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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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四十四話 バトルはターン制が好き


 敵は、マグマ属性のイナレートウルトラトカゲが一体。さらに、その取り巻きに、通常サイズのオオトカゲが四体ほど。風属性が二体に、水と火が一体ずつ。

 私たちが取り巻きを引き受けて、ヘルミンさんにウルトラトカゲを倒してもらうのがベストだ。彼女の負担が多いけれど了承してくれるよね。


 ヘルミンさんはアイテム袋から玉乗り用の大きなボールを取り出した。ベースが青で、黄色い星マークがたくさん付いている。

 ステッキをくるくる回して、のりのりだ。


「私たちがウルトラトカゲを倒すので、皆さんは取り巻きの相手をお願いします」


 私たち?

 私も含まれてる?


「私は後ろにいます。レベル足りてないです」

「あれは経験値も美味しそうですよ?」

「その前に、死にます」

「むー」

「全部倒しちゃって良いんですよ?」

「ブランクあるので、私も慎重に行きます。では、そんな感じで頑張りましょう」


 ギルマスたちは、きょとんとした顔をしている。この状況で軽く会話している私たちが異常な訳だけど。

 ロバートさんが止めようと動いたけれど、ヘルミンさんが先に飛び出した。

 ヘルミンさんは陣地の前に立つと、ボールを上に放り投げ、ステッキをバットのように構えた。


「ヴンダバー!」


 綺麗なフォームでホームランを打った。

 ボールはウルトラトカゲに当たり、激しくノックバックさせた。


「ギャオオオ!?」


 私は、拍手を送る。チラッとギルマスたちを見ると、一緒に拍手してくれた。その表情は半信半疑だ。


 ヘルミンさんは両手を上げながらクルクル回って歓声に答える。そして、ウルトラトカゲに向かって行く。

 その途中で、四体のオオトカゲの横をスルリと通り過ぎた。オオトカゲたちは混乱気味になっていたけれど、ヘルミンさんを襲おうと戦闘態勢に入る。

 このまま取り巻きも処分して欲しいのだけれど……。

 すると、陣地から大声がした。


「こっちだぞー!!!」


 兵士たちがオオトカゲを引き付けようとしている。

 余計な事しないで、とか思ってしまった。やましい気持ちではなく、ヘルミンさんの実力ならまとめて倒せるはずだ。

 しかし、勝率を上げるには、私たちが引き受けた方が良い。


 ロバートさんたちも声を上げる。

 魔法使いたちが魔法を撃つ。まだ距離があるので避けられた。

 けれども、タゲがこっちに付いたようだ。オオトカゲたちが向かってくる。


「来るぞ! 構えろ!」


 私は陣地の西側、少し後ろにいる。風魔法の壁を作る。

 フェンフェンは柵の前に立っている。戻るように言っても聞かない。たぶん平気だろう。


 オオトカゲたちがきた。

 私は前衛と魔物がドカンとぶつかり合うと思っていた。しかし、オオトカゲたちは前衛を避けて、左右に回り込んだ。

 そして、オオトカゲたちは陣地の壁を飛び越えて、中に入ってきた。前衛の数が足りなくて、守りが薄くなっていたのだ。


 フェンフェンは魔物のカンで相手の動きを察知したようだ。一匹、陣地の前で止めた。


「ギィィィィ!」

「ウオオオン!」


 風属性だ。私は"ストーン・バレット"の用意をする。

 それから、チャージ中に魔力探知で周囲の様子を確認する。ロバートさんたちと二匹が交戦している。そして、最後の一匹が民間人の所に向かっている。まずい状況だ。


 チャージが終わる。三発用意した。

 フェンフェンの合図に合わせて、一発撃つ。避けられた。ヘルミンさんのデバフが無いと、こんなに違うのか。取り巻きだから、レベルも高いのかもしれない。

 すると、フェンフェンが炎を纏い、弾丸のように飛び出す。オオトカゲの喉に噛みついた。抵抗するオオトカゲはくるくると回る。フェンフェンの口から炎が見える。オオトカゲの喉を焼いているみたい。

 この状況で、フェンフェンに当てないように撃つのは、今の私にはまだ無理だ。様子を見る。

 次の瞬間、フェンフェンの方から口を離して、私の方に転がってきた。そして、私に「撃て」と合図を送る。オオトカゲは急にフェンフェンが離れたので戸惑っている。チャンスだ。


 二発目。命中。

 横転した所に、三発目。命中。

 オオトカゲは灰になった。

 

 戦闘に勝利した。




 いや、まだ三匹もいる。

 

 周囲を見渡すと、あちこちで戦闘が行われている。大きな声や悲鳴が聞こえてくる。

 魔力探知で確認すると、オオトカゲたちが素早く動いて兵士たちを翻弄しているようだ。

 ヘルミンさんの方を見る。ボールに乗って高速移動しながら、ウルトラトカゲの攻撃を回避していた。そして、ラッパから青いビームを出してダメージを与えている。圧倒しているようにも見える。

 

 それで、私はどう動けばいい?

 

 考えている間にも状況は悪化する。やっぱりゲームはターン制がいい。


 フェンフェンが吠える。私に「こっちに引っ張ってくる」と言って、後ろの城門の方へと向かった。

 私は周囲を再び見渡し、オオトカゲの属性を確認する。ロバートさんやギルマスの姿が見える。戦っているのは、青と緑の縞模様のオオトカゲ。つまり、私の相手は火属性のオオトカゲだ。

 私は"ウォーターボール"を二つ用意する。


 フェンフェンが後方の陣地から飛び出してきた。後ろから赤の縞模様のオオトカゲが追いかけてくる。

 私は狙いを定めて、ウォーターボールを一発撃つ。相手は夢中で

、こっちに気がついていない。


 ドッバァァァ!


 命中した。ひっくり返る。


「サンドラの嬢ちゃんー!」


 声がした。遠くから。


「援護するぞー!」


 城門の上からだ。

 フェンフェンも気がついて、その場を離れて私の所へ走る。

 そして、上から矢や魔法が降り注いだ。


「グギィィィ!?」


 私も二発目のウォーターボールを撃つ。命中した。

 そうして、オオトカゲは灰になった。

 よし、残り二体。


「ウォンッ!?」


 フェンフェンが「後ろだ」と吠える。

 こういう時、魔法の壁を使っている場合、振り向くよりも先に、後方に魔力を集中させるように教わった。そして、訓練と称して、ゴムボールを一杯投げられたりもした。

 その成果が出たのか、不意打ちを仕掛けたオオトカゲを弾き飛ばすことができた。


「グギィィィ!?」


 前方の敵に夢中になって、魔法探知を怠っていた。危なかった。

 青の縞模様。水属性は風属性と相性が悪い。だから、魔法の壁が破壊されることはないと思うので、この中に籠城することにする。


「ギィィィィ!」

「ウオオオン!」


 助けに来てくれたフェンフェンがオオトカゲと交戦する。

 援護するべきか、先にもう一匹の方も確認したい。周囲を探知すると反応がない。倒したのだろうか。

 残りの一匹が離れていく。フェンフェンが追いかけようとしたけれど、私の所に戻ってきた。


「ウォン?」


 心配してくれているみたい。

 いつの間にか、地面にしゃがんでいた。


「平気。最後の一匹を倒そう」


 しかし、立ち上がろうとすると上手くいかない。腰が抜けたという状態かもしれない。初めてだ。まずいかも。

 魔力探知で、残りの一匹を確認する。すると、近くにあった反応が消えた。その前には、ヘルミンさんの反応がある。彼女はウルトラトカゲと戦っていたはずだ。


「サンドラさ~ん、大丈夫ですか~?」


 間の抜けた声がした。


「何で、ヘルミンさんがここにいるの?」

「魔物を倒して、戻って来た所です」

「倒したんですか!?」

「はい。これで全部みたいですよ」


 ゆっくり腰を上げる。周囲を見ると、誰も戦っていない。魔力探知に反応も無し。戦闘終了。


「ふぅー」


 ドッと疲れて、尻餅をつくように倒れた。最初はゲーム脳で麻痺していたけれど、後から怖くなってしまった。




 ギルマスがこちらに走ってきた。

 

「大丈夫か!?」

「ええ、ビックリしただけです……」


 これから、負傷者の手当てをするそうだ。私たちは休むように言われた。

 私は紅茶を取り出す。ヘルミンさんの分も淹れる。フェンフェンも欲しいと言うので三人分だ。


「そうそう、ウルトラトカゲのドロップなのですが……」

「はずれですか?」

「ただの木彫りの像です。残念」


 アイテム袋から取り出されたのは、何と仏像だった。この世界には仏教が無いので価値があるのか微妙な所だ。クオリティしたいでは、木彫りコレクターに売れるかも。

 私は"鑑定"の魔法を使う。すると、驚くべき結果が出た。


 "無限観音像"


 これはゲームのイベントで使われたアイテムだ。次々とアイテムを交換して、わらしべ長者になるというもの。その報酬は、最高の金属"オリハルコン"だ。

 昔、先生が冒険したときに、いくつか回していたらしい。しかし、超司教様が対象アイテムをうっかり店売りしてしまい、進行不可になっていた。

 こんなところで、続きのアイテムに出会えるなんて。


「もしかしたら、貴重な像かもしれません」

「本当ですか!?」


 ゲームのことは説明できないので、アルベーデン領に戻って詳しい人に聞いてみるように言って誤魔化した。


「このアイテムの所有権は、ヘルミンさんにあるのですか?」

「今回は兵団のお仕事に雇われた形ですね。おそらく、全てのドロップアイテムを兵団が管理することになります。なので、一度提出して、後から報酬を決める際に別個で交渉する形になりますね」

「面倒ですね」

「私たちは大活躍したので、報酬をがっぽり要求する権利があります。すぐに話は纏まると思いますよ」

「そうですか……」

「ええ、それで今回は無理を言って付いてきてもらったので、サンドラさんに差し上げますよ」

「遠慮なく貰います!」

「ど~ぞど~ぞ♪」


 これで前世の最強武器が作れるぞ! ドワーフを仲間にしないといけないけれど。


 


 少し休んでいると、門の方で光が消えた。魔法の効果が切れたみたいだ。

 落とし格子が上がり、城門が開く。

 そして、人が次々と入って来て、救護が始まった。


「一件落着ですね」


 ヘルミンさんが飲み終えたカップを私に返した。

 私はフェンフェンのカップも回収してアイテム袋に入れる。

 とりあえず、立ち上がる。普通に立てる。回復したみたい。


 どこへ行こうかとキョロキョロしていると、ウィルたちや小麦パーティがやってきた。

 ウィルたちは民間人を守るため、オオトカゲと戦おうとしたらしい。そして、勝ち目がないと死を覚悟した所をフェンフェンに助けられた。丁度いいタイミングで駆け付けたみたいだ。

 そんな訳で、お礼を言われたフェンフェンは有頂天だ。明日が大変だ。

 

 それから、ヒューゴたちが大ケガをしたと聞いた。様子を見に、城門の前に行く。


 人が大勢いる。救護活動の邪魔になるかもと思い引き返そうとしたとき、ヒューゴの仲間の一人を見つけた。伏せて泣いている。その先には、ヒューゴの亡骸があった。

 驚いて足が止まる。

 他の皆もだ。

 私たちを見つけた街の人が教えてくれた。ヒューゴと彼の仲間が一人亡くなった。そして、レオンのパーティは全滅した。彼らは民間人を守るために率先して戦ったそうだ。

 ほんのわずかな付き合いだったけれど、年の近い彼らの死は辛いものがある。

 

 すると、ヘルミンさんが何やらソワソワしている。


「街を守った英雄に一曲捧げますか? これは冒険者の習わしです」

「今はちょっと……無理」


 私の様子を察して、ヘルミンさんはラッパをアイテム袋にしまった。




 今度は、西の方から音がした。西門から向かってきた援軍だ。

 ボブさんの姿が見える。それから、キャベツ帯の護衛の人たち。そして、周りの冒険者がケビンおじさんと呼んでいるのが聴こえた。風のほこらへ採取に行っている冒険者たちだ。


 彼らは、私たちの無事を知って喜んでくれた。そして、すぐに戦闘態勢に入ろうとする。

 それを、ロバートさんが出てきて止める。

 魔物が全て倒されたと聞いて、彼らは驚愕した。


「倒したって、誰がやったんだ!?」


 ロバートさんが私を見る。

 何で?

 援軍の皆も私を見る。


 私はヘルミンさんを指差す。

 そして、ヘルミンさんは笑顔で私を指差した。

 何で!?


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