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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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五十四話 東門の戦い その6


「お前たちの所為で、みんな死んだんだ!」


 生き残った兵士が大声で叫ぶ。


 シリアスイベントだ。苦手だからボタン連打しよう。


 ……。


 違う。違う。ここで現実逃避してはいけない。城門の前で大勢の死体を見たからかバグっていた。

 

 こうなった原因はカールだ。あのまま待機していれば、ゴブリンたちは攻めてこなかった。採掘場の守備隊と合流して討伐に向かえば、街中に被害は出なかったはずだ。

 その責任が私たちにも及ぶのか否か……選択肢をミスると牢獄行き……どうしてこなった!?

 駄目イベントを放置した結果、最低の事態になってしまった。


「ちょっと待ってくれ!」

 

 ギルマスが叫ぶ。


「ダニエル殿!?」


 指揮官っぽい人が驚く。ダニエルは確かギルマスの名前だ。

 ギルマスは滑り台をゆっくりと下りてきた。片腕だから大変だ。

 そして、曹長さんも現れた。


「兵団長殿、少しお待ちください!」


 兵団長……この領地の兵団の一番偉い人だ。

 ギルマスに続いて、曹長さんも滑り台を下りた。

 中年のマッチョなオジサン二人が滑ってくる。シュールな光景。しかし、今の私には天使が舞い降りてくるようだ。


 下りた所に座っていたカールが立ち上がる。そこにいると、二人が下りられない。

 そして、黙っていればいいのに大声で話し始める。


「俺はゴブリンを倒したんだ!? 何が悪い!? それに問題行動をしたのは、あいつらの方だ!?」


 私を指差す。どういうこと?


「ゴブリンたちが攻めてくるってぇときに、笛を吹いて大騒ぎしてやがったんだ。俺じゃない。あいつらの所為でゴブリンたちが攻めてきたんだ!?」


 私の所為にしたいようだ。私は行動を起こす際には、曹長さんに確認していた。問題ないはずだ。

 曹長さんが叫ぶ。


「その件は、"リラクゼーション"のスキルを使用したのです! ゴブリンたちの咆哮にショックを受けた兵士が大勢いました」


 今度は、ケガをしている兵士が言う。


「事前に伝達がありました。自分も演奏を聞いて、気が楽になりました。スキルで間違いありません」


 カールが不満げに叫ぶ。


「何だよ、それ!」


 下りてきたギルマスがカールの腕を掴んで捕まえる。


「大人しくしろ。一体、何をやったんだ!?」


 ギルマスはカールが門の外に出たとの報告を受けて、大慌てで東門へ向かった。そして、到着したら見張り台の上でカールが叫んでいた。誰も許可を出していないと聞いて、連れ戻すために上ってきたそうだ。


 すると、他にも人がやってきた。あれは、ケビンおじさんと地元の冒険者たちだ。

 そして、トムさんだ。助かった!?

 トムさんから無茶をするなと怒られた。確かに、今回は本当に危なかった。


 ナディアたちはケビンおじさんたちを見て泣いている。それから、仲間が死んだことを教えた。ケビンおじさんたちは悔しそうな顔をしていた。


 兵団長とケビンおじさんは知り合いみたい。それでなのか、兵団の幹部たちの雰囲気が変わった。ナディアたちに同情している感じだ。

 そうして、ナディアたちから簡単に事情を聞くことになった。


「私たちはギルドで、伯爵様を歓迎する為の装飾品を作っていました」


 男子は街の警備や清掃に行き、女子はギルドの中で仕事をしていたそうだ。

 そこに医務室で寝ていたカールが現れ、ゴブリン退治に行くと言い出した。カールは止めても聞かなかった。ナディアたちは私たちが先に退治に向かったと聞いて、遠くから様子を見て危険そうならすぐに引き返せばいいと考えた。それで、しぶしぶ同行した。

 ナディアたちは奥の部屋にいたので、東門にゴブリンが出たことを知らなかった。カールも数百体いる状況を把握していなかった。

 街の中でもパニックが起きないように情報が伏せられていた。野次馬が多かったのは、これが原因かな?

 城門に着くと、カールが門兵に許可はあると言った。すんなり通れたので、問題無いと思った。

 農地にいる数匹の弱そうなゴブリンを見て、このくらいなら勝てると考えた。

 すると、後ろから声がした。見ると、城壁の上に大勢の兵士がいて、自分たちを見ていた。

 そして、受付のお姉さんが走ってきて、それでようやく現状を理解したそうだ。

 

 兵団長が"受付のお姉さん"の言葉に反応した。


「受付……君はまさかニンブル商会の……」


 周囲がざわつく。放蕩娘にして、問題のある受付嬢だと噂になっていることは私も聞いていた。

 ヘルミンさんが言い訳をする。


「私はカール君を止め」

「ウオン!」


 突然、フェンフェンが吠えた。


「ガゥ」


 ヘルミンさんに喋らせるなと言っている。確かに、その方が良いかも。

 顔を上げると、皆が私を見ていた。怖い。


「ヘルミンさん、少し静かにしていてください」

「えー」


 ギルマスも黙るように言う。一体、何をやらかしたんだという目でヘルミンさんを見てる。

 近くにいた兵士さんが従魔にリードを付けるように言った。忘れていた。フェンフェンは嫌そうな顔をしながらも、すぐに付けさせてくれた。


 それから、曹長さんが変わって説明を始めた。


「城門の上から呼んだ件です。彼女から相談を受けまして、自分も了承しました」

「そうか」


 兵団長さんは納得したみたい。私は悪くないけど、ヘルミンさんはどうなるのだろう。


 とうとう問題の場面だ。

 周囲に、どよめきが起きた。

 カールが言い訳をする。


「たった一匹だぜ!? それで、あんなことになるはずがないだろ? 何かの間違いだ!?」


 これに兵団長が激怒した。

 兵団長は先代の領主を甚く尊敬しているようだ。先代の孫二人が揃って大問題を起こしたという事で、その嘆きと怒りは相当なものだ。

 ヘルミンさんが助けを求めて私を見るけれど、何も擁護できない。


 すると、曹長さんがヘルミンさんに助け舟を出した。


「ああなるとは、私も想定外でした」 


 ヘルミンさんは"一匹だけ倒せば大人しく帰る"という提案を受けた。

 曹長さんは若い頃の自分なら同じ判断をしたと言う。貴族の子息であるカール相手に強引な手段は取れないだろうと。

 あのふらふらと歩いてきた一匹のゴブリンが、群れの大事な存在だとは到底考えられない。

 あのラッパは討伐隊が出てきた時に吹くはずだったもの。現場のゴブリンたちがいたずらで使ったに違いないと話した。

 そして、ヘルミンさんが受付嬢ではなく冒険者としてあの場にいたことを伝えると、兵団長が首を傾げた。

 さらに、ヘルミンさんがBランクであり、独断で門の外へ出る権限があると言った。兵団長の反応が止まる。Bランクが信じられないみたい。

 ギルマスが補足する。イナレートウルトラオオトカゲを倒したことを説明し、自分が昇格させたと言った。昨日、ドリル岩石ウルフを倒したことも教える。

 幹部たちは半信半疑になっている。上への報告書では"サンドラのパーティ"が善戦したとあり、私が倒したと思われていたようだ。


「先ほどの戦いでも……その……あまりにも奇想天外な立ち回りでうまく説明できません。しかし、単身でゴブリンの群れに突撃して、三百匹以上を倒しています。さらに、四匹のチャンピオンゴブリンの内、三匹を彼女が打ち取りました」


 兵団長が鳩が豆鉄砲を食ったような顔になっている。

 幹部たちが城壁の上にいた兵士に確認する。みんな、頷く。

 信じがたいけれど、本当の事なのだ。


「我々がゴブリンアサシンに襲われ、全滅寸前になったときも彼女に助けられています」


 曹長さんはヘルミンさんが真剣に戦っていることを力説した。今回の件は、若いが故の迂闊な判断だったと。酌量の余地ありと言ってくれた。


 それから、ナディア、カリーナ、モーガンの三人も奉仕活動のことを説明して、事情を考慮して欲しいと嘆願してくれた。

 さらに、トムさんも加わり先生の名前を出して三人を擁護した。先生は貴族であり冒険者でもある。貴族の権力が冒険者の自由を脅かすことに反対する立場だ。

 そんな訳で、四人の処分はギルマスに任されることになった。


 これで一安心だ。

 見ると、ヘルミンさんが私に向かって笑顔で小さくダブルピースしている。指でバッテンのマークを作り、目で訴えて止めさせた。誰にも見られてないといいけど……。


 そして、カールは捕縛された。


「何で、俺だけ、ふぐっ!?」


 口を塞がれて、兵士たちに連行された。

 

 見張り台に勝手に上がったことも罪に問われるようだ。

 それから、ロレッタたちが城壁に配置された件。これもカールの所為だ。カールの声を現場の兵士がパニックを起こしていると勘違いして、増兵の指示が出たそうだ。お陰で、ロレッタは助かった訳だけど。


 カールとは、これで終わりか……。

 本当、どうすれば良かったのか?

 もしかしたら、更生させるルートがあったのかも。

 そうなると、今回の事件は私が選択肢を誤った所為になる。私がカールを倒していれば、今日被害に合った人たちは助かっていた。

 体の奥が気持ち悪くなった。


 それから、生き残った兵士さんから謝罪を受けた。彼も大変だった。悪く言うつもりは無い。


 城門の方から、マリアンヌさんが走ってきた。後ろに、アッシュさんもいる。

 二人とも、私たちが揉めていると聞いて戻ってきてくれた。

 トムさんがマリアンヌさんに無事に済んだと話す。


 アッシュさんは兵団長をビリーと呼んで気さくに話しかけていた。ドワーフの寿命は三百年ほどある。二人は長い付き合いのようだ。


 今はとにかく休みたい。

 私とヘルミンさんはギルドの客室に戻ることになった。


 結局、人任せで終わった。戦闘で疲れていたので仕方ない。

 ヒールも使ったから……あ、


 コテン!


 前と同じように転んだ。失念していた。

 思いっきり顔面を打った。

 緊張の糸が切れたのか、涙がいっぱい出た。

 ……カッコ悪い。


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