五話 いたずら好きのエルフ
エルフについて知っていること。
美男美女で、耳が長い。長寿。弓が上手い。
このくらいかな?
イー=ラパツヨ超司教様はこのゲームを開発する際に、オリジナリティを高める為、設定を大きくズラすことを企んだそうだ。
そして、エルフの伝承の中で、小人や妖精として扱われている部分に目を付けた。
子供のような外見をした種族。森の中から出てきて、いたずらをして帰っていく。初期設定では、そういう存在としてゲームの中に登場させようとした。
なので、この世界のエルフは10歳くらいの子供の姿をしている。
そして、開発が進むに連れて、王国の政争がメインになると、エルフとも戦争状態にあるという設定が追加された。
大昔、エルフたちは国中にいて、妖精として愛されていた。しかし、迫害が始まり、すべてのエルフは西の果てにあるアルベーデンの森に閉じ籠ってしまった。
クノテベスの地を平定しようと、王国は何度も軍を差し向けた。多くの合戦が行われ、エルフたちは全てに勝利した。
こうして、弓だけでなく、剣も魔法も超強い設定になった。
八十年くらい前、先生がエルフの森とクノテベス王国の境にある土地の領主になった。
それ以来、この世界では戦争は起きていないらしい。
最近では、近隣の領地とも交流ができ、平和になりつつある。冒険者として、王国を旅するエルフも何人かいるらしい。
それでも異種族間の交流はまだまだ難しいそうだ。
アルベーデンの教会にやってきた。
この教会はゲームにも同じものがあった。
石造りの地味なデザイン。ここも要塞っぽい。
重い木の扉を開ける。
中には木製の長椅子が並んでいて、奥に祭壇がある。よくある教会のデザイン。ゲーム内だと、他との使いまわしだった。
壁にはコケが生えている。
厳かな雰囲気ではない。素直にボロい。
「よく来たのう」
シスター・ハルが出迎えてくれた。
彼女もエルフだ。身長は100センチくらい。
紫の修道服を着ている。
顔は見えない。頭巾が黒子のそれのようになっていて、顔が白い布で隠れている。布には麦の神の使いの絵が描かれている。その姿は食パンに大きな目玉一個と鳩の羽が二組付いている。キモカワイイ系。この布は魔道具で、向こうからはこっちの姿が見えているらしい。
他にも、手袋もしていて、自身の姿を完全に隠している。
これには理由がある。このゲームのエルフという種族は魅力値が異常に高く設定されている。普通の人間ならば、小一時間で魅了されてしまう。
故に、自身の姿を隠しているのだ。
ちなみに、先生は特殊な指輪でチャームを抑えている。
これはゲーム内にもある設定らしい。キャラクターは3つのスロットが付いた指輪を装備できる。エルフのキャラクターは、その内の一つが埋まっている。高過ぎるステータスを持つ故のバランス調整らしい。
「おはようございます。シスター・ハル」
「聞いたぞ。旅立つのじゃな」
麦の神様の祈りで激励してもらった。
しばらくすると、武装したエルフが次々と入ってきた。
見回りの戦士たちで、教会で休息をとる習慣になっている。
何と言うか、可愛い子供たちが運動会のようなノリで押し寄せてくる。
「やー」
「わー」
「サンドラだー」
「おー」
「たー」
私を囲んで、顔や体をペチペチ叩き始めた。愛情表現らしい。慣れると楽しくなってくる。
転生者はエルフのチャームに耐性がある。この世界で私は唯一、エルフと何の障害もなく戯れられる存在だ。
だから、私は積極的にやり返すことにしている。抱き締めたり、くすぐったり。
「きゃはは」
「わーい」
「あはははは」
すごく楽しい。
そうしてる内に、だんだんと意識が…
「これ、しっかりせんか」
顔をビンタされた。
凄く痛い。
私は正気に戻った。
シスター・ハルは神官戦士だ。力だけでなく、技術もある。
戦国時代には教会に押し入ってくる罰当たりな兵士を幾度となく返り討ちにしたらしい。
使用する武器はモーニングスターだ。しかし、ゲーム内だと、エルフは鈍器や斧、両手剣は持てない設定になっていた。この点に関しては、超司教様はバグだと言及していたらしい。
本来、ゲームの中では髭モジャな人間の神官がいた。私は彼に追い返された。彼女の存在はイレギュラーな事象の一つだ。
「これから"スタンピード"に立ち向かうのじゃ。精神をどっしり構えないといかんぞ」
「……スタンピード?」
不吉な単語が出た。
この世界では魔物が大暴走する非常事態を指す言葉。
「あー」
「しすたー」
「それー」
「言っちゃー」
「ダメなやつー」
ダメって何?
「そうじゃった、そうじゃった」
「どういうことですか?」
「ミルから、出発直前に教えるから黙っているように言われていたのじゃ」
「え?何で?」
「その方が面白いじゃろ」
「「「じゃろ」」」」
エルフは悪戯好きな種族だ。
それも人間とは加減が違うので、あっちこちで嫌われたりもしたそうだ。
参っちゃうよね。