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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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五十三話 東門の戦い その5

 大勢がこちらに走ってくる。鎧の音がする。冒険者や兵団の精鋭たちだ。

 曹長さんやギルマスが身を乗り出して、現状を伝える。ゴブリンたちを刺激するので、門の外に出ないように言った。

 アッシュさんの声がする。今すぐ、突撃すると言っている。

 誰かが街中にゴブリンがまだ残っている可能性もあるので二手に分かれることを提案した。


 そこに、マリアンヌさんの声がした。私を探している。

 曹長さんがここにいると教えた。

 すると、ほんの少し金属の音がしたと思ったら、目の前にマリアンヌさんが現れた。

 マリアンヌさんはAランクの神官戦士。装備も本気の時の鎧を着ている。荘厳な立ち姿だ。

 壁を駆け上がってきたみたい。門の下や見張り台の兵士たちから驚く声がした。

 マリアンヌさんが私を探す。すぐに目が合った。


「ここにいたのね。もう、無茶をしてっ!?」

「あ、はい……思った以上に大変でした」


 怒られた。この場所で戦うには早過ぎた。仕方ない。


「どおりゃあ!」

 

 アッシュさんも上ってきた。


「嬢ちゃん、無事か? それで、ゴブリンは……おうおう、いやがるな」


 ドワーフの戦士だけあって、かなりの重装備だ。この格好で城門の壁を駆け上がってきた。凄いパワーだ。


「実家の畑がメチャクチャだ! チクショーめぇ!」


 農地がどうなったのか。ゴブリンしか見えてなかった。踏み荒らされているはず。


 そこで、またカールが水を差す。


「あんたら、おせーんだよ!? 何考えて、イテッ!?」


 ギルマスが拳骨を加えて黙らせた。これがアッシュさんとマリアンヌさんの拳骨なら死んでいた。


 ゴブリンたちの太鼓の音が変わる。


 ドンドン♪ドロドロ♪

 ドンドン♪ドロドロ♪


 再び攻めてくるようだ。

 門の下で音がした。冒険者や兵士が外へ飛び出して行く。


 マリアンヌさんが私たちのいる見張り台の前に"プロテクション"を使うと言った。

 回復スキルの一つで、聖なる守護の壁を作る。魔物やスキル、魔法、そして邪悪な心を持つ人間を通さない無敵バリアだ。

 掌にピンクの輝きが現れ、そこから透明な光の壁が広がる。うっすらと六角形の模様がいくつも重なって見える。


 見張り台に負傷者を集めるように曹長さんが指示する。そして、無事な者は左右から弓で援護する。

 カリーナが矢がないか再び訪ねてきた。これで最後と言って、二千本出した。

 ロレッタとモーガン、ナディアも集まってくる。ナディアは兵団のアイテム袋を持っていた。家が兵士の家系だったから信頼して任されたのだと思う。彼女は矢を大量に入れて、北側に走った。南側には、カリーナ、ロレッタ、モーガンの三人が矢を抱えて走る。

 そして、カールを見ると腕を組んでボーッとしていた。ギルマスも諦めているのか、手伝えとは言わない。


 アッシュさんが城門から飛び出した。


「行ってくるぜ!」


 マリアンヌさんも続く。


「ここにいてね!」

「もう動けません……!」


 最後の戦いだから加わりたいと思う。けれども、今のレベルで混ざっても、彼女たちの足手まといにしかならない。

 二人とも"プロテクション"の壁をすり抜けて、城門の下へ飛ぶ。

 アッシュさんからは激しい着地音がした。マリアンヌさんは壁を走って下りた。

 すると、野蛮そうな声がした。


「ビビッて、出てこねーのかと思ったぜ!」

「ヒャーッ!」 


 下品な連中。喧嘩を売っているの?

 これから魔物の群れと戦うのに何を考えているの? 

 

「何なの?」

「ウオン?」


 先ほど負傷した魔法使いの兵士さんが事情を教えてくれた。

 彼らは"ワイルドビースト"と呼ばれるBランク冒険者たちのパーティだ。無作法者だが、金を払えば忠実に依頼をこなす。こういう局面に重宝される冒険者みたい。

 他の負傷した兵士からも声が上がる。守備隊の兵士からの情報では、かなりの問題児らしい。それでも、強力な戦力故に頼らざる負えないと言う。

 頭が痛くなる話だ。

 他に高ランクの実力者はいないので、採掘場の防衛は本当に限界だったみたい。

 

 ヘルミンさんが起き上がる。休憩したので、自分も出ると言う。

 体力もだけど、"ワイルドビースト"と揉めないか心配だ。ヘルミンさんは外見だけならヘンテコな格好の可愛い女冒険者だ。あの手の連中は場違いな人間を見ると確実に絡んでくる。そして、ヘルミンさんは余計なことを言って怒らせる。嫌な予感しかしない。

 止めたけれど行ってしまった。


 飛び降りたのに着地音がしない。不思議だ。

 "ワイルドビースト"から声が上がった。案の定、揉め事かと思いきや、上がったのは悲鳴だった。


「"クレイジーピエロ"!?」

「ひええええ!?」

「うわあああ!?」


 急に街の中に戻ると言い出した。アッシュさんたちが混乱気味に引き止める。

 ヘルミンさんが変な名前で呼ばないように抗議する。知り合いかと聞かれて、人の顔を覚えるのが苦手と返していた。

 "ワイルドビースト"から事情を聞くと、ヘルミンさんと一緒にいると災いが起きる的なことを言い出した。ようするに、"呪いの受付嬢"のときと同じだ。


 ドンドン♪ドロドロ♪

 ドンドン♪ドロドロ♪


 ゴブリンが動き出した。

 

 私は起き上がり、城壁の外を見る。

 百体以上のゴブリン。Cランク相当の上位種もまだまだいる。

 それらを指揮するチャンピオンゴブリンの禍々しさ。角も生えているので、鬼と見間違う。おそらく群れのリーダーだ。Bランクでも上位の実力を持っている。


 そして、冒険者と兵士は五十人か……もっといる? ゴブリン側の半分くらい数だ。

 フルプレートの兵士たち。おそらく兵団の精鋭部隊。二十人くらい。その中に兜に赤い羽根を付けた兵士が五人いる。彼らはCランクの実力者だ。

 冒険者の中には、ロバートさんたちもいた。

 男爵家の騎士隊の姿が無い。不参加か、街の中で戦っているのか。


 こちらも陣形を整えて、動き出す。

 先陣を切るのは、Bランクの"アッシュのパーティ"と"ワイルドビースト"。それからマリアンヌさん率いる先生の騎士隊だ。


 両陣営がぶつかり合う。

 ゴブリンたちが吹き飛ばされた。数は半分だけど、高ランクの実力者が多くいるこちらが有利だ。

 

 そして、人間側は突撃する者と城門の前で守備をする者の二つに分かれていた。

 城門に向かってゴブリンたちがくる。城壁の上から矢が飛ぶ。応戦する兵士たち。殆どがDランク以下なので、難なく打ち取られていた。

 

 そして、ヘルミンさんが遅れてスキルを発動した。

 三メートルくらいの玉に乗るヘルミンさん。ラッパを吹きながら暴走気味に走る。

 "ワイルドビースト"が慌てふためきながら、周囲の人間に逃げるように言う。

 ヘルミンさんの玉は次々とゴブリンたちを踏み潰す。けれども、冒険者や兵士まで巻き添えになりそうな滅茶苦茶な状況だ。

 心配していると、冒険者が吹き飛ばされた。リッカルドのおっさんだ。おっさんなら平気のはず……。

 こんなことをしているから、おかしな異名で呼ばれるんだ。

 "プロテクション"を通過できていたので、悪気はないはず。そこがまた恐ろしい。


 そんなこんなで、私たちが勝利した。

 チャンピオンゴブリンはアッシュさんのパーティが倒した。

 私はゲームでドワーフの戦士を使っていた。アッシュさんが"アックストルネード"や"ギガントブロウ"などの懐かしいスキルを使っているのを見て感激した。




 しばらくして、城壁の内側に土魔法で滑り台が作られた。これで下りられる。

 城壁は高さが四階建てのマンションくらいある。怖い。とりあえず、無事に滑れた。

 先に滑っていたフェンフェンが馬鹿にしてくる。むかつく。

 

 城門の方に行く。

 街はグチャグチャになっていた。あちこちで物が壊れている。

 ゴブリンはどこまで進んだのだろう? 教会やカレンの店は無事かな?


 兵士たちが負傷者の手当てと、遺体の収容作業が行っている。

 民間人の亡骸もある。防具も着ていないので、逃げ遅れた野次馬の人かな?

 

「あっ!?」


 後ろから声がした。ナディアだ。私の次に下りてきた。

 彼女が駆け寄った先には若い冒険者の亡骸があった。ヨハンだ。

 さらに、彼女とパーティを組んでいた男子二人の亡骸もあった。


「……何で……ここにいるの……」


 ナディアが絞り出すように言う。きっと、彼女たちを追いかけて来た。そして、戦闘に参加したのだ。

 後ろを見ると、モーガンとカリーナの二人が、泣いているロレッタの手を握っていた。彼女のパーティメンバーも下にいたらしい。

 

 中年の兵士さんがやってきて、私たちにここから去るように注意した。後から来た一般冒険者と思われている。

 私たちは城門の上にいたことを説明した。そして、どこで待機すればいいのか尋ねた。そうすると、中年の兵士さんは上の部隊の人たちと一緒にいてくれと言った。

 私たちは滑り台の所に戻った。


 負傷した兵士を下ろしていた。重症者は紐で吊るした担架に乗せて、前後を兵士が挟む形で下りていた。

 力仕事なので手伝えない。隅っこで、ギルマスが下りてくるのを待つことにした。


 負傷者の次はカールの番だ。怯えて文句を言っている。宥めるギルマス。そして、ヘルミンさんもいる。


「うおおおおお!?」


 ゆっくり滑りながらの絶叫。何を見せられているのか……。

 そして、ヘルミンさんが飛び下りる。また着地音がしない。どういう技術だろう。周りのヘルミンさんを知らない兵士たちが驚いて声を上げる。

 ギルマスが早くカールに滑り台から離れるように言う。カールは滑り台に座り込んでいた。

 次はギルマスの番か。すぐにギルドに戻れるかな。

 回復スキルを使ったので消耗している。帰りにまた転びそうだ。早く眠りたい。 


「はぁはぁ、待ってくれ……」


 ヘルミンさんが手を引っ張ろうとしたけれど、拒否した。

 早くしてくれないかな?

 そんなことを考えていると、大きな声がした。


「あいつだ!?」


 振り向くと、血の滲む包帯を付けた人がいた。鎧を外して、ケガの治療を受けた兵士だと思う。

 そして、後ろに怖い顔をした人がたくさん。偉い司令官みたいな人もいる。兵団の幹部たちだ。

 

 ケガをしている兵士は、城門の下にいた部隊の生き残りだった。

 彼は幹部たちに大声で報告する。

 カールが許可があると偽り、城門の外で出たこと。ゴブリンを攻撃したことで、襲撃が始まったこと。

 

 これは、もしかしてカールは逮捕されるのだろうか? それだけのことをしたと思う。

 これで長く続いた駄目イベントが終わる。


 兵士はさらに続けた。一緒に四人の女の子が外へ出たこと。城門から大声で叫んだ女の子がいたこと。


 私とカリーナたちだ。


 皆を見ると震えている。

 私は曹長さんと相談した訳だけど……カリーナたちはまずい。許可があると偽ったとは、どういうことだろう。

 ヘルミンさんのことは、パーティリーダーである私にも責任が及ぶのかな?


 もしかして、大ピンチ?


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