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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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七十話 妖精の隠れ家


 北門をくぐり、森の入口へ行く。

 暴ウルフの出迎えもなかった。みんな、安堵の表情を浮かべている。

 入口組は採取の準備を始める。

 私たちは北北西の"風の神のほこら"へ。刺客と寝坊パーティは西北西の"キャベツ帯"へ。他の冒険者は北西の"カエル岩"に行く。

 彼らと別れて、私たちは森の奥へ進んだ。




 何事もない。不安なくらい。


「サンドラさん、失礼なことを考えていますね? 毎度のごとく、不幸が起きる訳ないでしょう?」

「もう限界寸前なの。未だにカールの死も受け入れていないのだから……」

「えぇ、趣味が悪いにも程があります……」

「どんな勘違いしてるの?」


 間違っても、あんな奴に惚れたりするものか。

 魔物も少ないので、ナディアとエンマのことを話す。


「冒険者を辞める? 勿体ない。もう、カール君が早く死なないからですね」


 思っても、口に出すのは良くない。注意しておく。


「物事がどんどん先に進んで行く。ルーシーたちもナディアたちも知り合って、すぐに別れてる。目まぐるしく変わり過ぎなの」

「私がいますよー」


 ヘルミンさんは両方の人差し指で自信を指して、可愛いポーズを取る。見ているとイライラする。


「フェンリル君もいますね」

「……ゥォン」

「王都に帰りたいって……」


 実はホームシックなの?


「ガゥ!」

「私の事は下僕として連れて行ってやる? あっ、そう……」


 そんなことを言うなら、同情はしないよ。


「勇者なら、王都の一等地に住めますよ」

「その話は止めてください。勇者になる気はないです」


 一番不安なのは、ヘルミンさんだ。絶対に知られてはいけない相手だった。


「むー、口は堅い方です。それに、折角の当たり職なのに黙ってるなんて勿体ないですよ」

「この街に来て、バレたら大変なことになると身に染みて理解した。次からは気をつける。自由な冒険のために」

「無駄だと思いますよ?」


 真顔で見つめられた。先生といい、私はそんなに迂闊ではない。


「とにかく、今日は純粋に冒険がしたいの。目標は"妖精の隠れ家"!」


 来る途中に、刺客の人たちから情報を貰った。ほこらマップにも隠しエリアがあるらしい。

 刺客の人たちは、私が知らなかったことに驚いていた。六百年前まで、そこにエルフが住んでいたという伝承があるそうだ。

 先生の事だから、あえて教えなかったのだろう。理由は、冒険の楽しみを奪わない為。そして、私の実力を測るための試験だ。情報収集は冒険者の基本中の基本。できるかどうか、試しているのだ。

 それを聞いた刺客の人たちは納得した。どうやら、進入する為に街か村でクエストをクリアする必要があるようだ。間違いなく、先生は知っていて黙ったいた。


 それから、古いエルフの伝承を聞いた。

 エルフがいた頃のはじまりの森には、魔物が少なかった。虫やネズミの魔物はいなかったらしい。

 ほこらのマップは今よりも明るかった。そして、"ヴィントミューレの花"がたくさん生えていた。紙の風車のような花びらで、形はランダムで豊富な種類がある。

 当時は、村から採取に行く者が大勢いたそうだ。エルフに会うと、気さくに話していた。


 それが、ジマーリ男爵領ができて状況が変わった。次々と余所者が移住してきた。

 そして、約束を破りエルフの住処に侵入する者が現れた。普段、エルフたちは仮面をつけて注意を払いながら村人と接触していた。しかし、無礼な侵入者相手に遠慮はいらないと、積極的にチャームで惑わせた。

 街の行政や住人は、それを自分たちへの攻撃だと言った。さらに、ダンジョンを自分たちの所有物であると主張し、エルフたちに立ち退きを命じた。

 村からも反対の声が上がり、街と揉めた。

 とうとう、街が兵団を出すと言い出した。

 大きな戦争に発展することを避けるため、エルフたちは始まりの森を去ることにした。

 最後に、エルフたちは村を訪れた。エルフたちは自分たちの住処に封印を仕掛けたと言った。ある条件を満たさないと入れない。そして、村の住人にだけ進入方法を教えた。採取の休憩に使うように言い残した。


 月日が経ち、その場所は"妖精の隠れ家"と呼ばれるようになった。

 

「まずは、仕掛けを探そう。後は、自力で解く!」

「ガゥ!」

「仕掛けならもう無いですよ」

「えっ!?」

「粗暴な人たちが面倒だからと壊しちゃいました」

「ええっ!?」


 利用者を減らす為に、まだ仕掛けがあることになっているらしい。

 

「そうしたら、隠れ家がマップの中をランダムにワープするようになりました。休憩しようにも、どこにあるのか分からないのは不便ですよね」

「ダメダメじゃないですか……」

「ご先祖様のやらかしなので、耳が痛いです」


 


 風の神のほこらマップに到着した。

 暗くて、ねっとりした雰囲気の場所だ。

 前回は適当に歩いた。今回は隠しエリアを探す目的があるので、地図を作成する。


 ゴブリンや巨大ネズミが出てきた。ヘルミンさんとフェンフェンが次々と倒していく。フェンフェンはムキになっていて、ヘルミンさんは遊んでいるようだ。二人の隙を突いて、虫系の魔物が飛び出してくるかもしれない。私は防御コマンドをスタンバイして、周りを警戒する。


 順調に進んで行く。

 私は落ちているアイテムを拾う担当だ。ヘルミンさんは手伝う気はないみたい。狼の従魔がいる所為か、虫系の魔物が少ない。手は空いているのに、呑気にジャグリングしている。

 地図も私が書いている。サポーターだと思って頑張ろう。


 


 森の奥に行く。

 しばらくの間、冒険者が来ていないので収集品が多い。ゲームではダンジョンの外に出るとリセットされていた。この世界だと、三日や一週間くらいの感覚で沸く場合もある。


「飽きました。南方のダンジョンに行きましょう」


 ヘルミンさんが愚痴る。


「拾うの手伝ってよ……」


 虚無の作業だ。魔物の警戒もしているので、倍の速さで神経が削られていく。


「面倒です……」

「街の為だよね?」

「さすがに、非常用のストックがあると思いますよ?」

「流通を止めない為だと聞いたよ。実家のニンブル商会は配達の仕事もあるんだよね。その人たちの仕事をなくさないように採取するの」

「そうでした。サンドラさん、頑張ってください」


 結局、手伝わないんだ。この中で私が一番ランクが低い。下働きもやむを得ない。

 すると、フェンフェンが吠えた。


「ウォン!」


 ここだ、と言っている。大きな木がある。私の"魔力探知"には何の反応もない。


「そうそう、木の中に入るのです」


 ヘルミンさんが木に向かって手を伸ばす。硬そうな幹の部分が水面のように揺れて、手が吸い込まれた。


「当たりですよー」

「ウオオン!」


 得意げなフェンフェン。ご褒美にもふもふしようとしたら逃げられた。私にはもふらせないつもりだ。


「先に行きますよ」


 ヘルミンさんが中に入って行く。

 私は続いて、恐る恐る手を伸ばす。手が幹の中に入っていく。特に感触はない。

 中に入ると、緑の道があった。植物が重なって、トンネルようになっている。前世の植物園で見たことがある。支柱などは入っていない。

 後ろを振り向くと、外が見えた。こちらからは隠さないようだ。

 フェンフェンが入ってきて、早く進めと怒られた。

 私はトンネルを進む。


 到着。

 自然豊かなカフェのような場所だ。

 外とは違って、緑の綺麗な植物が生えている。さらに、ヴィントミューレの花がアクセントになっていて、ポップな雰囲気だ。

 花は折り紙で作った風車のようだ。花弁が四枚から十六枚くらいまで、色も種類も豊富だ。

 さらに、木造の古いバルコニーがあった。土台が見えるので、かつては家も存在したみたい。

 そして、木のテーブルの上に宝箱があった。


「お宝の雰囲気とは違いますね」

「もう少し、ひっそり出現して欲しいかな」


 宝箱は嬉しい。けれども、ゆっくりと自然のアートを楽しみたかった。

 一応、開ける。スカウト七つ道具を使う。罠も無ければ、鍵も閉まっていなかった。


 ピロリロリンリン♪


 "防護の髪飾り ヴィントミューレの花ver."


 チャッキーン♪


 音はゲームのものを脳内再生した。

 防護の髪飾りは頭部への攻撃をバリアで防いでくれる魔道具だ。この髪飾りの使用回数は、一回だけ。Cランクの冒険者の装備だ。

 花の形は、ミントグリーンの四枚羽の紙風車。掌くらいの大きさだ。


「このダンジョンでは、大当たりですよー」

「ウオン!」

「久々に良いことがあったね。頭部への攻撃か……。あ、昨日、受けたよ……」

 

 昨日、髪を引っ張られたことを思い出した。ちょっとタイミングが悪い。


「次は大丈夫ですね。さぁ、おやつにしましょう!」


 私たちは緑あふれるカフェを満喫した。

 それから、ヴィントミューレの花をいくつか採取した。この花もギルドで納品できるらしい。北方の村に育てている花農家があるので値段は高くない。


 そして、この髪飾りは私が装備することになった。左側に装着する。

 似合うかどうかはさておき、防御力が上がった。

 ようやく、真っ当に冒険できた気がする。残りの採取も頑張ろう。


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