表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
60/87

五十九話 キャベツ帯へ


 ギルドのフロントに戻るとナディアの声がした。


「サンドラ!?」


 駆け寄ってくる。カリーナや仲良くしていた新人女子冒険者たちも。


「一度組んでみることになったよ」

「じゃあ、私も行く!」


 そこにケビンおじさんが割って入る。怒り気味に止めようとする。トムさんとディーノさんも出てきて、ケビンおじさんを鎮めようとする。

 ナディアや他の女子たちは状況が判らず、ぽかんとしている。


 伯爵側が退室した後、会議室にいた人たちに私が勇者職であることを話した。

 トムさんは男爵夫人がこちらの弱みを握って何かを企んでいる可能性を懸念していた。それは伯爵もシッカーリト氏も知らないことだ。もしもの事態に備えて、信頼できる街の住人に相談しようと考えていたらしい。

 それで、ケビンおじさんはやや混乱気味になっていた。


「マリアンヌさんが一緒に来てくれるから大丈夫だよ」


 マリアンヌさんは何かを察したのか、ナディアを同行させてもいいと言った。


「あの子とのペアよりも、同世代の冒険者が何人かいた方がいいでしょう?」

「あー、でも……」


 ヘルミンさんを見る。ステラさんが彼女をギルドの客室で休ませると言う。それから、職員寮を引き払うらしい。


「それなら大丈夫かな?」

「むー、迷信ですよー」


 それならと、カリーナが手を上げた。

 しかし、マリアンヌさんは疑っている。


「お金儲けのチャンスと顔に書いてあるわ」

「半分くらい、えへへ……」


 私は彼女のパーティメンバーが入院していることを説明する。


「昨日、退院して、そこにいるよ。それで街の中の仕事をするつもりだったの。しばらく、戦闘は控えるように言われてね。でも、これから街を出るお金も稼がないといけないから」


 そういえば、カリーナは余所の街から来たのだった。


「戦士二人に、レンジャー、魔法使い。バランスはいいよね」

「じゃあ、決定!」


 ケビンおじさんは不安のようだ。男子も入れようと言って、急に黙った。


「あぁ、すまん……」


 ヒューゴたちのことを思い出したみたい。私もカールを相手に女子ばかりなのが気になっていた。彼らがいてくれたらと思った。


「それならよ。俺っちなんて、どうだい?」

 

 知らない声? 金髪のモヒカンの男子がいた。


「ボルグ!?」


 ナディアが名前を呼ぶ。ここで新キャラか。チャートにどう影響を及ぼすのだろう?


「彼はボルグ。二年目のDランクよ」


 二年目でDランクになれるのは優秀な冒険者だ。一般的な冒険者だと、昇級に三年かかる。

 ヘルミンさんも知っているようだ。


「人手不足で、前倒しで昇級したのですよ」


 つまり、微妙な実力ってこと?

 ナディア曰く、馬車の護衛で問題を起こして、パーティが解散したそうだ。そんな身で売り込んでくるとか、いい度胸してるとしか……。

 参加する理由を聞いてみる。


「あのボンボンと魔女が組むとか、絶対面白いじゃん」


 ただのアホだった。

 ケビンおじさんの拳骨が飛ぶ。


「失礼だろ!!!」


 滅茶苦茶怒ってる。気さくな酔っ払いだと思っていたのに、印象が変わった。そういえば、ほこら周辺で採取するパーティのまとめ役だった。実質、クランのリーダーだ。厳しい面もないと、人をまとめることはできない。


 ナディアがこっそり聞いてくる。


「何かあったの?」

「あったけれど、言えないことだから聞かないで……」

「……わかった」


 ナディアもケビンおじさんの豹変具合に驚いているみたい。

 

 伯爵の見送りを終えたギルマスが、カールと一緒に戻って来た。

 カールは……泣いている。先ほどの件で叱られたようだ。教えた男爵夫人が一番悪いと思うけど……どんどん対決フラグが立ってきた。

 私はカールに話しかける。


「これからの相談しようか?」

「……はい」


 虚ろな返事だ。

 ひとまず、場所を変えようと思う。しかし、ギルド中の目線が私たちに注がれていた。この場で、話を続けるしかない。


 モーガンはキャベツゾーンへ行く予定だと言う。


「サンドラとフェンリル様が一緒だと心強いんだけど……」


 他の冒険者も私たちが行くなら、最初のマップの西北西で採取をすると言う。ここ数日の魔物の襲撃事件のことを鑑みると、再び森で異変が起きる可能性もある。そうなると、採取も命懸けになる。


「キャベツ帯はまだ行ったことがないんだ。そこの"尻尾テールプラント"は動かないんだよね?」


 キャベツ帯は西側にあるマップだ。文字通りキャベツが一杯落ちていて、街の特産品でもある。

 推奨ランクは、E。最初のマップと同じ魔物が出る。

 そこに一種類追加されたのが尻尾プラントだ。キャベツに擬態した植物系の魔物で、二本の尻尾のような触手で攻撃してくる。そして、生えている場所からは動かない。

 ゲームはランダムエンカウント制で、魔物に遭遇すると戦闘画面に切り替わっていた。それが実体化したことでアクションゲームの様になっていて、遠くから槍、弓、魔法で攻撃すれば簡単に倒すことができるようになった。

 

「動いたって話は聞かないかな?」

「南方のダンジョンには動くやつがいたらしいけど……」


 靴の裏に種が付いていて引っ越ししてくるとか、そういうのはないよね?

 

「化けてるのはフェンフェンが見つけてくれると思うから、近づかなければ大丈夫だよね。どうかな、カール君? キャベツ帯に行く?」


 カールを見る。もごもごしている。

 みんなも何と答えるか気になっている。


「……キャベツ帯とは何ですか?」

「えぇ……」 


 周りからも呆れるような声がした。

 彼は一度、特別依頼に参加したはず。仕事をサボって、それが原因でヒューゴとレオンが喧嘩になった。


「西北西にあるマップだよ。風のほこらは北北西のマップ。スパイク・ボアがいるのが北西の奥のマップ」


 仕方がないので教える。指名依頼には、この辺も含まれているはず。本人にやる気があるなら、私は構わない。

 カールは説明を大人しく聞いていた。それで、槍なら持っていると言って、アイテム袋から取り出した。二メートルくらい。

 ギルマスはある程度動けないとこの槍では無理だと言う。刺さって、突き抜けて、そのまま転ぶこともあるらしい。

 弓も魔法も使えないので、他の魔物への盾役ということなった。


 そんな訳で、行き先がキャベツ帯に決定した。昨日の疲れと、午後から用事があるので、昼までに帰る予定だ。

 モーガンも午前中で切り上げる。アイテム袋が無いので、たくさんは持てない。午後から、もう一度行くそうだ。

 

 そして、受付に並びに行く。

 ステラさんが呼んでくれて、すぐに依頼を受けることができた。伯爵からの指名依頼だから特別扱いだそうだ。

 モーガンたちは依頼書を手に、列に並ぶ。離れた所で見守る。安全のために、途中までは全員で固まって進む予定だ。

 ナディアは槍を取ってくると言って、先に外へ出た。門の所で合流するそうだ。

 

 カリーナはフェンフェンを抱いて、もふもふしている。

 すると、カリーナのパーティが挨拶に来た。マリアンヌさんにもお礼を言う。


 それから、知らない若い冒険者パーティが私たちに話しかけてきた。彼らは、ヤンおじさんの刺客だった。いつぞやの私たちの様に、ヤンおじさんから頼まれてキャベツ帯へ行くそうだ。他にも二件あって、今日は三往復するらしい。

 彼らの話を聞くと、街は深刻なキャベツ不足に陥っていた。在庫がどんどん消えているらしい。

 不安やストレスが溜まると食が進むこともある。不穏な状況を考えると、飲み食いで解消できるなら良い方だ。これは、たくさん採取しないといけない。


 モーガンたちが戻ってきた。

 もう一組のパーティがキャベツ帯へ行くことになった。その中にギルドで何度か話した女の子がいた。彼女の名前は、エンマだったはず。Eランクのスカウトだ。仲間はEランクの男子四人。魔法使いが一人。槍を担いだ戦士が二人。大きな盾の戦士が一人。バランスのいいパーティだ。

 エンマはカリーナからフェンフェンを受け取り、気持ち良さそうに抱いていた。フェンフェンはちょっと迷惑そう。


 他のみんなは、最初のマップの西北西に二つある採取スポットへ行くそうだ。ウィルに小麦パーティ、ロレッタもいた。

 装備が怪しい者もいて、ギルマスが無理をしないように注意していた。


「俺っちも行くぜー!」


 この声はボルグ。槍を担いでいる。後ろには、ほんの少し見覚えのある新人冒険者の男子二人。彼らもキャベツ帯へ行くと言う。


 ギルマスが怪訝そうにする。彼はGランク降格一歩手前の要注意人物だそうだ。まだ落ちていないのは、何度も"救助"を行っていたから。

 ステラさんがやってきた。ヘルミンさんがクビになった後、研修中だった新人が受付に入ったらしい。それで、彼を知らずに許可を出してしまったそうだ。


 カールが大人しくなったと思ったら、また厄介なのが出てきた。当のカールは、ビクビクしている。

 マリアンヌさんから相手にしてはいけないと目で訴えられた。私は何も言わないで、ギルマスに任せることにする。

 またケビンおじさんが来て、トムさんとディーノさんも来て、少し揉めた。

 ボルグは、わかってると繰り返していた。後輩に仲間の治療費を稼がせてやりたいとも言っている。

 刺客の人たちが言うには、馬鹿でブレーキが利かないけれど悪党ではないらしい。


 しばらくして、私たちに近づかないということで話は纏まった。

 これでキャベツ帯へ行くのは、私とモーガン、エンマ、ヤンおじさんの刺客、ボルグの五組のパーティだ。


 ふと、思い出す。

 前にも、キャベツ帯へ向かったことがある。

 その時は、私たちがヤンおじさんの刺客で、カールを拒んで進んだ。

 そして、異変に遭遇した。


 つまり、この冒険はリベンジだ。"輝かしい勝利"とは、キャベツを大量に持って帰ることに違いない。

 

 私たちはギルドを出て、北門へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ