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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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六十七話 占いの結果


 私たちは二階の客室へと案内された。昨日と同じ部屋だった。

 詳しい事情聴取が始まるまで、ここで待つ。


 エンマはこの部屋のベッドに寝かされた。ケガは全て治っているそうだ。目を覚ましたらポーションを飲ませるように言われた。

 他の四人は治療を受けて、もう平気な様子だ。


 そして、ヘルミンさんも私たちと一緒にいる。護衛らしい。


「お菓子でも食べませんか?」


 ヘルミンさんはアイテム袋からお菓子を取り出した。


「呑気ですね……」

「犯人も捕まったから、することないですよ?」


 そういう意味ではないのだけれど……。


「……クゥン」


 フェンフェンが、血も涙もないのかと言ってる。従弟が刺されたのに悠長過ぎる。


「むっ! 何か失礼なことを言われた気がします」


 カリーナが教える。


「……キュウ」


 そこは通訳しなくていいと、フェンフェンがカリーナに注意した。


「ごめんなさい」


 しゅんとなるカリーナ。

 ヘルミンさんは口元に手をやって考えている。


「カール君の事ですか? いつか刺されるとは思ってましたよ。一昨日、お店の中で威張っていたのは覚えていますか? あんな感じで、街中で顰蹙を買っていたのです」


 コーヒーショップのことなら覚えている。お接待させて、作り話を盛大にしていた。

 カレンが恐れていたように、気に入らない店に嫌がらせもやっていたのだろう。


「それに、ダンジョンで居眠りしている時点で、どちらにしても長生きはできません。でも、まー、それなりに悲しんでもいますよ。昔のカール君は、素直でかわいかったのです」

「そうなの……」

「こうなったのも叔母様が甘やかしたからでしょう。叔母様が殺したようなものですね」

「それ、本人には言わないようにしてください」

「どうしてですか?」

「えぇ……、ヘルミンさんのご両親に聞いてください」

「むー」

「スロウ商会と男爵夫人は手を組んるのだから、怒って復讐にくるかもしれません」


 この言葉にナディアたちが反応した。


「まだ何かあるの!?」


 スロウ商会は岩砂糖を推進した側だ。今回のレイトの件は、妨害されたと逆恨みしての嫌がらせかもしれない。


「揉めそうな予感がする」


 ヘルミンさんがスロウ商会について教えてくれる。


「プライドが高くて面倒な人たちです」


 ナディアたち、街の住人の印象も良くない。


「お金持ってるから偉いって、そういう典型的な人たちね。でも、王都で騙されてお化け屋敷を買っちゃったの。それで大変なことになったとか……」

「報酬をケチって、お化け退治に失敗したそうです。それで近隣の住民に大迷惑をかけて、王都を追い出されました」


 お化けは闇属性の魔物のことだろう。前世の記憶の所為でムズムズする。


「そういえば、破産するとか言ってなかった?」

「ええ、スロウ商会は王都で商売ができなくなりました。岩砂糖は別の商会が引き継ぐそうです。それで、王都以外の領地に売るために、新しい採掘現場を作り、産出量を増やそうとした訳です。それが、白い霧に阻まれて失敗しました」


 私も見送りに行った遠征のことだ。採掘の主導権争いも起きていたと聞いた。今出た別の商会が関連しているのだろうか。面倒なことになっているみたい。


「投資したお金が回収できないそうです。嫌われているので、誰も助けないと思いますよ」

「そんな人たちが、どうして私を襲うの?」


 意味が分からない。

 ナディアは、ボルグの件でレイトは個人的に動いていて、実家の商会は関係ないと言う。

 ヘルミンさんと組んでいるのも関係あるのかな。


「うーん? ここ数ヵ月、彼らが私の所に並んだ覚えがありません」

「ボルグもレイトも、今日初めて名前を聞いたのに……。私からは何の因縁もないよ」

「サンドラさん、情報は命ですよ。街の問題のある人たちの動向くらいチェックしておくべきです」


 そう言われると甘かった。先生の威光が通用しない事態があるのは、すでに経験していた。


「フェンフェンがいるのと、壁魔法があるから、大概は平気だと思っていたけれど……」

 

 カリーナは、レイトたちはフェンフェンの実力を分かっていなかったと言った。


「兵団の人も五十人以上いたのに……」

「気づいてなかったんじゃない? バカだし」


 すると、ドアがノックされた。

 ヘルミンさんが開けに行く。ステッキを取り出して、振り回している。復讐にきたスロウ商会ならボコボコにしていいよね。


 来たのは、トムさんだった。トムさんも事情がよく分からない様子だ。


「ボルグという冒険者のGランク降格を撤回させようとした。これが彼らの共通の主張だ。それで、サンドラ君を説得して、一緒に反対してもらうつもりだったそうだ。えっと、彼らとの面識は?」

「無いです。ついさっき存在を知りました」

「そうか……あー、教えておけばよかったかな。でも、あんなことになるなんて……」


 トムさんはスロウ商会について教えてくれた。

 お化け屋敷の件はドワーフたちの仲介で事態を治めた。そして、この街にはドワーフが大勢住んでいる。だから、エルフの先生と揉めるようなことをするはずがない。


「ドワーフですか?」


 ナディアが教えてくれる。


「サンドラは北区に住んでるでしょ。ドワーフは西区の工房と東区の農地で働いているの。住居もその近くだから、あまり見かけないのかもね」

 

 昨日の東門の戦いで、アッシュさんが実家の畑があるみたいなことを言っていた。

 ヘルミンさんがウキウキと話す。


「一昨日のコーヒーショップに、おやつや食事の時間帯に行きましょう。大勢のドワーフに会えますよ!」


 あそこは工房で働く女性が頻繁に利用する店だと聞いた。あんまりドワーフにも会った事がないので寄ってみてもいいかも。

 フェンフェンもあの店のハンバーグが食べたいと言う。笹色のエビフライが付いたきた覚えがある。


 トムさんが話を続ける。

 スロウ商会さんはアルベーデン辺境伯領にも岩砂糖を卸したいと言っていた。しかし、領主である先生は採掘自体に反対している。だから、申し出は断った。


「それで恨んで……も違うだろうな」


 それから、マリアンヌさんを三流神官だと罵ったことも気になるようだ。

 お化けを退治した王都の教会の司教様は、十年前の迷宮騒動にも参加していた。そして、マリアンヌさんとは友人だそうだ。


「関係あるのか、わからないんだよね」


 首を傾げるトムさん。

 ナディアが、レイトたちのこれまでの粗暴な振舞いをトムさんに教えた。


「仲間の為と、それが本気で正しいと思っているんです。狭い街の中の仲間内の世界しか知らないから」

「なるほど。レイトたちの個人的な犯行になるのかな。ひとまず、スロウ商会の人が来ても、サンドラ君は会わないように」

「わかりました」


 頼まれても会いたくない。

 そうして、トムさんは不安そうな顔でヘルミンさんに私の護衛をお願いして、部屋を出た。これから男爵家に行くそうだ。何を言われるのだろう。鬼が出るか蛇が出るか。




 部屋の中の空気が重い。誰か喋らないかな。ヘルミンさんはお菓子を夢中で食べている。

 すると、寝ていたエンマの声がした。みんな驚いた。


「……あれ? 手がおかしくなったのに……」


 折れていた左手を動かす。きょとんとした顔をしている。

 あの後、マリアンヌさんが来て、"ヒール"を使ったことを教えた。エンマは二度も使ってもらったことに驚いていた。


「"ヒール"の代金を請求するなら、スロウ商会になると思うよ」

「スロウ商会は潰れるって聞いたけど……」


 エンマも街の育ちみたい。色々と知っていた。

 とりあえず、カリーナたちが何が起きたかを説明してくれた。


「受付さんが本当に呪いを飛ばしたってことは無いの?」

「飛ばしてないですよ、ムシャムシャ」


 エンマはヘルミンさんがいることに気づいていなかった。エンマはすぐに謝った。ヘルミンさんは気にしていない様子。


 説明も終わり、私はみんなにガードしてくれたことの礼を言う。みんなは冒険者仲間として当然の事だと笑っている。




 しばらくして、ステラさんとマリアンヌさんが呼びに来た。ギルドと兵団で事情聴取をするそうだ。

 エンマはマリアンヌさんにお礼を言う。ステラさんが下に仲間が来ていると言い、先に案内してくれた。

 

 私たちはギルド職員に連れられて、二階の奥の部屋へ行く。

 ソファーがあった。ここで待ちながら、先の部屋で一人ずつ聞き取りをするそうだ。


 まず、私からだ。

 私は未成年なので、マリアンヌさんが同伴することになった。

 すると、フェンフェンが自分も行くと吠え出す。ヘルミンさんまで行くと言う。

 ギルマスが先の部屋から出てきた。兵団と相談して、マリアンヌさんがフェンフェンを抱いて入室することになった。ヘルミンさんは居残りだ。


 中には、怖い顔のマッチョなおじさんがたくさんいた。頑張って返事する。

 何を聞かれても、知りません、わかりませんとしか答えられず、事情聴取はすぐに終わった。


 外に出て、みんなに中の様子を伝えた。

 すると、カリーナたちはフェンフェンを抱いて入室することを希望した。もたもたしていると、またギルマスが出てきた。それならと、マリアンヌさんが同伴すると言う。しかし、ギルマスが反対する。何も怖くないそうだ。私は怖かったよ。

 

 ナディアが自分は平気と言って、先に入った。

 すると、ぐったりして今にも泣きそうな顔で出てきた。お父さんがいたそうだ。


「ブッ殺すとかバカとか言ったことがバレてて、すごく怒られた。帰ったら、お説教だって……」


 あらくれ物を相手に挑発行為はよくない。事態を悪化させてしまう。お説教は仕方がない。


 それから、エンマも合流した。残りの四人の聴取はすぐに終わった。みんな、ちょっと怖かったそうだ。

 

 ギルマスが出てくる。まだギルドも兵団も事態を把握できていない。なるべく、ギルドか家にいるように言われた。




 私たちはギルドのフロントに向かう。

 マリアンヌさんは私に屋敷へ戻るように言う。レイトたちとカールを殺害した人物が共犯で、さらに黒幕がいる可能性もある。まだ警戒を解く訳にはいかない。

 部隊の騎士たちも、すぐそこで待ってくれているらしい。もう断れない。

 エンマは仲間と一緒に帰って、家で安静にするそうだ。他の四人も帰ることになった。




 フロントに行くと、冒険者だけでなく、街の住人も大勢いた。

 ディーノさんやベテラン冒険者たちが、申し訳なさそうに声をかけてきた。彼らがレイトたちを更生か処分できていたら……。そんな文句を言う資格は、私にはないと思う。

 今度は、暴れた冒険者の父親が泣きながら謝罪してきた。まだ心の準備ができていないだけど……。マリアンヌさんが宥めてくれる。

 

 トムさんもいた。

 レイトの両親も私に直接謝罪したいと言っている。今日は疲れているだろうからと、後日にしてもらったそうだ。会うのも嫌なんだけど……。

 とりあえず、スロウ商会が黒幕ではなさそうだ。


 カリーナ、モーガン、ロレッタの仲間たちが後ろの方にいた。彼らは騒動を聞きつけて、ギルドに向かった。そして、ギルド職員さんの計らいにより、休業した酒場のテーブルで待たせてもらったらしい。

 ナディアは知り合いのベテラン冒険者が家まで送ると言ってくれた。今日はこれで解散かな。


 ステラさんから用件は残っていないか聞かれた。

 特に考えた訳ではない。不意に、その言葉は出てきた。

 

「その……カールは本当に死んだのですか?」


 周りが急に静かになる。

 おかしなことを言ったみたい。混乱して、よくわからない。

 マリアンヌさんが答えてくれる。


「パーティを組んでいるから、遺体の確認はできるのよね?」

「はい、教会に安置されているので、冒険者ギルドから申請することになります」


 ステラさんが私を見る。別に確認までしたくない。


「あ……いえ……止めておきます」


 マリアンヌさんが優しく微笑む。

 

「明日、ゆっくり考えましょう」


 うん。もう頭が回っていない。早く一人になりたい。


 帰ると言おうとした丁度その時、慌てた様子の兵士が三人入ってきた。

 周りの人が何があったと聞いている。どうやら、レイトの仲間から核心となる証言が出たらしい。


「あっ!? 彼女です!」

 

 私を指差す。驚いて、身震いした。

 私の仕草を見て、兵士さんは急いで訂正する。


「あ、いえ、後ろの方です。失礼しました。えっと、ヘルミン・ニンブルさんですよね!?」

「そうですよー」


 呑気だ。やっぱりヘルミンさん関係なの?


 数ヶ月前のこと。

 レイトは新人の受付嬢だったヘルミンさんを、ライバルのニンブル商会の人間だと認識していた。思い知らせてやるとヘルミンさんの受付に並んだ。しかし、逆に自分たちが盛大に侮辱されることになった。


 その後、夜中に街の中を歩いていたヘルミンさんを見かけて、仕返しに脅かしてやろうと詰め寄った。すると、ヘルミンさんは杖を取り出し、呪術を使った。突如、自分たちの体が宙に浮かび上がり、激しく回転した。落下した後も体が満足に動かなくなり、瀕死の思いで家へ帰ることになった。


 それから、他の冒険者たちにも次々と呪いをかけて、依頼を失敗させた。

 リベンジしたが、またもや呪術の前に手も足も出なかった。

 ついに、ヘルミンさんの呪いでGランクに落ちる者が現れた。仲間たちの面子を背負い、呪いを見抜けないマヌケなギルドと対決することになった。


「えっと、呪術を使ったのかな?」


 兵士さんの質問に、ヘルミンさんは違うと答えた。


「冒険者に喧嘩を売られた時は、ステッキでひっくり返すようにしています。夜中ということは、お酒を飲んだ後ですね。それで手加減を間違えたのでしょうか?」


 ステラさんが呆れながら質問する。


「襲われたって、どういうこと?」

「たまに、襲われるのです。あー、全部返り討ちにしてるから大丈夫ですよー」

「そういうのは、ギルドに報告しないと駄目でしょ!?」

 

 やはり、原因の一端はヘルミンさんにあるようだ。

 この世界には、"呪い"が実在する。レイトたちは謎技術で物理的に宙を舞ったわけだが、理解できずに呪いだと決めつけたようだ。

 おそらくだけど、レイト一味に呪いを見破れる冒険者はいない。そのまま、周りの連中も見破れないと判断して、何もかもヘルミンさんの仕業だと決めつけた。

 それで、どんどん恨みを貯めていった。


 兵士さんがステッキの件を詳しく教えて欲しいと言う。ヘルミンさんは抽象的に答えた。兵士はちんぷんかんぷんな様子だ。

 ディーノさんたちが補足する。彼らは一昨日の戦闘で、ドリル岩石ウルフがひっくり返されたのを見ていた。兵士は余計に混乱した。


 それから、私の事はランク詐欺の雑魚だと思われていた。どこかの貴族の隠し子で特別扱いされているだけだと。


「それで、レイトはあなたのことを脅そうとしたみたいです」

「あ、はい……そう……ですか」


 ようするに、勘違いと思い込みが積み重なっての暴走という訳だ。

 私にとっては、災難だ。

 どうして、こんな目に……心当たりが一つだけあった。昨日の占いだ。


 ヘルミンさんは、話を聞いてもあっけらかんとしている。


「ヘルミンさんが占うと、相手が不幸になるんですよね? これ、ヘルミンさんの所為ですよね?」

「当たるときもありますよ」

「どこが"輝かしい勝利"なんですか!?」

「カール君にレイト一味に、街の問題児が一掃されました。サンドラさん的には、大当たりなのでは?」


 ヘルミンさんはドヤ顔でダブルピースした。

 呆れて声が出ない。従弟が死んでるのに……。

 周りの人たちは、ドン引きしている。


「やはり、血も涙もない。組むの止めます」

「そんなことないですよー」


 それから、ギルマスが現れて、ヘルミンさんは奥へと連れて行かれた。




 私は屋敷に帰った。

 落ち着かないので、夕食の手伝いをした。

 けれども、ご飯を食べると急に眠くなった。

 男爵家の会議に行ったトムさんの帰りを待ちたかった。"ヒール"の噂に、"無限観音像"に、指名依頼は中止のはず。

 でも、眠気に勝てなかった。考えるのは明日にしよう。


 今日は酷い一日だった。


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