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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第一章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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七話 出発


 この世界への仮説その1。

 まず、この世界はゲームの中ではない。私の前世の世界と同時に存在していた。

 こちらから何らかの集団がテレパシーを送った。受け取ったのは向こうにいるゲームの開発スタッフたち。この世界の大まかなイメージを無意識に共有した。そうして、知らぬ内に"クノテベス・ワールド"にそっくりなゲームを作ってしまった。

 ゲームの中の事象が一致していないこと。細部が異なっているのも、これなら説明が付く。

 そして、このゲーム自体が(ゲート)になっている。何らかの条件を満たしたことにより、(ゲート)が開き、私と超司教様はこちらの世界へと転生した。

 何のために?

 魔王を倒す人材を求めてだろうか?

 しかし、先生と超司教様が調べた範囲では、そういう思想の集団は見つけられなかったそうだ。


 この世界への仮説その2。

 超司教様は過度の酒飲みだった。

 ある日、医者から死の宣告を受けたらしい。

 自棄になった彼女は、学生時代に所属していたオカルト研究会で入手した魔術を発動した。その効果は"本の中に入る"こと。これでゲームの中に入れないか試したのだ。

 そうして、彼女は"クノテベス・サーガ"の世界に転生した。

 つまり、この世界は超司教様の魔術で作られたということだ。

 そんな馬鹿な!?




 明日は出発の日。旅支度は万全だ。


 寝る前に、先生に執務室へと呼び出された。

 部屋に入ると、先生がこっちを見て、ニヤニヤと笑っていた。


「明日は早いので、もう寝ます」

「いいもの、あげるよ」

 

 絶対、ヤバいやつ。


「これこれ」


 先生は机の上にある箱を開けた。

 中には、青いシンプルな装飾の鞘に収まった短剣が入っていた。


「これは……」

「じゃじゃ~ん、勇者ロッキーの短剣だよ~」


 勇者ロッキーの短剣。

 死後に王国に献上され、各時代の勇者に"勇者の証"として渡される習慣ができた。

 しかしながら、現代の勇者はこの短剣を質に入れて流してしまった。

 さらに、盗賊に奪われ、ギャングに買われ、悪徳貴族の手に渡るという散々な事態になった。

 それでどうなったかと言うと、先生自ら騎士団を率いて回収に向かったのだ。

 そして、無事に事なきを得たと思った矢先、先生は川で流されている少女を見つけた。

 私である。

 つまり、この短剣が先生と私を引き合わせたらしい。


「これを私が持つのですか?」

「そうだよ。そういう運命ってことじゃない?」

「返して欲しいと何度か使者が来ていましたけど?」


 王国の方から返還の申し出があったことを知っている。

 いつだったか、件の勇者も来たはず。馬鹿が移るからと、先生は私を遠ざけていた。


「国王には、これは私のものって言ってあるから、へーきへーき」

「そんな軽く言われましても…」

「引退するときに王国の方に返還してくれたら、それで大丈夫だよ。もしくは、次の勇者に直接渡すか。これを"勇者の証"とする習慣は、ロッキーや当時の王様たちと一緒に決めたんだ。そこは守って欲しいな」


 いざこざに巻き込まれ、ピンチになったときに見せるように言われた。なるべく、立場の強い人間か、大勢のいる前で。そうすれば、助けてもらえるはずだと。

 後々のスローライフのことを考えると、勇者職のことは隠しておきたい。あくまで、切り札としてとっておこう。




 いよいよ、出発の日。

 手の空いている屋敷の人たちが駅馬車の所まで見送りに来てくれた。

 みんな、私のことを心配してくれている。

 ゲーム脳の私は、遊び半分に旅立つ気でいたので申し訳なくなった。

 先生が「どうせ、すぐに泣いて帰って来るよ~」とか言ってる。

 強くなって戻ってきて、頬っぺたつねってやるからな!


 出発の時間。馬車がゆっくりと動き出した。

 私もみんなも、見えなくなるまで手を振っていた。




 のどかなアルベーデン領を馬車がゆっくりと進む。

 

 しばらくすると、エルフたちが追いかけてきた。

 シカやヤギに乗っている。見回りの部隊みたい。こちらに手を振っていたので、私も振り返す。

 どんどん距離を詰めてきて、馬車を囲まれた。

 見送りに来たらしい。

 しかし、あなたたちは仕事中なのでは?

 乗り合わせた商人が奥で震えている。エルフに会うのは初めてっぽい。他の人はちょっと引きつった顔をしているが、危険は感じていないようだ。


 馬の休憩時間、エルフたちと話をしていたら、「ついて行く」と言い始めた。

 慌てて説得する。何とかわかってもらえた。

 最後に、スタンピードが起きたら、必ず助太刀に行くと言ってくれた。

 これはもう、完全に囮に使われている。

 帰って来たら、絶対に先生の頬っぺたつねってやる。


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