四話 冒険者ギルドに登録だ
あれから二年が経った。
私は十四歳になった。例の年だ。うずく。
「冒険に行きたいです……」
「……いいよ」
いつものように断られた。
「わかりました。庭園の掃除に行ってきます」
「何でさ。いいって言ったじゃん!?」
あれ? おかしい? いいの?
「やったー!!!」
これでチュートリアルが終わる。長かった。
現在、私はミルルムさんのお屋敷で使用人として雇われている。そして、仕事の合間に戦闘の稽古をつけてもらった。そんな訳で、ミルルムさんのことは"先生"と呼んでいる。
先生からの厳しい指導。ゲームと違って、基礎から覚えないといけない。辛かった。
「ただし、行先はこっちで決めさせてもらうよ」
「えー」
「何だよー」
「ストーリーの一本道化が危惧されます」
「意味わかんないんだけど……」
「気にしないで下さい。はい、そこに行きます」
自由に動きたいのは山々だけれど、仕方が無い。
この国は、いわゆる封建社会というやつらしい。悪く言うと、権力者が好き勝手やってるってこと。
冒険者と言えば聞こえは良いけれど、一介の労働者に過ぎない。不測の事態で、貴族や大商人に目をつけられたら一溜まりもない。
だから、先生の後ろ盾が必要だ。ここは大人しく指示に従う。
「そう。じゃあ、ちょっと地図を見て」
先生が机の上に西部の地図を広げた。私は後ろに回って、地図を覗き込んだ。
「ここからちょっと東に行ったところにチミリート伯爵領があるけれど、覚えてる?」
「確か、二年前に通ったはずです」
「うん。そこから南に行ったところにあるジマーリ男爵領。ここだよ」
指差した先は、ここから馬車で三日くらいの場所だろうか。領地から出なかったので、未だに距離感が判らない。
この世界の大きさ自体はアメリカ合衆国と同じくらいだと教わった。開発時に何となく、そう決めたらしい。
今いるアルベーデン領はニューヨークのある辺りだと思う。今生の私が生まれ育ったのはネバタ州の辺りかな。ラスベガスとか、エリア51とかがあるところ。
私は不当な契約した商人から身を隠して、先生に匿ってもらっている。立場上、知り合いに見つかる訳にもいかない。
この世界の移動手段は主に馬だ。ゆえに、これだけ離れていれば大丈夫のはずだ。
「新しくきた冒険者ギルドのマスターと知り合いなんだ。それで聞いたんだけれど。今、新人冒険者の育成に力を入れているらしい。講習会とかもしてるって。それで、近隣の領地からも人が集まって来てるって。だから、パーティを組むのには困らないよ」
「私はソロでいいです」
MMOとか苦手って訳じゃないけれど。オフゲーばかりやってたからね。
「だから、もうゲームじゃねーよ」
「分かってます。でも、普通の人と一緒に冒険するのは無理です」
転生してすぐの頃、前世と今生の私の人格が混ざっていた。二年経って、日常生活を送る分には安定してきた。普段は今生の私の延長で控えめな性格になっている。
しかしながら、冒険となるとゲーム脳に切り替わるのか、おかしなテンションになることがある。前世でゲームやSNSの中でイキッていたときの自分が"内なる私"として残存しているみたい。一応は、先生の前でしか出ないように制御している。
稽古中に冒険者や騎士と何度か組ませてもらった。その人たちはベテランだった。しかしながら、同年代の新人と組んで、指示を飛ばすような状況になると、何が起きるか判らない。
「じゃあ、あと二年待ちなよ。私も一緒に付いていくからさ」
「先生は終盤に加入する強キャラポジだから。バランス崩壊ですよ」
「万が一のことを考えたら、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」
呆れられる。毎度のことだけど。
「実戦を経験すれば、その考えも変わるさ。多少は誤魔化せるから、やってみればいい」
二重人格と思われるかもしれない。けれども、地方の領地の新人冒険者たちに見られても、そう大事にはならないということかな。
それに危機を覚えれば、私のゲーム脳も切除されるかもしれない。
やってみる価値はあるかも。
先生は話を続ける。
「それで、冒険者ランクのことだけれど……」
冒険者のランクはアルファベットでGからAまである。Fランクから始まり、E、D、C、B、Aと上がって行く。そして、問題行動を起こすとGランクに降格される。
例外として、先生のように国から英雄と評された冒険者は、オリジナルランクを名乗ることができる。Sランク以外にも、AAAランクとかω(オメガ)ランクなどが過去に存在したらしい。
「私が推薦すれば、Dランクから始める事ができる。どうする?普通に順に上げていく?」
Dランクは冒険者としても世間的にも一人前と認められるランクだ。
Fランクはお試し期間、Eランクは新人扱い。
高ランクの冒険者や貴族の推薦があれば、FとEの期間を飛ばすことができる。
この二つとGランクは依頼を受ける際に制限があり、Dランクまでの依頼しか受けることができない。巡り合わせが悪ければ、延々とゴブリン退治をすることになる。
それで意欲を失い、辞めていく者も多いと聞く。
もう一つ、推薦を受けたい理由がある。
ギルドの規定で、15歳未満の冒険者が討伐や護衛の依頼を受けることは推奨されていない。Dランクに認定されると、その辺のお墨付きが出るとか、出ないとか。子供に危険なことをさせない為の規定なので、あまり文句は言えない。
私は早く冒険がしたい。雑用なんて、もうたくさんだ。
「Cでも構いません」
「へっぽこが何を言っているのさ」
もちろん、冗談だ。
Cランクは中堅のランクだ。手柄を立てた兵士や騎士などでなければ推薦されない。
「じゃあ、私も一緒に冒険者ギルドに行こう。朝から執務ばかりで疲れたよ」
先生と一緒に冒険者ギルドへ行くことになった。
外出の支度をする。
部屋を出た際に浮かれて跳ねて、床を大きく鳴らして、メイド長に怒られた。屋敷は古い木造なので走ると軋む。
着替えて玄関に行く。
すると、徒歩か馬車を使うかで先生が屋敷の人たちと揉めていた。
先生が折れて、馬車で冒険者ギルドに行くことになった。
先生はエルフで不老だ。この屋敷の人たちとは子供の頃からの付き合いだ。屋敷の皆も先生を慕っている。何と言うか、過保護気味な所もある。
馬車に乗って移動する。
執事長のおじいさんも同行している。
昼下がりのアルベーデン領はとてものどかだ。
家と畑が交互に会って、牧歌的な田舎のヨーロッパっぽい雰囲気。
ゲームのグラっぽい乱雑さもある。
資料を見て、ピンときたものを片っ端から放り込んだらしい。古代から近世まで、どこの国かも判らない、混ぜっ返された風景だ。
居眠りしそうになっていると馬車が止まった。前に倒れそうになって、先生に笑われた。どうやら、到着したみたい。
アルベーデン領の冒険者ギルドは石造りで砦のように頑強だ。
実戦も想定しているらしい設計らしい。
過去に人間とエルフで何度も戦争をした。その名残みたいなものだそうだ。
馬車を折りて中に入る。うす暗い室内を無数のランプが照らしている。BARに入った気分だ。
時間帯もあって、冒険者はいなかった。
受付から人が出てきて、執事長と会話する。
すぐに奥の応接室へと通された。
大きな窓のある明るい部屋に入る。私は初めて来る。
ここも先生の屋敷も窓は板ガラスになっている。現代並みの品質の板ガラスだ。主に、錬金術師が作っている。高級品だ。
冒険者ギルドのマスターと職員さんが一人、入ってきた。
話は通っていたようで、淡々と説明と書類への記入が行われる。
私はDランクで登録されることになった。
次に職業を決める。
冒険者自体も職業だけれど、細かい振り分けみたいな感じ。
私は職業を"魔剣士"として登録するつもりだ。"戦士"と"魔術師"を合わせた感じのやつ。
本来なら純粋な"戦士"になりたかった。ゲーム内でも"戦士"だった。
ただ稽古をしている内に、私の適正は後衛で"戦士"には向かないという診断が出た。前世でも色々とスポーツはやってたけれど、職業は営業だった。だから、そういう感じになるのかな。
それでも、"魔剣士"を目指して前衛の訓練を続けていた。
しかし、先生が割って入ってくる。
「職業は"魔術師"でお願い」
「ちょっと、先生、私は"魔剣士"志望です」
「マジ止めろ。前衛の死亡率が高いのは何度も言ったでしょ」
「これからレベル上がるから大丈夫だから、たぶん」
見かねたギルマスが妥協案を出してくる。
「備考欄に、棒術を嗜むと記載しましょう」
「うん。そんなところかな」
「むむ」
棒術は前世で習っていた分、著しい上達を遂げた。と言っても、同年代の一般的な男性の戦士と同レベルだけれど。あくまで護身用に使うようにと釘を刺されている。転生ボーナスにしては、しょっぱい。
残りの手続きはスムーズに進んだ。
殆どは推薦してくれる先生への確認だった。
最後に先生が書類にサインをして、登録完了だ。
【ステータス】
名前:サンドラ
性別:女
年齢:14才
種族:人間
職業:勇者
冒険者
称号:異世界からの転生者
ドワッフフフ爆爵
ミルルムの教え子
Dランク冒険者
よーし、冒険者になったぞー!!!
すぐに飛び出したいけれど、まだ我慢しないといけない。
準備することが多い。
お世話になった人の所にも顔を出さないと。
そんな訳で、明日はエルフのみんなに挨拶に行くよ。
サンドラの冒険が始まりました。
ここから登場人物が増えます。迷ったら、登場人物紹介を読んでください。
https://ncode.syosetu.com/n2650ip/27/