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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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四十八話 男爵夫人


 憂鬱な朝だ。

 私はフェンフェンやトムさんと一緒に冒険者ギルドに向かっている。

 街の様子は薄暗い。仕事に行く人たちが顔を下げて、無言で道を歩いている。私もその一人。


 今日は忙しい一日になりそうだ。

 南方の岩砂糖の採掘場からの撤退と、コンナトキー伯爵の来訪がある。


 トムさんが言うには、伯爵の目的は採掘場の防衛を後押しすること。ド田舎のジマーリ男爵領まで足を運んで、到着したら撤退していましたでは彼の面子が潰れることになる。

 しかし、兵団とギルドは撤退の意思を固めた。採掘場の守備隊も限界だと言っている。

 これから、男爵家で最後の会議が行われるらしい。トムさんもそこに出席する。あちこちとの板挟みで大変だ。




 ギルドに着く。

 それなりに混んでいた。ベテランだけでなく、中堅の冒険者もいる。

 トムさんは一度、ギルマスの所へ行くそうだ。

 私はヘルミンさんを探す。いなかった。

 

 新人冒険者のグループを見つけた。カリーナ、モーガン、ナディアがいた。

 彼女たちの所へ行き、色々と話を聞く。

 今日から合同の馬車移動も始まるらしい。それで、モーガンのパーティの男子は親族の伝で積み荷を運ぶ仕事を受けた。

 そして、モーガンはナディアのパーティに臨時で入った。つまり、カールの世話係を手伝う。ナディアたちは戦士五人と偏った構成だった。魔法使いのモーガンが入れば、決め手が増える。

 さらに、カリーナも加わると言う。レンジャーまで入れば安定する。

 けれども、心配だ。良からぬ事に巻き込まれないだろうか……。


 私がどこへ行くのかを聞かれた。ナディアは、できれば私に近くにいてほしいみたい。自分だけ逃げる訳にはいかない。だから、断らない。

 ひとまず、受付で何か依頼が無いか聞いてみることにした。ステラさんの所に誰もいなかったので行ってみる。




「……サンドラさん」

「はい」


 重々しい。何を頼まれるのだろう?


「今日はギルドで待機してもらえませんか?」


 ちょっと予想外の返事が来た。どういうこと?


「今日は採掘場からの撤退が行われます。そこで負傷者を運ぶ為に、街からも人を送ります。その護衛にベテランの方々にも出向いてもらわないといけません」


 そうなると、街の守備に穴が開く訳だ。つまり、私たちはその穴埋めだ。

 ギルドの客室を自由に使っていいとのこと。

 ナディアたちも心配だけれど、二度あることは三度ある。今日も魔物が街を襲うかもしれない。

 現状、街の最高戦力であるヘルミンさんを活用するなら、こっちの依頼を受けるべきだ。

 ヘルミンさんがまだ来ていないけれど、私は了承した。


「昨日は、エール三杯で止めましたが……」

「家で飲んでないといいけれど……」


 宅飲みはブレーキを掛けにくい。さすがに、自重してるよね。




 ナディアたちの所に戻ると、カールが来ていた。森のボスの"スパイク・ボア"を倒しに行くと言っている。勝てる訳が無い。

 私はギルドに残ることを伝えた。すると、カールは俺たちも残ると言い出した。

 残って何をするつもりなのか問うと、手柄を立てる為と帰ってきた。叔父でもあるコンナトキー伯爵が来るので、目に見えた結果を出す必要があるらしい。

 下手に森へ連れて行くと何をしでかすか判らない。

 私は街の中の依頼を受けることを提案する。しかし、カールは魔物を討伐すると言って聞かない。

 すると、ケビンおじさんを始めとした冒険者たちが集まってきて、カールに詰め寄った。カールは癇癪を起して怒鳴り始める。

 ギルマスが出てきて、騒ぎを止めた。

 そうして、ナディアたちはカエル岩の所で採取をすることになった。カールに奥へ行かないよう、ギルマスが念を押す。ギルマスはナディアたちに、自分が責任を取るから奥へ行こうとしたら見捨てるように言った。ギルマスもご立腹のようだ。


 これで解決かと思ったら、私がギルマスに呼ばれた。ギルドの奥に行く。トムさんもいた。

 まずは、今日のことを頼まれた。

 そして、本命は一昨日、"イナレートウルトラトカゲ"から出た"無限観音像"の件だ。私たちのパーティが所有する権利を主張していた。

 しかし、その木像を見た男爵夫人が一目惚れしたと言い出した。それで勝手に持って帰ってしまったらしい。カールの母親だけある。

 しかし、ここで引く訳にはいかない。あれはゲームのイベントで使われるアイテムだ。あと三回交換を繰り返せば"オリハルコン"が手に入る。物や金額だけでなく、クエストを達成したいという願望もある。

 ギルマスに取り返して欲しいと頼む。報酬も他のドロップも要らない。買い取りでもいいと伝える。

 そうしたら、怪訝な顔をされた。事情を知らないと、ただの変な木像だ。仕方ない。

 この期に及んで揉め事が増えた。申し訳ないけれど頑張って下さい。


 ギルドのロビーに戻ると、新人冒険者はすでに出発していた。

 そして、南方に行くベテラン冒険者たちを見送る。ロバートさんたちに、ケビンおじさんも行くようだ。会議が終わったらすぐに出発するらしい。マリアンヌさんに早く戻ってきて欲しいので、男爵にはゴネないで欲しい。




 入口の近くの椅子に座ってヘルミンさんを待つ。

 遅い。

 確か、ギルド職員の寮があって、そこに住んでいたはず。呼びに行こうか?

 

 すると、ふらつきながら沈んだ顔のヘルミンさんがギルドに入ってきた。こんなに落ち込むなんて珍しい。

 聞くと、両親に叱られたそうだ。

 それと二日酔いっぽい。

 私は今日の予定を話し、借りている客室へ向かった


 客室はベッド付きの大きい部屋だった。ギルドの指名依頼を受けた高ランク冒険者などが利用する。

 ヘルミンさんはベッドに寝っ転がりながら話を始めた。


 昨日、寮に帰ると、実家に顔を出すように連絡が来ていた。行ってみると、誤解が誤解を呼び大変なことになっていた。


「きちんと魔物退治をしていると言っても信じてもらえないのです」


 ヘルミンさんが職員の仕事をサボって遊んでいることになっていた。一昨日の午前中のことは、半分合ってると思うけど……。

 ラッパを吹き鳴らして周りの邪魔をしていた。コーヒーショップで大量飲食した。そして、戦闘中に私を置いて逃げたという。

 

「サンドラさんがたった一人で山ウルフの群れと戦っていたことになっています」

「おかしい。フェンフェンもいたのにね」

「ウォン!」

「普通、従魔はノーカンです。フェンリル君くらい懐いているのは珍しいですから」


 そうなんだ。でも、懐いているのかな? 傍目にそう見える?

 

「Bランクの冒険者証を見せれば納得して貰えるのでは?」

「う~、お父様は怒り心頭で、お母様は泣き出して、もう何も言えなかったのです」


 これは、どうしようもない。後で、私とギルマスから説明に行くしかない。

 

「叔父様たちのことで、両親は心労が溜まっていました。向こうに文句が言い難い分、私への辺りが強くなったのでしょう……」


 確か、ヘルミンさんの母親は男爵の姉だったはず。

 男爵は今、情緒不安定になっている。突然、号泣することもあるとか。泣きたいのは街の住人方だよ。


「お爺様が亡くなってから、次第に叔父様は叔母様の言いなりになっていったそうです。それで、叔母様は実兄のコンナトキー伯爵が何とかしてくれると言って、周りの忠告を聞かなくなっています。それから、連日の魔物の襲撃。お父様たちは街の有力者たちの間で、肩身の狭い思いをしているのですよ」


 気になる話を聞いた。問題があるのは男爵ではなく、男爵夫人なのだろうか?

 伝聞では、コンナトキー伯爵に悪い話は聞かない。むしろ、気弱な人物らしい。

 カールの駄目イベントが続くことから、ラスボスは男爵夫人の可能性もある。

 私は"無限観音像"の件をヘルミンさんに教えた。


「困りました。サンドラさんは街を守って大活躍しています。そんな人間から戦利品を横取りするなんて……住人からの心象は落ちるばかりです」


 ヘルミンさんはベッドの中でもぞもぞしている。


「どうすればいいのでしょうか?」

「シッカーリト氏に頑張ってもらうとか。彼なら矢面に立って動けるのでは?」

「シッカーリト兄さんは……良くも悪くもです。何と言うか、"王都者"っぽい雰囲気で敬遠されがちなのです」


 王都者とは、前世だと東京者みたいなものかな。東京の大学を出て田舎に帰ってきたら、話し方や価値観が噛み合わなくなる感じだろうか。


「仕事は良くできるので、そこを知っている人からは信頼されています。ですから、シッカーリト兄さんに今すぐ爵位を譲れと言う声もあります。けれども、支持者の方々は兄さんを戦場に立たせることには反対しています。もしものことがあれば、カール君が次の領主になってしまいますから」 


 そいつは、悪夢だ。


「カール君も叔母様の言いなりみたいなものです。おそらく、領主の地位に着いたら、政務の全てを叔母様に丸投げして、一日中遊び惚けることになるでしょう。そうなれば、街は叔母様の物です」


 カールの重要度が一気に増した気がした。やっぱり、私の前に連日現れるのは意味があるみたい。


「私は、お爺様の街を守りたいのです! サンドラさん、何かアイデアはありませんか?」

「知恵を出さなくても、ヘルミンさんは最前線で戦って街を守ってるじゃないですか? あとは自分が先代の孫だと積極的にアピールすればいいと思います」

「私では駄目です」

「駄目とは?」

「修業時代、あちこちで酷い二つ名を付けられました。"地獄の占い師"とか"クレイジーピエロ"とか」


 ぴったりだと思ってしまった。


「私では、お爺様の名前を背負えません」


 そんなこんなで、ヘルミンさんは家に帰り、ヤケ酒を飲んだそうだ。

 いや、飲んじゃダメだって……。

 気分が悪いと言って、、ヘルミンさんは眠ってしまった。

 フェンフェンも寝ている。

 私は魔導書を読んで過ごすことにした。




 一時間くらいしてヘルミンさんが目を覚ましたので、ステラさんの所に街の様子を聞きに行った。フェンフェンはヘルミンさんが抱き上げると飛び起きた。


「採掘場の撤退を支援する部隊は予定通り出発しました。ただ、男爵家の会議はまだ続いているそうです……その」

「何ですか?」

「サンドラさんの木像の件で揉めているそうです」

「えぇ……」


 私が新たな火種を起こしたみたいで嫌だ。悪いのは男爵夫人だけど、向こうは平民の私が折れるべきとか思ってそう。




 ひとまず、ヘルミンさんがどこかに行きたいとゴネるので、買い物に行くことになった。

 それなら、カレンのお店に行くのが丁度いい。お店はギルドから少し南に行った所にある。すぐに戻ってこれる。それにカレンがいたらルーシーのことを聞きたい。

 ステラさんが私とカレンがパーティを組んでいたことを覚えていたので、問題なく話が進んだ。




 カレンのお店は雑貨屋で道具屋だ。生活必需品から冒険に使うものまで幅広く置いてある。


 店に入ると、混雑していた。そして、手伝いをしているカレンがいた。

 ここ数日の騒動でお客さんがいつもの倍以上来るらしい。家を補強したり、他所の街に移る準備だったり、次々と物が売れる。カレンは品物をアイテム袋から補充して並べる仕事をしていた。


 カレンが仕事中だったので先に買い物をする。

 ヘルミンさんは魔法や錬金術に使う素材を多く買っていた。一昨日の玉入れの玉とかは魔道具なのだろうか?

 フェンフェンはドッグフードを欲しがった。置いてある全種類を一個ずつ買った。

 私は火と水のCランクの魔石を見つけたので購入した。念のために、補充しておく。

 

 帰り際に、カレンにルーシーのことを聞いた。

 ルーシーはご飯を食べられるまで回復した。けれども、昨日と一昨日、警鐘の音を聞いて体調を崩したそうだ。心的外傷からくる発作だろうか。これは回復スキルでは治せない。

 それで、一時的に街を離れることになった。明日の合同馬車で発つ。見送りに誘われたので、私も行くことにした。




 ギルドに戻る。

 受付カウンターの後ろにギルマスがいた。中に入ってきた私たちを見つけて呼んだ。

 いつもヘルミンさんがいる所で話を聞く。


「木造の件だが、午後の会議で改めて話し合うことなった。兵団側も無許可で持ち出されたと主張している。何とかなると思うが、時間が掛かりそうだ」


 案の定、話がこじれてる。ギルマスと兵団の方々には申し訳ない。


 ギルマスはこれから、伯爵の警護や歓迎パーティの準備を行うらしい。しかし、人手は足りてない。彼はもう疲れ果てている。




 それから、客室に戻った。

 ヘルミンさんはもうひと眠りすると言った。フェンフェンも眠ると言うので、私は一人で本を読んだ。


 お昼になったので、食事の手配をする。酒場で頼めば、客室まで持って来てくれるそうだ。


 給仕の人と話す。簡単な食事を頼む。

 それと、フェンフェンが肉を食べたいと言っているので、メニューを見せてもらう。仕入れが滞っていて、出せない物があるらしい。このまま食糧難が起きないか心配だ。


 注文を終えて、客室に戻ろうとしたとき。入口の方が騒がしくなった。

 始まりの森に採取に行っていた冒険者たちが戻って来た。

 そして、カールのイビキがロビーに響き渡る。おそらくカエル岩にいた新人冒険者が総出で担いできたのだろう。みんな、息が上がっている。


 男爵夫人は汚名返上をさせたいと聞いていた。連日、この調子では悪化するばかりだ。早く冒険者を辞めさせて欲しい。


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