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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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五十六話 ギブアップ


 起床。

 屋敷のテントだ。いつものように一人と一匹ではない。マリアンヌさんとヘルミンさんがいる。

 ヘルミンさんは私と一緒に寝ると言い出し、ふとんに潜り込んできて、マリアンヌさんに投げ飛ばされていた。

 見ると、ヘルミンさんはフェンフェンを抱いている。いつの間に。フェンフェンは苦しそうだ。

 外は暗い。食事の準備が始まるまで、ふとんの中でのんびりしよう。




 昨日の夜のことを思い出す。


 トムさんは遅くに帰ってきた。男爵家での会議が長引いたようだ。

 騎士たちに交じって報告を聞いた。


 コンナトキー伯爵は採掘場からの撤退に不満そうながら、特に反対はしなかった。やむを得ないという感じ。


 これからの話になった。ジマーリ男爵家に相当の借金があるらしく、返す当てもない。このままでは爵位を剝奪され、領主の座を降ろされる。男爵本人は放心状態になっていた。

 長男のシッカーリト氏は、近隣の貴族や商人に頭を下げて援助をもらうしかないと言った。コンナトキー伯爵も同行して、近隣の領地を回るそうだ。

 ひとまず、伯爵は妹の嫁ぎ先のお家騒動に巻き込まれただけで、特に策略のようなものは無いようだ。王都での立ち回りも中庸であり、先生との揉め事は避けるはずだ。


 次に、街の防衛の話になった。コンナトキー伯爵が手配した兵士と冒険者が明後日に到着する予定だ。チミリート伯爵を始め、近隣の領主に力を貸してもらい最悪の事態に備えるそうだ。

 しかし、何が起きるか見当もつかない状態なので、話は進まなかった。


 どうも、会議は早々に終わったようだ。

 マリアンヌさんが今まで何をしていたのかを、トムさんに聞く。

 トムさんが私を見る。嫌な予感。

 最後に、ギルマスから私の"無限観音像"の話が出た。それから、男爵夫人も会議に混ざりヒートアップした。二時間ほど話し合ったが結論は出なかったそうだ。


「何で、そうなるんですか……?」


 げんなりする。


 イナレートウルトラトカゲからのドロップで変わった木像が出た。私のパーティが所持する権利を主張したが、男爵夫人が兵団の了承を得ぬまま持って帰ってしまった。私は何としても取り返して欲しいとギルマスにお願いしていた。

 

 それから、会議室に"無限観音像"が運ばれ、男爵夫人がいかに自分にふさわしいか熱弁を唱えたと言う。みんな、呆れながら聞いていた。

 そんな中、伯爵の執事の一人が骨董品に深い造詣があるらしく、木像に強い関心を抱いた。王都に持って行って鑑定するべきだと言い出した。

 ギルマスと兵団は価値に関わらず、まず私の手に返すべきだと主張した。冒険者の権利を侵害することになる、と。


 執事がトムさんに、私がこの木像の正体を知っているのかと質問した。

 トムさんには勇者のことは話してあるけれど、"転生者"であることは伏せている。だから、イベントとオリハルコンのことは話せない。なので、エルフの誰かから教えてもらった珍しい木像ということにした。

 先生の屋敷にきたばかりの頃は、エルフたちの顔の判別がつかなかった。教わった相手が判らないので、領地に持ち帰り、エルフたちに片っ端から聞いてみるということにした。最終的に、相手は先生だったということにすれば丸く収まると考えていた。


 しかし、これが裏目に出た。

 執事が古代の秘宝かもしれないと騒ぎ出した。我々が買い取るべきと伯爵をはやし立てる。

 伯爵は先生と揉めるのは避けたいが、執事の進言を無下にもできず、トムさんに金額を提示した。


「サンドラ君が納得できなければ、また明日の会議で話し合うよ」

「えぇ……」


 マリアンヌさんが怒る。その場で突っぱねるべきだったと。

 トムさんは伯爵の提案を拒むのは難しいと言う。穏便に済ませるために受け入れるしかなかったそうだ。

 それで、金額を教えてもらう。結構な額だ。

 しかし、これでオリハルコンを買うことはできない。貴重な金属で、貴族や高ランクの冒険者でも入手不可能なのだ。

 現在、王国内に存在するオリハルコン製のアイテムは四つ。国宝の儀礼剣。ドワーフの至宝。とある貴族の家の家宝。そして、勇者ロッキーの剣と短剣だ。どれも値段が付けられないものだ。

 そういえば、今の勇者はロッキーの短剣を質に入れて流したんだった。とんでもないことだ。

 そして、ゲーム内で入手できるオリハルコンは三つ。一つ目は先生たちが見つけて、勇者ロッキーの剣と短剣になった。二つ目はこのイベントをクリアすると手に入る。それから、三つ目はクリア後の隠しダンジョンにあると超司教様が言っていた。

 私が魔王討伐の為に最強武器を作るには、このイベントをクリアするしかない。決して譲ることはできないのだ。そんな訳で、提案を断ることにした。

 話を聞いていたヘルミンさんが驚く。


「かなりの高額ですよぉ? 本当にことわ、ヒック」

「大事なものだったかもしれないから……」


 トムさんは私の判断を了承してくれた。明日の会議で再び話し合うそうだ。申し訳ないけれど、魔王討伐の為に頑張ってもらう。

 すると、ヘルミンさんが私に後ろから抱き着いた。


「私とぉ、サンドラさんの愛はぁ、お金なんかで引裂けないの、ヒック!」


 マリアンヌさんが引き剝がして、放り投げてくれた。

 

 トムさんがまとめの話をする。

 先生の騎士隊は、異常があれば街の兵団に加勢することになった。通常の警備などは手伝わない。

 ひとまず、マリアンヌさんたちには採掘場での疲労の回復に努めて欲しいと言った。

 これで解散かと思ったら、また私の話になった。

 

「マリーたちが戻ったから……明日からは自重しよう」

「はい」


 まっすぐ頷く。今日の戦闘は本当に危なかった。


 報告の後、トムさんとマリアンヌさんに戦闘中に"ヒール"を使用したことを話した。

 二人とも、その事で尋ねられることは無かったそうだ。誰にも見られてないと思う。

 フェンフェンが自分が悪いとしょんぼりしている。助けてくれた礼を言うと、今度は威張り出した。めんどくさい。




 外が明るくなってきた。

 私は布団から出る。マリアンヌさんが起きて、どこへ行くのかと聞いてきた。脱走するかのように疑われている。私は朝食の準備を毎朝手伝っていると説明した。


 着替えて、外に出る。

 夜番の騎士に挨拶して、先に朝食の準備をする。

 小声で彼と近況を話した。カールの話をすると、彼はドン引きしていた。

 そうしていると、玄関の呼び鈴がなった。応対に出た彼は、顔を真っ青にして慌てながら戻ってきた。

 

 話を聞いて、私は驚いた。

 コンナトキー伯爵から私への指名依頼がきた。カールと一緒に合同移動の馬車を護衛するように言っている。

 ……訳が分からない。頭が真っ白になる。


 マリアンヌさんに知らせて欲しいと言って、彼はトムさんのいるテントに入って行った。私は女性用テントへ向かう。

 丁度、起きて支度をしていた。内容を伝えると苦い顔をしたが、すぐにキリッとした顔に切り替わった。

 外に出て、複数の男性用テントに向かい、戦闘態勢を指示する。

 そこまでやるのかと思ったけれど、私にはどうにもできない。何とかしてもらうしかない。


 トムさんが出てきて、ご飯の後にしようと言う。自分が先にギルドに行き、ギルマスに確認するから待ってくれと続けた。

 トムさん曰く、伯爵は慎重な人物だ。何かの間違いかもしれないとのこと。

 マリアンヌさんは食事後に戦闘態勢を取るように改める。トムさんにも、皆で行くから朝食を一緒に食べるように言った。


 玄関にはギルドの職員が来ていたらしい。トムさんと何か話して帰って行った。

 私は引き続き朝食の準備をする。考えても仕方がない。手を動かしていたかった。


 準備を終えてテントを覗くと、ヘルミンさんはフェンフェンを抱いて、まだ寝ていた。起きたフェンフェンが助けて欲しそう私を見ている。救出ついでにヘルミンさんも起こす。二日酔いで苦しそうだ。


 食事の席に皆が着く。

 フェンフェンは自分で食べると言って、私の後ろに座った。

 ヘルミンさんは私の隣の席に座る。そして、周りの様子がおかしいことを察してか、のんきな口調で質問する。


「何かありましたか?」


 トムさんが簡単に説明する。


「カール君と一緒にサンドラさんが? 一体何を考えているのでしょう?」

「カール様のことは、シッカーリト様が把握しているはずだ。伯爵様に手違いがあっても、彼が止めるはずだが……」

「シッカーリト兄さんは伯爵様と仲が良いと仰っていました。王都にいた頃に、屋敷のパーティに何度も呼ばれていたそうです。そうなると……叔母様が勝手に伯爵様の名前を使ったとしか……」

「それは違うはずだ。伯爵様ご本人がギルドに来られて、サンドラ君に会うそうだ。普通は、こちらから向かうのだが……」


 マリアンヌさんはギルドで会う形でも納得できないらしい。

 未成年の冒険者は依頼に制限が掛かる。護衛依頼を受けることは推奨されていない。

 私は先生の推薦でDランクになった。Dランクは一人前の冒険者と認められた証だ。なので、ギルドが許可すれば、護衛依頼を受けることができる。

 しかしながら、ここでマリアンヌさんたちに一言連絡を入れなかったことが問題らしい。本来なら、師である先生に確認を取るのが礼儀だと言う。急いでいるにしても、仕えている騎士たちを無視するのは看過できないそうだ。


「早い話、ミルちゃんを舐めてるのよ」


 トムさんも会議の時に自分に相談して欲しかったと言った。

 それから、私にはギルドに来ても来なくてもどっちでもいいと言ってくれた。昨日の戦闘で疲れていることにしておくからと。


 しかし、私にはある決断があった。

 いい加減、カールと決着を付けようと思う。

 そして、男爵夫人と対決……は無理だ。


 意を決して、私はカールとパーティを組むとトムさんたちに言った。もちろん、反対された。


「知り合った冒険者が八人も犠牲になってます。もう無視できません」


 ヘルミンさんが、私が気に病むことは無いと言う。


「そもそも、私にカールを擦り付けてきたのはヘルミンさんだよね?」

「そうでしたっけ?」

「そうだよ」


 トムさんが、組んでどうするつもりかと言った。


「ヘルミンさんは"地獄の占い師"、"クレイジーピエロ"、"呪いの受付嬢"の異名を持っていて、パーティを組むと死ぬと言われています」


 騎士の皆から唸り声がした。


「カールは……おそらく命を落とすでしょう」

「生きてる人もたくさんいますよー」


 ヘルミンさんの声を無視して話を進める。


「そして、男爵夫人と戦うことになると思います」


 駄目イベントが続く理由と"無限観音像"のことを考えると、男爵夫人がボスに違いない。倒せば、スタンピードは止まる。もう手遅れかもしれないけれど……。

 

「戦うとは……どうするつもりなの?」

「どうにもできません。それで、昨日のヘルミンさんの占いで、今日、私は"輝かしい勝利"を得ると出ました。つまり、"ギブアップ"します!」

「"ギブアップ"!?」

「先生に『助けて、早く来て!』と頼みます……」


 皆が沈黙した。何を言ってるかわからないよね。

 ヘルミンさんがまた抗議する。


「きちんと当たる時もありますよー」

 

 マリアンヌさんが先生は行きたがっているから、呼べばすぐに来てくれるはずと言った。


 後のことは先生に任せて、私はカールに集中しよう。

 人間同士の争いパートは大嫌いだ。煩わしいことは抜きにして、ミレイやカレン、ルーシーたちと始まり森を攻略したかった。

 ふと思い出す。今日はルーシーの見送りに行く予定があった。

 すぐに、トムさんに話す。

 

 さすがに、今日は休みにするべきかな。けれども、フェンフェンは冒険に行きたいと言う。森への採取でもいいそうだ。ヘルミンさんも二日酔いみたいだけれど……。


「大丈b、ヒック」


 巻き添えで私まで死なないように注意しないと……。


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