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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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三十八話 遊び人


 修業時代の話。

 アルベーデン領にタートルライオンの群れが出た。エルフの軍隊と先生の騎士団が討伐に向かった。


 魔物の容姿は、名前の通り亀の甲羅からライオンの顔や手足が出ている。ライオンの顔はゲームっぽい尖ったデザインになっていた。重そうな甲羅があるのに、馬より素早い。


 騎士たちはマリアンヌさんの回復スキルによって強化された馬に乗っている。まるでバイクのような動きをしていた。私はマリアンヌさんの後ろに乗せてもらっている。

 エルフたちは鹿やヤギ、羊に乗っている。こちらも回復スキルや精霊魔法で強化している。こちらも動物の動きを凌駕している。ボートレースを見ているようだ。


「やー」

「たー」

「とー」


 エルフたちは並走して槍で突く。亀ライオンたちは甲羅で攻撃を受けようとする。熾烈な攻防が行われる。

 騎士たちは連携して、槍や弓で肉の柔らかい部分を攻撃し、一匹ずつ仕留めていく。


 先生は、らせん状に伸びた角を持つ羊に乗っている。双剣に火属性をエンチャントして、羊から飛び降りた。

 凄い速さで走り、向かってくる亀ライオンを跳ね飛ばす。亀ライオンは甲羅ごと4つに斬り裂かれていた。

 騎士やエルフたちから歓声が上がる。何人かのエルフが真似をしようとして、エルフのリーダーに止められていた。 


 あっという間に、亀ライオンの群れは退治された。

 後には、ドロップアイテムで大きな甲羅がいくつか残っている。試し切りの許可が下りて、若いエルフたちが群がっている。剣をぶつけて、ポキポキ折っていて危なっかしい。私は鎧を着たマリアンヌさんの後ろから、少し顔を出して眺めていた。


 そこに遊び人職のエルフがやってきた。ピエロのような格好をしている。戦闘中は曲乗りで芸ばかりしていた。今も、クラブでジャグリングをしている。

 その子はスキルで甲羅を柔らかくすると言った。


「"シュピール・フガール"」


 甲羅が虹色に光る。可愛らしい形の星がいくつも飛び出した。

 スキルは成功したみたい。一見すると、何も変わっていないように見える。

 一人のエルフが両手剣を振りかぶりジャンプした。縦に勢いよく斬りつける。すると、甲羅が凹んで、剣とエルフがその中に吸い込まれていく。

 次の瞬間、剣とエルフは天高く吹き飛ばされた。


「あーれー」


 どうやら、甲羅にゴムの性質が付与されたみたい。


「こらー」

「バカー」

「アホー」


 みんなから怒られている。遊び人の子は気にも留めず、ジャグリングを再開して笑っていた。


 さっきのスキルはランダムで効果を発揮する仕様だと思う。

 遊び人職は戦闘中に"遊ぶ"のスキルを使うことで、"遊びポイント"を貯めることができる。この"遊びポイント"を多く消費するほど、遊び人スキルの効果が上がる。だから、遊び人はダンジョンの中でも、仲間の危機でも常に遊び続ける。ゆえに、不人気で、パーティに入れてもらえない。そうして、なり手も減っていった。今では絶滅寸前の激レア職だ。


 私はバトルをサクサク進めたいタイプだ。遊び人を仲間にすることはないはず……。




 チリン♪ チリン♪ チリン♪


 鈴の音が鳴る。キャベツ帯の特別依頼の抽選が始まった。

 あまりの出来事に過去へタイムスリップしていたようだ。幸いにも、ステラさんも昏倒していたみたい。お互い、鈴の音で正気に戻った。後ろには誰も並んでいない。セーフだ。


「えっと、今日は帰りますね」

「はい、またのご利用お待ちしております」


 私は振り返る。すると、ヘルミンさんがいた。


「早退してきましたよ~」


 彼女は受付嬢の服から冒険者の服に着替えていた。ピエロではなく、手品師風の格好だ。ちょっと安心した。

 髪留めで整えていたブロンドのショートヘアは、ボサボサに広げられ右目を隠すようにしている。黒とワイン色のタキシードのようなコートには、トランプのマークや音楽記号のようなものが散りばめられていた。コートの下は白のシャツと黒いキュロットだ。首元のリボンには強力な魔石が付いている。じっくり見ると、怪しい格好だ。


「あ~、サンドラさん、バニーガールを期待してましたね。もう、スケベですね~」

「違います」


 そんな恰好でダンジョンに潜る人はいるのだろうか? 私は一緒に街中を歩く度胸も無い。


 ヘルミンさんがステラさんに冒険者証を渡し、パーティ加入の申請をする。私は一方的に肩を抱かれていて逃げられない。


「Gランクに二度落ちてるんだけど……」

「相手が悪いんですよ。私はスキルを使っているのに、ふざけているとか、自分たちを馬鹿にしているとか……」


 遊び人への理解は低い。理解しても組みたくないくらいハチャメチャな職だ。


 ステラさんが私を見つめる。ヘルミンさんが私の肩を一方的に抱いていて逃げられない。フェンフェンは横でプルプルと震えている。

 私は冒険者証を渡した。ステラさんは神妙な面持ちで業務を執り行う。

 抵抗する間もなく、ヘルミンさんとパーティを組んでしまった。


「どこへ行くのでしたか? 風の神のほこらですか? それとも、周りの採取スポット?」

「初めて行くので、どこで採ればいいのか……。手探りで進めたいのですが……」

「未踏を舐るのですね。今なら誰もいませんよ。片っ端から取って行きましょう」


 ステラさんが今、ギルドが冒険者を集めていると言う。担当の職員を呼んでくれた。私と肩を組んでいるヘルミンさんを見て、微妙な顔をしていた。

 話を聞くと、何やら立て込んでいるようだ。昼までには十分な人数が集まって出発できるとのこと。帰郷したCランクの冒険者が護衛してくれるらしい。 

 職員さんはこの集りへの参加を薦めてくれた。納品コーナーで何度か見たことがある人だ。おそらく、私がアイテム袋を持っていることを知っている。

 私は珍獣を二体抱えているので集団行動ができないことを伝えた。職員さんは不可解な面持ちで私たちを見ている。私は自分の意志でこの状況を選んだ訳ではない。察してください。


 ヘルミンさんは朝一で行った方が稼げると言う。


「お金には困ってないです。今は先生が借りた屋敷に泊まっていているので……」

「それなら、何が目的で依頼を受けるのですか?」

「目的? 何だろう?」

「サンドラさん、お疲れですか?」

「さあ?」

「では、採掘所でひと暴れしましょう!」

「そこまでは……。まず、森の奥の泉に行かないと……」

「それじゃあ、今から行きましょう。私と一緒なら進入許可が出ますよ」

「……どうして、私はヘルミンさんとパーティを組んでるの?」

「デートですよ、デート!」


 ステラさんを見ると、意識が朦朧としていた。気がついて、体をドキッと体を反らす。

 私は泉へ行く許可をお願いした。ステラさんは何か依頼を受けて欲しいと言い、職員さんの方を見た。職員さんは泉の周りに生えているレアな薬草の依頼書を出してくれた。

 ステラさんが手続きをしてくれる。


「無理はしないでね。何かあったら、この子は置いて行っていいから」

「先輩ですから、当然しんがりをやりますよー」


 言質は取った。ピンチになったら、置いて逃げよう。




「行きますよー」


 ヘルミンさんが腕を引っ張る。けれども、少し待ってもらう。


「ああ、お友達ですか」


 私はカリーナたちを探す。ごろ寝したい男子を置いて、女子で臨時のパーティを組むと聞いた。それで、キャベツ帯の抽選に来ているはずだ。

 すぐに見つかった。正確には、受付にいる私がずっと見られていた。周囲からも、凄い数の視線を感じる。麻痺していて気がつかなかった。

 カリーナたちに、ヒューゴもいた。みんな、抽選に落ちたみたい。

私がヘルミンさんと森の奥の泉に行くことを話すと物凄く不安な顔になった。

 彼女たちは森に採取に行くか悩んでいるそうだ。ヘルミンさんがアドバイスする。


「他の領地から冒険者が応援に来てもらえれば、すぐに再調査が行われますよ。それまで、街の仕事を受けるか、稽古をしていた方がいいと思いますよ」


 しかし、カリーナはお金に困っていると言う。リーダーたちは今日退院予定だったけれど、体調が優れず延期になったらしい。全滅寸前だっからか、精神的に参っているようだ。

 ルーシーもまだ入院していることを話す。あの時、カリーナはミレイに肩を貸してくれた。一緒にいたルーシーのことも覚えていた。

 ヒューゴやナディアも、ルーシーのことを知っているようだ。三人とも街の住人のはず。ヒューゴはギルドの稽古場でルーシーと戦ったことがあるらしい。


 仲良くなったからには力になりたいとも思う。けれども、ヘルミンさんは反対みたい。


「異変の原因が南方の出来事に関連しいるかもしれません。そう考えれば、まだ森の中は不安定です。こんなときにノコノコ採取に行くなんて、ただのバカですよ」


 相変わらず、酷い言い方だ。でも、間違ってはいない。そして、私はバカなのだろうか?


「私はバカなのですか?」

「サンドラさんは刺激を求めてやまない異常者でしょう?」

「違いますよ」


 受付からは、そう見えるの? ずっと安全圏で冒険していたはずだよね?


「ひとまず、特別依頼の抽選に落ちたなら、そこで運がなかったと諦めるべきだと思いますよ」


 安全に行動するなら、そうするべきだ。けれども、人が少ないダンジョンなら収集品をたくさん拾うことができる。入院費を稼ぐために、リスクを取ってでも行きたいのだろう。


 すると、また鈴の音がした。


 チリン♪ チリン♪ チリン♪


 キャベツ帯への特別依頼が二度目の抽選をするみたい。カリーナがくじを引きに行く。

 ヒューゴは行かないみたい。なんと、昨日のカール件で出禁になったらしい。

 特別依頼には、指定採取と自由採取の日程がある。指定採取はギルド職員の指示のもとに採取を行い、ギルドの用意したアイテム袋に詰めていく。これをカールがサボった為、パーティ全体でペナルティを受けた。後の自由採取にも参加させてもらえなかった。

 ギルマスの話では、問題を起こしたカールが抜ければ解除されるらしい。それで、パーティを抜けたカリーナは参加できている。


 ふと、あることに気がついた。


「ヘルミンさん、あなたがカールと組めば丸く収まるのでは?」

「嫌です」

「いとこでしょう。責任取ってください」

「それなりにアドバイスもしましたが、話を聞かないのです。お爺様が亡くなられてから、叔母様が甘やかした所為ですね。だから、一人で冒険者をして苦労を知るべきなのですよ」

「それが、ヒューゴ君たちが無理矢理パーティを組まされて大迷惑しています。何とかしてください」

「一応、お母様に知らせてはありますよ。私も元冒険者として、こういうのには反対ですから」


 ヒューゴは家同士の約束だから仕方ないと言う。どうにかして、カールの評判を上げるために活躍しないといけない。

 街の経済は"始まりの森"からの収集品に支えられている。供給が滞っているので、誰かが率先して採取に行く必要がある。それが領主の家の次男坊なら名誉挽回になる。


 ヒューゴは一昨日の場所で採取する予定だと言う。カールがアイテム袋を持っているので、それなりに稼げるはずだと笑っている。


 私はアイテム袋があるなら北北西の依頼に混ざれると考えた。話すと、ナディアが事情を知っているようで色々と教えてくれた。

 ケビンおじさんたちは昨日、仕事もせずに酔っ払って帰ったことで奥さんたちにこっぴどく怒られたそうだ。

 それから、おじさんたちが昔世話をした冒険者たちが挨拶に来た。彼らの帰郷を祝って、ヤンおじさんのお店で酒盛りを始めた。

 そこにギルド職員が来て、依頼の話をした。彼らは街の力になるために帰って来たらしく護衛の依頼を快く引き受けた。そして、夜遅くまで飲み明かしたそうだ。


「その戻ってきたCランクの人たちもケビンおじさんたちもベロンベロンだったらしくて、今日は起きてこれないそうよ。おばさんたちがもうカンカンなんだから!」


 そういうことなら、依頼は中止かな。冒険者は自由人だ。職人や兵士たちと違って、だらしない所がある。


 カリーナが戻ってきた。抽選に当たったみたい。けれども、浮かない顔だ。

 何と、ヘルミンさんが森に行くと聞いて、辞退者が続出したそうだ。二回目に当たった冒険者たちも不安になっていると言う。


「むう、心外ですね」


 ヘルミンさんは腕を組んで、頬を膨らませる。


「サンドラさんとフェル様がいるなら平気だよね?」

「わからない……」


 そんな事、聞かれても困るよ。フェンフェンも後ろでじっとしている。


 すると、ギルマスがやってきた。ヘルミンさんを見て「お前、何してんの?」と言いたげな顔をしている。ヘルミンさんはわかってるのかわかっていないのか、あっけらかんとした口調で返事をする。


「デートですよ」

「違います」


 私はギルマスに、停滞した流れを変えたいとかいい訳をする。

 しかし、どうして私がいい訳をしているのだろう。おそらく、これは強制イベントなのだ。

 ギルマスは不思議そうに首をかしげていた。


 ヘルミンさんが私の腕を引っ張る。


「さて、お友達も安全な依頼を受けられましたし、そろそろ出発しましょうか」


 アドベンチャーの時間だ。カールに会うのも面倒なので、早めに出発しよう。

 カリーナやギルマスを始めギルド中から不可解な視線を浴びて、私たちは外へ出た。




 街の中を歩く。

 ヘルミンさんが何やらソワソワしている。芸を始めるつもりだ。


「街の中で、許可なく大道芸でお金を稼ぐことは禁じられています。ただ、芸をすること自体は周りの迷惑にならなければ問題ないはずです」


 迷惑になりそうなので、自重してもらった。




 北門に着く。

 門兵が、外の広場に私たちを待っている人がいると言う。


 門の外に出ると、広場で冒険者が二組ほど集まっていた。彼らはいつも朝一で採取していた冒険者たちだ。

 声をかけてきた顔見知りが、ヘルミンさんを見て驚く。


 彼らは悪い噂を聞いて、森へ入るのをためらっていた。誰かの後に続こうと待っていたみたい。

 それだけなら問題ない。私たちが率先して先陣を切ろう。


 横を見ると、ヘルミンさんはドレスハットを装着していた。目が髪で隠れていない左側に乗っている。

 さらに、クラブを三本取り出す。白地に、赤青黄だ。それらを宙に投げ、鮮やかに回転させる。上手だ。


「行きますよー」


 パフォーマンスをしながら歩く。

 技を出すたびに他の冒険者から拍手が上がる。




 森に着く。

 ヘルミンさんが一歩踏み出すと暴ウルフが三体現れた。最初のマップでは一番きつい組み合わせだ。

 ヘルミンさんは持っているクラブを投げる。美しい軌道を描いて、暴ウルフに命中する。三匹とも、灰になった。


 それ、武器だったの!?


 前世で漫画を読んだ記憶があるので、トランプよりマシとか思ってしまった。


 魔物に命中したクラブは、物理法則を無視して、大袈裟な軌道を描きながらヘルミンさんの手に戻ってきた。

 おそらく、"魔法のブーメラン"がエンチャントしてある。投げたものが自分の手に戻ってくる魔法だ。スローイングダガーなどにエンチャントすると便利だ。

 

 一緒にいる新人冒険者が怯えている。いきなり暴ウルフが出たからか、ヘルミンさんのトリッキーな戦闘に困惑しているのか。

 



 私たちは彼らと別れて、森の奥へと進んでいく。


「ワクワクしますね」


 笑顔でジャグリングをするヘルミンさん。


 フェンフェンも調子を取り戻したのか、張り合うように積極的に前に出る。私の守りを忘れてないよね?

 

 一昨日、採取した池を越えて、次のマップに行く。

 暴ウルフが出た。少しレベルが上がって、"すなかけ"のスキルを使うので注意が必要だ。

 フェンフェンが牽制する。そして、ヘルミンさんがスキルを使うと言う。

 

「私は"占い師"になりたくて修業の旅に出たのです」

「占い?」

「"ブリリアント・シュピール・タロット・エクスペリエンス"」


 虹色の光の中でタロットカードが回転する。やがて、一枚のカードが選ばれ、周囲に可愛い形の星が飛び出す。


「"崖から落ちた少女"の逆位置ですよ!」


 どこかで聞いた話だなと思った。次の瞬間、体が宙に浮いた気がした。

 すると、目の前に暴ウルフが現れた。暴ウルフは私に飛びかかる。


「うわあああ!」


 杖で受ける。前世で棒術を習っていなければ、のどを嚙み切られていた。しかし、暴ウルフの重さで転倒した。まずい状況だ。


「ウオオオン!」


 前にいたはずのフェンフェンが後ろから走ってきた。暴ウルフを倒してくれた。助かった。


 どうやら、私とフェンフェンの位置が入れ替わったっぽい。


「危なかったですね~」


 ヘルミンさんは手を合わせて謝る仕草をしながら、ケラケラと笑っている。

 "遊び人"とは恐ろしい職業だ。そして、ヘルミンさんには天職だと思う。


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