五十一話 東門の戦い その3
生き残った前線のゴブリンたちが起き上がる。後ろのゴブリンたちと合流して、隊列を整えようとしている。
ドンドン♪ドロドロ♪
ドンドン♪ドロドロ♪
不気味な太鼓が響く。
ヘルミンさんがどうなったかは分からない。チャンピオンゴブリンたちが振り向いて後ろを見ている。後方にいるみたい。
次は私たちの番だ。
しかし、またカールが邪魔をする。
「何してんだよ!? 速く撃てよ!?」
射程外だよ。静かにして欲しい。
カールは今度は街の方を向いて、下にいる人たちに叫ぶ。
「全員、ここに来い! やばいんだぞ! 何でそこにいるんだよ!?」
曹長と兵士が取り押さえる。
確かに、もっと人数がいてもいいと思うけれど、そこは都合もあるのだろう。
すると、また誰かが階段を上ってきた。その人たちは外の光景を見て、悲鳴を上げた。
兵士が五人ほど。若い兵士だ。
その後ろに、冒険者が続く。見覚えがある。三人とも新人だ。
私はその中の女の子の名前を憶えている。ロレッタだったはず。フェンフェンを抱いていた。Fランクで、ツノウサギが倒せるくらいの実力だ。
三人とも怯えている。どういう経緯で呼ばれたのか。深刻な人手不足みたい。
「左右の空いている所に入れ!」
混乱気味に兵士たちが動く。
ロレッタたちはナディアとカリーナに相談していた。彼女たちから、すでに配置についていた兵士さんに声をかけてもらう。三人は北側の端に向かって行った。
ドンドン♪ドロドロ♪
ドンドン♪ドロドロ♪
ゆっくりとゴブリンの塊が動き出す。前世で津波の動画を視聴したときに似た光景を見た。ヘドロのようなものがのっそり近づいてくる。どっちも飲み込まれたら死ぬという共通点がある。
「来るぞ!? 撃ち方よーい!」
私は魔石を消費して、"ファイヤーボール"をチャージする。
いよいよだ。ワクワクする。
すると、フェンフェンに注意された。頭を出すな? 分かってるよ。
「「「ゴブブブ!!!」」」
「撃て!」
ドン!ドン!ドン!
バァァァァァン!!
「「「ゴ、ゴ、アアア!?」」」
地面が爆発する。衝撃でゴブリンたちが吹き飛ばされる。
しかし、後ろから次々と走ってくる。怯まない。
城壁の上から無数の矢が放たれる。曹長さんは弾幕と言っていた。狙いを付けずに、手当たり次第に連射している。
私も続けて"ファイヤーボール"をチャージする。魔石を使って、ディレイカットしている。
二撃目。ゴブリンたちが大勢いる所へ撃つ、命中。ゴブリンが派手に吹き飛ぶ。
これは楽しい。この迫力を出すには、私の給料分のパソコンを買っても無理だ。
「ウォン!」
フェンフェンがしゃがめと言って、私に体当たりする。
ドゴオオオ!
私の前の壁が爆発した。
おそらく、ゴブリンメイジの魔法だ。
「ウオオルルル!」
撃ったら、すぐに身を隠せと怒られた。申し訳ない。
曹長さんたちが心配してくれた。
そして、何故かギルマスもいる。
「無茶をするな! ここから避難しろ!」
「いえ、ヘルミンさんも戦っているので、そういう訳にはいきません」
そういえば、ヘルミンさんは無事かな?
森の辺りを見ると、チャンピオンゴブリンたちが飛び跳ねていた。木の揺れ方もおかしい。地面がトランポリンになっている。あんなふざけたマネができるのはヘルミンさんだけだ。彼女は無事で戦っている。
ギルマスも曹長さんも驚いている。
「勝ち目ありそうなので、もう少し頑張ります」
「そうか、俺はカールを連れて下に行く」
「待て、俺も戦うんだ」
カールがへたり込みながら威勢を張っている。
私は無視して、魔石を取り出して、"ファイヤーボール"をチャージする。
"魔力探知"で索敵しながら、"ストームバレット"で精密射撃することもできる。ただ、今の私の技量では一発一発に時間が掛かる。おそらく、"ファイヤーボール"を連射した方が良いはず。
城壁からほんの少し顔を出して、ゴブリンの多そうなところに、ド~ン!
そして、引っ込める。
怖い。でも、楽しい。
「ショックウェーブ!」
曹長さんが指示を出す。
錬金術の爆弾。"ショックウェーブ弾"を使う。爆発の衝撃波で魔物をスタンさせる。
自分たちにも多少の被害が出るので、直前に耳を塞ぐ必要がある。そして、目をつむって、口を開ける。
ギルマスがカールに対策を教えている。
いや、まだいたの……。
カールはよく分かっていないようだ。
ふとフェンフェンのことが気になった。手が短いので自分で塞げない。
見ると、耳がペタンと折れて、耳穴を塞いでいた。ドヤ顔でこっちを見ている。おのれ!
バアアアアアン!
「うわああああああ」
ゴブリンよりもカールの悲鳴が聞こえてきた。
どうやら、耳を塞がなかったらしい。
「あああ、助けてくれええええ」
もがくカールをギルマスが取り押さえる。
「この距離なら、大してダメージはないはずだ」
そうなの。もう気絶してよ。
兵士たちが再び弓や魔法を撃つ。私も大急ぎで混ざる。
顔を出すと、ジャイアントゴブリンが見えた。
撃つ。
すぐに身を隠す。
戦果を確認できないのは、もどかしい。でも、非常時だ。ドンドン撃つ。
「ウォン!」
「"ヘビーゴブリン"!?」
重騎士並みに鎧を着こんだゴブリンだ。Cランク。
覗くと、門へ突進してくる。
ズン!ズン!
私は"ファイヤーボール"を撃つ。止まらない。
フェンフェンや他の魔法使いも狙う。矢も降り注ぐ。それでも止まらない。
ドオン!
門に体当たりされた。こちらにも揺れが伝わる。
「ショックウェーブ!」
兵士が"ショックウェーブ弾"を真下に投下した。
バアアアアアン!
やったか!?
城壁から顔を出した兵士が叫ぶ。
「まずい、ゴブリンウォーリアが!?」
皆が攻撃を再開する。
どうなったのだろう?
下から門を叩く音がする。嫌な予感。
ズガアアアッ!
門が破られた!?
街の側から悲鳴が聞こえる。野次馬はまだ逃げていなかったの?
下にいる兵士たちが戦闘を始めた。何人くらいるのだろう?
曹長が指示を出す。弓兵の内の何人かを街の側に回した。
指示が無いので、私は引き続き弾幕を張る。
できるだけ上位種に当てたい。そして、雑魚ゴブリンを巻き添えにしたい。顔を出した一瞬で判断するしかない。
とにかく、ゴブリンの塊に"ファイヤーボール"を撃つ。続けて撃っているからか疲れが出てきた。
私はMP回復ポーションを飲む。力尽きるまで、"ファイヤーボール"を撃つ。それしかできない。
すると、カリーナの声がした。
「サンドラ! まだ矢はある?」
もう撃ち尽くしたの?
異世界の兵士だし、撃つのも速いのかも。
私は千本の矢を出した。
運ぶのは、ロレッタたちも一緒だ。配達係に回ったみたい。
ドオオオ!
何かが崩れる音。
「うわああ、階段があああ!?」
カールの声?
カリーナが状況を教えてくれた。
「階段からゴブリンが上ってきたの。ギルマスたちが戦っていたけれど、数が多くて……それで、曹長さんが階段を壊すように言ったの」
「仕方ないか。逃げるときは、城壁の上を走ればいいのかな?」
「どっちの方角も途中で崩れているから無理らしいよ」
「うーん、退路が無くなったか……」
「……どうなると思う?」
カリーナの声が重い。自分たちはここで死ぬのか。希望は無いのか。
私は森の方を見る。
大きな横に広い竜巻ができて、ゴブリンたちがぐるぐると回っている。
ヘルミンさんらしき人影が見えた。ゴブリンたちと一緒に回っている。例のカードか、広範囲の自爆スキルみたいなのを使っているのかも。
勝てるのかな?
ひとまず、街の中にゴブリンが入って行ったことで、城門の上への攻撃が減った。慎重に行動していれば、私たちは生き残れると思う。
はたして、そうかな?
だんだんと冷静になってきた。
ダン!
隣にいた魔法使いに矢が当たった。苦しそうに倒れる。
カリーナが呼ばれ、治療の手伝いに行く。
私はその光景をぼんやりと眺めた。
街の方から悲鳴がたくさん聴こえる。
ゲーム脳から覚めてきた。
もしかして、もうダメなのかな?
「ウォン!」
フェンフェンにここで休むように言われた。
私は頑張ると返す。空元気だ。
「ウォァッ!」
「え?」
「ウォォォン!」
突然、フェンフェンに叫べと言われた。
「南から何かくるぞおおおお!!!」
恥ずかしいけれど、精一杯叫んだ。
酸欠になりそうだ。クラクラする。
曹長さんとギルマスが駆け寄ってくる。
「ウォン!」
フェンフェンが走る。
南から何がくるの?
見ると、モーガンとナディアが負傷者の手当てをしていた。
その向こうから声がする。
「あっ!? ゴブリンが登ってきた!?」
この高い城壁を!?
「ゴブリンアサシンだ!? 三匹もいるぞ!」
"隠れ身"のスキルを使って、気づかれずに上ってきたみたい。
「ウォン!」
フェンフェンが私に援護しろと言う。
やるさ! 私にとっては因縁の相手だ。




