七十四話 閉じ込められた
街の中は静かだ。
人々は声も出さずに黙々と歩いている。頑丈な建物が解放されて、そこを避難所にするそうだ。
冒険者ギルドの前に着く。
中から若い冒険者が数人出てきて、あちこちに散って行く。伝令だと思う。
私たちは北の大通りを歩く。
すれ違う人の数が多い。北で何かあったようだ。それなら、北側にある屋敷に帰るのは危険かもしれない。
ヘルミンさんの地獄耳によると合同馬車が襲われたらしい。
合同馬車には、街から避難する人が大勢乗っているはず。
護衛の冒険者もいる。ロバートさんたちは今日は休みだろうか? 非常時だから連日で働いていてもおかしくない。
不安が胸をよぎる。
「"ワイバークロウ"が出た様です。Bランクの魔物ですよ。南方のダンジョンにも、イナレート山脈にもいません。どこから来たのでしょう?」
ワイバークロウは、ワイバーンのようなカラスの魔物だ。そして、このゲームにはワイバーンがいない。代わりの魔物ってことだと思う。
まず、ワイバーンはドラゴンともトカゲとも言われるモンスターだ。伝承やゲームによって異なる。コウモリのような羽に、龍かトカゲの体。そして、他のドラゴンとの大きな違いで、前足がないのが特徴だ。
そうして、ワイバークロウはコウモリのような羽を持ったカラスだ。羽には大きな爪がある。頭部には角が跳ねている。足は太くて、爪も鋭い。ほぼドラゴンだ。尻尾だけはカラスのまま。
正直、戦いたくない。私の壁魔法なんて軽く破られる。後ろで演奏するのも命懸けになる。
そんな魔物に襲われたのだ。馬車の人々の安否は絶望的だ。
屋敷に戻ってきた。
留守番の騎士が一人だけだった。
マリアンヌさんの部隊は北門の防衛に行った。トムさんは兵団に呼ばれた。そして、私は屋敷で待機とのこと。
私はおとなしく待機をすることを選択した。
リビングでソファーに座って、詩集を読む。心を落ち着かせる。
フェンフェンは眠った。すぐ起きられるから大丈夫らしい。
ヘルミンさんは眠ると言って、私の肩にもたれかかっている。あなたは防衛に参加しなくていいのかと聞きたい。誰も呼びに来ないから、このままでいいのかな。
しばらくして、マリアンヌさんから連絡があった。南方の天候に異常があるそうだ。南門まで確認に行くので、私も来ないかと聞かれた。
ジッとしていられない気持ちもある。私は行くことにした。フェンフェンとヘルミンさんも行くと言った。
マリアンヌさんの部下の騎士と一緒に大通りに行く。少し待つと、マリアンヌさんたちが来た。兵団も一人いた。
合流して、南門へと向かう。
何人もの兵士や役員、冒険者とすれ違った。
みんな、何をしているのだろう?
私たちの目的を当てられる人はいるのかな?
到着まで時間はある。合同馬車がどうなったのかをマリアンヌさんに尋ねてもいい。ただ犠牲者のことを考えると聞きたくない。
冒険者ギルドの前を通る。色々な人が出たり入ったりしていた。知り合いはいなかった。
それから、カレンの店の前を通った。入口は閉じている。窓は雨戸が閉まっている。警鐘を聞いて、店を閉めたのだと思う。
周りを見ると、どこの家も店もそんな感じだ。
南門に着く。
門は閉められていた。
マリアンヌさんが私も城壁に上がれるように交渉してくれた。すぐに許可が出た。
私とマリアンヌさんとフェンフェンで城壁に上った。ヘルミンさんはあくびをしていたので、門の前のベンチに放置した。
城壁に上がると、南の方で雷雲が見えた。
今まで、私は前世と同じような雷雲しか見た事がない。目の前にあるのは、とにかく不思議な光景だ。
光り方が変だ。紫っぽいようで、カラフル。まるで、ゲーミングPCだ。
見張り台の兵士に事情を聞く。四十年務めているが、こんな雷雲は初めてらしい。
かなりヤバい状況だと思う。しかし、どこかワクワクする。ゲーム脳がアクセル全開になっている。何かが起きるではなく、あそこに行くと訴えている。
マリアンヌさんは冒険者時代に変わった天候に何度も遭遇していた。だからと言って、法則がある訳ではないので、はっきりとしたことは分からないそうだ。
フェンフェンもさっぱりらしい。ただ、悪いことが起きるのは間違いないと言う。
私はゲームのことは隠して、あそこに行かなければいけない気がすると伝える。
マリアンヌさんから、どこか疑いの目で見られた。隠し事はあるけれど、遊びに行きたい訳ではない。
フェンフェンは呆れている。馬鹿は死ななければ治らない、と言いたそうな目をしている。
私ではなく、悪いのはシナリオだよ……。
冒険者ギルドに報告に立ち寄る。
人が集まって話し合いをしていた。冒険者が複数組とギルマスにギルド職員がいた。
ロバートさんのパーティもいた。護衛依頼は受けていなかったようだ。
マリアンヌさんへの話を後ろで聞く。
どうやら、ワイバークロウの所為で通常の手段では連絡が取れないようだ。スカウトやレンジャーがソロで隠密行動をして、チミリート伯爵領に連絡を入れることになった。
志願した一人は、リッカルドのおっさんだ。"不死身のリッカルド"の異名を持つ彼なら平気だと思う。
「ウォン」
フェンフェンが後ろを向くように言う。
後ろを向くと、カリーナがいた。あたふたしている。たぶん、ギルマスたちもカリーナを見ている。
用事があるみたいなので、私は新人グループの所に移動した。ヘルミンさんも眠たそうにしながら一緒に来た。Bランクのあなたは向こうに残らないといけないはず。
新人グループは、よく見ると"始まりの森"に行っている冒険者だ。さらに、刺客の人たちもいた。
これは、いつもなら救助のパターンだ。
話を聞くと、寝坊パーティが戻ってこないそうだ。現在、森への進入も、門の外へ出る事も禁止されている。彼らは自力で帰ってくるしかない。
ちらりとヘルミンさんを見る。
「行くのですか? いいですよ」
軽く返事が返ってくる。
フェンフェンは、マリアンヌさんたちと一緒に行くことを条件に出した。
考えていると、入口から冒険者が入ってきた。寝坊パーティだった。みんなが彼らを呼ぶ。
彼らは警鐘に気か付かなかったらしい。お喋りをしていたとか。北門に着いたら大変な騒ぎになっていて驚いたと言う。
一件落着だ。こういうのでいいんだよ。
寝坊パーティは納品コーナーに向かった。他の冒険者も解散する。
私はカリーナと話す。
「逃げそこなっちゃったよ……」
カリーナは別の街から来た。仲間の入院費を稼いでいる内に、異変に巻き込まれてしまった。
カリーナが私に北方の村の話を尋ねた。屋敷と南門にいたので、殆ど情報を知らない。
カリーナの知っている範囲では、まだ村は襲われていないらしい。何かあれば、狼煙を上げる手はずになっている。
これからスカウトやレンジャーの人たちが偵察と連絡に向かう。
私たちには、村に行ったモーガンやロレッタたちの無事を祈ることしかできない。
屋敷に戻る。
道中で、マリアンヌさんから話を聞く。
魔物は、チミリート伯爵領に向かう街道に出現している。そこを通らなければ、襲われることはないようだ。村はおそらく無事とのこと。
ゲームのイベントを参考にするなら、今回の事件はプレイヤーを街に閉じ込める為に発生した。解除するには、何らかのクエストを攻略するしかない。
それで、私が南方に行って何をするのか、全く心当たりがない。
ワイバークロウなど、強力な魔物が次々と出てくる。そろそろ、Aランクの魔物が現れてもおかしくない。
私には、もう打つ手がない。
屋敷に戻ると、私は昼食の準備を手伝った。
一応、私は先生の屋敷の使用人でもある。現在は休職中。食事当番や掃除、洗濯に励むのもいいかもしれない。
皿洗いしながら、まったりする。
すると、騎士さんに呼ばれた。先生が街に来たらしい。
耳を疑う。街道には魔物がいるはず。しかし、よく考えれば、先生なら倒せる。
それなら、何で今頃になって、ここに来たのだろう。
騎士さんは私にすぐに支度をするように言う。
「支度とは……どこへ行くの?」
何が始まるの?




