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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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四十九話 東門の戦い その1


 食事を終えて、客室でのんびりする。

 二人はのんきにお昼寝だ。私は続けて本を読む。


 今日は平和に終わるかなと考えていたら、ドアがノックされた。

 ステラさんだった。

 東門の前の農地にゴブリンが出たらしい。それも十体も。作物を次々と盗んでいるとのこと。


「近くに巣があるのでしょうか?」

「これから調査隊を送り込むのですが……」

「あっ、私たちが行くんですね!?」

「それは検討中です。私個人の判断で、サンドラさんにお願いに来ました」

「私も、私たちが行った方が良いと思います。実は昨日、ヘルミンさんが今日は東門で何かあるはずだと言っちゃったので……」


 ステラさんが眉をしかめて、ヘルミンさんに注意する。


「変な事言わないでよ……」

「……記憶にありません」

「酔ってたからです」


 客室を出て、受付の所に行く。

 酒場の方を見ると、誰もいなかった。

 また森に採取へ行ったのかな?


 カウンターにはギルマスに他の職員さん、兵士たちもいた。

 他の冒険者は伯爵の警備の仕事に向かってしまった。残るは私たちという状況だった。


 ギルマスは知らない職員や兵士にフェンフェンのことを紹介する。王都での輝かしい冒険譚が流れた。本人も得意気だ。

 平時はアレだけど、緊急時には的確に動いていた。私が思っている以上に優秀な従魔のようだ。


 そんなこんなで、私たちが調査隊に選ばれた。




 東門に向かう。ここも初めてだ。

 南門と同じく、四階建てのマンションくらいの大きさだ。

 外は農地になっている。その奥の森は野生動物の住処で、豚肉になる"赤羽ボア"などがいる。

 住居は無い。農民も猟師も街の中に住んでいる。


 門の前では、兵士と野次馬の住人たちが集まっていた。私たちを見て、ひそひそと何かを話しているけれど無視する。

 私たちは兵士たちに挨拶をする。同行した職員さんが、私たちが調査隊だと紹介した。そして、兵士たちが私たちに敬礼してくれた。

 

 門をくぐる。

 農地が広がっていた。奥には森がある。

 そして、十匹ほどのゴブリンが畑の中で野菜を盗んでいる。それから、両手一杯に野菜を抱えて、森の中へ消えて行く。すると、今度は森から別のゴブリンが出てきた。大規模な略奪が行われている。


「キュウン……」


 フェンフェンが困った顔で弱弱しく吠える。どうしたのと聞くと、森の奥に百匹以上のゴブリンがいるらしい。

 兵士と職員さんに伝える。


「何だと!?」

「それで、従魔が門の見張り台に上りたいと言っています」


 私は上に向かって、指を差す。フェンフェンは耳で索敵している。高い所に行けば、森の中の音もよく聴こえるはずだ。

 上るには許可がいるみたい。職員さんはヘルミンさんに、兵士たちに冒険者証を見せるように言った。


「「「Bランク!?」」」


 信じ難いよね。

 アピールの場には絶好なのに、ヘルミンさんは何故かテンションが低い。


「大した者ではありません」


 今日は自重するらしい。かえって不気味だ。兵士たちから疑われている。 とりあえず、許可が出た。ギルドの職員さんが一緒で良かった。




 城門の左側の城壁に、木造の狭い階段があった。そこを上った。

 下からは凸凹の胸壁しか見えなかったけれど、城壁の上には平らな道があった。

 少し歩いて小さな階段を上り、門の上の見張り台に行く。。


 風が冷たい。

 問題の森を見ると、丘のように盛り上がっていて反対側が見えない。

 フェンフェンは胸壁の高い方の上に乗る。


「キュゥン、キュゥン」


 フェンフェン曰く、森の反対側に倍以上の数がいるらしい。とんでもないことになったきた。

 ただ、今すぐに襲ってはこないと言う。パーティの際中らしい。

 兵士さんが言うには反対側は平原で、川と大きな池がある。死角になり、水場もバッチリ。襲撃前の腹ごしらえには丁度いい場所だ。

 伝令の兵士さんが慌てて下に降りていく。私たちはここで指示を待つことになった。


「ガゥ……」


 フェンフェンは弱気になっている。偵察に行ってこいとはとても言えない。


「ちょっと見てきましょうか?」


 ヘルミンさんは買い物に行くくらいの感覚で言う。


「自重するんでしょう? 見つかって、群れが暴走したら大変ですよ」

「そういう時は全滅させれば怒られませんよ」


 ドヤ顔を決めるヘルミンさん。さすが、"クレイジーピエロ"や!


「勝てそうですか? そろそろAランクの魔物が出てもおかしくないですよ」

「Aランクが混じると辛いですね」


 昨日と一昨日の戦闘を見る限り、彼女にはAランクの実力があると思う。ただ、Sランクの先生の戦闘と比べると物足りない。Aランクの魔物が複数体出現すれば対応できないと思う。


「Aランクのゴブリンといえば……"ゴブリン巨人タイタン"ですね」

「書物に、この門より大きいと書いてありました。フェンフェン、どう? いると思う?」

「ガゥ」


 そこまで大きな体の声はしないそうだ。いないと良いな。


 伝令の兵士が戻ってきた。

 職員さんと門兵の隊長からの伝令だ。私達にここで群れを観察してほしいと言われた。

 さらに、使いを出して、兵団長やギルマスに師事を仰ぐそうだ。

 おそらく、東門から外に出ることを禁止して、群れを刺激しない方針を取ることになる。こちらから行動を起こすのは、最低でも採掘場に行った者たちが帰って来てからになるとのこと。

 私たちは指示に従うことにした。




 門の下が騒がしくなる。

 覗くと、野次馬の人たちがまだいた。昨日も一昨日も街の中に被害は出なかったから、今回も大丈夫と考えているのだろうか?


「ウォン!」


 フェンフェンが呼ぶ。あそこを見ろと言っている。

 遠くの平原で黒い塊がもぞもぞと動いていた。

 望遠鏡を持っていた見張りの兵士も見つけたようだ。


「ゴブリンの群れだ。五十匹はいるぞ……」


 また伝令の兵士が走る。

 群れは森の影に入って行った。


「サンドラさん、どうやら大勢集まっているみたいですね」

「……うん」


 怖くなってきた。

 私が気落ちしているのを察して、ヘルミンさんが楽器を演奏しようと言う。また怒られると言うと、不調のまま戦うよりマシだと言われた。

 死んだら終わり。セーブポイントにも、タイトル画面にも戻れない。それなら、楽器を演奏して、後で怒られる方が良い。

 すると、フェンフェンが紅茶を飲みたいと言い出した。

 私は兵士さんに確認する。私たちにも飲んでいいと言ってくれた。




 私たちは城壁の上でゆったりとお茶を飲んだ。

 略奪しているゴブリンさえいなければ、優雅なのだけれど……。

 風が止み、遠くのゴブリンの声が私たちにも聞こえてきた。下卑た笑い声だ。耳を凝らすと太鼓の音もする。


 そうしていると、階段から兵士が次々と登ってきた。みんな、弓を持っている。

 城門から左右に分かれて配置するみたい。南側に行く兵士が私たちの後ろを通って行く。

 戦場で女子二人と一匹がのんびりお茶してる光景が気になるのか、奇異の目で見られた。

 途中で、ルーシーのお父さんがいたので、軽く会釈した。向こうも会釈してくれた。

 確か、彼は街の警備が仕事のはず。一昨日は陣地の構築作業中の警備だったからまだ分かるけれど……。弓が得意だから、ここに来たのか。人手不足で戦闘員がいないのか。不安だ


 濃い口髭を生やした兵士に呼ばれた。曹長さんだ。ここで指揮を執るそうだ。

 一緒に、魔法使いの兵士が三人いた。

 私は"マジック・コーティング"の魔法が使えないか質問された。Cランクの魔法だ。私はまだ一度も成功していない。

 それから、戦闘になったら私にもこの場所で参加して欲しいと言われた。 三人の魔法使いの内、"マジック・コーティング"が使えるのは一人だけ。高齢なので、城壁と城門に使うので限界だそうだ。

 他の二人は一昨日、南門の上から援護してくれた人だ。声に聞き覚えがある。

 悪い人ではないはずだ。一緒にここで戦ってもいいと思う。

 フェンフェンにも聞く。


「ウォン!」


 フェンフェンも賛成する。そして、自分も"ファイヤーボール"が使えると主張する。

 ヘルミンさんも混ざる。ラッパを吹くと言う。

 曹長さんがきょとんとしている。一昨日の戦いを見ていた二人の魔法使いが擁護する。

 さらに、ヘルミンさんは下に降りて玉乗りで踏み潰すとも言った。

 曹長さんは口をあんぐりさせている。二人がフォローする。

 ヘルミンさんが冒険者証を見せる。

 曹長さんは虚ろな目で固まっていた。


 それから、簡単に打ち合わせをした。




 しばらくすると、見張りの兵が曹長を呼んだ。

 さらに、フェンフェンが私を呼ぶ。

 

 門の下を見ると、四人の冒険者が歩いていた。

 先頭を歩いているのは……カールだ。

 そして、カリーナにナディア、モーガンの三人が続いている。彼女たちの足取りは重い。ヨハンたち、男子組はいなかった。

 何度目かの伝令で、門の外へは出るのは禁止されたと聞いている。どういうことなの?

 

 曹長さんは下の兵士が通したのだから、許可が出ているはずだと言う。

 魔法使いの二人は、誰かの忘れ物の回収に行くのだろうと言う。


 声をかけるべきだろうか? 

 それでゴブリンが予想外の動きをしたら大変だ。

 曹長さんに相談すると長考に入った。

 そうしてる間に、四人は先へ進む。


「サンドラさん、私が止めてきます」


 ヘルミンさんが行くと事態が悪化すると思う。

 しかし、止める間もなく、ヘルミンさんは城壁を垂直に歩いて降りて行った。

 城壁の上にいた兵士たちが、ヘルミンさんの奇行に驚いて、うなり声を出す。

 カリーナたちはその声が聞こえたのか、後ろを振り向いた。城壁の上から大勢に見られていることに気がついて驚いていた。


「どこへ行くのですか~?」


 ヘルミンさんが走って行く。

 カールが足を止めて、後ろを振り向く。

 遠くて何を話しているのか判らない。聞こえているっぽいフェンフェンは呆れた顔をしている。

 カールが怒り出した。嫌な予感。


 今度は、フェンフェンがゴブリンたちの様子が変だと言う。

 見ると、略奪を止めて、カールたちを見ている。

 まずい状況だろうか?

 私も下に行こう。カールとヘルミンさんを連れ戻す。

 しかし、フェンフェンが反対する。昨日、山ウルフに囲まれたことを指摘された。

 確かに、昨日は危なかった。もし援軍が来なくて、"トノサマバッタの羽"の発動に失敗していたら死んでいた。ギルマスからも注意を受けた。ここに残るべきだ。


 曹長が声をかけて呼び戻すように言ってくれた。

 私は身を乗り出す。なるべく大声にならないようにする。


「早く、戻って来て!」


 カリーナたちが身を震わせる。

 もしかして、パニック一歩手前くらいの状態なのでは?

 城門の上から大勢に見られているだけでも怖い。ヘルミンさんから二百匹を超えるゴブリンの群れの事は聞いたはず。

 お互いに顔を見合わせている。正常な判断ができなくなっている。

 私はもう一度、声をかける。


「三人だけでも、早く戻って!」


 門から兵士が走って行く。連れ戻しに行ってくれたみたい。


「ウォン!」


 見ると、一匹のゴブリンがカールたちの所に歩いてくる。肩に鉈のような長剣を担いでいる。

 ヘルミンさんが大きな声で話す。


「あの一匹を倒したら、大人しく帰るそうです!」


 いやいや、待って待って!?

 嫌な予感しかしない。私はもう一度、叫ぶ。


「すぐに帰ってきて!?」


 カリーナたちは私とカールを交互に見ている。

 兵士たちがカリーナたちに追いついた。すぐに連れ戻そうとする。

 カールがゴネると、ヘルミンさんが何かを言った。

 すると、兵士たちはカリーナたちの手を引っ張った。そして、門へと走ってくる。


 その場には、カールとヘルミンさんが残った。

 ゴブリンも到着する。

 

 カールが剣を振るう。ゴブリンに斬りかかるのではなく、その場でブンブン振り回している。

 何をしてるのだろう?

 ゴブリンは笑っている。遠くのゴブリンたちも笑っている。

 それを見て、城壁にいる兵士たちは茫然としている。

 これでは汚名挽回だよ。


 ゴブリンが担いでいた剣を降ろした。後ろを向いて、他のゴブリンたちに何かを叫んだ。

 次の瞬間、カールはアイテム袋から丸めた紙を取り出した。そして、大きな火の球が生まれ、ゴブリンを直撃した。


 ドオン!


「ゴブブブ!?」


 ゴブリンは灰になった。

 おそらく、魔法のスクロールを使った。素人でも、スクロールを開くだけで魔法が使えるという魔道具だ。高額の代物で、冒険者がゴブリン相手に使うような物では無い。


 カールは城壁にいる私たちに向かって勝利の雄叫びを上げる。


「ふおおおお!」


 兵士たちは呆れを通り越して、言葉が出ない様子だ。

 これからゴブリンの大群と戦うのに、雑魚ゴブリン一体に何をしているのだろう。私は気が遠くなりそうだ。


「ウォン!」


 フェンフェンがまずいと言う。

 奥のゴブリンたちを見ると、ニヤニヤと笑っているように見えた。

 その内の一体がラッパを吹く。不快な音がこだまする。


 次の瞬間、巨大な音がした。当たり一面が振動する。


 ズオオオオオオオオオオオ!!! 


 森の反対側にいるゴブリンたちが一斉に叫んだのだ。

 私は力が抜けて、その場にへたり込んだ。


 周りから悲鳴が上がる。周りの兵士たちはパニックになっている。

 状態異常攻撃ではないけれど、純粋に驚いた。シェルショックという言葉が頭に浮かんだ。砲弾や爆発のショックで神経にダメージを受けることだったはず。

 私も手が震える。兵隊さんたちと一緒にいるからか、ゲーム脳が機能していない。


「ウオオオン!」


 開戦だ、ゴブリンが来るとフェンフェンは言う。

 曹長さんに伝える。伝令の兵士が泣きながら走る。

 曹長さんは門の内側に身を乗り出し、兵士たちに警鐘を鳴らして、門を閉めるように指示した。

 

「ガゥ!」


 私はフェンフェンに逃げるように言われた。

 ひとまず、水筒を取り出して、水を飲む。

 そして、自分に落ち着けと言い聞かせる。

 すぐに採掘場の面々が帰ってくる。それまで、持ち堪える。


「やろう、フェンフェン」

「ガゥ?」


 街の人たちを守る為。ちょっとだけ頑張ってみる。


「ウォン」


 まずくなったら城壁の上を歩いて逃げると言う。


「無茶はしないよ」


 私は立ち上がる。

 すると、目の前にヘルミンさん飛び込んできた。


「うわぁ!?」

「あ~、サンドラさん! 大変なことになりましたよ~!」


 笑っている。"クレイジーピエロ"の異名は伊達じゃない。


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