七十話 妖精の隠れ家
北門をくぐり、森の入口へ行く。
暴ウルフの出迎えもなかった。みんな、安堵の表情を浮かべている。
入口組は採取の準備を始める。
私たちは北北西の"風の神のほこら"へ。刺客と寝坊パーティは西北西の"キャベツ帯"へ。他の冒険者は北西の"カエル岩"に行く。
彼らと別れて、私たちは森の奥へ進んだ。
何事もない。不安なくらい。
「サンドラさん、失礼なことを考えていますね? 毎度のごとく、不幸が起きる訳ないでしょう?」
「もう限界寸前なの。未だにカールの死も受け入れていないのだから……」
「えぇ、趣味が悪いにも程があります……」
「どんな勘違いしてるの?」
間違っても、あんな奴に惚れたりするものか。
魔物も少ないので、ナディアとエンマのことを話す。
「冒険者を辞める? 勿体ない。もう、カール君が早く死なないからですね」
思っても、口に出すのは良くない。注意しておく。
「物事がどんどん先に進んで行く。ルーシーたちもナディアたちも知り合って、すぐに別れてる。目まぐるしく変わり過ぎなの」
「私がいますよー」
ヘルミンさんは両方の人差し指で自信を指して、可愛いポーズを取る。見ているとイライラする。
「フェンリル君もいますね」
「……ゥォン」
「王都に帰りたいって……」
実はホームシックなの?
「ガゥ!」
「私の事は下僕として連れて行ってやる? あっ、そう……」
そんなことを言うなら、同情はしないよ。
「勇者なら、王都の一等地に住めますよ」
「その話は止めてください。勇者になる気はないです」
一番不安なのは、ヘルミンさんだ。絶対に知られてはいけない相手だった。
「むー、口は堅い方です。それに、折角の当たり職なのに黙ってるなんて勿体ないですよ」
「この街に来て、バレたら大変なことになると身に染みて理解した。次からは気をつける。自由な冒険のために」
「無駄だと思いますよ?」
真顔で見つめられた。先生といい、私はそんなに迂闊ではない。
「とにかく、今日は純粋に冒険がしたいの。目標は"妖精の隠れ家"!」
来る途中に、刺客の人たちから情報を貰った。ほこらマップにも隠しエリアがあるらしい。
刺客の人たちは、私が知らなかったことに驚いていた。六百年前まで、そこにエルフが住んでいたという伝承があるそうだ。
先生の事だから、あえて教えなかったのだろう。理由は、冒険の楽しみを奪わない為。そして、私の実力を測るための試験だ。情報収集は冒険者の基本中の基本。できるかどうか、試しているのだ。
それを聞いた刺客の人たちは納得した。どうやら、進入する為に街か村でクエストをクリアする必要があるようだ。間違いなく、先生は知っていて黙ったいた。
それから、古いエルフの伝承を聞いた。
エルフがいた頃のはじまりの森には、魔物が少なかった。虫やネズミの魔物はいなかったらしい。
ほこらのマップは今よりも明るかった。そして、"ヴィントミューレの花"がたくさん生えていた。紙の風車のような花びらで、形はランダムで豊富な種類がある。
当時は、村から採取に行く者が大勢いたそうだ。エルフに会うと、気さくに話していた。
それが、ジマーリ男爵領ができて状況が変わった。次々と余所者が移住してきた。
そして、約束を破りエルフの住処に侵入する者が現れた。普段、エルフたちは仮面をつけて注意を払いながら村人と接触していた。しかし、無礼な侵入者相手に遠慮はいらないと、積極的にチャームで惑わせた。
街の行政や住人は、それを自分たちへの攻撃だと言った。さらに、ダンジョンを自分たちの所有物であると主張し、エルフたちに立ち退きを命じた。
村からも反対の声が上がり、街と揉めた。
とうとう、街が兵団を出すと言い出した。
大きな戦争に発展することを避けるため、エルフたちは始まりの森を去ることにした。
最後に、エルフたちは村を訪れた。エルフたちは自分たちの住処に封印を仕掛けたと言った。ある条件を満たさないと入れない。そして、村の住人にだけ進入方法を教えた。採取の休憩に使うように言い残した。
月日が経ち、その場所は"妖精の隠れ家"と呼ばれるようになった。
「まずは、仕掛けを探そう。後は、自力で解く!」
「ガゥ!」
「仕掛けならもう無いですよ」
「えっ!?」
「粗暴な人たちが面倒だからと壊しちゃいました」
「ええっ!?」
利用者を減らす為に、まだ仕掛けがあることになっているらしい。
「そうしたら、隠れ家がマップの中をランダムにワープするようになりました。休憩しようにも、どこにあるのか分からないのは不便ですよね」
「ダメダメじゃないですか……」
「ご先祖様のやらかしなので、耳が痛いです」
風の神のほこらマップに到着した。
暗くて、ねっとりした雰囲気の場所だ。
前回は適当に歩いた。今回は隠しエリアを探す目的があるので、地図を作成する。
ゴブリンや巨大ネズミが出てきた。ヘルミンさんとフェンフェンが次々と倒していく。フェンフェンはムキになっていて、ヘルミンさんは遊んでいるようだ。二人の隙を突いて、虫系の魔物が飛び出してくるかもしれない。私は防御コマンドをスタンバイして、周りを警戒する。
順調に進んで行く。
私は落ちているアイテムを拾う担当だ。ヘルミンさんは手伝う気はないみたい。狼の従魔がいる所為か、虫系の魔物が少ない。手は空いているのに、呑気にジャグリングしている。
地図も私が書いている。サポーターだと思って頑張ろう。
森の奥に行く。
しばらくの間、冒険者が来ていないので収集品が多い。ゲームではダンジョンの外に出るとリセットされていた。この世界だと、三日や一週間くらいの感覚で沸く場合もある。
「飽きました。南方のダンジョンに行きましょう」
ヘルミンさんが愚痴る。
「拾うの手伝ってよ……」
虚無の作業だ。魔物の警戒もしているので、倍の速さで神経が削られていく。
「面倒です……」
「街の為だよね?」
「さすがに、非常用のストックがあると思いますよ?」
「流通を止めない為だと聞いたよ。実家のニンブル商会は配達の仕事もあるんだよね。その人たちの仕事をなくさないように採取するの」
「そうでした。サンドラさん、頑張ってください」
結局、手伝わないんだ。この中で私が一番ランクが低い。下働きもやむを得ない。
すると、フェンフェンが吠えた。
「ウォン!」
ここだ、と言っている。大きな木がある。私の"魔力探知"には何の反応もない。
「そうそう、木の中に入るのです」
ヘルミンさんが木に向かって手を伸ばす。硬そうな幹の部分が水面のように揺れて、手が吸い込まれた。
「当たりですよー」
「ウオオン!」
得意げなフェンフェン。ご褒美にもふもふしようとしたら逃げられた。私にはもふらせないつもりだ。
「先に行きますよ」
ヘルミンさんが中に入って行く。
私は続いて、恐る恐る手を伸ばす。手が幹の中に入っていく。特に感触はない。
中に入ると、緑の道があった。植物が重なって、トンネルようになっている。前世の植物園で見たことがある。支柱などは入っていない。
後ろを振り向くと、外が見えた。こちらからは隠さないようだ。
フェンフェンが入ってきて、早く進めと怒られた。
私はトンネルを進む。
到着。
自然豊かなカフェのような場所だ。
外とは違って、緑の綺麗な植物が生えている。さらに、ヴィントミューレの花がアクセントになっていて、ポップな雰囲気だ。
花は折り紙で作った風車のようだ。花弁が四枚から十六枚くらいまで、色も種類も豊富だ。
さらに、木造の古いバルコニーがあった。土台が見えるので、かつては家も存在したみたい。
そして、木のテーブルの上に宝箱があった。
「お宝の雰囲気とは違いますね」
「もう少し、ひっそり出現して欲しいかな」
宝箱は嬉しい。けれども、ゆっくりと自然のアートを楽しみたかった。
一応、開ける。スカウト七つ道具を使う。罠も無ければ、鍵も閉まっていなかった。
ピロリロリンリン♪
"防護の髪飾り ヴィントミューレの花ver."
チャッキーン♪
音はゲームのものを脳内再生した。
防護の髪飾りは頭部への攻撃をバリアで防いでくれる魔道具だ。この髪飾りの使用回数は、一回だけ。Cランクの冒険者の装備だ。
花の形は、ミントグリーンの四枚羽の紙風車。掌くらいの大きさだ。
「このダンジョンでは、大当たりですよー」
「ウオン!」
「久々に良いことがあったね。頭部への攻撃か……。あ、昨日、受けたよ……」
昨日、髪を引っ張られたことを思い出した。ちょっとタイミングが悪い。
「次は大丈夫ですね。さぁ、おやつにしましょう!」
私たちは緑あふれるカフェを満喫した。
それから、ヴィントミューレの花をいくつか採取した。この花もギルドで納品できるらしい。北方の村に育てている花農家があるので値段は高くない。
そして、この髪飾りは私が装備することになった。左側に装着する。
似合うかどうかはさておき、防御力が上がった。
ようやく、真っ当に冒険できた気がする。残りの採取も頑張ろう。




