五十話 東門の戦い その2
パンパカパッパッパー♪
サンドラ楽団の大演奏だ。選曲は「まもの割り戦士」だ。
ヘルミンさんは胸壁の凸の上を飛び回りながら、ラッパを吹く。
兵士たちも口笛、手拍子で混ざる。ハーモニカを携帯していた人が二人もいた。
門の下からも音楽が聴こえる。
もちろん、ゴブリンの大群を前に遊んでいる訳では無い。理由は二つ。
一つは、遊び人のスキルの為。
もう一つは、"音楽家"のスキルである"リラクゼーション"を使っている。ゲームではHPとMPを回復させる効果だった。異世界では、精神を落ち着かせる効果になっている。生身の肉体になったことで、数値を増やす形での回復ができなくなったからだ。
エルフの音楽隊と一緒に演奏している内に経験値を貯めていたみたい。そうして、一昨日の演奏で習得したようだ。ついさっき、スキルを確認して気がついた。
一時的とはいえ、先ほどのゴブリンの咆哮に驚いた人たちを落ち着かせることができた。
一方のヘルミンさんはノリに乗っている。ゴブリンはまだ動かない。二曲目も演奏しようか?
そこに怒鳴り声が響いた。
「お前たち、こんな時にふざけるんじゃない!? 何をしているんだ!?」
演奏がピタリと止む。一応、曹長さんに許可は取ったのだけど、上官が来たのかな?
よく見ると、カールだった。
ここにまで来るの? 何なの……?
後ろを見ると、カリーナたちもいた。
カールは偉そうに仁王立ちする。
「こんな良い場所があったなんてな。ここならゴブリンを倒し放題だぜ」
私たちを見て、軽い考えで来たようだ。ゴブリン側から矢とか魔法が飛んでくるとは、夢にも思っていない様子だ。
曹長さんが説得する。けれども、聞き耳を持たない。
ヘルミンさんも止めようとする。
「さっきまで腰を抜かしてたのに、もう平気なのですか?」
腰を抜かしていた?
気になったので、ヘルミンさんに質問する。
「腰を抜かして動けなくなっていたので、私が城門まで引きずって戻ってきました」
ヘルミンさんは右腕で力こぶを作ってみせる。
私は呆れてしまう。
「そんな腕力があるなら、最初からそうしてくださいよ」
「こう見えてカール君は貴族ですから。大勢の前で引きずり回す訳にはいきませんよ」
「もう手遅れだと思います。とにかく、説得してください」
「わかりました」
ヘルミンさんが強く言う。
「ここにいても邪魔なだけです。カール君に何ができるんですか!?」
むっとしたカールは、貸せと言って、カリーナから弓を奪い取る。そして、思いっきり弦を引いた。
「俺だって弓くらい、うおっ!」
バキキ!
弓が壊れた。
「ああー、私の弓があああ!?」
カリーナが崩れ落ちて泣き出す。我慢していたものが一度に噴出したみたい。
ヘルミンさんが怒る。
「何てことを! 謝ってください!」
「後で弁償すりゃいいだろ!」
ああ、グダグダだよ……。
そこに、高齢の魔法使いが現れた。
「失礼。上は終わりました」
彼は城壁に"マジックコーティング"をかけてくれた。城門の上と左右の三か所。これで魔法が飛んできても安全だ。
「健闘を祈ります」
そう言い残して、階段を下りた。
渋い。冷静だ。黙々と仕事をする感じが素敵だ。
私もマネて、仕事の話をする。
「カリーナ、私の弓を使う? ナディアの分もあるけど。矢もたくさんあるよ」
弓二本と、矢を二百本ほど出す。
先生が発注を間違えて、大量の矢が届いたことがある。その時に、タダで一杯もらってしまった。
そして、言った後に気がついたけれど、戦わせたら駄目だ。勝手に上がってきたのだから、交戦許可が出る訳が無い。
曹長さんに慌てて釈明する。
「すいません。彼女たちにはすぐに下りてもらいます」
しかし、曹長さんは別のことを考えていた。
何でも、補給が来なくて、矢が足りないそうだ。私に分けて欲しいそうだ。
私は控え目に、千本あると言う。驚かれた。よく考えると、新人の魔法使いがそんなに持っている訳が無い。それでもって、本当は五千本ある。
そして、曹長さんはカリーナたちにも提案した。兵士たちに弓を配る仕事だ。戦闘が始まったら、下に避難していいとのこと。
カリーナは涙をぬぐって、その依頼を受けた。ナディアとモーガンもだ。
私は矢を二千本ほど出す。周りから驚く声がしたけれど気にしない。
カリーナたちは矢を配り始めた。
そして、カールは腕を組んで、ボーっとしている。
お前もやるんだよ!?
ひとまず、フェンフェンを見る。
「クゥゥゥン」
ゴブリン側はまだ進軍を始めていない。
その時がきたら、太鼓の音で判るらしい。その音は、曹長さんたちも聞いたことがあるそうだ。大きいゴブリンの巣穴などには、冒険者ではなく兵団が派遣されることもある。
今度は下の方が騒がしくなる。曹長さんが身を乗り出して、下にいる兵士から話を聞く。
「落とし格子が下りないそうだ。昨日の点検では動いたのに……」
何故か、カールが文句言う。
「予算不足なのです。文句は、領主様にお願いします」
曹長さんも余裕が無いからか、言い方がきつくなってきた。カールは睨まれて引き下がる。
下から大きな魔力反応があった。高齢の魔法使いが城門に"マジックコーティング"を使ったようだ。
すると、ざわめきが起きた。曹長さんが確認すると、高齢の魔法使いが立ち眩みを起こしたそうだ。彼は今年で退職するらしい。
今のが最後と思った方が良い。長期戦はできそうにない。
状況は悪い。
メイン火力のヘルミンさんは呑気にクラブでジャグリングしていた。
カリーナたちは忙しく矢を運んでいる。
そして、周りの兵士から、先ほどの"リラクゼーション"のお礼を言われた。元気なったようだ。
あとは、いつゴブリンたちが来るかだ。
フェンフェンを見る。
「ウォン!」
ドンドン♪ドロドロ♪
ドンドン♪ドロドロ♪
太鼓の音がする。
フェンフェンは森の中をこっちに向かって進軍していると言う。
ガチャガチャガチャ
メキメキバキバキ
何かを踏み潰すような音がたくさん響く。気持ち悪い。
伝令の兵士が走る。
曹長さんが門の下に叫ぶ。
「動いたぞ!」
またざわめきが起こる。聞く耳を立てると、どうも野次馬の住人がまだいるようだ。
非難を促す中に、ギルマスの声がした。現場に来ている。呼んで、カールを何とかしてもらうべきか。
カールは腕を組んだままプルプル震えている。怖いなら、早く逃げなよ。
私はカリーナたちに避難するように言う。しかし、まだ配り終えていないから残ると言う。
ナディアとモーガンは自分たちの街を守りたい。
カリーナは余所から来たけれど、大勢の知り合いができたので頑張るそうだ。私と同じだ。
曹長さんも三人に意志を確認する。補給の矢が届いたらしく、これらの配達も彼女たちに任せることになった。戦闘が始まったら身を屈めて行動するように念を押した。
曹長さんが全体に指示を出す。矢がたくさんあるので、弾幕を貼るように伝える。
弓兵は二十人くらい。魔法使いは私とフェンフェンを含めて、四人。
対するゴブリンは二百体くらい。止められるだろうか?
「キュウン……」
「五百体いる!?」
周囲がざわめく。
曹長さんが下に知らせる。ざわめきが起こる。まだ野次馬は逃げてないようだ。
呑気なのは一人だけ。
「盛り上がってきましたね、トウッ!」
ヘルミンさんが飛ぶ。
そして、無音の着地を決める。
ボールを取り出して、玉乗りしながらジャグリングを始めた。大勢の前でパフォーマンスすることで"遊びポイント"が貯まりスキルの威力が増す。
ゴブリンたちの進軍する音が大きくなる。
ドンドン♪ドロドロ♪
ドンドン♪ドロドロ♪
ガチャガチャガチャ
メキメキバキバキ
森が震えだす。こちらから見える所まで来たみたい。
曹長さんが下に叫ぶ。
「来るぞ!?」
私たちも杖と弓を構える。
曹長さんの合図で一斉射撃する段取りになっている。
森の揺れが農地の近くまで来た。
「「「ゴブゴブゴブ」」」
森の奥からゴブリンたちが姿を現した。凄い数だ。
上位種の"ジャイアントゴブリン"の姿が見える。Dランクの魔物だ。ひときわ大きい。
さらに、その上の"ゴブリンウォ-リア"という強力な戦士タイプが見える。Cランクの魔物だ。鎧を着て、巨大な武器を持っている。
魔法を使う"ゴブリンメイジ"もいる。こちらはEからCランクまで、まちまちだ。
そして、森から巨大なゴブリンが姿を現した。五メートルの巨体。"チャンピオンゴブリン"だ。Bランクの魔物だ。禍々しい棍棒を持っている。
おぞましい光景に言葉が出ない。
後ろからまだまだ来る。
周りの兵士も声を失っている。
元気なのは、ただ一人。
「私から行きますよー!」
ヘルミンさんだけが頼みの綱だ。彼女の一撃で勝敗は大きく変わる。
そして、ゴブリンたちが雪崩のように襲い掛かってくる。
「"ゲハィムニス・ヘルミン・カーニバル"! 『演目 メテオ・インパクト』!」
乗っている玉が光り出す。
そして、ヘルミンさんはゴブリンたちに向かって発進した。
どんどん玉が大きくなる。三メートルくらいになった所で、ゴブリンの大群とぶつかった。
「「「ゴアアア!?」」」
次々とゴブリンを踏み潰していく。ジグザグに進みながら、数を倒す。
ジャイアントやウォーリアも次々と弾いて行く。
ピコリン♪ ピコリン♪
残機が増えてる音がした。
そして、光の玉はどんどん大きくなっていく。五メートルくらいになった。
ドドドド!
向かう先は、チャンピオンゴブリンだ。
チャンピオンゴブリンは棍棒を構える。迎撃態勢をとった。
そこにヘルミンさんがクラブを投げる。
チャンピオンゴブリンの眉間に命中した。よろけて体勢を崩す。
「ヴンダバー!」
光の玉がチャンピオンゴブリンを直撃した。
ドゴォォォ!!!
「ゴ、アアア!?」
チャンピオンゴブリンは灰になった。
周りの兵士たちが大歓声を上げた。
私は拍手する。
曹長さんが、衝突の衝撃でヘルミンさんも吹き飛ばされたと指摘する。よく見えなかったけれど、間違いなく大丈夫と返した。
もしかして、自分にも反動ダメージがくるスキルなのだろうか? 残機も増えたし平気だろう。
「「「ゴブゴブゴブ!」」」
さらに、森の中からゴブリンが大量に出てきた。まだまだいる。
チャンピオンゴブリンもさらに三体現れた。他にも上位種らしき怪しい個体がいくつか見える。
五百体……それ以上いるのかな?
フェンフェンを見ると震えている。背中を撫でると、手を弾かれてた。
「ウォン!」
ビビってないそうだ。可愛い。
ヘルミンさんのおかげで、ゲーム脳が戻ってきた。もう怖くない。
さあ、バトルの時間だ!




