表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
65/87

六十四話 もふもふ


 食事をしていると、給仕さんが試食をして欲しいと料理を持ってきた。

 "ジャガーモのスープ"だ。ジャガーモにニンジン、玉ねぎ、スパイスがたくさん。肉は入っていなかった。


 ナディアたちはジャガーモを知らなかった。 

 ジャガーモは、ジャガイモのこと。このゲームを作ったイー=ラパツヨ超司教様の大好物だ。

 前世だと、元々は南米の高い山に生えていた植物だった。ヨーロッパに輸入されて、何代か経ってから平地で実が大きく育つようになった。

 史実をゲームのイベントに取り入れた結果、実が育つまでに八十年ほど時間がかかった。


 ナディアたちの反応は上々だった。どうも、先生の騎士隊が寄付したようだ。給仕の人たちが教えてくれた。この機会に広めるつもりなのだろう。荒れた土地でも育つので、とても良いことだと思う。

 

 ジャガーモの普及は、この先の魔王討伐にも関わってくる。

 魔王城には"闇の瘴気"が満ちていて、歩くだけでHPとMPが減っていく。これを防ぐためには、料理アイテムを食べて耐性を付ける必要がある。

 このゲームの最強の料理アイテムは"黄金のフライドポテト"だ。完全に超司教様の趣味である。私もフライドポテトでお酒を飲むのが好きだったので大歓迎だ。

 料理の効果は物理と魔法攻撃力がモリモリ増えるのと、"闇の瘴気"の無効化だ。これを食べながら進めば、魔王城の攻略が楽になる。

 けれども、肝心の作り方を超司教様が忘れてしまった。

 ジャガーモが普及すれば、誰かが作るかもしれない。あちこちにおすそ分けしているのは、こういった理由もある。


 ちなみに、私がゲームをしていたときには"シャイニング豚骨ラーメン"を食べていた。偶然、宝箱からレシピを入手した。攻略サイトを何も見なかったので、他にどんなアイテムがあるのかは知らない。リアルでラーメンを食べながら魔王城を歩くとか勘弁して欲しい。何としても"黄金のフライドポテト"のレシピを入手しないといけない。




 食後、私たちは他愛もない話をしていた。そうして、治療を終えた男子たちが食べ終わるのを待っている。

 すると、給仕さんがやってきた。この酒場を、街の防衛をしている人たちの食事の場として提供することになったらしい。

 私たちはすぐに席を立った。男子たちは急いで食べている。


 ルーシーの見送りにステーションへ行くには少し時間がある。早目に行ってもいい。

 ひとまず、ステラさんの受付が空いていたので、先ほどの森の騒動の話を聞きに行った。


 ステラさんは調査隊は出さないことになったと教えてくれた。

 武器屋に弓を持って行ったけれど、誰の落とし物かは判らなかった。ここ半年で大勢の新人が買っていったそうだ。

 そして、ギルドの記録に弓を持ったゴブリンが出た記述が何件かあった。使われた弓は毎回、街の武器屋で売られていたものだった。他にも、ゴブリンが落とし物を拾って使う事例は、人が増えたここ半年で何度も会った。

 前例もあるから、大丈夫ということなったみたい。


「あの子が、一人で見に行ってくれると助かるのだけど……」


 ヘルミンさんはBランクだけど、街の仕事にノータッチでフラフラしている。ソロで森を歩けて、異変にも対応できる実力があるので調査隊にはピッタリだ。

 私は明日も森に行くつもりだと言う。隠しエリアに行きたい。たぶん、ヘルミンさんと一緒に行くことになる。

 ステラさんは私が行くことに不安そうだ。そして、今日はもう休むように言ってくれた。昨日、倒れてギルドに運ばれたのを気にしているようだ。

 

 それから、ギルマスやトムさんの会議はまだ続いていると教えてくれた。

 私はステーションに行く前に二人に連絡をしておきたかった。呼んでもらうのも迷惑かなと思う。

 そう考えていると、トムさんがギルドの奥から出てきた。私の予定を覚えていてくれたようだ。ステーションに行ったら、ギルドか屋敷に戻るように言われた。

 

 受付を後にして、再びナディアたちと合流する。フェンフェンを返してもらおう。

 けれども、フェンフェンを抱いていたカリーナは一緒に行くと言った。ナディア、モーガン、ロレッタも行くと言う。私の護衛だそうだ。

 人数が多い方が変なのは寄ってこないからいいけれど……。カリーナは街の仕事をしているパーティメンバーの所に行かなくてもいいのかなと思った。

 エンマのパーティは、医務室からおつかいを頼まれていた。そのクエストをこなしつつ、エンマが目を覚ますのを待つ。

 モーガンとフェンリル様大戦隊の男子たちは、戻って眠る。ウィル以外は軽傷だ。ポーションの効果で明日には全快しているはずだ。


 男子たちと別れて、私たちはギルドの外へ出た。




 街の中を歩く。

 今度は視線を感じない。女子五人に、フェンフェンはロレッタが抱いているので目立つ要素が無い。

 大通りには、兵士が等間隔で立っていた。中年の女性兵士の姿が目立つ。

 ナディアが元兵士の女性が臨時の警備隊として雇われているらしい。ナディアの母親も参加しているそうだ。


「私にも冒険者辞めて兵士になれって言われたよ」


 他にも冒険者にスカウトが行われているらしい。カリーナとロレッタは自分の所の男子には来ないと言う。

 モーガンは悩んでいた。魔法を使える人間は少ないので、モーガンの所には来る可能性が高い。兵団に入れるなら、このまま冒険者を続けるよりもいい暮らしができる。冒険は好きだけど、危険も多い。もしスカウトが来たら何と答えるべきか。

 

「でも、やっぱり冒険がしたいな。無事に生き残れたからだけど、昨日は凄い戦いを見れてワクワクしたよ」


 ロレッタも賛同する。昨日の戦場で悪意影響を受けたのかな。戦闘狂にならないといいけれど。

 二人とも、ナディアの仲間が死んだことを思い出したのか急に黙った。

 ナディアもそれに気がついたのか、笑顔で話す。


「じゃあ、私もとことんまで冒険しようか。あいつらの分まで!」


 モーガンたちは笑顔になる。

 ここで私はルーシーがPTSDになっていることを思い出した。それで療養のために街を離れる。みんなにも説明しておかないといけないと思った。

 兵士の家系のナディアはすぐに理解できた。カリーナとロレッタは村に猟に行けなくなった人がいると言った。モーガンは初めてだけど、元冒険者で師匠の祖父から話は聞いているそうだ。

 カリーナが言う。

 

「言葉に気をつけないとだけど、私のことは覚えてないだろうから黙っておくよ。実は私もよく覚えてないし……」

「私も二回目に会ったときは、ぼんやりとしかカリーナのことを覚えてなかったから」


 ナディアは自分の顔くらいは覚えているはずだと言う。モーガンとロレッタは遠巻きに見ていただけで、話したことはない。

 そんな訳で、三人は後ろで静かにしていることになった。




 ステーションに着いた。

 見送りの人々で混雑していた。どの辺りで落ち合うかは決めていない。"魔力探知"の仕様は控える。知らない誰かに手の内を晒すことにもなるから。

 人込みをかき分けて進む。壁の方に、ボブさんの姿が見えた。よく見ると、ルーシーの母親だ。背が高いので気がついた。

 近づくと、ルーシーとカレンの姿が見えた。ルーシーはベンチに座っているけれど、ひどく痩せていた。拒食症になっているとロバートさんたちが言っていた。

 ルーシーも私に気がついた。


「サンドラ!?」

「久しぶり」


 カレンもこっちを見る。私以外にも人がいることに驚いた。

 ルーシーがナディアを見た。


「ナスビクトリアー」

「ナディアだよ。久しぶり。私らはサンドラの護衛だから気にしないで」

「ごえー? 何かあったの?」


 ナディアが大したものではないと否定する。


「私らは暇つぶしみたいなものだから」


 カリーナたちも簡単に挨拶する。

 それから、ルーシーの母親に挨拶した。さらに、ルーシーの二人の弟もいた。

 カレンとルーシーと弟二人の四人で、チミリート伯爵領にある教会の疎開施設に避難するらしい。それだけ、街は緊迫した状況のようだ。

 ルーシーの母親も元兵士らしい。警備隊に参加するそうだ。それで、自分の代わりにカレンを子供二人の保護者に指名した。

 昨日、急に決まった。東門の騒動を受けてだろう。カレンは両親と兄と店を置いて、自分だけ非難するのが申し訳なさそうだった。

 ルーシーの母親はうちの子は手がかかると笑っている。弟たちは十歳と八歳。二人とも、フェンフェンを見ている。


「ウォン」


 フェンフェンは控え目に吠えた。いつの間にか、カリーナに抱かれていた。

 ルーシーは知っているみたい。


「その子が噂の大魔獣かー」

「噂になってるんだ」

「みんな気遣ってるのか、外の事をあまり教えてくれないんだけど。うちの母さんは口が軽いからさー。ちょっとずつ聞いているよー。サンドラのクレイジーな話もねー」

「噂は殆ど嘘だと思う。活躍も従魔のフェンフェンが凄いんだよ」


 口が軽い。やっぱり言ってしまったのか……。

 疎開するカレンの重荷になると思って、この場では追及しないでおく。

 カリーナがフェンフェンを撫でてみるかどうか、私とルーシーたちに聞く。弟二人は頷く。


「……ガゥ」

「ぬいぐるみではないぞ、と言ってるけど、まあちょっとだけ……」


 機嫌を取りつつ、カリーナはフェンフェンを弟二人に渡した。

 

 なでなで。もふもふ。


 二人とも気に入ったようだ。フェンフェンがちょっと苦しそう。力を籠めないように注意する。二人とも母親とボブさんに似ているから、将来は確実にムキムキになる。


 今度はカレンが抱き上げる。気に入ったのか恍惚の表情を浮かべている。

 ルーシーは撫でるだけ。少し震えている。魔物は怖いみたい。無理をしてないといいけど……。


「もふもふしてるよー」

「キュゥン♪」


 ルーシーを気遣ってか、フェンフェンなりにサービスしてくれている。

 

 チリン♪ チリン♪


 鈴が鳴る。びっくりした。

 見送りの人に退出を求めるアナウンスが流れた。まだ出発には早い。これはトラブルを極力避ける為らしい。子供の保護者は馬車が出るまで滞在できるようだ。ルーシーの母親は残ると言う。


 殆ど話もできず、もふもふしているだけだった。

 私はカレンとルーシーと抱き合い、励ましの言葉をかけ合って別れた。


 外に出る途中、ロバートさんとアイラさんに出会った。ルーシーたちの乗る馬車の護衛をする。明日の午後の便の護衛で戻ってくるそうだ。仕事中だったので、すぐに別れた。何か言いたいことがあったみたいだけれど、今朝からの事だろう。


 ステーションの外に出た。

 この後、どうしようか?

 フェンフェンが変な視線を感じたと言う。危険はないと思う。けれども、四人と一緒に移動する様に言う。

 四人に伝えると、みんなで冒険者ギルドに戻ることになった。裏庭で訓練するらしい。

 避難民を見て、何か冒険者としての使命感に目覚めたようだ。強くなるために特訓だ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ