七十六話 もう一息
冒険者ギルドに行く。
ギルマスは奥の会議室に案内しようとしたが、先生がゴネて、酒場で会議をすることになった。元冒険者なので、こっちのが落ち着くらしい。
"ワイルドビースト"の魔法使い、南門で一緒に戦ったクンツさん、他にも魔法が使える冒険者が集まっている。
"ワイルドビースト"の魔法使いが岩砂糖の採掘場で詳細な記録を取っていた。"要石"があれば、半日で復元できるそうだ。
先生は今から行こうと言う。高い椅子に座って、高級なお菓子を食べながら、足をパタパタさせている。子供がゴネているような光景だ。周りの冒険者は、どうしていいかわからないという顔をしている。
ひとまず、人手を集めて、手順を説明する必要があるという事で、進行は明日になった。"ワイルドビースト"の魔法使いは貴族の家の出だったので、先生に臆することなくワイルドに接していた。お陰で、話がうまく纏まった。
これで終わりかと思ったら、終わらなかった。
ニワトリ頭の監査官が現れた。
報告をすっかり忘れていた。
今一、何があったのかも覚えていない。それどころではなかった。確か、孤児院で大道芸を披露していたら、彼が現れたのだ。
彼は大声で文句を言い出した。トサカに来ている。
トムさんが間に入ってくれる。
話を聞く。孤児院には、私たちが街の防衛に参加する様に要請を出す為に行ったようだ。確か、トムさんが断ってくれたはず。トムさんも、その件は断ったと言う。
ニワトリ頭の監査官は、義務があると言い返す。
トムさんは私が未成年である為、従う義務はないと言う。
ニワトリ頭の監査官は、今度はヘルミンさんのことを指摘した。私が護衛にBランクの冒険者を囲い込んでいる様に思われている。
そして、私が指示をして、自分に暴行を加えたと主張した。全く、身に覚えがない。
トムさんから、何があったのか聞かれた。
思い出せない。ヘルミンさんに聞こう。
すると、ヘルミンさんが輪っかを持って、ニワトリ頭の監査官の後ろから現れた。
「ヘルミンさん、ダメ!?」
ニワトリ頭の監査官は小さく悲鳴を出して、その場を離れた。
「相手をすると面倒ですよ」
「そういう問題じゃないって!?」
"ワイルドビースト"の人たちと知らない冒険者たちがヒソヒソと噂をしている。
「あの女に関わるな。例え賛同しても、ただでは済まない」
完全に死神扱いだ。
先生が呆れた顔でヘルミンさんを見ている。そして、輪っかに興味を持ったようだ。
「その輪っかだけど、ダンジョンのトラップのやつじゃない?」
輪っかをはめると回転して気絶するトラップ。恐ろしい。
「面白かったので、持って帰ってきました。遊ぶのでしたら、お貸ししますよ」
「だから、子供じゃないって」
ヘルミンさんは先生をどう認識しているのか、すごく不安だ。
そして、ヘルミンさんにはお説教……は無かった。ギルマスはもう匙を投げたようだ。
ひとまず、解散だ。
可能なら、明日の午前中に岩砂糖の採掘場へと出発することになった。
トムさんと採掘場にいたマリアンヌさんの部隊は、作戦会議に参加する為に兵団の本部へと向かう。
この会議に、ニワトリ頭の監査官も参加するようだ。文句を言っていたけれど、私は目を合わせないようにしていた。
屋敷に戻った。
今日も慌ただしい一日だった。
ヘルミンさんは夕食を食べたら、すぐに眠ってしまった。明日の為に英気を養うそうだ。昼間も眠そうだったので、大道芸で疲れたのかもしてない。
先生が、私にも大人しく寝るように言う。
「行きませんよ」
「何で? 散々、暴れてたんだろ?」
「ようやく自重を覚えました」
「嘘つけー」
夕食の後、この街に来て起きたことを話した。
救助、救助、救助。
カール、カール、カール。
さらに、変なのが次々絡んでくる。
降りかかる火の粉を避けるために組んだ上位冒険者が、次々と問題行動を起こす。
先生は怪訝な顔をしている。
先生と一緒に来た騎士たちは、話を聞いて固まってた。
「魔物と戦うんじゃなかったの? 本来の目的から外れ過ぎだよ」
「確か、"はじまりの森"を攻略しろって言われました」
「パーティスキルを磨けって言ったの」
「最初のパーティとは、きちんと連携してましたよ」
ルーシーたちとダンジョンを進めたら、どれだけ良かったか。
「それで、バカ狼とは組んでみて、どうだったの?」
「ガゥ!」
フェンフェンが得意げに返事をする。
「下僕にしっかり指示を出してやったぞ、だって」
「返す言葉もありません」
「あー、何かあったの?」
「出た魔物と状況のレベルが高過ぎて、フェンフェンの指示通り動くしかなかった訳です」
「それは仕方ないよね」
「ウォン!」
先生に、食事代をはずむなら、お前も下僕にしてやると言い出した。
私はギルドの酒場で一番高い肉を頼んだことを先生に教えた。
「暴れてもいたので、機嫌を取る為です」
「甘やかさない程度なら、良いけどさー」
「ガゥガゥ」
フェンフェンが、カールに"黄金牛のTボーンステーキ"を食べられた話をした。
「貴族にあるまじき行為だね。ここの男爵家は、ホントに何やってんだか……。それで、次男は死んだんだっけ? 暴漢に襲われたと聞いたけれど」
暴漢に襲われたのは、私の方だ。その隙を突いて、若い兵士の母親がカールを刺した。東門の事件の復讐として。
「……酷い話だね。もっと、どうにかならなかったの?」
それは私も、何度も考えた。どこで選択肢を間違えたのか。むしろ、選択ができなかった。先生と一緒に男爵邸に乗り込むしか、解決方法は無かったのかもしれない。
「マリーの部隊も一緒に送るべきだったね。トムも色々と想定外だったみたいだし。そもそも、ドワーフが悪い」
先生がモカシャック大公の悪口を言い出した。巻き込まないで欲しい。さっき、アッシュさんがいなかくて良かった。
そうしていると、トムさんとマリアンヌさんたちが戻って来た。
報告を受ける。
ジマーリ男爵領とチミリート伯爵領の間に、再びワイバークロウが出現した。やはり、スタンピードのイベントを終わらせないと無限に湧いてくるみたい。
それで、採掘場の結界を張り直す戦力を計算した所、街の防衛が手薄になるという結果が出た。作業中に、ワイバークロウが街を襲えば、一巻の終わりだ。
ひとまず、南方の雷雲は鳴り止んだそうだ。夜になるので偵察が送れない。採掘場に魔物が集まっているかは不明。それでも、明日、強行するべきという結論になった。
トムさんの話によると、街の人たちは精神的に限界のようだ。兵士も住人も。これ以上は大規模なパニックが起きかねない。藁にも縋るつもりで、今回の作戦を支持した。
先生は、ふむふむと頷いた。たぶん、面倒くさいとか考えている。
そして、私に質問する。
「どうする? 帰る?」
「私が決めるんですか!?」
「あなたの冒険だからね。採掘場に行っても、戦力が足りなくて全滅する可能性もあるじゃない。だから、帰ってもいいの。余所の領地より、自分のとこ、優先」
「そんなこと言われても、行くしかないです。このままだと、すっきりしないです」
精神的に限界なのは、私も同じだ。それでも、逃げる選択肢も選びたくない。
先生は気付いているか、ニッコリ笑う。
「私たちも一緒に行くから、へーき、へーき」
それから、トムさんから"無限観音像"のことで報告を受けた。
私は、仏像のことをすっかり忘れていた。あの時に、投げられていたのかな。
投げたかどうかはわからないけれど、仏像は兵団の方に回収されたそうだ。話は付いているので、後日、ギルドの受付で受け取るように言われた。
先生には、二人きりになってから仏像の事を教えた。
先生はコロコロと表情を変えて、最後は怒りの表情になった。男爵夫妻は檻に入れると言っている。勇者ロッキーとの冒険の思い出に関わることだから、不快なのだと思う。
とりあえず、仏像問題は解決だ。
男爵夫人を倒したことで、イベントが大きく進んだ。
早い話、先生が一緒に街に来ればよかったのだ。もしくは、岩砂糖の採取を始める前に。
政治的な事情に巻き込まれて、事態が悪化した。前世で、ドラマとかで見たことがあるけれど、自分が当事者になるなんて。それも、来世で異世界転生して。
大変だけれど、もう一息だ。頑張ろう。
監査官への対応が過剰だったので修正しました。
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