集まってくる。
相手をしているのは、東門で会った曹長さんだ。エンマの父親だと聞いた。
それから、ギルマスもきた。片腕のギルマスが来ていることに驚いた。
後から、トムさんにマリアンヌさん、ディーノさんたちベテラン冒険者も駆けつけた。
見守っていると、先生が戻ってきた。
「こういうのは出発前にローテを決めてあるの。ドワーフは本当に我儘だなー」
先に、私たちが割り込んでしまった訳だけど、先生は気にしてない。
騎士さんが、先生が急に暴れ出したら順番を譲る様に、事前に打ち合わせしてあると教えてくれた。
「私をドワーフと一緒にしないで欲しい」
先生は頬を膨らませて、プリプリと怒っている。可愛い。けれども、迷惑行為は止めよう。
トムさんが戻ってくる。
とりあえず、次の一戦だけ、ドワーフのみのパーティで戦うことになった。念のために、マリアンヌさんがフォローに入る。
丁度、偵察の兵士が戻ってきた。
イナレートオオトカゲが出たらしい。前に、南門で戦ったCランクの魔物だ。
ドワーフたちが隊列を組む。八人いて、冒険者が三人、兵士が五人。
すると、後方から変な声がした。
「俺っちも混ぜてくれよーん!」
聞き覚えのある声。確か、ボルグとかいったモヒカンの冒険者。
Gランクに落ちたはず。
また騎士に教えて貰う。ボルグはGランクに降格後、西門の畑の修繕作業に従事していた。街に入れないので、外で寝泊まりしているそうだ。
「勇者様の子分として、大活躍しちゃうぜー!」
先生が私を見る。
私は首を横に振る。
トムさんが、私とは無関係だと言ってくれる。
ギルマスと曹長さんの声がする。彼を止めようとしている。
「うっひょーい!」
私の乗っている馬車の横を通り過ぎた。馬に乗って、右手に持った剣をブンブンと振り回していた。完全に有頂天だ。
そのまま、前方からやってきた三匹のイナレートオオトカゲに突っ込む。
「あちょちょちょちょちょ!」
オオトカゲたちは慌てる様に避けた。あまりの珍走に、魔物でも驚いたようだ。
それから、ドワーフパーティとの戦闘になる。
Bランクのアッシュさんがいて、数も倍いる。余裕だと思った。
しかし、ドワーフの兵士が一人、大怪我をした。素早い魔物なので、連携のとれない急造パーティで相手をするのは危険だった。
ボルグを探すと、生きていた。ギルマスと冒険者に詰め寄られている。それでも、馬上で大はしゃぎしていた。
今度は、ニワトリ頭の監査官が出てきた。自分が指揮を執ると言っている。同行してきたことに驚いた。監査官の仕事には、どこまでの権限があるのだろう?
曹長さんが、ミーティングをすると言う。まだ街を出たばかりなのに、早くも問題発生だ。
「キャー! もふもふよー!」
「キャィン!?」
後ろから声がした。馬車の下だ。いつの間にか馬車を降りていたフェンフェンに、西門のコーヒーショップの変態店員が抱きついている。
ひとまず、マリアンヌさんが力尽くで引き離してくれた。
変態店員さんは元冒険者で、給仕の依頼を受けて私たちに付いてきたようだ。それも、フェンフェンをもふもふする為に。
「我慢できなかったのよ」
次々と変人が集まってくる。
先生が白い目で私を見ている。
「変なのばかり集めて、何やってんだよ!」
「知りません!? 事実無根です!」
最終ステージなのに、まだまだ問題が起きそうだ。




