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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
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三十三話 私の仕事

「ウオルルル!」


 重い。何かが体に乗っている。


「ガウ!ガウ!」

「んんっ!?」


 フェンフェンだ。

 

「え? 何? 冒険に行く?」

「ガウッ!」


 その前に、ここはどこだろう? テントの中?

 思い出してきた。私は止まっていた宿から、トムさんの借りた屋敷に移った。中の掃除がまだなので、庭に野営用のテントを張っている。

 眠る前にフェンフェンがゴネて、テントの中で一緒に寝ることになった。

 それで、早く冒険に行きたくて、私を起こしている。

 マリアンヌさんがいないので、女性用テントには私一人だ。迷惑にならなくて良かった。


 二度寝させてくれそうにない。

 とりあえず、行ってみようか?

 準備をする。


 外では、騎士の一人が火を起こして朝ごはんの準備をしていた。

 料理の手伝いをする。

 フェンフェンはお腹が空いているのか、朝ごはんの重要性を理解しているのか、こちらを急かしてこない。ジッと座っている。


 食事を終え、トムさんたちに挨拶をして、ギルドへと向かった。




 ギルドに入る。

 フェンフェンは吠えなかった。怯えている様子も無い。普通?

 中には早朝にもかかわらず、人が大勢いた。よく見ると、新人冒険者ばかりだ。キャベツ帯への特別ツアーに参加するつもりだ。

 その護衛をするロバートさんたちの姿を探す。人が多くて、見えない。


 受付には誰も並んでいなかった。ステラさんの所へ行く。

 フェンフェンは私の左側に張り付いている。ヘルミンさんから隠れる位置取りだ。 


「今日から森の奥の探索が解禁される予定でしたが……岩砂糖の採掘場の件で、先延ばしになりました」


 今日も最初のマップから出れない。

 

「それで、ご要望は進入許可だけでしょうか? 採集などは?」

 

 特に考えていない。

 ステラさんは私に薬草の採取依頼を頼みたいようだ。

 依頼書を見せてくれる。新人には少し難しい内容だ。行動制限された範囲内でも十分な量が採れるそうだ。

 ヘルミンさんが横から覗き込む。それをステラさんが押し戻す。


 チリン♪ チリン♪ チリン♪


 突然、鈴の音が聞こえた。私もフェンフェンも驚いた。


 ヘルミンさんが、あれはキャベツ帯の依頼の抽選が始まった音だと教えてくれた。昨日、私がギルドに着いた時にはもう抽選は終わっていたらしい。


「そうだ。カール君から取り返した一角ウサギの魔石がありました」


 割り込むヘルミンさんをステラさんが再び押し戻す。ステラさんは私に後で渡すと言った。


 依頼書に再び目を通す。先生たちから薬草について習っているので、このくらいは簡単だ。私は受けることにした。


「フェンフェン、いいよね?」

「ガゥ」

「いいみたいです」


 横からヘルミンさんが話しかけてくる。


「サンドラさん、アイテム袋を持ってますよね?」

「あ、はい」

「経験の浅い冒険者の取り分を残すのも、冒険者同士のマナーです。採り過ぎないようにお願いしますよ」


 私はお金に困っていない。同じ依頼を受けた冒険者の為に、いくらか残すつもりだ。


「どのくらいアイテム袋に入りますか?」


 答えたくない質問だ。

 私のアイテム袋はベルトポーチ型だ。茶色の地味なデザイン。そして、、バックルの所に桜の花のマークが付いている。

 元々は超司教様の持ち物だった。彼女は遺言で、この中に東京ドーム二杯分の酒とつまみが入っていると先生に明かした。飲むか、もう一度転生するまで持っていて欲しいと先生にアイテム袋を託した。

 そして、二人目の転生者である私がこれを継承することになった。

 先生が計測した所、中身の三分の二が酒とつまみということがわかった。つまり、このアイテム袋には東京ドーム一杯分の物が入るということになる。さらに、飲み食いすることで容量が増える。 

 しかし、そんなものを持っているなんて知れたら、強盗に襲われてしまう。控え目な量を申告して誤魔化すしかない。身を守るためだから、嘘ではない。


「……馬車一台分くらいの容量だと聞いています」

「むむっ、エルフのお弟子さんなら、もっと凄いのを持ってると思ったのですが……」


 持ってますよ。内緒です。


「これでも大きい方だと聞いていますけれど……」


 ステラさんが言うには貴族や商家の出の新人冒険者なら、このくらいのサイズは珍しくないそうだ。

 それで、新人以外に薬草の採取を受ける冒険者が少ないので、たくさん採ってくれた方がギルドとしては助かると話した。


「一人なので、まぁ、どこまで採れるか……」

 

 ステラさんは安全も考えて、臨時のパーティを組まないかと言った。何組か紹介すると。

 解散したばかりだから遠慮したいけれど……。フェンフェンだけに前衛を任せるのも不安だ。それに手が増えると採取も楽になる。


 その時、後ろから怒鳴り声がした。


 振り向くと、抽選をしていた辺りで喧嘩が起きている。ベテラン冒険者たちが暴れる新人を取り押さえていく。その中にはロバートさんやボブさんがいた。


 フェンフェンが私の前に立っている。守ってくれているのか、それとも喧嘩に混ざるつもりなのか。念のために、リードを握りしめておく。

 

 ギルマスや職員も現場に向かう。

 喧嘩はすぐに収まった。新人とベテランでは力の差が大きい。


 私は向き直ると、臨時のパーティを断った。喧嘩を見て、気楽にソロでいたいと思った。

 ステラさんは察したのか、それ以上は薦めてこなかった。

 そして、またヘルミンさんが割り込んでくる。


「一角ウサギの魔石を持って来ましたよ」


 ヘルミンさんをステラさんがまたまた押し返す。

 依頼書と魔石を貰って、受付を後にした。




 早めに森に行こうと思った。

 すると、アッシュさんが話しかけてきた。


「まさか、フェン之助をエルフの所に送るなんてよ」


 彼もフェンフェンのことを知っているみたい。

 フェンフェンが暴れ始める。さっきまで、おとなしかったのに。

 アッシュさんが張り合うように大きな声で吠える。フェンフェンも吠え返す。


「ワアアアア!」

「ウオオオン!」


 うるさい。

 筋肉言語の類かな。張り合って、勝負しているのか。


 ギルマスが飛んできて、怒られた。


 アッシュさんたち二日酔い組は、これから採掘場へ向かうらしい。森で何か起きても対処できないから気をつけるように言われた。

 彼はフェンフェンに私を守るように言い聞かせる。


「ガゥ!」

「自分が主人だって言っています。ずっと、この調子なんです」

「おうおう、生意気になっちまってからに……」


 また大声で叫び合う。


「ワアアアア!」

「ウオオオン!」


 またギルマスが来て、新人が大勢いるのだから手本になるよう行動しろと、みっちり怒られた。




 ギルドを出て、北門へ向かう。

 いつものように……ではない。

 後ろから視線を感じる。足音も複数聴こえる。誰かが後をつけてきている。

 フェンフェンに反応が無いので敵意は無いようだ。

 森に行く冒険者だろう。ソロでいたい気分なので、振り向いて確認せず、そのまま北門へ行く。


 門兵に許可証を見せて、街の外へ出る。

 "魔力探知"の魔法を使い。後ろを確認すると、カリーナの反応があった。あとは昨日の二回目の救助で担ぎ手に志願した冒険者たち。リーダーの名前は、ウィルだったはず。他に六人いる。よく覚えていないけれど、話したことがある冒険者みたい。

 偶然、私の後ろを歩いていただけだろうか? 

 まず彼女らが私に危害を加えることは無いと思う。だから、気にせず進むことにする。 


 


 森に着いた。

 すでに何組かの冒険者が先に来ていて、せかせかと採取をしている。

 いつだったか、救助を手伝ってくれた人がいる。軽く挨拶をする。向こうも返事をくれた。


 私は森の奥へと進む。

 フェンフェンに任せた結果、北西のほこらの方へ進むことになった。

 一番安全なルートは、西北西のキャベツ帯方面だ。ロバートさんたちが通った後に行けば、もっと楽になる。

 しかし、ここはフェンフェンの気分に委ねよう。気持ちよく戦闘してもらうのが一番だ。


 どんどん奥へ進む。近場の採取ポイントは他の新人に譲った方が良いので、これでいい。

 "魔力探知"にカリーナたちの反応がある。戦闘で私が足を止める度に、彼らも止まる。採取ポイントをいくつもスルーして、私を追跡している。

 どういう事? 私が穴場に行くと思って、探りを入れいているとか?


 開けた場所に出た。地図とコンパスを出して確認する。北西の方角の行動範囲の境目の場所だ。

 大きな石があって、テーブルとイスみたいになっている。小さな池もある。酒場で聞いた通りだ。

 あそこのゲートっぽい木々をくぐると、次のマップへ行けるはず。


 私は石のイスに座って、水を飲む。フェンフェンにも飲ませる。


「ここから先には行けないよ。とりあえず、ここで採取しようか?」

「ウオン!」


 了承を貰った。引きずられて、森の奥に連れて行かれるかと思ったけれど、杞憂だった。


 カリーナたちがこちらに近づいてくる。

 すると、彼女たちの後ろに新たな反応があった。カールだ。

 どういうこと?

 不測の事態だ。今までは探知範囲外にいて、気付けなかった。

 こんなことになるなら、北門で確認しておけば良かった。

 カリーナたちは脅されているのかな? 何をさせるつもりだろう?

 

 私は弾丸用の石を三個取り出して、"ストーン・バレット"を発動する。


「そこに誰かいるの?」


 私が声を掛けると、カリーナたちが恐る恐る出てきた。そうしたら、さっきまでのんびりしていたフェンフェンが立ち上がって、臨戦態勢をとった。

 やっぱり、何かあるの?

 次の瞬間、私の魔力探知に新しい反応が出た。暴ウルフだ。カールの後ろにいる。


「サンドラちゃん、ちょっと待って!」

「後ろにカールがいる。それで、その後ろに暴ウルフがいる。2体も!」


 カリーナたちは慌て始める。私は、こっちに来るように言う。彼女たちは戦闘モードのフェンフェンに怯えている。早く前を開けてもらいたい。私は呼びかける。


「早く、こっちへ。それから、カール! 聴こえているなら走れ!」


 カールはゆっくりと近づいてくる。


「ヴァアアア!」


 フェンフェンが"威嚇"のスキルを使う。

 暴ウルフ2体が立ち止まった。


 森の中から、カールが姿を現す。汗だくで、肩で息押している。置いて行かれると死が待っている。彼なりに必死で走ったようだ。


 暴ウルフが動き出す。"威嚇"のスキルの効果にも例外はある。おそらく長い時間、カールとエンカウントしていたのだろう。戦いは避けられない。


「しゃがんで!」

「あっ、何だって……」


 カールは倒れるように膝をつく。

 暴ウルフが勢いよく向かってくる。

 私は"ストーン・バレット"を使った。カールの左右斜め上を通って、二発の弾丸が暴ウルフに命中した。

 反応が消えた。倒したみたい。

 

 フェンフェンが自分の出番が無くて拗ねている。

 



 カリーナやウィルが一緒にいた理由。

 キャベツ帯への特別ツアーの抽選に外れた後、その場にいた顔見知りで集まって愚痴っていた。それで、このメンバーで少し奥の採取ポイントへ行こうという話になった。


 女子二人、男子八人の計十人。全員、レベル1から3くらいで装備も少ない。かなり危うい決断だ。


 周りを見ると、何組かのパーティが特別ツアーの後を追いかける計画を立てていた。

 自分たちもそうした方が安全だと考えたが、そこにフェンフェンとアッシュさんの雄叫びが聞こえてきた。ギルマスも交えた話に耳を傾けると、私が森の奥に採取に行くことを知った。

 全員、一度は私と面識があると言うことで、私の後を追うことになった。

 もちろん、悪いと思ったので、こっそりつけたそうだ。


 犬の獣人の男の子がいるので、彼の鼻で尾行したのだろう。 "魔力探知"でバレバレだったけどね。


 それで、少し奥に行って、適当な採取ポイントを見つけたら止まるつもりだったらしい。

 しかし、後ろからカールが追いかけてきた。関わりたくなかったので、そのまま進むことにした。そうしたら、私が奥へ奥へと進んでいく。カールが止まる様子も無い。

 そんな訳でマップの最奥まで来てしまったのだ。


 無茶苦茶で迷惑な話だ。死人が出ていてもおかしくない。

 

 それで、カールはというとポーションを飲んで、大の字なって寝転がっている。私も関わりたくないので放置することにした。


 私はこれからの話をする。私はここで採取をするつもりだ。他の皆はどうするのか?

 彼らもここで採取したいと、目を反らしながら言う。私たちが魔物を倒してくれるのを期待しているみたい。


 私は誤解のないように現状を説明する。

 私の仕事はフェンフェンの世話をすること。しかし、全く制御できていない。今は機嫌を損ねるより、行動を合わせて様子を見たい。今すぐ帰ると言ったら帰るつもりだ。依頼失敗でも構わないと私は考えている。

 

「あなたたちを守るかどうかも、この子の機嫌次第ということになるの」


 フェンフェンを見る。めんどくさいって顔をしている。


 すると、ウィルが立ち上がった。


「みんなでフェンリル様にお願いしよう」


 いきなり、何を言い出すの!?

 

 彼はフェンフェンの前に進む。膝をついて、両手を上に突き出し、頭と一緒に地面に下ろす。祈りを捧げている。


「フェンリル様、どうか我らをお救い下さい」


 カリーナたちも混ざる。

 神のように称えられたフェンフェンは尊大な態度で「よきにはからえ」と言った。神託を伝えると、フェンリル教の信徒たちはお恵みに歓喜した。


 何だ、これ?


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