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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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六十話 慎重な戦い


 大勢の冒険者と街の中を歩く。五十人くらいかな?

 最近では珍しくもない光景のはず。けれども、注目の的になっている。


 ロレッタ曰く、私たちが完全武装でギルドに向かったことで、何かあったと騒ぎになったらしい。ロレッタたちは今日を休みにするか悩んでいた。騒動を聞いて、ギルドに行くことに決めたそうだ。

 モーガン曰く、冒険者ギルドに人が入ったり出たりしていた。指名依頼の事は街中に伝わったと思われる。

 すっかり有名人になってしまった。


 後ろの方の新人冒険者たちがそわそわしている。周囲からじろじろと見られるから?

 マリアンヌさんが一度止まるように言う。

 どうやら、森に行くことが不安のようだ。ここ数日の異常事態に、ケビンおじさんが怒っていたこと、ギルマスに注意されたこと、街の人からの視線などなど。随分と怯えている。この状態で、街の外に出るのは危険だと思う。

 マリアンヌさんが優しく説得する。落ち着いた彼らは、素直にギルドに戻ると返事をした。

 マリアンヌさんは受付で自分の名前を出すように言う。Aランク冒険者の進言を受けたのなら、依頼失敗扱いにならずにキャンセルできるかもしれない。ここのギルドはそこまで厳しくないので、最初のマップ行きなら問題ないはずだ。残った者を見ると、キャベツ帯組は全員健在だった。おそらく、彼らにペナルティは何もないはずだ。




 再び街の中を進む。人数は半分になった。

 残ったパーティは、ロレッタ、ウィル、小麦の三組。知り合いばかり。色々な意味で不安だ。


 さっきのことで、みんながマリアンヌさんに話しかけるようになった。Aランク冒険者と話せる機会なんて滅多にない。今まで怖い人かと警戒していたみたいだけど、同じ新人たちに優しく接していたのを見て認識を改めたようだ。実際には、ものすごく怖い人だよ。


 カールを見る。うつむきながら歩いている。何て声をかけていいのか判らない。


 ひょっこり目が合って、ヤンおじさんの刺客と人たちと話をした。

 四人組で、Eランクの男子三名。戦士三人に、リーダーがレンジャーだ。ここもバランスがいい。

 戦士三人は背中に大きな籠を背負っていた。そして、リーダーは矢筒を三箱担いでいる。火属性の矢があれば、尻尾プラントをサクサク倒せる。三往復する為には、戦闘時間も短縮する必要がある。

 彼らは三年目の冒険者で、普段は街のおつかいクエストばかりをこなしている。言わば、"おつかいのプロ"。冒険よりも日々のエールを選んだ。それでも、同期が頑張っているので、多少の危険を冒してキャベツ帯へ行くらしい。

 昨日は、三度目の収穫から帰ってきたら、街がゴブリンの襲撃で大変なことになっていた。それで防衛の仕事をするか考えた。けれども、彼らは店の人たちとのつながりを大切にすることにした。ゆくゆくはアイテム袋を買って、採取専門の冒険者になることも考えているそうだ。

 キャベツ帯にも専属の冒険者がいたと言う。異変の時に、私たちより先行していて亡くなったパーティがいて、彼らがそうだった。ギルドが特別ツアーを開催したのも、そういう事情があったからだ。

 それから、キャベツ帯に隠しゾーンがあることを教えて貰った。大量の収集品が湧くらしい。さらに、魔物が出現しない。採り放題だ。フェンフェンなら見つけてくれるはず。

 



 北門に着いた。

 先に来ていたナディアと合流する。

 兵士たちがマリアンヌさんに敬礼した。みんなから感嘆の声が出る。ナディアはみんながマリアンヌさんと仲良くしていることに驚いていた。


 ボルグの番になると、兵士たちが彼を止めた。問題児として、評判なのかな? 本人に自覚は無いみたい。


 門の外には、入口付近で採取している冒険たちが待機していた。誰も来ないので、帰ろうか迷っていたそうだ。マリアンヌさんと意気消沈したカールを見て驚いていた。




 森に到着する。

 魔物のお出迎えは無い。入口付近は静かだった。

 入口組の冒険者たちが、ヘルミンさんが森に踏み込んだ途端、暴ウルフが三匹出た話をする。皆が驚く。滅多に出ない、最高難易度の組み合わせだ。

 ナディアが言う。


「毎日通ってるケビンおじさんでも、五年に一度くらいしか遭遇しないんだよ!?」


 マリアンヌさんは暴ウルフに怯える入口組を心配そうに見ていた。装備が足りないと指摘すると、入口組は苦笑いで誤魔化していた。

 刺客の人たちは新人の頃、半年くらい街の仕事をして装備を揃えたそうだ。ただ、そういう冒険者はそのまま就職してしまうことが多いらしい。

 そんな訳で、無理にでも森にアタックして成長するのが、この街の一般的な冒険者の育ち方だ。だから、"始まりの森"の名前で呼ばれるようになった。




 入口組と別れて、西北西へと進む。


 フェンフェンが魔物が出ることを教えてくれた。ゴブリンが二匹らしい。

 そうしたら、ロレッタ、ウィル、小麦の三組のパーティが前に出た。クランを結成したそうだ。その名も"フェンリル大戦隊"。何それ?


「ウォン?」


 フェンフェンも首を傾げている。

 戦士八人、ロレッタだけ別職のレンジャーだ。男子たちを盾にして弓を射る姿は、女帝の貫禄があるような……ないような。

 そんなこんなで、ゴブリンはあっさり倒された。

 マリアンヌさんは今の動きに不満があるようで、このままでは味方に攻撃を当てる心配があると注意した。大戦隊は少し話し合って、各パーティごとに一定の距離を取ることにした。

 

 最初の採取スポットに付く。まだ先にもあるらしいけれど、大戦隊はここで採取をすると言った。ここのマップは、奥に行くほど魔物の遭遇率が高くなる仕様になっている。この辺りで大勢で固まっていれば、暴ウルフも二日に一度くらいしか出ない。入口で三匹引いたヘルミンさんは本当におかしい。




 少し歩くと、一角ウサギが出た。一匹だ。

 私はカールに戦ってみるように言った。早めに戦闘力を知りたい。

 シッカーリト氏は素人同然と言っていた。嘘ではないはず。

 それでも、一角ウサギは装備と腕力があれば誰でも倒せる魔物だ。ルーシーと同じ皮鎧があるならケガもしないだろう。

 ナディアたちやマリアンヌさんも賛成した。引き返すなら早い方が良い。

 カールは前に出る。そして、剣を振り回す。昨日と同じだ。


「う、うお、うおおお!」


 ブン!ブン!ブン!


 一角ウサギは逃げて行った。カールは肥満で背も高い。それなりに威圧感があるようだ。


「うお、うお、うお!」


 まだ振っている。止まるように言っても聴こえていない。我を失っている。

 後ろからゲラゲラと笑い声がする。ボルグのパーティだ。接近禁止令はどうしたの? 仲間の二人も少し素行が悪そうだ。

 マリアンヌさんがカールの手を持って動きを止める。神官戦士だから腕力が違う。カールの腕はピクリとも動かなくなった。

 マリアンヌさんはいくつか声をかけてカールを落ち着かせる。正気に戻ったカールは、その場にペタリと座り込んだ。

 彼はダンジョンに入ってはいけない人間だ。男爵家も伯爵も一体何を考えているの?




 さらに、進む。

 四回魔物に遭遇した。ボルグ、モーガン、エンマ、刺客と交代で倒していった。

 ローテーションで次は私たちの番だ。


 キャベツ帯に入った。目の前の光景が緑色になった。木々は生い茂り、地面には芝生が生えている。

 そんな中、キャベツが一個生えていた。他の野菜はスーパーに置いてあるような姿なのに、キャベツだけ農地にある姿だ。


「ウォン!」


 フェンフェンがあのキャベツは魔物だと言う。"魔力探知"を使うと反応が出た。尻尾プラントだ。

 ナディアたちと相談する。

 今朝から考えることが多過ぎた。私は体を動かしたかった。正確にはゲームがしたい。


「ちょっと突いてみようか」


 私はアイテム袋から槍を取り出した。ニメートル五十センチくらいの長さ。

 マリアンヌさんが辛辣な表情で私を見ている。修業時代にも戦ったことがあるから平気のはずなのに……。

 カリーナが先に矢で射ると言う。慎重派の私は賛成する。

 

 ヒュン


 外れた。

 後ろから小さい笑い声がした。ボルグたちだ。消えて欲しい。

 それを聞いたカリーナは、怒り気味にもう一度射る。


 ザシュッ!


 当たった。端の方だけど。

 尻尾プラントの巻いていた葉が広がり、口のようなものが見えた。キャベツと間違えて手を伸ばすと、あの口にかじられる。

 さらに、二本の触手を振り回し始める。触手の先は平べったくなっていて、トゲが付いていた。当たると肉を切り裂く。長さは二メートルもない。動きは遅い。パターンを見極めれば大丈夫だ。


「ウォン!」


 フェンフェンが触手を一本、爪で切り落とす。

 

「ガゥ……」


 これで大丈夫だろと言いながら、やれやれと顔を向けてくる。むかつく。

 私は槍を構える。慎重に行く。ヒットアンドアウェイだ。

 触手の動きを見る。縄跳びの紐より遅い。パターンを見極める。そして、控えめに突く。


 グサッ!

 

 すぐに後ろに下がる。

 思ったより柔らかい。ギルマスの言っていた"勢いで突き抜ける"の意味が分かった。ゴブリンや暴ウルフ相手に体重を乗せて攻撃している冒険者を何人か見た。ここでは、それをやっては命取りになる。いかにも初心者向けダンジョンらしい仕掛けだ。

 

 攻撃を受けた尻尾プラントの動きが鈍くなった。触手が地面に落ちた。もう動かす体力も残っていない。


「ガゥ!」


 フェンフェンはやられた振りかもしれないから慎重に行けと言う。

 もちろん、油断しない。軽く突いて、すぐに下がる。


 グサッ!


 尻尾プラントは灰になった。

 凄く疲れた気がした。緊張で手が汗だくになっていた。

 魔石を拾って、後ろを向く。みんな心配そうな顔をしている。マリアンヌさんは安堵の表情を浮かべる。信用が無い。

 またボルグがちょっかいをかけてくるかと思ったら、刺客の人たちが止めてくれていた。あちこちでおつかいを頼まれるだけあって、気配りのできる人たちだ。

 カールは何か言いたそうに私を見てる。


「どうしたの?」

「ズルくね?」

「えぇ……」


 槍で突くのが卑怯なの? フェンフェンのことは自力で従えていないので、ズルと言われたらズルだけど……。

 そもそも、あなたにフェアプレーの精神なんて有ったの?


「こういうものだよ。槍、弓、魔法で遠距離から攻撃すれば簡単に倒せる。それでいいの」

「……そうですか」


 納得してないような顔。一体何を考えているの?


「ウォン!」


 フェンフェンが吠える。前方に尻尾プラントが出現した。即沸きの個体だったようだ。目の前に再配置されるのは運が悪い。


 次は、ボルグの番だ。


「俺っちが手本を見せてやんよ」


 槍を無駄にクルクルと回している。パフォーマンスのつもりかな?

 カールだけでも厄介なのに……。

 うん、でも、露骨にフラグが立っている気がする。このパターンは……。


「ちょええええ!」


 ザシュゥゥゥッ!


「ノオオオオオ!?」


 血しぶきが上がる。

 ボルグの右手の肘から先が無くなっていた。

 どうやら、彼はキャベツ帯の恐ろしさを身をもって教えてくれる人だった。


「ヘルプ、ミー!?」


 私たちを……ではなく、マリアンヌさんを見ている。

 マリアンヌさんは動かない。みんなもマリアンヌさんを見ている、


「主君の愛弟子を魔女呼ばわりする手合いに、救いの手を差し伸べるなんてあり得ないわ」

「ノオオオオオ!?」


 絶叫する。元気そうだ。

 マリアンヌさんは仲間の二人に、傷口を縛るように言う。氷と皮袋を渡して、千切れた右手を入れるように指示する。何だかんだで、慈悲深い。これで街に戻って教会に行けば、元通りにくっつくと思う。

 

「魔女様あああ!?」


 ボルグが私を見る。魔女呼びを止めろって、今言われたよね?


「"ヒール"をくださぁぁぁい!?」


 私に? 何で?


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