五十二話 東門の戦い その4
修業時代の話。
エルフの軍隊が訓練をしている。
私は先生と一緒に遠くの丘から眺めていた。
「「「うー!」」」
「「「たー!」」」
「「「とー!」」」
小学生の運動会みたいで可愛い。けれども、皆、Cランク以上の実力があるので、実際にやってることはレベルが高い。
「訓練を繰り返して、体に動きを覚えさせるんだ。もしもの時は、頭で考えて動けないこともあるからね」
訓練通りやればいい。
戦争映画でよくある台詞だ。
「冒険も同じ、最初は指示に従って動けばいいのさ」
ソロプレイを愛する私には関係のない話だ。
この先、誰かの指示がほしいと思うことがあるかな?
私は昔のことを思い出していた。
曹長さんが「訓練通りやればいい」って言ったから。
今や、生意気な狼の魔物の指示に従って動いている。人生、何があるかわからないものだ。
南側にいた弓兵たちが近接戦闘の準備をする。弓を置き、剣と盾を取る。
奇襲されていたら大変なことになっていた。
恥ずかしがらずに、大声を出してよかった。
ゴブリンアサシン。それも三体。
黒いマントに短剣を持っている。
そして、動きが素早い。
放たれた弓を避けて、兵士を襲う。
「うわあああ!?」
誰かが斬りつけられた。
ここにいる兵士の装備は薄い。鉄の兜に胸当て、皮の籠手とブーツだ。
音がするので、茶色の服の下には鎖帷子を着ているはず。それでも、強力な一撃はガードしきれない。
彼らを追い越して、フェンフェンが奥の一体に噛みつく。
そして、ギルマスがショートソードを抜き。最後の一体を止める。
ゴブリンアサシンはCランクの魔物だ。対抗できる兵士が何人いるか。
そして、ギルマスは元Bランク相当の騎士だったと聞く。四十代で、右腕を失って引退した。今の彼にBランクの戦闘力はない。
不利かも。
私の魔法で何とかしたい。やらないと。
私は深呼吸をして、"魔力探知"を発動する
"モグラ亀"の魔石を取り出して触媒に使う。
念を入れてチャージする。
まばゆい黄色の光を放つ二つの石の弾丸ができた。
「ウォン!」
一番奥のやつを狙えと言われた。
フェンフェンの合図に合わせて、私は"ストーンバレット"を発動する。
石の弾丸が上方に弧を描いて、ゴブリンアサシンに飛んでいく。魔石を触媒に使ったことで、石の弾丸にはホーミング機能が付与されている。"魔力探知"と合わせて使うことで、狙った獲物は外さない。
奥にいた一匹に命中した。"魔力探知"から反応が消えた。
「ウオオオン!」
フェンフェンが残りの二体に吠える。
動揺したゴブリンアサシンをギルマスが攻撃する。そして、慌てて後ろに下がったところをフェンフェンが爪で切り裂く。
二人がかりなら余裕そうだ。
もう一体の攻撃を兵士は盾で受け止める。そして、剣を振ったが空振りだ。その隙に横を通り抜けて、後ろの剣を持った兵士に攻撃する。
「ぐあああ!?」
左の二の腕を刺された。血が出ている。
そして、別の兵士に襲い掛かり、血しぶきが上がる。のどを切られた。
こっちに近づいてくる。下手に魔法を使うと、誰かに当たる。
どうすればいい?
曹長さんは剣を抜いている。横に槍を装備した兵士がいる。二人で止めるつもりかも。
「ウォン!」
フェンフェンが走ってくる。戦っていたゴブリンアサシンは反応が消えていた。
フェンフェンはゴブリンアサシンに体当たりをした。吹き飛ばれたゴブリンアサシンが私の前を通り過ぎていく。
槍を持った兵士がゴブリンアサシンを突く。"バッシュ"のスキルだ。かなりのダメージが入った。
曹長さんと兵士二人が剣で攻撃する。ゴブリンアサシンは灰になった。
そして、曹長さんがフラグを立てる。
「やったか!?」
言ってはいけないセリフだ。
南側にいた兵士が、二体のゴブリンアサシンが倒されたことを報告する。
大丈夫っぽい?
曹長さんは衛生兵とカリーナたちに負傷者の手当てを指示する。そして、無事な兵士は門の下への攻撃を優先することになった。
しかし、またフェンフェンが吠える。
「ウオン! ウオン!」
「両方から来るだって!?」
「何だと!?」
フラグ回収だ。
南側からまた三匹。北側からは四匹だ。
これは倒せないのでは?
"トノサマバッタの羽"を使って逃げる時が来た。みんなを残して……。
いざ、その時が来ると辛い。いいの? いいよね?
フェンフェンに相談しよう。
すると、フェンフェンは大声で吠えた。
「ヴォアアアアア!!!」
何を言ったのか、わからない。
今までは、何となく感じていたけれど、この声はどういう意味だろう?
「ウォン!」
今度は分かった。じっとしていろと言っている。
待機でいいのかな? "ストーンバレット"はまだ一発残っている。
曹長さんが全員に剣を抜いて応戦するように指示を出す。
私にはここにいて、従魔と一緒に戦うように言う。フェンフェンが了承したので、私も指示に従う。
すると、カールが見張り台の中央に走ってきた。
「おわあああ!? 助けてくれええええ!?」
こんな時にまで……静かにして。
戻ってきたギルマスがカールに身を低くするように教える。
カリーナを見ると、負傷した兵士の前で短剣を抜いて構えていた。震えている。カールには彼女を見習ってほしい。
「ぐあああ!?」
左右から悲鳴が上がる。"魔力探知"で確認すると、七体は中央に走ってくる。おそらく、指揮官の曹長さんを狙っているのだろう。
私はしゃがんで身を隠しているので、向こうからは見えていないはずだ。けれども、探知スキルで狙われる可能性もある。気を引き締めて、杖での格闘戦に備える。
そして、左から一体。右から二体。城門の上の見張り台に突入してきた。
「ウォン!」
左側から来た個体にフェンフェンが体当たりする。門の下へ弾き飛ばした。
曹長さんたちが二体と戦う。
左右から悲鳴が上がり、残りの四体も中央に集まってくる。
皆が応戦する。
私は……。
どうしよう?
逃げる?
残りの一発を撃ってから?
今すぐの方が良い?
フェンフェンに相談しないと……。
「ガゥッ!」
フェンフェンが二体のゴブリンアサシンに斬りつけられた。顔と胴体。深い傷だ。私は咄嗟の判断で"ヒール"を使う。
ピンク色の眩い光がフェンフェンを包む。瞬時に傷が治った。
「ウオン!」
フェンフェンは起き上がり、追撃を回避する。
私も援護の準備をする。けれども、"ストーンバレット"の維持ができずに、玉は光を失い落ちてきた。
"ヒール"を使ったことで、体力と魔力を限界まで消費したようだ。
頭がくらくらしてきた。瞼が閉じそうになる。
その場に腰を下ろす。倒れそうになったけれど、杖で体を支えた。
何とか踏ん張らないと……。
すると、カリーナの声がした。
「サンドラ、危ない!」
顔を上げると、ゴブリンアサシンがいた。私に向かって、短剣を振り下ろしている。
死の瞬間に周りがスローに見えることがあるらしい。まさに、今。ゆっくりと短剣が私に迫ってくる。
避けることを考えたけれど、体が動かない。
……駄目だ。
私は目をつぶった。
「トゥッ!」
ヘルミンさんの声だ。
グシャ!?
「ゴギィィィ!?」
ゴブリンアサシンの悲鳴。
目を開けると、灰になっていた。
ヘルミンさんがステッキとクラブで戦闘を始める。あっという間に、三体を倒した。
そして、フェンフェンや曹長さんたちが残りの二体を倒した。
「無事ですか?」
ヘルミンさんの呑気な声がする。
「ウォン!」
フェンフェン曰く、昨日の反省で、私がピンチのときはヘルミンさんに呼ぶように打合せしていたらしい。さっき吠えたのは、そういう意味だったのか。
そして、私に言うのは忘れていたとか。助かったから別にいいよ。
ヘルミンさんを見ると、ボロボロだ。大丈夫かと聞く。
「あー、もう、サンドラさんはスケベですね」
ヘルミンさんは破れている服の間から胸の谷間を見せびらかしてくる。そんな趣味ないから……。
数が多くて上手く動けない。さらに、誰も見てくれないので遊び人スキルの出力も上がらない。そんな訳で、大苦戦しているらしい。
残りのゴブリンはどうなったのかと聞く。チャンピオンゴブリンがまだ一体残っている。ヘルミンさんがこっちに戻った後、他のゴブリンを集めて体制を整えているそうだ。
ヘルミンさんは少し休憩すると言って、私の横に座った。さすがに疲れたみたい。
フェンフェンは反対側に座る。さっきの"ヒール"の礼をぶっきらぼうに言われた。可愛くない。
私は周りを見る。立っているのは数人。曹長さんもケガをしている。
ギルマスも無事だ。
後ろにカールもいた。恐怖のあまりハイになっている。
「へへへ、やったぜ! ざまあみやがれ!」
あなたは何もしていないでしょう……。
魔石やドロップアイテムに手を伸ばして、ギルマスから怒られていた。
右側では、カリーナとロレッタが救護活動をしていた。
左の城壁の方を覗くと、ルーシーのお父さんが見えた。ナディアやモーガンたちもいた。三人とも無事だ。
知り合いが助かって、少し安心した。
ヘルミンさんとポーションを飲みながら話す。
「街の方は、どうなっていますか?」
「わかりません。目の前のことに必死だったので……」
「向こう側を覗くのが怖いです……」
ヘルミンさんが街側の胸壁を見る。
煙が上がっていた。街の中でゴブリンたちが暴れている。
門の下は静かになった。下の様子を想像するのも嫌だ。
まだ終わっていない。後ろにはまだゴブリンの大群がいる。
どうすればいい?
「ウオオオン!」
フェンフェンが吠えた。
私にまた大声で叫べと言う。
「採掘場の守備隊が帰ってきたぞー!!!」
希望が見えた。だから、思いっきり叫んだ。
「本当か!?」
「ヤッタアアア!」
「俺たち、助かるぞ!」
「うおおおお!」
「もう一息だ!」
遠くからゴブリンの悲鳴が聞こえてきた。次々と討伐されている。
「おーい! こっちだ! 助けてくれ!」
近くまで来ているみたい。
何とかなりそうだ。
安心していたら、ヘルミンさんが意味不明なことを言い始めた。
「サンドラさん、お客さんがいっぱいですよ。さて、今度はハトを出しましょうか? ライオンさんがいいですか?」
詳しく聞くと、召喚獣を出すらしい。もちろん、失敗あり。
悪い予感がしたので止めた。




