六十一話 人の振り見て
「ヘルプ、ミー!?」
ボルグは私が"ヒール"を使えることを知っている?
「私は使えませんよ。早く応急処置をしてください」
仲間の二人に呼びかけた。すると、二人は私の所に走ってきた。
ザッ!
急に目の前に壁ができた。
マリアンヌさんだ。鎧を着ているのに素早い。
フェンフェンも前の立とうとしてくれていた。素早さで負けて、くやしそうな顔をしている。
仲間の二人はボルグへの"ヒール"を懇願する。マリアンヌさんと私の両方に。この二人も私が"ヒール"を使えることを知っているの?
「だから、私は使えないです」
しかし、二人は昨日使ったと聞いたと言う。城壁の上に彼らはいなかったはず。
何となく、横のカリーナを見る。
「使ってたよね?」
見られていた。
カールにカリーナ、他に何人か見ていたのだろうか? 噂になっているの?
私はカリーナに見間違いだと言う。フェンフェンも首をプルプル振って否定する。
「……わかった。後で、みんなに見間違いだって言っておくね……」
みんなって、どういうこと?
ナディアが何か言いたそうにしている。
そこにモーガンが割って入る。
「……止血しなくていいの?」
ボルグは足をじたばたさせている。
「俺はまだ冒険がしたい!? やりたい事があるんだ!?」
元気そうだ。
ヤンおじさんの刺客たちが見るに見かねて応急処置を買って出た。
ボルグの右手の鎧を脱がして腕を縛る。千切れた腕を拾い、マリアンヌさんから氷の袋を貰う。
けれども、ボルグたちは不満のようで、私たちに"ヒール"をくれと迫ってくる。
前世のMMOで経験あるけれど、支援クレクレとかマナーの悪い行為だよ。この世界だとMPが体力みたいなものなので、スキルを使うと疲労する。より一層、相手の負担を考えて行動しないけない。
ゴネる彼らをマリアンヌさんが叱る。そして、私が"ヒール"を使えないことを釘をさすように言い聞かせる。
それで結局、マリアンヌさんが"ヒール"を使うことになった。私のことを噂話として揉み消す為だ。申し訳ない。
「黄金の大地に立つ我が神よ。満たし満たせり豊穣の幸。されど我らは迷い躓き苦しみ悶えております。どうか御手にてお救いください」
まばゆいピンクの光がする。ボルグの手は綺麗にくっついた。周りから感嘆の声が上がる。
ボルグは飛び起きて、はしゃぎまわる。これ見よがしに欠損していた右肘を動かしている。安静にするという言葉を知らないのだろうか?
ドコッ!
マリアンヌさんがボルグを蹴っ飛ばした。それから、仲間の二人を睨む。あまりの迫力に二人とも尻餅をつく。
マリアンヌさんは気絶したボルグを連れて帰るように言う。しかし、二人はボルグ抜きでは森の中を歩けないと言う。よく見ると、装備もいい加減だ。ここまで自力で来れる冒険者ではない。
仕方がないので、二人はボルグを担いで私たちの後ろを歩くことになった。
前方に出現した尻尾プラントは、いつの間にかフェンフェンが倒していた。
先に行こうという時になって、カールと目が合った。怯えている。流血に驚いたのかな?
「この非常識な連中は何なんだ……」
気が抜けそうになる。
「あなたも同類でしょ? 権力を振りかざす分、あなたの方が面倒なんだけど……」
「俺が……俺って、こんななの?」
「そうだよ」
人の振り見て我が振り直せ。
よく反省してください。
少し進むと、広場に出た。
真ん中には大きめの石がサークル状に配置されていた。通称"キャベツサークル"。この中には、尻尾プラントは出現しない。人がいると、魔物もあまり近づいてこない。つまり、安全地帯だ。
ボルグをここに寝かせて、私たちは先に進むことにする。
この広場から道が三本に別れていた。
ヤンおじさんの刺客たちは、慣れている北北西ルートに行くと言う。
隠しゾーンがあるのは北西ルートらしい。一番広くて長い。
西北西は"魔の道"と呼ばれている。暗くて、狭い。それで魔物にやられる冒険者が何人も出た。収集品が特別多い訳でもないので、マップが人で混んでいるとかでなければ行く理由は無い。
そんな訳で、私、モーガン、エンマの三組は北西ルートを選んだ。安全のために、お互いの見える位置で採取を行うことにした。彼女たちは昨日もこのやり方で採取したそうだ。今日はフェンフェンとマリアンヌさんがいるので、近くにいれば安全度が格段に上がる。
カールに確認を取ると、返事が鈍い。やる気が無い訳ではなさそう。歩いて疲れたのか、流血のショックか、本当に日ごろの行いを反省しているのか……。
先に進む。緑色の光景が続く。空まで緑に見えてきた。
私たちは進行方向の右側で採取をする。
モーガンとエンマは左側で採取地点を交互に譲り合っている。採取のペースは落ちるけれど、アイテム袋を持つ私たちとでは採れる量が違う。三人組のモーガンたちは背負い籠を一つ、五人組のエンマたちは二つしか持っていない。帰りの戦闘を考えると、全員で籠を背負うのは危険だ。
前方にキャベツが三個生えていた。マップ全体が緑色な所為で判り辛い。
"魔力探知"によると、あれはキャベツで間違いない。フェンフェンもそうだと言っている。
けれども、念のために確認を怠らない。ナディアとカールが槍の柄で突くことになった。カリーナはもしもの事態に備えて弓を構える。私も魔法の準備をする。
「うおおお!?」
カールがキャベツをバシバシと叩く。違う、そうじゃない。
ナディアが手本を見せる。左右に叩いて、上部をくりくりする。もし尻尾プラントなら、これで触手か口が動き出すらしい。
「ぬ、おお!? ひゃあっ!? 動いた!?」
カールが私に向けて、後退りする。華麗に避けようと思ったら、マリアンヌさんが受け止めてくれた。
「落ち着きなさい」
マリアンヌさんに叱られて、カールは腰を落とす。
次は採取か、収穫かどっちだろう? 採取で良いか。
見張りは交代制、前衛のナディアとカール、索敵のできるレンジャーのカリーナの三人で回す。ここならフェンフェンだけで十分だけど、上位の狩場に行く為の実地訓練だ。
ナディアが見張りについたので、カールに採取を手伝うように言う。
採取のやり方は、普通のキャベツと同じ。外側の硬い葉を避けて、中心の丸まっている部分の下の茎の所をナイフで切る。やり方をカールに教える。大人しく聞いていた。
「う、うぅ……」
カールの手つきは怪しい。指を切ったら私の所為?
採ったキャベツは一度小さい籠に集めて、それから私がアイテム袋にしまう。
余った外側の葉は時間が経つと消滅するらしい。
カリーナから、今日はどのくらい採るのか聞かれた。マリアンヌさんに馬車一台分までと言われたので、そう答えた。
「……大変だね」
「薬草や買取値段の高い野菜も採取するよ」
カールにも伝わるように言う。
カールの表情は、こんなことやりたくないと考えているように見える。口に出さずに、次の行動に移っているから本当に反省はしているみたい。だとすると、私はカールを励ましたりした方が良いのだろうか? これまでのカールの行いから、到底そんな気分になれない。そこは無事にギルドに戻ってから考えることにしよう。
三か所目。キャベツとダイコンに薬草が落ちている。
私たちが採取を始めようとすると、フェンフェンに呼ばれた。
進行方向の左側、後ろの方でエンマたちが採取をしている。見張りは戦士の男子二人。スカウトのエンマが採取をしているからか、森の中のゴブリンに気がついていないようだ。
マリアンヌさんが知らせるべきか聞いてくる。同じ冒険者として、新人を甘やかす気はない。けれども、大怪我はしてほしくないそうだ。
「見張りの戦士がいるから、ゴブリンなら大丈夫ですよ」
「それが、ゴブリンアーチャーなのよ」
「え?」
"魔力探知"の範囲を広げて確認する。本当だ。
私の確認と同時にナディアが喋った。
「ここにゴブリンアーチャーはいないはずです」
私は異変の再発が頭をよぎった。
ザシュッ!
音がした。
エンマが倒れた。
マリアンヌさんが私たちの前に出て、盾を構える。
フェンフェンが自分が行くと言って、エンマたちの所に走る。
エンマのパーティは混乱していた。誰かのナイフか剣がエンマに当たったと勘違いしている。それで、森のゴブリンに背を向けている。
ナディアが叫ぶ。
「森からが矢が飛んでくるよ!」
エンマたちのパーティが私たちの方向を向く。違う。逆だよ!?
「ウォン!」
フェンフェンが走り、飛んできた二発目の矢を噛みついてキャッチする。
「矢だっ!?」
彼らはようやく状況を理解した。慌てて、森に向かって盾を構える。
フェンフェンはそのまま森へと突入して、ゴブリンアーチャーを倒した。そして、弓を咥えて戻ってきた。
私たちは採取を中断して、エンマたちの所へと向かう。
エンマは首に矢が当たっていた。右半分を切り裂き、矢はどこかへと飛んで行った。
血管を損傷したのか流血が酷い。攻撃のショックで気を失い、痙攣してる。これではポーションも飲めない。
私が何か言うよりも早く、マリアンヌさんは"ヒール"を使った。
前世の医療技術の進んだ世界でも助からないケガだ。しかし、回復スキルの力で一瞬で完治した。さすが、ゲームの世界。
エンマの仲間たちが涙を流してお礼を言っている。マリアンヌさんが落ち着くように促す。
ここはダンジョンの中だ。今、この瞬間にも危険が迫っているかもしてない。けれども、私もエンマたちの状況に夢中になっていて、周囲への警戒を忘れていた。
フェンフェンが見張りをしてくれていた。私を見て、ポンコツめと言っている。可愛くない。
カリーナがゴブリンアーチャーの使っていた弓を拾う。
「私のと同じだ」
冒険者ギルドの近くの武器屋で売っている一番安い品らしい。昨日、カリーナの弓はカールに壊されたので、予備に買っておいた弓を持ってきていた。
という事は、誰かの落とし物だろうか? それをゴブリンがたまたま拾っただけなのか?
もしくは、異変が再発した可能性もある。
前方で採取していたモーガンのパーティも集まってきた。街に戻るべきか相談する。
エンマはまだ目を覚まさない。マリアンヌさんが担架を貸す。それで、キャベツサークルまで一度戻ることになった。
少し歩いた。
フェンフェンが後ろから魔物が来ると教えてくれた。
モーガンのパーティが戦うと言う。ローテの順番らしい。
モーガンのパーティは同期で中は強い方だ。男子の戦士二人に、モーガンは魔法使い。バランスも良い。森の奥にも進んでいる。
相手は暴ウルフ二匹だ。余裕のはずだった。
しかし、片方の暴ウルフが捨て身の突進を仕掛けた。剣は刺さったが、戦士が転ぶ。
もう一人の戦士が驚く。その隙を付いて、もう一匹の暴ウルフが戦士の腕に噛みついた。こちらも地面に倒れる。
まずい状況だ。フェンフェンが助太刀に向かうか私に聞く。
すると、モーガンが"マジック・アタック"のスキルを使い、杖で暴ウルフを殴った。両方のウルフを交互に殴る。そう、杖は殴る為にある。
戦士二人も暴ウルフに何度も剣を振る。
やがて、最初に突進した暴ウルフは灰になった。
腕に噛みついた方の暴ウルフはしぶとい。モーガンがまた杖で殴るも避けられた。もう一人の戦士が起き上がって剣を振り下ろす。暴ウルフは灰になった。
激戦だった。見ている方もヘトヘトだ。
戦士二人は皮鎧をしっかり着ていたので軽傷だった。二人はキャベツサークルまで歩けると言うので、そこで治療することになった。二人はポーションを飲んで立ち上がった。
カールはビクビクしている。貴族だからか、こういう現場に慣れていないのだろう。そういえば、昨日の戦いでも少しおかしくなっていた。
再び、歩き出す。
キャベツサークルまでもう少しと言う所で、前方に赤い物体が転がっていた。
「ヘルプ、ミー……」
ボルグだ。尻尾プラントに切り刻まれている。そして、お腹が裂けて大変なことになっていた。
そして、カールが大声で泣き出した。
「うわあああああ!?」
戦闘や負傷者を何度も見て、ショックが限界に達したようだ。




