表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クノテベス・サーガ  作者: 落花生
第ニ章 岩砂糖を入れた紅茶の味は苦い
30/87

二十九話 新しい仲間


 起床。

 先生の屋敷で使用人をしていた経験から、朝は安定して起きられる。

 今日の予定は、宿屋でトムさんからの連絡を待つだけだ。もう少し寝ていても良い。迷ったけれども、起きることにした。


 食堂に降りて、朝ごはんにする。

 目玉焼きを挟んだキャベツサンドを食べる。すると、キャベツの味がいつもと違った。

 私の様子を見て、宿屋のおばちゃんが声を掛けてきた。やはり、普段のキャベツはキャベツ帯のキャベツだった。異変で始まりの森が封鎖されたので、近所の村から仕入れたらしい。キャベツ帯があるので、この街の近辺ではキャベツはあまり作られていないそうだ。それでか、味も今一つだった。


 近くにいた若い冒険者が、私に異変のことを訪ねて来た。

 どうして、私に? 

 行く予定も無いので、その後のことは気にしていなかった。正直に知らないと答えた。

 すると、他の冒険者も話に混ざってきた。


 千匹のゴブリンがいた。

 "ゴブリン・タイタン"が城壁から顔を出した。

 あの"邪眼鬼神のスコール"が死んだ。

 地下帝国へ続く洞窟が見つかった。

 ゴブリンは鳥に進化した。


 などなど、不確かな情報が錯綜している。

 ここにいるのは余所から来た新人冒険者たちかな? 私もその一人だ。先達の知り合いがいないと、情報を得ることは難しい。


 私の場合、ギルドに行けば誰か声を掛けてくれるかな? アッシュさんたちが起きるのを待ってもいい。最後の手段で、ヘルミンさんに聞くという手もある。

 もしくは、トムさんたちと合流すれば教えて貰えるかも。森に行く予定も無いし、宿でゴロゴロしていようかな?


 他の冒険者たちも宿に残るようだ。暴動後の片付けの仕事で疲れているらしい。

 それなら、私はギルドに行こう。朝早くに、先生の家の人たちが到着するとは思えない。

 ご飯を食べ終わると、私はマントを羽織って、宿を出た。




 ギルドまでの道を歩く。

 街はすっかり落ち着いた。いつも通りの光景が見える。

 何事も無く、ギルドに着いた。




 中に入ると、いつも通り混雑していた。

 掲示板の前でギルドの職員から説明を受ける新人たち。

 片隅では新人とベテランの冒険者が大勢集まって、話し合いをしている。

 受付には列ができている。


 森と南方のダンジョンが閉鎖されているのに、思った以上に人がいる。何かまた事件でも起きたのかな?


 適当に歩いて、キョロキョロと周りを見ていると、ヘルミンさんと目が合った。

 受付は四つあって、左から二番目のヘルミンさんの所だけ、誰も並んでいない。他は三組ずついる。


「サンドラさーん! おはようございます!」

 

 大きな声を出さないで下さい。私は会釈をして、他の所に行く。


「何か御用ですかー!」


 だから、大きな声を出さないで。周りの冒険者がこっちを見ている。仕方が無く、ヘルミンさんのいる受付に行く。


「大きな声で呼ばないで下さい。恥ずかしいので」

「まあまあ、困ったことがあるなら、受付で聞くのが一番ですよ」


 何も困っていないです。いや、あなたの所為で困っています。

 ひとまず、森の異変がどうなったのかを尋ねた。


「あー、知らないのですか?」


 ヘルミンさんがにやりと笑う。


「今日から一部解禁になったのですよ」

「そうだったのですか。知りませんでした」

「ふふふ、わかってませんね。数日の間、誰も採らなかったので薬草がたくさん生えているはずです。お金儲けのチャンスですよ!」


 冒険者は仲間であり、商売敵だ。困ったときは助け合うけれど、美味しい話は秘密にするものだ。一部解禁の情報は人脈があるか、運の良い冒険者たちの間で隠されていたみたい。


「あそこを見てください」


 ヘルミンさんがギルドの片隅を指差す。先ほど見た新人とベテランの集まりだ。向こうもこっちを見てる。何で? 見なくていいよ……。


「新人冒険者にキャベツ帯への採集依頼が出ていまして、それもベテラン冒険者の護衛付きです。街のキャベツ不足を解決する為の特別ツアーですね。残念ながら、サンドラさんは来るのが遅かったので、もう参加できません」

「そうですか……」

「冒険者にとって、情報は命の次に大切です。目ざとくないと一流の冒険者には慣れませんよ」


 講義か何かですか? めんどくさい……。


「それより、異変の詳細が知りたいです」

「そこはベテラン冒険者に任せましょう。パーティリーダーなら、仲間の為に稼ぎ口を探さないと」

「あぁ、パーティは解散しました」


 言いたくないな……。

 解散の手続きはヘルミンさんのいない時に、知らない受付さんの所で行った。


「解散したのですか!? 仲良さそうに見えましたが、何かあったのですか?」

「いや、あったじゃないですか!?」


 つい、声を荒げてしまう。魔法を撃ち込みたい。我慢。


「むむっ……」


 ヘルミンさんは口元に人差し指を当てて、遠くを見ながら考え始める。たぶん、本気でやってる。何を言っても無駄だ。


「仲間がいないので依頼は受けません。それで異変の詳細を……」


 その時、後ろから声がした。二度と聞きたくなかった汚い声。


「何だ何だ、お前、ぼっちなのか!?」


 振り向くと男爵家の次男坊がいた。名前は……忘れた。何で、ここに? まさか、仕返しに来た!?


「まぁ、俺もぼっちなんだけどな。兄貴に家を追い出されたんだ」


 話しかけてこないで。私はあなたの知り合いでもない。むしろ、恨んでるんだけど……。

 

「そうですか……」


 私はヘルミンさんの方に向き直り、彼女に質問した。


「それで異変の詳細を……」

「カール君、家を出たのですか? それで、どこに住むつもりなのです?」


 ヘルミンさんが私を無視して、カールと会話を始める。あなたは仕事中でしょう。


「どこに住むか困ってんだよ。なあ、お前さ。どこの宿に泊まってんだ?」


 お前って、私のこと? 

 これ以上、関わりたくない。

 私は宿に帰ることにする。


「じゃあ、私は帰りますね」

「じゃあ、じゃなくて、いい宿が無いか探してんだよ。お前の所はどうなんだよ?」


 私の宿に来るの? 嫌なんだけど……。

 宿屋のおばちゃんには良くしてもらっている。嘘でも、酷い店だなんて言いたくない。

 でも、褒めたら、こいつが泊まりに来るんだよね。どうしたらいい?

 私は"お前"ではないから、無視で良いよね。


「どこ行くんだよ」


 カールが、私の前に立ち塞がる。

 左右には受付に並ぶ冒険者がいて、壁になっている。逃げられない。

 しかも、みんな、私たちを見てる。


「帰ります。通してください」

「さっきから聞いてるだろ?」

「誰にですか?」

「お前にだよ」

「私は"お前"という名前ではありません。帰ります。通してください」

「何でだよ!?」


 あなたが何なのですか!?

 すると、ヘルミンさんがまた余計なことを言い出した。


「そう邪見にならずに……そうだ! お二人とも、仲間がいないでのしょう。それなら、お二人で組んでみてはいかがですか?」


 無理無理。何でそうなるの!?


「あー、仕方ねえな。組んでやってもいいぞ」


 この期に及んで、上から目線。何様のつもりなの?

 家を追い出されたのなら、もう貴族では無いはずだ。

 ヘルミンさんが手続きの用紙を取り出す。


「パーティ名はどうされますか?」

「俺の先祖のカール超帝の逸話から取るべきだな」

「それは良いですね。あ、私も子孫なんですよ。サンドラさんは知っていますか? このジマーリ男爵領の成り立ちは、西マロン帝国の……」


 私の知らない時空で話が進んでいるようだ。

 どうしたらいい?


 ステラさんを見る。彼女は驚いて、ドキッと体を反らせた。

 ステラさんの所に並んでいた冒険者が、横にズレて道をあけてくれる。そして、行けと手でサインをくれた。

 私は大急ぎでその場を離れる。一目散にギルドから出て、走って逃げた。


 追いかけては来ていない。大丈夫かな?

 何が起きたのか理解できない。私を逆恨みして、報復に来たのではないようだ。これ以上、事態が悪化する前に街を出よう。




 宿への道を歩いていると、どこからか、変わった鳴き声がした。

 空を見上げると、鳥の魔物が飛んでいる。首輪があるので従魔だ。誰かが、どこかと連絡を取っているんだ。

 私もそろそろフェンリルとかを従魔にしてもいいはずだ。

 異世界転生したら、何でもうまくいって、次々と無双して、私凄いってなるものじゃないの?

 どれも物語の話だけどさ。現実は世知辛いよ。


 


 宿に戻ってきた。

 すると、トムさんがいた。先生の家の人たちがもう到着したらしい。

 私はギルドに行ったこと、次元が崩壊したことを簡単に伝えた。

 トムさんたちは空き屋敷を借りたそうで、私にもそこへ移るように言った。

 早速準備をする。


 宿屋のおばちゃんに宿を出ることを伝える。あと、カールのことも。ここへ来るかもしれないと。おばちゃんもどうしていいのかわからないという顔になる。

 トムさんが宿屋の店主たちと話してくれた。面倒事が起きれば、自分たちの所に連絡を入れて欲しいと。なるべく、こちらで解決するからと言った。

 

 アッシュさんたちは誰も起きていなかった。急ぎたかったので、挨拶をせずに宿屋を出た。




 街の北側に行く。北門から近い場所に、大きな屋敷があるらしい。五年前に、持ち主の商人が破産して、屋敷を手放した。それから、建物が古くなっていたので、買い手がつかなかった。

 エルフの軍隊が何人来るか判らないが、広い庭があるのでテントを張れるらしい。周りの塀も高くて、中を覗くのは難しい。ひとまず、拠点の確保はできたとトムさんは安堵している。

 

 歩きながら今後のことを話す。

 私は帰りたいと思っていると伝える。こちらから領地に帰る人がいるのか尋ねた。先生の騎士隊と一緒に帰れるなら安全だ。

 トムさんは私の機嫌を取るように、やんわりしたトーンで返事をする。嫌な予感。先生がまた何か企んだな。

 トムさんは、この街に安全に滞在する為に"新しい仲間"を迎えようと言った。

 前の仲間とは一昨日別ればかりだ。それも不本意な形で。すぐに次の相手と組むなんてできない。トムさんもそこはわかっているので、声のトーンが低い。

 そして、その子は普通の仲間とは違うと言った。もしかして、エルフかと思ったけれど違うらしい。

 一体、先生は私に何をさせるつもりなの?




 屋敷に着いた。想像以上のボロ屋敷だ。

 冒険者ギルドに依頼を出して、大規模な清掃を行う予定らしい。


 騎士隊や家臣の人たちは庭にテントを張っていた。まずは、彼らに挨拶をしよう。

 テントに入ろうとすると、後ろから獣の鳴き声が響いた。


「ウオオオオオオルルル!」


 真っ黒い犬? 目が黄色く光っている。体高は40cmくらい。顔が大きく、胴体と同じくらいのサイズだ。手足は小さい。マスコットキャラみたいなデザインだ。

 おそらく、魔物だ。首輪とリードが付いている。誰かの従魔かな? 


 テントの中から、神官戦士のマリアンヌさんが出てきた。鎧を着こんでいて迫力がある。


「ごきげんよう、サンドラさん。大変だったわね」


 マリアンヌさんが頭を撫でてくれた。子ども扱いしないで欲しい、とは言えない状況だ。強い女性が一緒にいてくれると非常に頼もしい。


「ウオオオオオオンンン!」


 また吠えた。


「この犬は?」


 誰の犬だろう? アルベーデン領で二年暮らしたけれど、見るのは始めてだ。


「この子はフェンリル君よ」

「え? フェンリル!?」


 とうとう出たか、フェンリル!?

 でも、知ってる姿と違う。原典の神話だと、灰色のずんぐりした狼だ。和ゲーや異世界転生ものだと、雪国カラーのカッコいい狼になっている。


「名前がフェンリルなのよ。本物のフェンリルとは違うわ」

「そうなんですか。紛らわしいですよ」

「もし本物ならスタンピードより大事になるわよ」


 マリアンヌさんはクスクスと笑う。確かに、本物の訳ないよね。修業時代にこの世界の神話を読んだけれど、本物はまだ湖の底で眠っている。 


「それで、ミルちゃんからサンドラちゃんに新しい指令よ。この子の面倒を見て欲しいの」

「私がですか?」


 トムさんがコクリとうなずく。


「グルルル!」


 この狼が私の"新しい仲間"!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ