六十九話 ピザ回し
着替えて、テントの外に出る。夜番の騎士が湯を沸かしていた。挨拶をする。私はテーブルの準備をすることにした。
皿と食器が並べ終わると、フェンフェンがテントから出てきた。
「ウォン!」
今日も冒険に行くぞと言っている。
「どこ行くの? キャベツ帯の隠しエリアでいい?」
「ウ……ゥォン?」
微妙な反応だ。
もう少し骨のある所がいいそうだ。ほこらのマップにペアで行くことなった。
フェンフェンは、昨日の夜にヘルミンさんが屋敷に来たことを知っていた。バレずに置いて行くことを提案された。一緒にいると逆に危ないそうだ。
私は、それでもいい。ヘルミンさんは街の防衛の仕事をするべきだ。
他の騎士たちもテントから出てきた。
トムさんはダルそうだ。挨拶する。食事の後に、私に報告があるそうだ。
いつの間にか、ヘルミンさんもいた。私の横の席に座る。何故かフェンフェンを抱いている。フェンフェンも抵抗しているけれど、ヘルミンさんの方がSTRが上のようだ。
マリアンヌさんがヘルミンさんの横に座り、監視するような目を向けていた。
騎士がアイテム袋から料理を出して並べていく。
キャベツとソーセージが目立つ。キャベツ帯に行くフラグかな。
ヘルミンさんは料理を頂いたお店を知っていた。トムさんが、そこのお店は一家でチミリート伯爵領に避難することになったと教えてくれた。
「皆さん、続々と街を離れて行きますね」
連日の魔物の襲撃を受けて、住人の疎開が活発になっていた。
「そういえば、昨日は魔物の襲撃はありましたか?」
どうやら、一匹も現れなかったようだ。
採掘場から撤退したことで、異常事態が止まったという声もある。
しかし、ヘルミンさんが余計なことを言う。
「嵐の前の静けさですよ~」
「縁起が悪いので止めて下さい」
「サンドラさんは毎日エキサイトしてますよ?」
「望んでないです……」
マリアンヌさんから怒りの波動を感じる。しかし、ヘルミンさんは気にせず料理を取っている。遠慮がない。お客さんのはずなのに。
全員が座り、食事が始まった。
私はコールスローが気に入った。やはり、今日はキャベツ帯へ行こう。
フェンフェンはヘルミンさんから食べさせてもらっていた。自分で食べれると目で訴えてくる。ヘルミンさんに下ろすように言ったけれども、もふもふが気に入ったみたいで離してくれない。
食後、屋敷の中で、トムさんから報告を受けた。
まず、カールの件。
私に罪が及ぶことは無かった。平時まで、彼を守る義務はない。
ただ、男爵夫人が錯乱気味になっているので、注意はして欲しいとのこと。何それ、怖い。
ジマーリ男爵とコンナトキー伯爵から、指名依頼の終了とお礼の言葉をもらった。
次に、レイトたち。
男爵から、街の治安の悪さを詫びる言葉をもらった。社交辞令だと思う。
そして、レイトたちは逮捕され、厳重に罰せられることになるそうだ。
「貴族の面子もあるからね。領主に、上位貴族が二人も絡むとなると、きつい刑になると思うよ」
私は先生ことアルベーデン辺境伯の弟子だ。コンナトキー伯爵の指名依頼を受けて、この街の領主であるジマーリ男爵の次男と行動を共にしていた。そこを妨害したのだ。今生の私には、スケールの大きい話だ。
彼らは狭い街の中で増長して、誤った情報により相手を間違えた。
「あと、従魔のフェンリル君のこともある」
狂暴化すると言われて、フェンフェンは王都から追い出された。だから、今回のことを自衛の為であったと明確にしておく必要がある。
王都のギルマスからここのギルマスへ、フェンフェンをよろしく頼むとの連絡も来ていたそうだ。
それから、今回のような事態では、積極的に壁魔法を使うように言われた。先生が責任を持つので、建物を壊して構わないそうだ。
昨日は、私も警戒心が足りなかった。ナディアたちから離れて、壁魔法使えば、あんな大事にはならなかったかもしれない。
ただ、咄嗟に動けなかった。こればかりは経験を積んで度胸を身につけるしかない。
それから、"無限観音像"のこと。
昨日はそれどころではなかったので、今日改めて確認するそうだ。
このイベント、まだ続くの?
この街の人間同士の争いパートのラスボスなの?
最後に、先生の事。
私のギブアップは手紙で伝えたそうだ。男爵夫人と戦うことも、妙な直感が働いていると曖昧に書いたらしい。
そして、明日、チミリート伯爵領で付近の領主を集めて会議を開くことになった。先生は出席する為に、チミリート伯爵領に向かう。ここに来るかどうかは未定。
他にも、領主自らが参加する所があるらしい。昨日のゴブリンの大群は、それだけの異常事態ということだ。
もしもの時、トムさんとマリアンヌさんは、私を連れて街から脱出することになっている。騒ぎが大きくなったら、すぐに屋敷に戻るように言われた。先生の指示らしい。必ず従うように念を押された。
街のみんなが心配だけれど、自分の命も大事だ。弟子なら指示に従わないといけない。これは先生なりの助け舟なのかもしれない。
報告が終わり、今日の予定を聞かれた。
キャベツ帯の隠しエリアを探すか、ほこらのマップに行くかだ。昨日のゴブリンアーチャーのこともあるので、ギルドで情報を集めると答えた。
それから、トムさんは夕方になる前に屋敷に戻ってくるように言った。
合同馬車と一緒に、コンナトキー伯爵の手配した兵士と冒険者が到着する。数は百人くらい。混乱が起きるかもれない。安全な所で待機した方がいい。
あと、ヘルミンさんも一緒に連れてくるように言われた。トムさんも彼女を危険人物だと認識したようだ。
すっかり珍獣の世話係になってしまった。
屋敷を出て、冒険者ギルトへと向かう。
フェンフェンとヘルミンさん、トムさんの三人と一匹。
トムさんはギルマスに会う。それから、男爵家でまた会議だ。いつの間にか、トムさんはオブザーバーのポジになっていた。
ギルドに着く。
憂鬱だけど中に入る。今日はもう何もないだろうと思ったら、そこにいたのは昨日のスキンヘッドだ。
「うぇっ!?」
変な声が出た。
他にも仲間がいる。昨日の連中だろうか。顔はよく覚えていない。打って変わって、おどおどしている。
「あっ、いや、その……」
受付嬢だったヘルミンさんは、彼らのことを覚えているようだ。
「あー、仕返しに来ましたか? それっ!」
ヘルミンさんは巨漢のスキンヘッドを軽々と持ち上げた。
「うわああああ!?」
「てやっ!」
仰向けにして、人差し指でクルクルと回し始めた。まるで、ピザ回し。とんでもない怪力だ。
「あああああ!?」
「ひええええ!?」
他の仲間も怯えている。
「一人ずつ順番ですよー」
アトラクションのように笑顔を振りまくヘルミンさん。怖いけど、今日は頼もしい。
トムさんが止めようとしている。ベテランの冒険者に、ステラさんにギルマスも出てきた。
事情を聞く。
彼らは昨日の騒動で暴れる前に降参した人たち。五人くらい逃げて行ったのは知っていた。それから、スキンヘッドの彼と仲間の二人が降参した。
この八人は逮捕はされなかった。一応の罰として、兵団の元で奉仕活動を行うことになった。
そして、ギルドで手続きをして、出発の直前に私たちとばったり会ってしまった。
「かまわねぇ、やったれ! やったれ!」
この声はアッシュさん。逆恨みされると困るので、煽らないでほしい。
ひとまず、勘違いという事で収まった。八人のガラの悪い冒険者は、言い返すことも無く、昨日のことを謝罪してギルドを出て行った。素直過ぎて、怖いくらいだ。
「むー、私個人としては叱り足りませよ」
ヘルミンさんはお説教のつもりだったようだ。
ギルマスはどう叱りつけていいのか、頭を抱えている。目にクマもある。大変そうだ。
ステラさんが場の雰囲気を変えようと私に今日の予定を聞いた。ギルドとしては、ほこらのマップに行って欲しいそうだ。薬草中心に採取してくれると助かるとのこと。
ヘルミンさんは採取とか面倒だとゴネて、ステラさんに頭をグリグリされていた。
フェンフェンは、ほこらのマップに行きたいみたい。キャベツ帯の隠しエリアも気になるけれど、街の役に立つことをしよう。ほこらのマップに決定した。
受付に行こうとしたけれど、ナディアたちが気になった。確か、パーティを組んだままだった。ステラさんに事情を説明して、後にしてもらった。
探すと、私服のナディアとエンマがいた。
二人は親と相談して、兵団の臨時募集を受けることになった。驚いたけれど、二人の真剣な顔を見ると何も言えない。
「とうとう年貢の納め時かな。あいつらも死んだし、辞める機会ではあるんだよね」
ナディアはパーティメンバーを失った。そして、カールの死で、ひとつの冒険が終わった。昨日の涙を覚えている。仲間やヒューゴたちの死に、意味はあったのだろうか?
私は、もっと早く事件が起きていればと考えた。ダンジョンに居眠りしたときに放置するべきだった。濁った感情が込み上げてくる。
「十時から面接よ。内緒だけど、兵団関係者の家から優先して採用するんだって。たぶん、受かるわ」
非常時だし、そういう感じになるのは仕方がないかな。
エンマも似たような心境だった。マリアンヌさんがいなければ、ゴブリンアーチャーの一撃で死んでいた。
エンマの仲間も兵士の家系らしく、おそらく受かるそうだ。
「それでね。噂で聞いたんだけど……マリアンヌ様が王様の双子の姉君だって。本当なの?」
一瞬、戸惑った。噂になっている。出所はどこだ。昨日の冒険者以外にも、知っている人がいたのかも。それか、男爵家。
私は顔が似ているだけと否定する。迷宮騒動のときに、王家の権威を失墜させる為に流された噂だから、なるべく口にしないように伝えた。
「ヤバいやつ?」
「不敬罪になると思う……」
「……むむ、みんなにも言っておくよ」
みんな言ってるの……。
私の方はどうなったのか。ナディアは昨日、ケビンおじさんが奥さんと大喧嘩した話をした。
「おばさんは、苦しいのなら自分に話せと言ったのよ。おばさんもお酒が入ると口が軽いから危ないの。それで、ケビンおじさんは最後まで黙秘したそうよ」
怖い話だ。頑張れ、ケビンおじさん。
それから、モーガンやロレッタが来た。彼女たちは故郷の村の応援に行くらしい。兵士が足りず、手が回らない。そうなると、冒険者の出番だ。
昨日、大怪我をしたウィルも参加するそうだ。立て込んでいたので医務室を追い出された。高品質のポーションを特別にもらったので、ケガはほぼ治ったみたい。
モーガンたちはしばらくの間、中央の村に滞在することになる。気ままに冒険できないのが残念みたい。
そういう私は、カールから解放されて自由の身だ。
いや、違った。
先生から珍獣の世話を押し付けられていた。
フェンフェンはエンマに抱っこされている。ぬいぐるみ扱いが嫌そうだ。
すると、ヘルミンさんが来た。
「よくわからないけれど、怒られました」
「そう……」
何も言えない……。
ナディアとエンマはもう帰ると言う。私に会いに来ただけみたい。これから面接の準備らしい。
モーガンとロレッタも、待機しているグループに戻った。
みんなとの別れ際、何故かフェンフェンに私を守るように頼んでいた。フェンフェンは得意げに返事をしていた。
受付に行く。ステラさんの所に行けば、依頼書は持ってこなくていいと言われた。
そして、私のパーティからナディアとカリーナの登録が消された。カリーナは仲間たちに、街の仕事へ連行されたらしい。
受付が終わると、声をかけられた。ヤンおじさんの刺客たちだ。
なんと、彼らは昨日の午後にキャベツ帯に行っていた。特に変わったこともなく、無事に採取できたそうだ。
"はじまりの森"に行くグループの所に行く。
昨日、引き返した冒険者たちだ。女子が二人いて、フェンフェンを抱き締めようとする。
入口で採取しているパーティもいた。いつもは朝一で飛び出すのに、今日は何となく残ったらしい。
そして、全員がヘルミンさんを警戒している。
私は北北西の"風の神のほこら"に行くと伝えた。それならと、冒険者たちはカエル岩で採取することに決めた。
ヤンおじさんの刺客たちはキャベツ帯に行く。もう一組行くけれど、寝坊のようだ。ヘルミンさんは彼らを知っているらしく、三日に二度は寝坊していると言った。
私も会っているみたい。前に、カエル岩で採取したときに遅刻してきたらしい。特徴を教えて貰ってけれど、記憶にない。
声がして、村の応援グループが出発する。私たちは知り合いを見送る。
すると、出口で急に止まった。前から冒険者が入ってきて、ぶつかりそうになっていた。
その冒険者たちが寝坊グループのようだ。槍を担いだ戦士が二人。背負い籠と大きな盾を持った戦士が一人。それから、レンジャーが一人。
私たちの所に来て、ヘルミンさんを見つけて驚いていた。
彼らが受付に行っている間に他の冒険者が教えてくれた。Dランクに上がりたくて、装備を揃えようと焦っているらしい。何かのフラグではないはず。よくある話だ。
寝坊グループが戻ってきた。依頼を受けられたようだ。
私たちは、ギルドを出発した。




