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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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三十四話 ぐだぐだと採取をする

 戦闘時の確認をする。十一人いるのでバラバラに動くと大変だ。


 まずは、フェンフェンに攻撃を当てないように注意する。

 

 それから、私が前衛の後ろに立つことを確認する。

 生意気な連中なら、威張ってる癖にオレたちの後ろに来るんじゃないとか言い出す。今回はすんなり了承してくれた。

 後をつけるくらいだから、一癖ある連中かもしれない。けれども、先ほどの"ストーンバッレト"を見たからか大人しい。


 次に各々の採集場所を決める。

 

 私は池で水草や苔を採るつもりだ。彼らは"薬草マニュアル初級"を使って採取する者と食べ物を中心に集める者がいる。

 お互いの邪魔をしないように相談する。


 話が纏まったので採取を開始する。


 池の周りで採取するのは、私だけだ。水草や苔を採取する場合、保存に気をつけないといけない。しかし、私にはアイテム袋がある。アイテム袋の中では時間が停止している。採って、すぐに入れておけばいいのだ。


 フェンフェンは私と一緒に池に来た。周りを警戒してくれている。これなら、安心して採取ができる。


 すると、ドカドカと足音を立てて、カールもこっちに来た。

 私が道具を並べているのを見て、何をするのかと聞いてくる。答えたくない。そもそも、彼はお祈りや相談に参加していなかった。ここで私たちと採取する権利は無いはずだ。

 しかし、何を言っても無駄だと思うので、適当に答える。

 すると、彼は池の中を覗き込もうと身を乗り出した。嫌な予感がしたので後退する。


 バッシャアアア!


「うわああ!? 助けてくれー!!!」

 

 カールが転倒して、池に落ちた。

 水深20センチの所で必死にもがいている。


 何、これ……?


 池から出てきたカールは汚い言葉を吐きながら、別の場所に向かった。

 他のみんなが、こっちを見ている。自分の所に来るんじゃないかと戦々恐々といった様子だ。

 申し訳ないけれど、私には何もできない。耐えて下さい。


 カールが落ちた場所から離れて、採取を始める。

 不快な出来事を忘れるように手を動かす。

 ダンジョン内のアイテムは時間が経つと再配置される。いくら採っても、自然環境を破壊することはない。だから、手当たり次第に採って行く。


 すぐ後ろに森がある辺り。ここは念のために避ける。フェンフェンは大丈夫だと言うが、つい先日、ゴブリンアサシンに襲われたので少し怖い。


 半分くらい採った。レアなアイテムほど、再配置には時間が掛かる。後から来る冒険者のことを考えて、半分は残しておくことにする。


 広場の真ん中に戻り、石のイスに座る。飲み物を出して休憩する。フェンフェンにはサンドイッチをあげる。


 そうして、他の冒険者の様子をぼんやりと眺める。


 犬の獣人がいるパーティは、小麦を刈っている。酒場で聞いた話だと、あの小麦は"地雷"だ。沸きが良いので、調子に乗って大量に収穫してしまう。そして、帰り道で苦労するそうだ。

 

 カリーナとウィルたち、そしてカールがいる。カールに薬草の採り方を教えているみたい。けれども、あまり雰囲気が良くない。


 もう一組は慣れた手つきで薬草を採取している。しかし、周りへの警戒が疎かだ。フェンフェンがいるから安心しているのか、それとも普段からああなのか。注意した方が良いのかな?


 そう考えていると、フェンフェンが吠えた。

 私の"魔力探知"に反応は無い。フェンフェンは上だと言う。

 空を見ると、遠くに"切裂スラッシュホーク"がいた。こちらに近づいてくる。


 冒険者を集めて、円陣を組む。

 "ストーンバレット"で撃ち落とせるはずだ。しかし、先にフェンフェンが魔法を使った。"ファイヤーボール"だ。口から火の球を出したようにも見えた。

 攻撃が命中した切裂ホークは灰になって消えた。

 

 冒険者たちから歓声が上がる。調子に乗るフェンフェン。そして、冒険者がフェンフェンを囲んで、手をつなぎ輪になって踊り出す。


 何だ、これ?


 ひとまず、切裂ホークの魔石を拾って、鑑定する。

 本来、この場所には出現しない魔物だ。ゲームで例えると、二つ先のマップに配置されている。

 鑑定結果は、この森のレベル帯に合うものだった。稀に、ここまで飛んでくると酒場で聞いていた。なので、異変とは関係がなく、たまたまエンカウントしたのだろう。


 冒険者たちを集める。異変とは関係ないと思うけれど、念のために少し戻ることを提案した。特に反対意見も無く、全員が了承した。


 冒険者たちが片付けを始める。すると、カールが岩の影から出てきた。カリーナたちの所に行く。何やら、文句を言っているみたい。私をチラチラと見ている。


 彼らの準備ができると、すぐに出発した。




 森の中を歩く。小麦を運んでいるパーティが辛そうだ。帰りのことは考えていなかったみたい。カールも肩で息をしている。

 この二組が休憩がしたいと言い出した。まだそんなに歩いていない。もうしばらく、我慢してもらう。


 次の採取スポットに着いた。カールたちがその場に倒れるように寝転がる。ここがダンジョンの中なのを忘れているのかな? 死んでも知らないよ。


 フェンフェンがここで採取するのは危険だと教えてくれた。茂みだらけで、視界も暗い。私一人ならともかく、全員を守るとなると難しい。


 みんなに伝えると、今度も反対意見が出ることも無く了承された。ここは薄暗くて不安になる。素人目でも危険な場所だとわかる。


 しかし、小麦パーティがもう少し休みたいと言う。相談して、小麦を半分捨てることになった。他のみんなから迫られて、彼らは泣く泣く承諾した。


 出発する。すると、カールが不審な動きをする。捨てられた小麦を自身のアイテム袋に入れていた。

 盗んだ内には入らないと思うけれど、気分の良いものではない。

 小麦パーティが鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。


 歩きながら、カリーナたちに先ほどの様子を聞いてみた。カールに薬草の採り方を教えていたらしい。しかし、すぐに飽きてしまい、護衛するから自分の分も採ってくれなどと言い出した。彼が戦えるとは思えない。さっきも隠れていた。サボりたいだけだろう。


 さらに、カールはウィルたちに出身地を教えるように迫ってきたそうだ。

 ウィルたちはここの領地の出身らしい。北部の村の出で、ウィルのおじいさんは村長をしている。

 村の名前までは言わなかったけれど、北部の出身であることは明かしてしまった。ウィルは後で迷惑が掛からないか不安になっている。

 貴族なら何らかの手段で村を人質に脅迫することもありえる。カールは家を追いだされたはずだが、どこまで権力を使えるのか。まず、使えるように見えないけれど……。


 いい加減、罰でも当たらないのかな?

 冒険者に殴られたり、平民になったのは十分に罰だと言える。本人が反省しないのだ。


 異世界転生ものなら"ざまぁ!"な展開を期待するところだけれど、臆病な私に人を陥れる算段なんてできない。だから、粛々とギルドに報告しよう。




 次の採取スポットに到着した。


 新人冒険者が三人いた。カリーナと顔見知りだったので、すぐに打ち解けた。

 それなりに広い場所なので、揉めることなく採取場所を決められた。


 小麦パーティとカールは、中央でひっくり返っている。


 しばらくすると、一角ウサギが二匹現れた。フェンフェンの"威嚇"のスキルは喉に負担があるので、続けての仕様は控えてもらっている。

 私の心配をよそに、先にいたパーティがさっくりと倒した。角をドロップしたので喜んでいた。薬になるので、高く売れる。

 ルーシーと似た動きをしていたけれど、親族に兵士がいるのだろう。結構、強い方だと思う。

 またフェンフェンが拗ねていた。慰めようと手を伸ばしたら弾かれた。可愛くない。


 それから、カリーナたちに袋が余っていないか相談された。ギルドの購買で買った物をいくつか売ってあげた。

 かなりの量を採っているみたい。特にカリーナは仲間の治療費を稼がないといけないので大変だ。


 また、しばらくすると、"魔力探知"に反応があった。別の魔法使いの"魔力探知"と重なったようだ。

 この反応はアイラさんだ。キャベツ帯へ行ってるはずなのに、どうしてここに?

 さらに、もう一つ、似た系統のスキルの反応がある。リッカルドのおっさんだ。ねっとりして、気持ち悪い。

 二人とも私よりも広い範囲を探知している。精度も高い。まだまだ未熟者だと思い知らされる。


 私は手を止めて、採取スポットの中央に出てきた。カリーナたちに誰か来ると伝える。

 アイラさんたちは真っ直ぐにこっちへ来た。ロバートさんもボブさんもいる。

 どうやら、私たちへ連絡に来てくれたみたい。


 みんなで集まって、ロバートさんたちから話を聞く。


 キャベツ帯に向かう途中で、ゴブリンに何度も遭遇した。到着してからもゴブリンばかりが襲ってきた。しかし、上位種は確認されなかった。

 異変後に魔物のエンカウント率に偏りが出ることがある。異常事態ではあるが、そこまでの危険性は無いとロバートさんたちは判断した。

 しかし、新人冒険者たちが怯えてしまった。一人が異変はまだ終わっていないと言う。誰かが、今すぐ帰ると言う。このままではパニックになると判断して、特別ツアーを中止することにした。


 ふと思い返すと、昨日と今日で、一度もゴブリンに遭遇していない。


 ロバートさんたちは森の入り口に戻り、そこにいた冒険者たちにも説明した。怯えた人たちを見て、彼らも街に戻ると言った。

 そして、一組の冒険者が話しかけてきた。今朝、私が挨拶したパーティだ。

 彼らは、私が森へ入ったこと。十人くらいの冒険者が後をつけたこと。さらに、その後ろをカールが追いかけたこと。しばらくして、もう一組が同じ方向に向かったことを伝えた。

 異変が続いている可能性もゼロではない。そう判断したロバートさんたちは、新人冒険者たちを街まで送り届けると、私たちを探して再び森へ入ったのだ。



 ベテランの冒険者がわざわざ教えに来てくれたからには、ここは大事をとって街に帰還しよう。

 私が帰ろうかと聞くと、先に来ていたパーティは賛成した。

 カリーナたちはまだ採りたいみたい。小麦パーティはずっと寝ていて、何も採っていなかった。彼らは少し悩んで、私が帰るなら帰ると言った。

 ロバートさんたちに迷惑を掛けたくないので、私は大人しく帰るつもりだ。彼らは不満そうに了承した。

 すると、アイラさんが違和感に気が付いたようで、彼らを問い詰めた。それで、お説教を始めた。後をつけるのはマナー違反だから仕方ないよね。


 ロバートさんにあそこの彼はどうしたのかと聞かれた。カールだ。大の字になって寝ている。昨日も似たようなことがあった。


「えっと……」


 ルーシーの件もあるので、カール関連でロバートさんたちに迷惑を掛けたくない。しかし、この中でカールの巨体を運べるのは、ロバートさんとボブさんだけだ。


 ロバートさんがアイテム袋から担架を取り出す。ボブさんと二人で運んでくれるそうだ。申し訳ない。


 出発しようとすると、フェンフェンが吠え出した。私に残るように言う。ゴブリンごとき、何匹出ようと平気だと言っている風に見える。


 どうしようかと悩んでいると、リッカルドのおっさんがフェンフェンの前に立った。

 突然、彼は四つん這いになって吠え始めた。さらに、その場でピョンピョン跳ねて、フェンフェンを牽制する。フェンフェンは「ぐぬぬ」といった表情になった。そうして、帰ることを了承したみたいだ。


 リッカルドのおっさんがこっちにウインクをしてくる。怖い。アイラさんたちも呆れた表情をしている。

 



 森の入り口に戻ってきた。

 小麦パーティが肩で息をしている。もう一息だと、ロバートさんが励ます。あそこの小麦の罠にかかる冒険者は大勢いるらしい。


 北門に着いた。街に入ったところで、小麦パーティが脱落した。休憩してからギルドに向かうそうだ。

 ロバートとボブさんは、カールの巨体を担架で運んでいるが平然としている。さすが、Cランクの戦士だ。


 すると、カールがイビキをかき始めた。不快な音が周囲に響く。

 カールもここに置いて行こうかと聞くと、ロバートさんたちはそういう訳にもいかないと言う。この街の住人だから、領主の家の人間をぞんざいに扱うことはできないみたい。


 街を歩くと、注目の的になった。あちこちから笑い声がする。

 ロバートさんの知り合いっぽい商人が茶化してきた。カールが領主の次男だと知ると、両手で口を塞ぎ、大慌てで走って行った。




 ギルドに着いた。

 騒がしかったギルドの中が、カールのイビキに支配される。

 みんながこっちを見ている。恥ずかしい。


 カールをどうするか相談する。起こしても起きないので、医務室に連れて行くべきか。

 ヘルミンさんがこっちに来た。来なくていいよ。


「そこのソファーに寝かせましょう」

「イビキが迷惑になりませんか?」

「それなら、医務室に連れて行く方がもっと迷惑ですよ」


 それでもそうかな。従妹のヘルミンさんが責任取ってくれるらしい。信用できないけれど、ひとまずソファーに寝かせた。

 ギルマスが来てくれた。眠るカールを見て、頭を抱えている。

 忙しい中、悪いと思ったけれど、今日起きたことをギルマスに報告した。ウィルの村の件は冒険者の尊厳に係ることなので、何かあったらギルドに知らせるように言ってくれた。

 切裂ホークの件は、年に数回あるみたい。異変とは関係ないっぽい。

 

 ギルマスとロバートさんたちにお礼を言って別れた。

 ギルドの納品コーナーに行く。

 カリーナたちも大量の袋を抱えていたので、ヘトヘトになっていた。やめて帰ってきて正解だった。

 書類を貰って、受付へ行く。誰も並んでいなかったので、ステラさんのところへ行く。ヘルミンさんもいたけれど、他の皆もステラさんの所に並ぶ。すぐに、三人目の受付嬢が来て、何人かはそちらに移った。


 ここでも、ゴブリンに遭遇していないこと。さらに、切裂ホークが出たことを報告した。


 そして、私を尾行した冒険者たちに厳重注意が出た。こういう場合は、彼らに採取の許可を与えない方が良いと言われた。ゴネれば折れると思われると、他の冒険者からもつきまといを受ける可能性があるそうだ。

 そう言われてみると、そうだ。私が甘かった。けれども、あの場では断りにくい。一緒に厳つい戦士が何人もいれば違っただろうけど。

 フェンフェンを見る。俺一人で全員倒せたという顔をしている。

 いやいや、あなたが調子に乗せられて引き受けたのでしょう!?


 受付での報告が終わった。

 カリーナたちが何か奢ると言うので、酒場でパインジュースを注文した。パイップルは王国の南方から仕入れていて、高級品だったりする。

 話をしながら、小麦パーティを待つことにした。


 私はみんなの防具が怪しいことを指摘する。カッコいい装備は高くて買えないそうだ。安い装備はダサいから着たくないと言う。

 正常性バイアスとでも言うのか、みんなが同じように考えているから、その考えで構わないと思っている。防具が無いと、魔物の攻撃で死ぬというのに自覚ができていない。

 実際、カリーナのパーティはそれで全滅するところだった。


 お説教する柄でもないので、追及はしない。途中で会ったパーティも止めておくように目でサインを送ってくる。彼らはしっかりした皮鎧を身に着けていた。


 しばらくすると、小麦パーティが戻ってきた。

 労力の割に、儲けがあまり出なかったらしい。周りにいた酔っ払いの先輩冒険者が、あそこの小麦は罠だと彼らに教えた。彼らは首を垂れて落ち込んでいた。

 

 それから、他愛もない会話をしていると、ベテランの冒険者が私たちに声を掛けてきた。裏庭で剣術の指導をしてくれるらしい。

 カリーナに見学していこうと誘われた。

 フェンフェンは眠そうにしたいたので、休憩もかねて見学することにした。

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