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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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四十二話 恐竜大戦争

 慌てず、冷静に動こう。

 リッカルドのおっさんから魔物の情報を貰う。"イナレートオオトカゲ"の群れだ。これは厄介な事態だ。

 

 岩砂糖の採掘場のある樹林帯の南側にイナレート山脈がある。ここやアルベーデン辺境伯領から王国南部に行こうとすると、この山脈が邪魔をして通れない。東に遠回りする必要がある。

 

 そこに出現するのがイナレートオオトカゲという魔物だ。トカゲと呼ばれているけれど、その姿は恐竜だ。前世でラプトルと呼ばれる恐竜の姿を覚えていて、それによく似ている。

 爪と牙が漫画的な大きさになっていて、鉄の鎧も切り裂く。

 さらに、属性がバラバラだ。皮膚の縞模様の色を見て判別できるが、属性武器や魔法を使うのに混乱する。

 さらに、通常よりも一回り大きい個体も存在する。群れはニ十匹以上、大型は三体いるとのこと。


 相手をするには冒険者ならCランク以上の実力が必要だ。Dランクが"普通"の意味なら、Cランクは"とても強い"と言う事だ。

 キャベツ帯の特別依頼の護衛をしていた三組のパーティはCランクの冒険者パーティだ。他にも、メンバーにジマーリ男爵領出身者のいるCランクパーティが何組か街に来ているはず。ただ、採掘場の方に行ってしまった可能性もある。


 そして、兵団。田舎の城塞都市に、Cランクの実力がある兵士が何人いるだろうか? あまり期待できない。


 とりあえず、ディーノさんたちが戻ってくるまで時間稼ぎをするのがベストだと思う。ディーノさんはBランクだ。"卓越した実力者"を意味する。他にもBランク以上の冒険者が援軍に来てくれるかもしれない。


 現状、城門が開かないのが問題だ。私たちだけで戦わないといけない。

 陣地も未完成で、戦える者も十人くらい。さらに、守らないといけない民間人が二十人以上いる。

 これでどう時間を稼げばいいのだろう? 

 最低だ。


 ひとまず、陣地の所まで後退しよう。カールをキャッチするのに、前の方に出ていた。

 陣地を見ると、アイラさんが手招きしている。


 ヒューゴたちを見ると、カールを担架に乗せようとしている。上手くいかない。森で体力を消耗したみたい。早く運んでほしいけれど、急かせない。

 大工が二人、応援に来てくれた。彼らが担架を担いでくれるそうだ。


 すると、地響きが大きくなった。


 ドドドドド!


「「「ギィィィィィ!!!」」」


 イナレートオオトカゲの姿が見えた。

 体高百四十センチくらいのがニ十体くらい。三メートルくらいのが二体いる。すごい迫力だ。これは恐竜大戦争だ。

 ヒューゴや大工たちが恐怖のあまり固まっている。


 選択肢は二つ。みんなを守るか、見捨てるかだ。今なら、"トノサマバッタの羽"で私は逃げることができる。

 ひとまず、陣地に下ろう。カールは置いて行くしかない。

 しかし、ギルマスが叫ぶ。


「俺が残る。お前たちは門の所へ行け!」


 残る!? 

 カールを運ぶつもりなのだろう。これではギルマスを見殺しにしてしまう。放置していたサブイベントが最低の選択を迫ってきた。

 

 こうなったら、この場で戦おう。


「ヘルミンさん、何とかなりますか?」

「やってみますよ! 期待してください!」


 この状況下でもウキウキしている。クレイジーはそっちだよ。

 遊び人スキルを使うと、ランダムで不思議なことが起きる。良いことも悪いことも。ここから逆転できるかどうかは、賭けだ。


 そして、私は魔石を取り出し、魔力を込める。"ウォーターウォール"の魔法を使うつもりだ。魔法の壁を作って防御する魔法だ。


 ギルマスが早く逃げるように言う。しかし、ヒューゴや大工たちは混乱している。


 ヘルミンさんはくるくる回りながら、スキルを発動する。


「行きますよー! "ブリリアント・シュピール・タロット・エクスペリエンス"!」


 虹色の光の中でタロットカードが回転する。今朝のよりも、光が強い。ずっと"遊びポイント"を貯めていたからだ。

 そして、一枚のカードが選ばれ、周囲に可愛い形の星が飛び出す。

 

「"酒場のカード"! 正位置ですよー!」


 ヘルミンさんが魔物の群れにカードを投げ込む。

 すると、怪しい光が溢れて、魔物たちが次々とひっくり返った。

 

「「「グギィィィ!!!」」」


 苦しんでいるようにも、楽しんでいるようにも見える。


「みんな、酔っ払っちゃいました! どうです? 私だって、やる時はやりますよー!」


 "酒場のカード"はそういう効果なのか。そうなると、逆位置が怖いな。今生の体では、まだお酒を飲んだことが無い。


「とぅっ!」

 

 ヘルミンさんが大きく飛び跳ねて、魔物の群れに飛ぶ込む。そして、逆さまになって回転しながら、クラブやラッパの空気砲で攻撃する。


「サンドラさ~ん♪ よりどりみどりですよ~♪」


 華麗に着地して、踊るように魔物の攻撃を避けながら、次々と攻撃を放っている。

 思った以上に、ヘルミンさんが強い。Bランクの上、Aランクに近いかも。Aランクは"常識外れ"とか"狂っている"とか、そういうランクだ。

 

 私はアイテム袋から、魔力の籠った湧き水が入った桶を取り出す。、魔石の魔力を解放し、桶の中の水を操り"ウォーターウォール"を作る。"ライジング・バラクーダ"の魔石を使ったので、苦手な風属性や雷属性に耐性がある特別仕様だ。


「フェンフェン。こっちに来る魔物だけ倒そう。ゆっくり陣地まで下がるよ」

「ガゥ!」

「がうー!」


 リッカルドのおっさんも混ざる。この人も恐怖心とか無いのかな。

 今の内に、カールを運んでもらいたい。しかし、彼らを見ると、きょとんとした顔をして、固まっている。

 ギルマスまで。ヘルミンさんの奇行に驚いているのかな。

 何て声をかけようか。わからない。

 すると、リッカルドのおっさんが、ヘルミンさんが私を呼んでいると言う。


「サンドラさ~ん、見てくださーい! "ゲハィムニス・ヘルミン・カーニバル"! 『演目 雷を登るマンドリル』!」


 ヘルミンさんが虹の色に塗り分けられた七つのボールをジャグリングしている。それも魔物群れの中で攻撃を避けながら。

 そして、青の縞模様をした大型のイナレートオオトカゲの口の中に次々とボールを放り込む。それも、後ろ向きに投げたり、空中で一回転しながら投げたりとパフォーマンスも怠らない。

 全てを入れ終わり、ヘルミンさんが合図をする。


「アメージング!」


 ドガァァァァン!


「グォォォォォ!」


 大型イナレートオオトカゲの口から電撃が飛び出した。薄い青と赤と黄色の電撃だ。マンドリルの鼻みたい。

 断末魔を上げて、大型イナレートオオトカゲは灰になった。

 彼女の遊びスキルは演目を成功させることで、効果が発動する。そして、貯まった遊びポイントと観客の数で威力が上がる仕様だ。

 私は拍手をする。こうすると、MPの回復も早くなり、ディレイも減るらしい。


「皆さんも、拍手をお願いします」


 ギルマスにヒューゴたちもまだ固まっている。


「オーディエンスが多い方がヘルミンさんに有利なんです」

「そ、そうか……」


 ギルマスも半信半疑の様子。

 みんなで拍手する。

 ヘルミンさんも手をパタパタさせて、大はしゃぎしている。

 そうしていると、後ろからアイラさんの声がした。


「早く! 陣地まで下がって!?」


 私たちを呼んでいる。必死に手を振っていた。

 その声でギルマスたちが正気に戻った。


「運んでくれ! 我々が援護する!」

 

 ギルマスが剣を抜く。右腕を失っているため、左腕でショートソードを握っている。ギルマスは冒険者で言うとBランクの実力者だったと聞く。今は、どこまで戦えるのか。


 ヒューゴと大工たちがカールを担架に乗せる。


 すると、通常サイズのイナレートオオトカゲが四匹襲い掛かってきた。酔っ払って、フラフラしている。フェンフェン、ギルマス、リッカルドのおっさんが止める。

 私は魔法の準備をする。縞模様で対象の属性を見極めないといけない。赤色が火属性、青色が水属性、緑色が風属性、黄色が土属性だ。そうして、弱点になる属性の魔法で攻撃する。


「ガゥ!」


 私はフェンフェンの合図に従い魔法を撃つ。デバフのお陰で、簡単に当てられた。

 フェンフェンが次々と指示を出すので、私は魔法を撃つ機械になった。そして、気がつくと、火と風に土の魔法を使っていた。壁魔法で水属性を使っているので、四属性全て使ってしまった。

 命の危険があるので、細かいことかもしれないけれど、これで勇者職だとバレる可能性がある。

 ギルマスが驚愕の表情で私を見ているけれど、気にしないでおく。


「サンドラさ~ん♪」


 ヘルミンさんだ。またスキルを使うみたい。相手は赤色の大型イナレートオオトカゲだ。


「"ゲハィムニス・ヘルミン・カーニバル"! 『演目 氷塊の上で凹むシロクマ』!」


 また玉入れだ。3つ、4つと口の中に放り込んでいく。

 そして、5つ目を投げようとしたとき、オオトカゲが激しくスピンした。おそらくスキルだ。


「おおっと!?」


 ヘルミンさんが慌てて回避する。

 そして、彼女の持っていたボールが手を離れて、こちらに飛んできた。


 一個はリッカルドのおっさんが弾いた。


 もう一個は私の所に飛んできた。フェンフェンが吠えて教えてくれたので、大急ぎで"ウォーターウォール"を構える。弾く余裕が無かったので、前方に水の壁を集中させ、魔力を込めてガードした。

 すると、水の壁が凍り付いた。

 私は慌てて後ろに下がる。全方位に展開していれば、閉じ込められて自分も凍っていた。背筋がゾッとした。


 玉は全部で七つ。最後の一個は、後方に着弾した。

 

「「うわああああ!?」」

  

 後ろを見ると、担架を運んでいる大工二人がスピンしている。

 そして、カールが勢いよく放り出された。

 飛ばされた先は、門の辺り。民間人が集まっている所だ。


「わあああ!?」

「ひえええ!?」

「ぐあああ!?」


 カールは民間人の集まりに命中した。ボーリングのピンの様に人が倒れた。コミカルに見えるけれど、大惨事だ。


 これが遊び人スキルを外したペナルティなの!?


 ヘルミンさんを見ると、笑いながらグラブでジャグリングをしていた。ふざけれいる訳でなく、ちゃんと戦っている。でも、むかつく。

 

「ガゥ!」


 フェンフェンが起きろと言ってくる。前を向くと、オオトカゲが五体ほど私たちの所に来ていた。


「無事か!?」


 ギルマスの声に返事をして、すぐに魔法の準備をする。さっきと同じように、フェンフェンの指示に従って魔法を撃つ。

 そして、少しずつ後ろに下がって行く。今度は城壁の上から声がして、弓や魔法による援護射撃が行われた。オオトカゲが怯んだところを、フェンフェンとリッカルドのおっさんがトドメを刺した。


 周りを見ると、陣地の前でも戦闘が行われていたようだ。魔石とドロップアイテムがいくつか転がっている。アイラさんたちが倒したみたい。


 どうやら、通常サイズのイナレートオオトカゲはすべて倒せたようだ。残るは大型が一体。


 ヘルミンさんを見る。大きく曲がった持ち手のステッキでパフォーマンスをしている。まるで、この世のすべてを冒涜するようなダンスだ。

 速くて見えないけれど、ステッキで攻撃してダメージを入れている。ステッキには水属性と攻撃力増加のエンチャントが施されていると思う。


 そうして、大型イナレートオオトカゲは灰になった。

 ヘルミンさんが勝利の舞を披露する。


「やりましたよー」


 くるくる回る。ヘルミンさんでなければ、可愛いと感想を言っていた。


 とりあえず、勝った?

 リッカルドのおっさんの話では、大型は三体いたはず。

 ここは小休止だ。


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