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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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七十五話 要石


 屋敷の外に出る。

 人が大勢いた。アルベーデン辺境伯領に残っていた先生の騎士たちだ。

 その中に、トムさんを見つけた。

 近寄ると、筋骨隆々のフルアーマーに囲まれて、子供がちょこんと立っていた。金色の髪に、葉っぱのような尖った耳。先生だ。


「おっ、早く行くぞぉー!」

「どこへですか?」

「まずは、男爵夫人の所だろー?」


 トムさんを見る。私の直感の事を教えたみたい。

 本当に男爵夫人を倒しに行くの?

 それでいいの?

 実際にやるとなると怖い。

 すると、ヘルミンさんの声がした。


「どうかしたのですか?」


 ふらふらと屋敷の中から出てきた。先生を見つけて、好奇心全開で近づく。


「わー、エルフですか? 可愛いですねぇ」


 頭を撫でようとして、周りの騎士に止められる。

 私は目の前の小さな女の子が先生だと、ヘルミンさんに教える。金ぴかの装飾品の付いた貴族の服を着ているのだから、察して欲しい。

 先生は子ども扱いされてご立腹だ。


「子供じゃないからね。全く、変なのとパーティ組んじゃって」

「強制イベントだから仕方がないんです。元々は、きちんとした仲間がいました!」


 誤解をされては困る。けれども、言い訳を考えていなかった。ここに来るとは思わなかったから。


「先生も珍獣を押し付けて来たでしょ!」

「ガゥ!」


 フェンフェンが私の足を前足でペチンと叩く。戦闘用の革靴越しでも結構痛い。


「懐いてるなら、もういいだろー?」

「ウォン!」

「俺様がコイツの主人だ? めんどくさいなー」


 マリアンヌさんと、部隊の騎士たちが屋敷から出てきた。全員、戦闘態勢だ。

 先生がマリアンヌさんに質問する。


「まずは、男爵夫人の所でいいんだよね?」


 マリアンヌさんが首を傾げる。


「えっと、どういうこと?」

 

 チミリート伯爵には近隣の領主たち、商人、王都から来た監査官など、大勢集まっていた。

 それで、先生は面倒な会議に巻き込まれた。責任の押し付け合いから、利権の話やら。さらに、スタンピードが本当に起きるのかどうかを何度も質問された。それも高圧的な態度で。心底、うんざりしたそうだ。

 それで、カッとなって、ここに来た。

 サクッと、スタンピードを攻略して帰るとのこと。

 マリアンヌさんは納得したようだ。そして、私を見る。


「南方に行く目的は無いのよね?」

「……はい」

「こういう時は、身近なイベントから片付けて行くのよ。男爵夫人の所に行ってみましょう」


 前世のゲームの経験で、似た状況がある。イベントや仕掛けを放置してダンジョンの奥に行くと、扉や自然物に阻まれて進めないことがある。そうなると、来た道を戻らないといけない。最悪、街まで。

 今世では、実際に歩かないといけないので、移動時間が物凄くかかる。街まで戻って、もう一度挑戦となると面倒極まりない。

 それ故、気になるイベントは消化しておくのが望ましい。

 

 色々と怖いけれど、先生と一緒なら大丈夫だ。トラブルメーカーが増えただけの可能性もあるけれど……。

 



 街の中を歩く。

 騎士は十八人いる。民衆の注目の的だ。けれども、私たちのことを知っているので、慌てる人は殆どいない。

 そして、エルフはいない。みんな、行きたがっていたらしい。誰か一人でも連れて行くと大喧嘩になるので、今回は控えてもらったそうだ。




 冒険者ギルドに着く。

 ギルマスに挨拶するそうだ。

 フロントには冒険者に職員、街の人たちがちらほら。私たちに一気に視線が集まった。

 ギルマスもフロントにいた。すぐに、こちらに来た。


「アルベーデン辺境伯殿、突然の」

「やぁ、ダニー。これから領主の家に行くから、よろしくね。じゃあっ!」


 先生はくるりと反転して、外に出ようとする。


「一体、何を!?」

「大丈夫、へーきへーき♪」


 先生が外に出たので、私たちも続く。トムさんは残って、ギルマスに説明している。

 トムさんの部下の騎士の案内で、私たちは男爵邸へと向かった。




 男爵邸の近くまで行く。

 門の前には、大勢の住民がいた。衛兵は匙を投げているのか、やる気がなさそうだ。

 そして、臭い。前に、ケビンおじさんが馬糞を投げ込むとか言っていた。まさか、本当にやった人がいるのだろうか。

 

 住民たちは、私たちを見ると道を開けてくれた。

 すると、ヒゲを生やした職人さんが、トムさんはいないのか尋ねてきた。

 先生が答える。


「トム? トムは……あれ?」

「ギルドに残りましたわ」

「だってさ、ごめんね」


 ヒゲを生やした職人さんは、目を丸くして、おろおろとしている。どうやら、エルフと気がついたようだ。エルフの髪や肌の色は人間とは大きく違う。

 そして、貴族の服を着て、騎士隊に囲まれていることから、目の前の人物がアルベーデン辺境伯だと察したようだ。

 周囲の住民も慌てている。

 しかし、先生は軽い口調で、周囲の住人に事情を聞く。

 ヒゲの職人さんが自己紹介して、何故自分たちがここにいるのか、ゆっくりと話し始めた。

 男爵に文句を言いたい人、逃亡を阻止したい人などなど。そんな中、ヒゲの職人さんは暴動が起きないよう見張る為に来た。職人の組合の偉い人みたい。


 事情を聞いている内に、ギルマスとトムさんが合流した。ディーノさんや冒険者たちに、ギルド職員も何人かいる。

 

 さらに、男爵邸の中から、嫡男のシッカーリト氏も出てきた。確か、コンナトキー伯爵と一緒に街を出たはずだ。

 横にいた騎士さんに尋ねる。街の危機を聞きつけて、先生と一緒に戻ってきたそうだ。

 こういう事態なら、跡取りは避難しておくべきだと思ったけれど、貴族はそうもいかないのだろう。ノブレスオブリージュだ。

 

 先生はシッカーリト氏に、男爵夫人に会いに来たから入れて欲しいと言う。シッカーリト氏は領主の父ではなく、母に会うということで困惑している。


 ギルマスが間を取り持とうとするけれど、先生はぐいぐいと中に入って行く。マリアンヌさんも続いて、騎士隊が男爵家の衛兵をブロックする。


「早くこーい!」


 先生が、私に手招きする。本当にいいのか不安なんだけれど。

 フェンフェンは止めるように言っている。

 すると、ヘルミンさんが私の手を引っ張って、半ば強引に入ることになった。


「叔母様はどこですか?」

「……美術室に籠っている」


 シッカーリト氏から居場所を聞き出したヘルミンさんは、私の手をさらに引っ張った。

 男爵邸の中に入る。先生に騎士隊、シッカーリト氏も続く。


 階段を上り、二階に上がる。

 そうすると、痩せた男性が現れた。ヘルミンさんに少し似ている。


「あ、叔父様」


 この人が領主のジマーリ男爵のようだ。

 男爵は先生に挨拶しようとするけれど、先生は拒否する。


「言いたいことは山ほどあるけど、今はそれどころじゃないの」


 ヘルミンさんが先に進む。先生も男爵を避けて、後をついていく。

 手は放してもらったけれど、止まる訳には行かない。私も続くしかない。


「ここですよー♪」


 ドガッ!


 ヘルミンさんがキックでドアを破壊した。 

 中から金切り声がする。

 ヘルミンさんに続いて、先生やマリアンヌさんも突入した。

 物が落ちる音や割れる音がする。戦闘の音とは少し違う。

 今度は先生が戻ってきて、私を呼ぶ。正直、入りたくない気持ちでいっぱいだ。


「ガゥ!」


 フェンフェンも反対する。

 先生が苛立ちながら私の手を引っ張った。

 すると、フェンフェンが私のマントに噛みついて逆方向に引っ張る。


「う、うわ、わわわ」


 痛い。体勢が崩れて、転びそうになる。

 トムさんとギルマスが止めてくれた。


 けれども、先生がプリプリと怒るので、仕方がなく部屋に入ることにする。

 

 私は恐る恐る中を覗いた。

 ヘルミンさんとマリアンヌさんがいる。飛んでくる何かをステッキや盾で弾き落としている。

 投げているのは、カールによく似た太った女性。髪がボサボサで怖い。彼女が男爵夫人のようだ。


「あんたたちが悪いのよーーー!!!」


 支離滅裂なことを大声で叫んでいる。散々、被害に合った身としては、逆ギレもいいとこだ。

 

「どうします? 私が庭に投げ飛ばしましょうか?」

「それ、死んじゃわない?」


 先生は、私にやれと言う。


「倒すんでしょ?」

「いや、え、どうやって!?」


 部屋には物がたくさん置いてある。花瓶、本、美術品などなど。それらを投げてくる。うまく回避して、男爵夫人にアタックしなければいけない。

 急にアクションゲームになった。そういえば、イベントでシューティングやレースなどのミニゲームをクリアすることがあった。そういう感じなのか。

 

 ひ弱な私は一個当たっただけでもアウトだ。集中して、タイミングを見極めるしかない。


「キィィィエエエ!!!」


 男爵夫人がまた叫ぶ。

 怖い。荒ぶる姿が絵本に出てくる魔女のようだ。

 それから、カールにもそっくりだ。化けて出たみたい。


 先生から急かされるけれど、どうすればいいのだろう?

 ふと、何かの拍子に、左側を向いた。理由は判らない。そして、棚に飾ってある大きな青い石が目に留まった。

 ゲームによっては、重要なアイテムの上にカーソルが出ることがある。"クノテベス・サーガ"には、そんな親切な仕様は無かった。けれども、それに似た感覚を感じた。


「先生、あの石は何ですか?」

「石? 大きな石だけど、何だろう?」


 先生は、マリアンヌさんに聞く。


「先に、あっちをどうにかしましょう」


 先に、男爵夫人を倒さないといけない。

 先生が私を急かす。

 フェンフェンが、自分が代わりに倒すと言う。従魔なら、私が倒したとしてカウントされるはず。もう頼むしかない。

 しかし、ギルマスがストップをかける。さすがに、貴族を攻撃するのはまずいようだ。

 すると、男爵とシッカーリト氏が飛び込んできた。男爵夫人にアタックする。


 バコッ! 

 ガッシャァァァン!


 男爵に花瓶が命中した。男爵はその場に倒れた。

 シッカーリト氏は男爵夫人の元に辿り着いた。けれども、苦戦している。

 ギルマスが男爵の所に向かう。

 マリアンヌさんは男爵夫人の所へ行って、シッカーリト氏に加勢する。神官戦士なので、パワーがある。あっさりと男爵夫人を拘束した。




 それから、屋敷の執事や使用人たちが集まってきた。

 男爵と男爵夫人は担架に乗せられて、外へ運び出された。何度も見た光景だ。

 先生は石を調べようと言う。私たちは石の所へ行く。一応、シッカーリト氏と執事にも一緒に来てもらう。

 石は、卵の形をしている。濃い青。うっすら光っているような気がする。

 シッカーリト氏が説明する。


「岩砂糖の採掘場で出土した物と聞いています。"鑑定"のスキルでは普通の石と出ました。しかしながら、母はパワーストーンに違いないと言い、コレクションに加えました」


 先生が鑑定する。


「隠されているけれど、かなり強力な魔法石だ」


 マリアンヌさんと、部下の魔法を専門にしている騎士も石を調べる。

 結果は、採掘場周辺に張られていた結界の"要石"だった。魔力の気配が同じらしい。

 先生が私に教えてくれる。


「当時は"要石"を使った結界が流行っていたんだ」


 騎士は、採掘場の結界の効力がまだ残っていることを話した。


「結界を張り直すには、Bランク以上の魔法使いがいるね。チミリート伯爵領にいるアホを呼んでくれば解決だ」

「スコールなら、暴動を扇動した罪で街を出禁になっているわ」

「何やってんだよ」


 マリアンヌさんが別の提案をする。


「"ワイルドビースト"というパーティがここに来ているの。彼らの中に、王都の魔法学院を出たBランクの魔法使いがいたわ。主席になれなくて、グレて冒険者をしているそうよ」

 

 そんなことで、グレないでほしい。


「じゃ、その冒険者に頼んでみようか」


 シッカーリト氏と執事に了承を貰い、冒険者ギルドに"要石"を運ぶことになった。

 ひとまず、男爵邸のイベントをクリアしたってことでいいのかな?

 カールから続くフラグの正体が、この"要石"だ。スタンピードを止める最重要アイテムである。


「マリーの部隊が入れば十分だっただろ? もっと早くに見つけれいれば、こんな面倒なことにならなかったんだよ」

「領主の家に突撃とか無理ですよ」


 ゲームがリアルになったことで、国の法律という大きな敷居ができてしまった。先生が来なかったら、無理だった。

 でも、ヘルミンさんに頼めば、突撃してくれたかも。彼女を見る。


「いくら私でも、お爺様のお屋敷で暴れたりしませんよ」


 さっき、ドアを蹴り破ってたよね?


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