七十一話 ヘンテコでチート
「お腹一杯です。ひと眠りしましょう」
「やめて」
寝袋を取り出して横になろうとしたヘルミンさんを止める。
「もうダンジョンの中で寝るのはカールだけで十分だって」
「ここは魔物が来ないから安全ですよ」
「それでも駄目。採取に戻るよ」
嫌がるヘルミンさんの手を引っ張り、私たちは隠れ家を後にした。
ほこらのマップを一周して、最初のマップに戻ってきた。
ヘルミンさんは眠そうだ。それでも、Dランクの難易度のダンジョンは余裕みたい。結局、私は一度も戦闘をしなかった。
一方のフェンフェンは息が上がっている。抱き上げようとしたら、後ろ足で蹴られた。むかつく。
森の入り口に戻った。
周りをキョロキョロと見る。誰もいない。一緒に来た冒険者は無事かな。
救助は?
寝ているカールは?
「どうかしましたか?」
「何事も無いのが……おかしい」
「むぅ、重症ですね」
「ほぼ毎日のように救助したり……カールが現れたりと……終わったのかな? 今にもイビキが聴こえてきそう」
「ゴーストになってダンジョンを彷徨う人もよくいますね」
よくはいないと思うけれど……。
冒険者の行く手を阻む巨大熟睡ゴースト。大イビキ付き。道を通るのには、専用のアイテムを入手して、起こして戦って倒す。
「カール君なら、食べ物の匂いで起きると思いますよ?」
「遭遇自体が嫌だなぁ……」
「今更、冒険者になりたかったのかも怪しいですし。ゴースト化しても、この森やサンドラさんの前には出てこないと思いますよ」
「……だといいな」
「勇者なら、ゴーストにも触れられるのですか?」
「こんな所で、勇者とか口に出さないで……」
「誰もいませんよ?」
「いつ口を滑らせるか怖いんだけど……」
「うーん、別に勇者もそこまで珍しい物では無いでしょう? 三十年くらいの周期で出てきますし。サンドラさんなら、もっと奇想天外な職だと思ってました」
「例えば?」
「異世界から転生してきたとか?」
当たってる。
何で?
「異世界って、どこですか?」
「はてさて、とんでもなくヘンテコな世界だと思います」
私の事を何だと思ってるの?
そもそもヘンテコでチートなのは、そっちでしょ?
北門に着く。
門兵さんから話を聞く。今の所、ケガ人は出ていないらしい。キャベツ帯とカエル岩の冒険者たちは、二回目の採取に行ったそうだ。
話をしていると、入口組が戻ってきた。こちらは三度目だ。
みんな、順調そうだ。良かった。
ギルドに戻ってきた。
今日も酒場で兵団が食事をしていた。
入口の近くにいた何人かの冒険者と話した。今日も異常はないそうだ。
冒険者の一人から、ロバートさんを見なかったかと聞かれた。
ロバートさんたちは、昨日の合同馬車の護衛をしていた。今はチミリート伯爵領にいる。午後からの合同馬車を護衛して、ジマーリ男爵領に戻ってくると言っていた。
それから、合同馬車の話を教えて貰う。今の所、道中に異常はない。兵団も見回りもしているので、滅多に魔物は出ないそうだ。確か、ここに来るときも魔物には遭遇しなかった。
そして、護衛は良い宿に泊めてもらえる。この時期はダンジョンで大きなロブスターが採取される。美味しい名物料理がたくさん出る。
帰りに食べて帰るのもいいかもしれない。ヘルミンさんが美味しい店を知っていると言う。ついてくるの?
冒険者と別れて、納品コーナーに向かう。
前と同じく、馬車三台分を採取した……はずが、倍の六台分になっていた。うっかりである。
担当の職員さんも苦笑いしている。
すると、後ろから声をかけたられた。上等な衣装の人物。北区の区長さんだった。
彼は、私にアイテム袋を貸して欲しいと言う。予想外の頼みだ。
街の為だと迫られる。それでも、他人に渡す訳には行かない。この中には、東京ドーム二杯分の酒とつまみが入っている。そもそも、こんな危険なものを私に預けないでほしい。魔石とかも一杯入っていて、色々と助かってるけれども……。
「しつこいですね……それ!」
ヘルミンさんが区長を入口まで投げ飛ばした。
まるで異世界転生者みたいな真似をして、よく人のことが言えたものだ。
ギルド中で、ざわめきが起こる。いつの間にか、注目されていたみたい。さっきの馬車六台分の納品も見られていたかもしれない。
人が集まってきて、ヘルミンさんは皆から怒られていた。
事態が収まって、ステラさんの所へ行く。依頼を報告する。
この後の予定を聞かれた。私は屋敷に帰るつもりだ。トムさんから、コンナトキー伯爵が手配した援軍が街に到着する前に帰ってくるように言われている。
ヘルミンさんは、屋敷で私に大道芸を見せるそうだ。ステラさんのことも誘っている。
詳しく話を聞くと、一昨日の戦闘で"遊びポイント"の残量が厳しいらしい。致命的な問題だと思うのだけど、そういう事は早く教えて欲しい。
現場で貯めるよりも、事前に貯めておく方が良い。私は付き合うしかない。ステラさんは仕事があるので無理だそうだ。
私は街中で披露することを提案する。観客が多い方が貯まるのも速い。けれども、知り合いが大勢いるので恥ずかしいから嫌だそうだ。その気持ちは分かる。
やるなら、せめて子供だけの会場がいいそうだ。区長を投げ飛ばしたばかりなのに、行政に子供を集めてくれとは言い難い。
すると、また誰かが話しかけてきた。いつぞやの強欲シスターだ。
何でも、孤児院の子供たちが退屈しているそうだ。建物の中なら、他の大人の目も無いと言う。
講演料はタダだ。強欲シスターは大喜びしている。
ヘルミンさんは、素人が二人いるのでお金は取れないと言う。二人とは、私とフェンフェンのことのようだ。
「ガゥ?」
いつの間にか、私たちも参加することになった。




