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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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六十六話 急展開


 ガラの悪い冒険者たちが私たちの所に向かってくる。

 フェンフェンがロレッタの腕の中から飛び出し、私たちの前に立つ。


「ウオオオオ!」


 本気で吠えている。やはり、彼らは敵だ。

 そして、私に壁魔法を使えと言う。今、私はソファーに座っている。ひとまず、外に出た方が……彼らを押しのけないと裏庭にも行けない。

 そう考えていると、ナディアたちが私の前に並んだ。ガードしてくれている。


「ボルグのパーティに……レイトがいるわ。不良冒険者のリーダーよ」


 そんなのがいたの?


「スロウ商会の三男坊で……スロウ商会は男爵家と一緒になって岩砂糖で大儲けしたの。それで、レイトのやつは威張りまくっているのよ」


 また男爵家? 男爵家の相棒の商会が、コンナトキー伯爵の指名依頼を受けている私を狙うの? 訳が分からない……。

 真ん中にいる如何にもナルシストな外見の男がレイトだ。金髪の逆毛で、左右の髪が尖っていて角みたい。それから、顔の真ん中にくの字になった前髪が垂れ下がっている。


 レイトたちはズカズカと歩いてくる。フェンフェンが怖くないのか。後ろで、一組だけビビっていた。


「ウォン! ウォン!」

「フェンリル君が、止まらないとブッ殺すって言ってるわ」

「ガゥガゥ」


 カリーナが訂正する。


「喧嘩するなら表に出ろ。相手になってやる、だよ」


 たぶん、当たってる。カリーナには、テイマーの才能があるのかも。レンジャーだし、ぴったりだ。


 レイトたちが反応する。こっちを見下したような口調で話す。 


「喧嘩をしに来たんじゃない。話し合いだ」


 二十人がかりで詰め寄って、話し合いになる訳がない。

 どいつもこいつもムキムキだ。女性は二人。どちらも厳つい。圧しかない。


 後ろの方から、ステラさんの声がする。


「一体、何事ですか!?」


 それから、ナディアの顔見知りの兵士さんだ。


「悪ガキども、しょっぴかれてぇか!?」


 味方がいるのは、心強い。

 椅子から立ち上がったけれど、レイトたちの背が高いので、ステラさんたちの姿は見えない。目を合わせたくないで、あまり探せない。

 二メートルくらいあるスキンヘッドもいて、本当に怖い。話をしようにも言葉が出てこない。どうすればいい?

 レイトが私を睨みながら会話を始める。


「ボルグのことだ。あいつが降格なんて、ありえない。お前もそう思うだろ?」


 思う訳が無い。脅し付けているのだろうか?


「ウォン! ウォン!」

「マリアンヌ様を呼ぶから、直接文句を言ってください」


 カリーナが通訳してくれる。ありがたいけれど、カリーナが後で目を付けられたら大変だ。なるべく、自分で話さないといけない。勇気を出す。


「ステラさん! マリアンヌさんを呼んでもらえませんか!」


 声が震えている。情けない……。


「使いを出しました。すぐにギルマスと一緒に戻られます」


 やった! 

 あとは時間を稼げば、大丈夫だ。

 すると、レイトがおかしなことを言い出す。


「呪いも見破れない三流神官では話にならない。お前がギルマスを説得しろ!」


 呪い? 

 思い出した。ボルグの仲間が魔女と受付の呪いだと言っていた。本気で信じ込んでいるの?


 フェンフェンが彼はバカなのかと聞くと、ナディアが街で一番のバカだと答えた。とんでもないやつが現れた。これは面倒な事態になってきた。

 ナディアの言葉に、ガラの悪い冒険者たちが罵声を浴びせる。ヒューゴたちの死を侮辱する言葉が聴こえた。どうしようもない手合いだ。

 一組だけ、大人しくしている。後ろを見ていた。酒場にいる兵団に気がついたようだ。

 ナディアが言い返す。


「ボルグが負けたのは呪いでも何でもない。ふざけて戦っただけ! それに二回目はマリアンヌ様の言いつけを破ったんだから、それこそ天罰よ!」


 この世界の神様はシステムとして存在している。神官の言いつけを破った。そうなれば、システムが罰を与えてもおかしくない。けれども、それは秘密なので説明できない。


 一人がナディアに掴みかかろうとした。フェンフェンが吠えて、動きを止める。


「ヴォア!」

「うぅっ!?」


 吠えられた男は、ひるんだ。何人か、動揺している。しかし、レイトは気にしてない様子。


「そんなチビ相手に狼狽えるんじゃない」

「あんた、フェンリル君のことを知らないの? 山ウルフやゴブリンアサシンだって倒せるんだから。勝ち目なんてないわよ」

「フハハ、そんなウソに引っ掛かると訳がなかろう、マヌケめ! 十メートルの巨体だぁ? ウルトラトカゲを丸呑みにしただぁ? アホらしいにも程がある」

「いや、それは……」

「クゥン?」


 そういえば、武器屋のおじさんがフェンフェンのことを巨大な狼だと言っていた。色々な噂が流れているみたい。真実も把握できないくらいに。

 後ろの一組が慌てている。一人が両手を上げると、パーティメンバーらしき四名も両手を上げた。


「お、俺たちは話し合いだって聞かされて……あ、暴れるつもりなんて、いっ、一切ないでやんす!」


 そのまま走って、ギルドから出て行った。

 他の冒険者も慌て始める。ようやく、酒場の兵団に気がついたようだ。

 兵士さんの話しぶりから、部隊の隊長が出てきたようだ。


 ピーーー!


 笛の音がした。酒場の方で、大勢の人間が動く音がした。

 隊長さんの声が響く。若い男の人だ。


「全員、動くな! 反抗すれば、逮捕する!」


 兵士たちがこっちに向かってくる音がする。

 ガラの悪い冒険者たちが兵士たちに罵声を浴びせる。兵士たちも言い返す。

 レイトは兵士たちに向かって、クビにしてやると言っている。スロウ商会にそこまでの権力があるのだろうか? 

 この状況はまずい。マリアンヌさんが来るまで、のらりくらりと会話していれば良かったんだ。どうにかして、鎮められないのか。


「おい! 俺たちと来い!」


 レイトは私に向かって手を伸ばす。

 私はとっさに身構える。けれども、どうしていいのか、わからない。怖い。

 ナディアたちが壁になってくれる。フェンフェンの吠える声。

 また笛が鳴る。

 他のガラの悪い冒険者たちも詰め寄ってきた。ナディアたちを押しのけようとする。


「ウォン!」

「うわぁっ!?」


 頭上から声がする。フェンフェンがガラの悪い冒険者に頭突きをした。


「チッ! この野郎!?」


 押し合いになる。誰かの背中が当たって、私はよろけて、ソファーの上に倒れた。

 暴れる音。何が起きているの?

 依頼コーナーが見えた。ガラの悪い冒険者とギルドの職員が揉み合いになっている。そして、依頼書を張っている移動式ボードが横転した。

 あちこちで悲鳴も聴こえる。すぐ近くからも。誰の声だろう。


「うっ!?」


 痛い。頭が引っ張られる。


「ガゥッ!」

「ぎゃああ!?」


 引っ張られることはなくなった。でも、頭皮がヒリヒリする。痛い。早く終わって……。




 気絶した訳ではない。それでも、意識が飛んだ気がした。私は頭を押さえて、ソファーにうずくまっていた。

 声がする。ナディアとカリーナだ。

 目を開けて、ゆっくりと起き上がる。二人の顔が見えた。


「大丈夫!?」

「……何が起きたの?」


 二人の後ろを見ると、ガラの悪い冒険者たちが兵団とギルド職員に拘束されていた。

 奥の通路から、医者と看護師たちが出てきた。

 入口の方には野次馬なのか、街の住人たちがいる。

 そして、すぐ前に誰かが倒れている。


「ううっ、ああああ!?」


 エンマだ。頭から血を流している。左手と右足が変な方向に曲がっていた。

 彼女は、私の横で座っていたはず。病み上がりなのに、私の壁になってくれた。

 

「教会へ運べ!」


 兵士さんが担架を持ってくる。

 ここは……私が"ヒール"を使えばいい。大勢の前で? そんな躊躇していいの? 使わないと!?

 アイテム袋に手を入れた丁度その時、入口からマリアンヌさんが入ってきた。

 私は大声で叫んだ。


「マリアンヌさん、こっち!」


 勢いで涙が出た。

 マリアンヌさんが慌てながら、こっちに来る。


「エンマが大変なんです!?」


 エンマを指差す。マリアンヌさんはすぐに理解したようだ。


「"ヒール"」


 ピンクの光が包む。手と足が元通りになる。呼吸も落ち着いてくる。


「他には!?」


 マリアンヌさんが周囲に声をかける。

 レイトが汚い声で返事をする。


「俺だ!? 俺を治せ!? その駄犬が嚙みやがった!?」


 レイトは三人の兵士に取り押さえられていた。そして、右腕から血を流している。

 

「ウォン」

「あいつが、サンドラの髪の毛を掴んで引っ張りました。それで、フェンリル様が噛んで追い払ったんです」


 そうだったのか。髪を引っ張られていたんだ。


「そう、他には?」

「他には、じゃねーよ!? 三流神官め! てめーら、牢屋に入れてやるからな!?」


 意味が分からない。一体、こいつは何がしたいの?

 兵士さんとギルド職員さんが、他には大きなケガをした者はいないとマリアンヌさんに報告した。あちこちで治療が行われている。暴れるガラの悪い冒険者に、師長さんが鉄拳をお見舞いしていた。

 マリアンヌさんが事情を聞かせて欲しいと言う。

 すると、レイトが大声を出した。


「お前たちがボルグに呪いをかけたんだ!? あいつを陥れやがったんだ!?」


 マリアンヌさんが何を言っているのか分からないという顔をしている。私が魔女と呪いの受付嬢の話をする。


「仲間の二人が、そんなことを言っていたわね」


 ナディアがその内の一人がそこにいると言う。見ると、彼は兵士に寝技をかけられながら震えていた。

 すると、医務室の先生と看護師さんがやってきた。先にケガを診るそうだ。マリアンヌさんから、そうするように言われた。

 私は大した怪我ではなかったようで、ストローの付いたポーションを渡された。飲むとスッキリした。

 他の四人の女子も軽傷のようだ。

 顔を上げると、ギルマスの姿が見えた。兵士と冒険者も増えている。ディーノさんもいた。


 また、レイトが大声を出した。


「お前だ! お前が悪いんだ!」


 見ると、ヘルミンさんがいた。


「意味が分かりません。あっ、サンドラさ~ん、無事ですか~? 探しましたよ!」


 呑気な声だ。


「無事です……。この人たちは一体何者なの?」

「知らないんですか?」

「知らないですよ」

「絶対に何かやらかすと、街の噂になっていたのですよ」

「それなら、そうと、早く教えてよ!?」


 つい声を荒げてしまう。


「そもそも、皆さんが私とサンドラさんを引き離すのが悪いんですよ!」

 

 ステラさんやギルマスを見ている。二人が呆れた顔をしている。深酒したあなたが悪い。

 

 こうなった原因を聞く。

 ガラの悪い連中は、若手のDランク冒険者たちの中の不良グループ。今までは、馬車の護衛で稼いでいた。

 それが合同移動になり、依頼を受ける際の審査が厳しくなった。素行の悪い彼らは弾かれてしまった。

 街の防衛の依頼を受けるも閑職に追いやられた。魔物の騒動でも、連携に支障をきたすと前線に出させてもらえなかった。そんなこんなで、鬱憤が溜まっていた。近々、爆発すると言われていたそうだ。


 そして、ヘルミンさんとも因縁があるようだ。

 レイトのスロウ商会とヘルミンさんのニンブル商会はライバル関係らしい。けれども、ヘルミンさんの両親は揉めようとはせず、相手にもしていなかった。それが逆に恨みを買う事態になったようだ。そして、男爵夫人をそそのかして、岩砂糖に手を出させた。


「スロウ商会さんは破産するそうですよ」

「嘘だ! そんな訳が、モゴッ!」


 おおよその事情が聞けたからか、レイトは口を塞がれた。


 これで一件落着だと思った。

 次の瞬間、悲鳴が聞こえた。ギルドの中が凍り付いた。


「な、何!?」


 カリーナたちが慌てる。

 医務室の方からだ。師長さんとディーノさんが奥へと向かう。ギルマスも行く。

 私たちはソファーの周りで待機だ。


 しばらくすると、マリアンヌさんが呼ばれた。




 レイト一味が連行されて行く。見ていても仕方がない。

 けれども、お喋りする雰囲気ではない。エンマは担架に寝かされたままだ。

 私は奥から出てきた人の会話に耳を傾ける。

 

 カールが死んだ。そう聴こえた。

 

 犯人は昨日、東門で亡くなった新兵の母親。元スカウトの冒険者。

 私たちが揉めている隙を見て、医務室に侵入した。そして、部屋の鍵を開け、カールを刺した。"ヒール"でも治療できないよう、念入りに。部屋の中は酷い有様らしい。


 あまりの急展開に私の思考は追い付かない。

 一体、どこで選択肢を間違えたの?


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