四十四話 バトルはターン制が好き
敵は、マグマ属性のイナレートウルトラトカゲが一体。さらに、その取り巻きに、通常サイズのオオトカゲが四体ほど。風属性が二体に、水と火が一体ずつ。
私たちが取り巻きを引き受けて、ヘルミンさんにウルトラトカゲを倒してもらうのがベストだ。彼女の負担が多いけれど了承してくれるよね。
ヘルミンさんはアイテム袋から玉乗り用の大きなボールを取り出した。ベースが青で、黄色い星マークがたくさん付いている。
ステッキをくるくる回して、のりのりだ。
「私たちがウルトラトカゲを倒すので、皆さんは取り巻きの相手をお願いします」
私たち?
私も含まれてる?
「私は後ろにいます。レベル足りてないです」
「あれは経験値も美味しそうですよ?」
「その前に、死にます」
「むー」
「全部倒しちゃって良いんですよ?」
「ブランクあるので、私も慎重に行きます。では、そんな感じで頑張りましょう」
ギルマスたちは、きょとんとした顔をしている。この状況で軽く会話している私たちが異常な訳だけど。
ロバートさんが止めようと動いたけれど、ヘルミンさんが先に飛び出した。
ヘルミンさんは陣地の前に立つと、ボールを上に放り投げ、ステッキをバットのように構えた。
「ヴンダバー!」
綺麗なフォームでホームランを打った。
ボールはウルトラトカゲに当たり、激しくノックバックさせた。
「ギャオオオ!?」
私は、拍手を送る。チラッとギルマスたちを見ると、一緒に拍手してくれた。その表情は半信半疑だ。
ヘルミンさんは両手を上げながらクルクル回って歓声に答える。そして、ウルトラトカゲに向かって行く。
その途中で、四体のオオトカゲの横をスルリと通り過ぎた。オオトカゲたちは混乱気味になっていたけれど、ヘルミンさんを襲おうと戦闘態勢に入る。
このまま取り巻きも処分して欲しいのだけれど……。
すると、陣地から大声がした。
「こっちだぞー!!!」
兵士たちがオオトカゲを引き付けようとしている。
余計な事しないで、とか思ってしまった。やましい気持ちではなく、ヘルミンさんの実力ならまとめて倒せるはずだ。
しかし、勝率を上げるには、私たちが引き受けた方が良い。
ロバートさんたちも声を上げる。
魔法使いたちが魔法を撃つ。まだ距離があるので避けられた。
けれども、タゲがこっちに付いたようだ。オオトカゲたちが向かってくる。
「来るぞ! 構えろ!」
私は陣地の西側、少し後ろにいる。風魔法の壁を作る。
フェンフェンは柵の前に立っている。戻るように言っても聞かない。たぶん平気だろう。
オオトカゲたちがきた。
私は前衛と魔物がドカンとぶつかり合うと思っていた。しかし、オオトカゲたちは前衛を避けて、左右に回り込んだ。
そして、オオトカゲたちは陣地の壁を飛び越えて、中に入ってきた。前衛の数が足りなくて、守りが薄くなっていたのだ。
フェンフェンは魔物のカンで相手の動きを察知したようだ。一匹、陣地の前で止めた。
「ギィィィィ!」
「ウオオオン!」
風属性だ。私は"ストーン・バレット"の用意をする。
それから、チャージ中に魔力探知で周囲の様子を確認する。ロバートさんたちと二匹が交戦している。そして、最後の一匹が民間人の所に向かっている。まずい状況だ。
チャージが終わる。三発用意した。
フェンフェンの合図に合わせて、一発撃つ。避けられた。ヘルミンさんのデバフが無いと、こんなに違うのか。取り巻きだから、レベルも高いのかもしれない。
すると、フェンフェンが炎を纏い、弾丸のように飛び出す。オオトカゲの喉に噛みついた。抵抗するオオトカゲはくるくると回る。フェンフェンの口から炎が見える。オオトカゲの喉を焼いているみたい。
この状況で、フェンフェンに当てないように撃つのは、今の私にはまだ無理だ。様子を見る。
次の瞬間、フェンフェンの方から口を離して、私の方に転がってきた。そして、私に「撃て」と合図を送る。オオトカゲは急にフェンフェンが離れたので戸惑っている。チャンスだ。
二発目。命中。
横転した所に、三発目。命中。
オオトカゲは灰になった。
戦闘に勝利した。
いや、まだ三匹もいる。
周囲を見渡すと、あちこちで戦闘が行われている。大きな声や悲鳴が聞こえてくる。
魔力探知で確認すると、オオトカゲたちが素早く動いて兵士たちを翻弄しているようだ。
ヘルミンさんの方を見る。ボールに乗って高速移動しながら、ウルトラトカゲの攻撃を回避していた。そして、ラッパから青いビームを出してダメージを与えている。圧倒しているようにも見える。
それで、私はどう動けばいい?
考えている間にも状況は悪化する。やっぱりゲームはターン制がいい。
フェンフェンが吠える。私に「こっちに引っ張ってくる」と言って、後ろの城門の方へと向かった。
私は周囲を再び見渡し、オオトカゲの属性を確認する。ロバートさんやギルマスの姿が見える。戦っているのは、青と緑の縞模様のオオトカゲ。つまり、私の相手は火属性のオオトカゲだ。
私は"ウォーターボール"を二つ用意する。
フェンフェンが後方の陣地から飛び出してきた。後ろから赤の縞模様のオオトカゲが追いかけてくる。
私は狙いを定めて、ウォーターボールを一発撃つ。相手は夢中で
、こっちに気がついていない。
ドッバァァァ!
命中した。ひっくり返る。
「サンドラの嬢ちゃんー!」
声がした。遠くから。
「援護するぞー!」
城門の上からだ。
フェンフェンも気がついて、その場を離れて私の所へ走る。
そして、上から矢や魔法が降り注いだ。
「グギィィィ!?」
私も二発目のウォーターボールを撃つ。命中した。
そうして、オオトカゲは灰になった。
よし、残り二体。
「ウォンッ!?」
フェンフェンが「後ろだ」と吠える。
こういう時、魔法の壁を使っている場合、振り向くよりも先に、後方に魔力を集中させるように教わった。そして、訓練と称して、ゴムボールを一杯投げられたりもした。
その成果が出たのか、不意打ちを仕掛けたオオトカゲを弾き飛ばすことができた。
「グギィィィ!?」
前方の敵に夢中になって、魔法探知を怠っていた。危なかった。
青の縞模様。水属性は風属性と相性が悪い。だから、魔法の壁が破壊されることはないと思うので、この中に籠城することにする。
「ギィィィィ!」
「ウオオオン!」
助けに来てくれたフェンフェンがオオトカゲと交戦する。
援護するべきか、先にもう一匹の方も確認したい。周囲を探知すると反応がない。倒したのだろうか。
残りの一匹が離れていく。フェンフェンが追いかけようとしたけれど、私の所に戻ってきた。
「ウォン?」
心配してくれているみたい。
いつの間にか、地面にしゃがんでいた。
「平気。最後の一匹を倒そう」
しかし、立ち上がろうとすると上手くいかない。腰が抜けたという状態かもしれない。初めてだ。まずいかも。
魔力探知で、残りの一匹を確認する。すると、近くにあった反応が消えた。その前には、ヘルミンさんの反応がある。彼女はウルトラトカゲと戦っていたはずだ。
「サンドラさ~ん、大丈夫ですか~?」
間の抜けた声がした。
「何で、ヘルミンさんがここにいるの?」
「魔物を倒して、戻って来た所です」
「倒したんですか!?」
「はい。これで全部みたいですよ」
ゆっくり腰を上げる。周囲を見ると、誰も戦っていない。魔力探知に反応も無し。戦闘終了。
「ふぅー」
ドッと疲れて、尻餅をつくように倒れた。最初はゲーム脳で麻痺していたけれど、後から怖くなってしまった。
ギルマスがこちらに走ってきた。
「大丈夫か!?」
「ええ、ビックリしただけです……」
これから、負傷者の手当てをするそうだ。私たちは休むように言われた。
私は紅茶を取り出す。ヘルミンさんの分も淹れる。フェンフェンも欲しいと言うので三人分だ。
「そうそう、ウルトラトカゲのドロップなのですが……」
「はずれですか?」
「ただの木彫りの像です。残念」
アイテム袋から取り出されたのは、何と仏像だった。この世界には仏教が無いので価値があるのか微妙な所だ。クオリティしたいでは、木彫りコレクターに売れるかも。
私は"鑑定"の魔法を使う。すると、驚くべき結果が出た。
"無限観音像"
これはゲームのイベントで使われたアイテムだ。次々とアイテムを交換して、わらしべ長者になるというもの。その報酬は、最高の金属"オリハルコン"だ。
昔、先生が冒険したときに、いくつか回していたらしい。しかし、超司教様が対象アイテムをうっかり店売りしてしまい、進行不可になっていた。
こんなところで、続きのアイテムに出会えるなんて。
「もしかしたら、貴重な像かもしれません」
「本当ですか!?」
ゲームのことは説明できないので、アルベーデン領に戻って詳しい人に聞いてみるように言って誤魔化した。
「このアイテムの所有権は、ヘルミンさんにあるのですか?」
「今回は兵団のお仕事に雇われた形ですね。おそらく、全てのドロップアイテムを兵団が管理することになります。なので、一度提出して、後から報酬を決める際に別個で交渉する形になりますね」
「面倒ですね」
「私たちは大活躍したので、報酬をがっぽり要求する権利があります。すぐに話は纏まると思いますよ」
「そうですか……」
「ええ、それで今回は無理を言って付いてきてもらったので、サンドラさんに差し上げますよ」
「遠慮なく貰います!」
「ど~ぞど~ぞ♪」
これで前世の最強武器が作れるぞ! ドワーフを仲間にしないといけないけれど。
少し休んでいると、門の方で光が消えた。魔法の効果が切れたみたいだ。
落とし格子が上がり、城門が開く。
そして、人が次々と入って来て、救護が始まった。
「一件落着ですね」
ヘルミンさんが飲み終えたカップを私に返した。
私はフェンフェンのカップも回収してアイテム袋に入れる。
とりあえず、立ち上がる。普通に立てる。回復したみたい。
どこへ行こうかとキョロキョロしていると、ウィルたちや小麦パーティがやってきた。
ウィルたちは民間人を守るため、オオトカゲと戦おうとしたらしい。そして、勝ち目がないと死を覚悟した所をフェンフェンに助けられた。丁度いいタイミングで駆け付けたみたいだ。
そんな訳で、お礼を言われたフェンフェンは有頂天だ。明日が大変だ。
それから、ヒューゴたちが大ケガをしたと聞いた。様子を見に、城門の前に行く。
人が大勢いる。救護活動の邪魔になるかもと思い引き返そうとしたとき、ヒューゴの仲間の一人を見つけた。伏せて泣いている。その先には、ヒューゴの亡骸があった。
驚いて足が止まる。
他の皆もだ。
私たちを見つけた街の人が教えてくれた。ヒューゴと彼の仲間が一人亡くなった。そして、レオンのパーティは全滅した。彼らは民間人を守るために率先して戦ったそうだ。
ほんのわずかな付き合いだったけれど、年の近い彼らの死は辛いものがある。
すると、ヘルミンさんが何やらソワソワしている。
「街を守った英雄に一曲捧げますか? これは冒険者の習わしです」
「今はちょっと……無理」
私の様子を察して、ヘルミンさんはラッパをアイテム袋にしまった。
今度は、西の方から音がした。西門から向かってきた援軍だ。
ボブさんの姿が見える。それから、キャベツ帯の護衛の人たち。そして、周りの冒険者がケビンおじさんと呼んでいるのが聴こえた。風のほこらへ採取に行っている冒険者たちだ。
彼らは、私たちの無事を知って喜んでくれた。そして、すぐに戦闘態勢に入ろうとする。
それを、ロバートさんが出てきて止める。
魔物が全て倒されたと聞いて、彼らは驚愕した。
「倒したって、誰がやったんだ!?」
ロバートさんが私を見る。
何で?
援軍の皆も私を見る。
私はヘルミンさんを指差す。
そして、ヘルミンさんは笑顔で私を指差した。
何で!?




