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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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六十三話 ミスは立て続けに起こるもの


 カールは医務室に置いて行くことになった。防音された専用の部屋が用意されていた。高位の冒険者や、貴族や大商人の為の個室だ。

 私は書置きを残すことにした。今日の冒険はお終い。起きたら受付で報酬を貰うように。それから……。


「また明日……という具合でいいのでしょうか?」

 

 マリアンヌさんもギルマスも微妙な顔をしている。


「キャベツ帯の隠しエリアに行ってみたいので……うーん」


 ひとます、明日の朝までに考えることにした。

 そんな感じの書置きを残して、私たちは部屋を出た。




 大きな部屋に通された。長い机が二台に、椅子がたくさん。

 マリアンヌさんはギルマスに話があるからと、私たちに待つように言った。二人で別の部屋へ行く。

 部屋に入ってきたギルド職員さんは、全員揃ってから事情を聞くことにした。


 部屋の中にいる冒険者は、私、ナディア、カリーナ、モーガン、刺客の人たち、ボルグの仲間の二人。それから、ロレッタ。フェンリル様大戦隊は後衛のロレッタ以外、全員ケガをしていた。

 会話をしようにも、ボルグの仲間の二人がいるので始め難い。

 すると、ナディアが、あそこで寝たら"救助"失敗ではないのかと疑問を口にした。

 職員さんが、カールは帰還した後にケガの治療を受けている扱いになると言った。今日の依頼は正当にキャンセルされ、"救助"を達成したことになるそうだ。

 カリーナが感心したように言う。


「いつも運ばれる側だったのに、凄い進歩だね」

「結局、イビキは聞く羽目になったけど……」


 それを聞いたロレッタが残念そうに話す。


「依頼失敗に、ケガの治療費に、防具の修理費。お先真っ暗だよぉぉぉ」


 街の仕事が嫌で採取に行ったら、お金をたくさん失う羽目になった訳だ。命があっただけ良かったと思うしかない。


 今度はエンマのパーティが先ほどの"ヒール"の件を私に話した。治療費の言葉に反応したようだ。

 マリアンヌさんは"ヒール"の代金を請求しなかった。

 今回は冒険者として、私のパーティに混ざっていた。だから、神官として"目の前の困っている人を救う"という志に従って治療した。

 その志の出所は、私と同じ転生者であるイー=ラパツヨ超司教様だ。

 先生の話から分析すると、超司教様はMMOで"辻支援"を積極的にやる方だった。"辻支援"とは、辻斬りのごとく支援スキルを使うこと。相手にお礼を言われるよりも早く立ち去るのがミソだ。

 そして、超司教様が無償の施しを行ったことで、彼女を尊敬する神官たちも無償で回復スキルを使い出した。それで色々問題も起きたみたい。

 一応、施しを与えた人たちに日々精進する様に説いてはいる。守るかどうかは、人それぞれだ。

 

「日々の精進も大変だよ。カリーナはできてる?」

「男子たちはきちんとしてるよ。礼拝に出るようになったし、今朝も素直に街の仕事を受けたんだよ」

「カリーナは?」

「ふふっ♪」


 ドヤ顔だ。


 これからどう精進するか、エンマのパーティは悩んでいた。

 そして、ボルグの仲間の二人はケラケラと笑っていた。あの人は精進なんてしないと言っている。

 おそらく、ボルグには代金が請求されることになる。何を勘違いして、この二人はタダだと思っているのだろう。

 関わりたくなかったので聞き流そうとしたけれど、ナディアがはっきり言ってしまった。


「何言っているのよ。ボルグは払うに決まってるでしょ? ついでに、Gランクにも降格するんじゃない?」

 

 仲間二人は驚いている。

 カリーナはGランクに落ちたらどうなるのかが気になっていた。私も詳しくは知らない。城塞都市に入れなくなるので、街からは追放される。けれども、ジマーリ男爵領のどこかにはいるはずだ。別の領地への移動もできなくなるから。

 ナディアが言う。


「馬車で来るときに、停留所があったでしょ? 街から一時間くらいの距離の所なんだけど」


 うっすら覚えていた。そこから西に行った所に村がたくさんあるらしい。モーガンやロレッタ、刺客の人たちはそこの出身だ。

 Gランクになると、そこの周辺でしか活動できなくなるようだ。

 モーガンが村の周辺のことを教えてくれる。


「たくさん村があって、中心にある村にもう一つの冒険者ギルドがあるの」


 そこでも依頼を受けられる。けれども、大事な依頼は殆ど街のギルドに送られる。そして、その依頼を受けた冒険者たちの宿として、そこのギルドは主に機能しているらしい。

 貴重な情報だ。安全な宿があるなら、村の依頼を気軽に受けられる。でも、ボルグがいるなら行きたくない。


 そして、Gランクから昇級するには宿を手伝うか、地味な依頼を延々とこなすか、街から来た冒険者のサポーターになるかの三択だ。それで昇級するのに五年かかるという話だ。

 モーガンは周辺に娯楽が無いことを指摘する。


「お菓子屋さんもないの。あるのは、年に一度のお祭りだけ」


 ロレッタが言う。


「酒場はあるけれど、素行の悪い冒険者は入れないよ。女将さんが元冒険者で鬼強いから、入ろうとしたらボコボコにされちゃうよん」

  

 どうやら、街に入れなくなると凄く苦しいみたい。

 そして、モーガンやロレッタが冒険者になった理由の一つは、街で暮らしたかったからだ。

 ナディアが言う。


「ボルグは街の生まれだから耐えられないかもね。犯罪に手を出さないといいけど……」

 

 慌てた仲間二人が立ち上がって、私の所に来ようとする。何で?

 刺客の人たちが止めてくれた。ナディアとフェンフェンも壁になってくれる。

 職員さんも出てきて、落ち着くように言う。


 すると、扉が開いて、ギルマスとマリアンヌさんが入ってきた。

 仲間二人は今度はマリアンヌさんの所に行こうとした。けれども、刺客の四人に羽交い締めにされて動きを封じられた。

 刺客の人たちは結構な技量がある。討伐依頼をいくつか受ければ、すぐにDランクに上がれそうだ。




 ギルマスが仲間二人に説教をした。二人は下を向いて黙っている。

 そんな訳でようやく、私たちへの取り調べが始まった。


 ゴブリンアーチャーの件。

 本来、Eランクのゴブリンアーチャーは身を隠すことはしない。遠距離から当てる技量も無い。今回のは、非常にレアケースのようだ。

 ただ、異変との関連性は無視できない。ここ数日の魔物騒動もある。調査隊を送るべきか、ギルマスや職員さんたちは悩んでいた。


 ボルグの件。

 一度目はボルグがふざけながら戦ったことを全員が見ている。

 二度目。彼らはマリアンヌさんの言いつけを破り、キャベツサークルから脱走した。そして、尻尾プラントと戦い、ボルグは滅多斬りにされてしまった。 

 仲間二人はボルグがあんな簡単に負けるはずがないと言う。あろうことか、魔女や受付嬢の呪いだと主張した。

 魔女は止めてよ……。

 ギルマスは頭を抱えていた。


「ボルグは問題児だが腕っぷしは本物だ。確かに、二度も続けて負けるのはおかしいと言えるが……」


 ボルグが負けた尻尾プラントは、南方から来た危険な上位種とかではなく、通常のEランクの個体だった。

 ひとまず、魔女呼びを注意してくれた。


 モーガンのパーティの件。

 マリアンヌさんは新人によくあるミスだと言った。

 特別変わったことは無かった。


 フェンリル様大戦隊の件。

 ロレッタは普通に戦って負けたと言った。

 こちらも特別変わったことは無かった。


 証言から検証すると、レアケースが発生して、それからミスがいっぱい起きたということになる。つまり、不思議なことが起きたのだ。

 仲間二人は昨日の占いのことも知っていた。"輝かしい勝利"とは真逆になった。あれやこれやと酷いことを言い出した。そんななら、一緒に来なければいいのに……。


 これで取り調べは終了となった。ボルグの仲間二人は部屋に残るように言われた。たくさん説教されるといい。




 採取した収集品を納品コーナーに持って行く。

 ステラさんの受付で依頼の処理をしてもらう。ゴブリンアーチャーの弓のことを聞かれた。さっきの部屋で魔石と一緒に職員さんに渡したと答えた。

 依頼完了。疲れた。


 刺客の人たちはキャベツをヤンおじさんの所へ届けに行くと言う。ここでお別れだ。彼らがいなければ、道中は大変なことになっていた。私は精一杯の感謝を述べた。


 マリアンヌさんはギルマスの所へ戻った。エンマのパーティに、他の皆もお礼を言っていた。


 そして、入れ違いにトムさんが入ってきた。酒場の隅でコッソリ報告する。トムさんは首を傾げていた。ギルドの職員さんが呼んでくれたので、トムさんもギルマスの所に行った。


 ようやく休めると思ったら、ナディアから話があると言われた。

 兵団関係者の家の間で噂になっていることがあるらしい。そして、ボルグの両親も兵団関係者と教えてくれた。


「サンドラが"ヒール"を使った話。ルーシーのお母さんにカレンちゃんが教えたって噂なんだけど……」


 どういうこと?

 ナディアは獣人のお姉さんと言った。


「ミレイのこと?」

「名前知らないんだ。いなかったから」


 サンドラ救助隊が活動していた頃、ナディアはヒューゴたちと南方のダンジョンの駐屯地でサポーターをしていたらしい。ディーノさんたちと一緒に戻ってきたから、ミレイのことを一度も見ていない。


 それで、教会でミレイに誰が"ヒール"を使ったのか話題になった。凄腕の神官の冒険者が街に来たに違いない、と。カレンはポーションを飲んだと答えた。神官長は"ヒール"の痕跡があると言ったけれど、私の持っていたポーションだと聞くと、それ以上は追及しなかった。


 しかし、ルーシーのお母さんは不安になって、カレンに尋ねた。ルーシーの日ごろの行いが悪くて、神官様から施しを頂けなかったと思い込んでいた。

 絶対に内緒にするという条件で、カレンは私が"ヒール"をミレイに使ったことを話した。


「絶対に内緒の話が何で広まってるの?」

「わかんない」


 そして、私がルーシーにも使おうとしたのをカレンが止めた。私が転倒したこと。帰り道で"救助"してくれた冒険者がヘッポコだったので、私が戦ったこと。さらに、私が騒動の途中で私が力尽きて寝てしまったこと。これらを説明して、カレンは自分の判断は正しかった。ルーシーのことは止むを得なかったと言ったそうだ。


「ヘッポコって……カリーナのパーティのことだ」

「あー、耳に入らないと良いね」


 もう考えても仕方がない。午後に会うから、そこで直接聞くことにした。


 


 昼にはまだ早いけれど、ご飯を食べよう。

 カリーナ、モーガン、ロレッタはフェンフェンと戯れていた。彼女らも一緒に食べると言う。

 

 給仕の人が事情により料理が変わったと言った。調理場では街の防衛にあたっている冒険者たちの食事を優先して作っていた。場所によっては、兵団の分も担当するらしい。その上、材料の入荷も滞っている。

 モーガンとロレッタは新しいメニューを見て、村での食事と同じだと言った。多彩な料理が食べられるのも冒険者の魅力だった。 

 質素だけれど、味はまあまあだった。


 そうしていると、受付が騒がしくなった。

 街の人たちが伯爵の指名依頼を止めようと署名を持ってきたようだ。私はフードを深くかぶって隠れた。

 伯爵は街の人を安心させるためにカールと組んで欲しいと言っていたけれど、逆効果のようだ。

 

 変なうわさも流れているし、そろそろ普通に冒険がしたい。


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