三十二話 悪い話
森の入り口に戻った。
すると、若い冒険者が駆け寄ってきた。ディーノさんたちにギルドから連絡があるみたい。それを聞いて、負傷者を背負うメンバーを残して、ディーノさんたちは走って行った。
残ったベテラン冒険者が私たち新人に事情を教えてくれた。
岩砂糖の採掘場で、抗夫たちの撤収作業が行われている。そこに魔物の群れが出た。丁度、護衛の依頼を受けた冒険者が到着した所で、その場は撃退することができた。
しかし、死傷者が多く出て、防壁も壊れ、まずい状況だと言う。ギルドはすぐに増援を送ろうとした。しかし、暴動とダンジョンの封鎖により大半のベテラン冒険者が帰ってしまった。それで手が足りず、ディーノさんたちが行くしかないみたい。
昨日戻って来たばかりなのに大変だ。
ふと気が付いた。応戦した人たちは、今朝ギルドに行ったときに受付に並んでいた人たちだろうか? 私を逃がしてくれた人が無事だと良いな。
ギルドに帰ってきた。
またフェンフェンが吠えるかと思ったけれど、何もしなかった。怯えている風に見える。
医務室に向かう途中、トムさんが話しかけてきた。
ギルマスから先生の騎士隊に援軍の要請があったそうだ。マリアンヌさんは二つ返事で了承した。
医務室で事情を話し、早めに書類を貰う。
受付に行くと、ヘルミンさんが待ち構えていた。
「ふふふ、今回は私の所為ではありませんよ」
「そうですね」
私は書類を渡した。
「えーと、カール君の名前が救助した側とされた側にありますが、どういうことですか?」
面倒くさいことになっている。気の緩みで、申告を間違えたみたい。
「適当に処理してください」
「そういう訳にも……」
マリアンヌさんが救助された側に直すように言ってくれた。
そこにカリーナが一角ウサギの魔石のことを話した。
「あー、それはもう……いいかな?」
マリアンヌさんが、ここであやふやにすると調子に乗ると言った。彼女は採掘場に行くので、街に残るトムさんと一緒に行って回収するように提案した。
話を聞いていたヘルミンさんが、カールの行いはマナー違反だからギルドの方で対処すると言った。カールは救助の担ぎ手として同行した。本来なら許可も無く、ドロップアイテムを回収してはいけない。
一角ウサギの魔石は、後でギルドの方から私に返還されることになった。
受付が終わると、マリアンヌさんは岩砂糖の採掘場への救助隊が集まっている所に向かった。私はトムさんを待って、一緒に帰るように言われた。
森の救助に参加してくれた新人冒険者は、もう一度採集に行くと言う。今日は人も少なくて、薬草がたくさん採れるらしい。
すると、フェンフェンが私の足元で急かすように飛び跳ねた。私はしゃがんで話しかける。
「もう一度、森に行きたいの?」
「ガゥッ!」
むむ、どうしようか?
反対すると、また私を引きずるかもしれない。
ただ、もう少しこの子と交流してみたいという気持ちもある。
新人冒険者たちは私に来て欲しいみたい。入り口付近で大勢固まっていても、稀に魔物はやってくる。助けを求めて冒険者が手当たりしだいに声を掛けてくることもある。ようは、私がいると楽に採集ができるのだ。
もし私が何事も無く孤児院を出て冒険者になっていたら、彼らと同じ立場だったはずだ。だから、なるべく期待に応えたい。
再出発の前に、トムさんに伝えておく。またフェンフェンが暴走すると、私一人では止められない。もし反対されたら、おとなしく帰ろう。
ギルドの片隅に集まっている採掘場への救助隊の所へ行く。トムさんの姿が見えた。何やら相談しているみたい。声をかけづらい。
「ウオオオン!」
フェンフェンが吠えた。
みんなが一斉にこっちを振り向く。恥ずかしさで悶絶しそうになった。
トムさんたちから一人で行く許可を貰った。しかし、気がきでない様子だ。周りの人たちにも心配された。
森の入り口に着いた。
フェンフェンがまた吠える。二度目だし、採集してる子らも平気だよね。
すると、何人かの冒険者が走ってきた。これは救助のパターンだ。
話を聞くと、また行動範囲ギリギリの所だ。風の神の祠のある北北西の方角だ。
ディーノさんたちは北西の泉まで行って帰ってきた。西北西のキャベツ帯には冒険者の集団が向かった。そうなると、北北西の方角には魔物が多く残っているかもしれない。面倒な案件だ。
しかし、異変が収まったのならフェンフェンと私の二人で攻略できるはずだ。引き受けることにした。
遭難したパーティと交流のあるパーティが担ぎ手を引き受けてくれた。私たちは魔物退治に専念する。
一角ウサギが次々と出てきたが、フェンフェンの敵ではなかった。
褒めてあげるべきと考えた。頭を撫なでようとしたが、怒ると思って止めた。ハイタッチをしようとすると、やれやれという顔でポンとタッチされた。どういう意味だろう?
次に、フェンフェンを褒め称えることにした。付いて来た冒険者たちにも手伝ってもらった。すると、ご機嫌になって、はしゃぎ始めた。
この感じは甘やかされて、調子に乗っているのだろうか?
そうこうしている内に、目的地に着いた。
戦士の男の子と女の子、魔法使いの女の子がいた。三人とも酷いケガだ。
よく見ると、戦士の女の子はすでに亡くなってた。残りの二人は涙を流して茫然としている。
救援を呼びに走ったレンジャーの男の子が、女の子の肩をゆすって名前を呼んでいる。反応は無い。彼は大きな声で泣きながら、その場に崩れ落ちた。
フェンフェンが"威嚇"のスキルを使ってくれた。一緒に来たパーティが全員男子だったので、私は魔法使いの女の子の治療をすることにした。一応、魔力探知を使って周囲の見張りもしている。
フェンフェンは空気が読めるのか特に威張ろうともせず、熱心に周囲の警戒をしている。これが日ごろの姿なら、王都の冒険者の間でアイドルになるのも納得だ。
ケガをした二人の治療が終わった。私たちは入口に戻ることにした。
また一角ウサギが出たけれど、フェンフェンが倒した。魔物の方は問題ない。
一緒に来たパーティが三人を背負っている。体力があまり無いのか、辛そうだ。
しばらく歩くと、魔力探知に人間の反応があった。三人だと思う。前方から、こっちに歩いてくる。敵か味方か。同行者たちに警戒するように言う。
すると、向こうから声を掛けてきた。声の主は、救助したパーティと一緒に来たパーティに稽古をつけてくれた人らしい。私たちは合流することにした。
会ってみると、彼らの顔に見覚えがある。キャベツ帯への特別ツアーにいたベテラン冒険者たちだ。採集が終わって、森の入り口に戻って来た。そこで彼らの話を聞いて、慌てて追いかけてきたそうだ。
戦士の女の子が亡くなったのを聞いて、残念そうにしていた。我慢していた他の冒険者も泣き出す。
フェンフェンと目が合う。"威嚇"のスキルを使うつもりなのかな? ちょっと待ってと言う。
ベテラン冒険者が街に戻ろうと促す。そして、私とフェンフェンを見ながら、自分たちが背負うのを代わっても大丈夫かと尋ねた。私たちはその提案を了承した。
森の入り口に帰ってきた。
人が増えている。キャベツ帯に行った冒険者たちだ。彼らが入口にいた冒険者たちに成果を自慢しているみたい。
彼らは帰ってきた私たちを笑顔で迎えた。しかし、死人が出たことを知って、表情を失った。知り合いの冒険者が集まってきて泣いている。
何度か救助したけれど、死人が出るのは初めてだ。やるせない気持ちになった。
しばらくすると、リーダーらしき人が手を叩いて、全員に街に戻ると伝えた。
ギルドに帰ってきた。
医務室で書類を貰う。ベテランの冒険者たちは報酬を辞退して先に別れた。
受付に行く。
誰も並んでいなかったので、ステラさんの所に直行した。
すると、ヘルミンさんが覗き込んでくる。
「ふふふ、私が送り出した冒険者と違いますね」
「初めて死者が出ました。落ち込んでいるので話しかけないでください」
「あれ? 最初の探索で四人くらい殺してませんでした?」
「……殺してないです」
そんなだから、誰も並んでくれないのだと言いたいけれど、言葉を飲み込む。喧嘩する気力も無い。
ステラさんが彼女を押し戻した。それから、さくさくと手続きをしてくれた。
冒険者たちと少し話をして解散した。
私は帰る前に、ギルドの待合所で休むことにした。
「ウォン!」
フェンフェンが元気出せよと言ってくれた。そんな気遣いもできるんだね。抱きしめようとしたら、かわされた。
私たちは睨み合う。
すると、声がした。ロバートさんだ。
誘われたので酒場のテーブルへ向かった。ボブさんにアイラさん、リッカルドのおっさんがいた。
ロバートさんは悪い話があると言った。私の気持ちが沈んでいることを心配して、今度にしようかと聞いてくれた。私は大丈夫だと返事をした。不安だけど、聞かない訳にはいかない。
ルーシーのことだ。いわゆるPTSDになっているそうだ。食事がのどを通らない。ポーションは飲めるので、命に別状はないらしい。
私はしばらく考え込む。しかし、何も出てこない。無言で固まってしまう。
ロバートさんたちが、すぐにとはいかないけれど良くなるはずだと励ましてくれる。彼らの方が付き合いが長い。私よりも辛いはずだ。
彼らは岩砂糖の採掘場の話を聞いて、冒険者ギルドで待機しているそうだ。何事もなければ、明日のキャベツ帯への護衛依頼を受けるらしい。抽選になるけれど、参加しないかと言ってくれた。
私は先生にこの子を押し付けられた話をする。ロバートさんたちも王都行ったことがあるらしく、フェンフェンのことを知っていた。
団体行動は今は避けたいと考えて、お誘いを断った。
明日も森に行くと伝えて、それから少し話をして、ギルドを出た。
悪いことが続く。気分が良くない。
屋敷に帰ってきた。
ハンモッグが設置されていた。使わせてもらう。
フェンフェンが私の上に飛び乗った。重い。右側に寄ってもらう。
目を覚ますと、夕飯の時間だった。
フェンフェンにご飯を食べさせる。焼いた肉を切って、食べさせてあげると喜ぶと王都のギルマスの手紙に書かれてあったそうだ。
私は肉を切って、フェンフェンに食べさせる。得意満々に笑みを浮かべて食べている。御主人様のつもりだ。
トムさんたちを見ると、私たちの様子を見て目を丸くしていた。
アルベーデン領では、誰が試しても食べなかったらしい。王都でも誰からも食べ物を受け取らなくなったそうだ。
これは私とフェンフェンの距離が縮まっているということかな?
色々あり過ぎて、何がきっかけかはわからないけれど……。




