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クノテベス・サーガ  作者: 落花生
プロローグ
3/86

三話 この世界の話と旅の目的

 私を襲ったゴブリンの群れはゴブリンロードの率いる軍団の一部だったらしい。上位種も多数確認されていて、被害も大きなっているそうだ。ミルルムさんは見過ごせないからと討伐に参加した。


 今、私は離れた村の宿に避難している。ミルルムさんが率いている騎士を一人、私に付けてくれた。名前は、トム。変装して、被害にあった商人の親子という設定で潜伏した。妻子がいるらしく、とても優しかった。


 トムさんがミルルムさんのことを詳しく教えてくれた。彼女は何十年も前に勇者ロッキーと共に旅をした(スペシャル)ランクの冒険者だった。現在は、エルフの里の周りの土地を治める領主だとか。そんな偉い人が何でこんなところに……。

 私は彼女のことを歌や絵本で知っているはずだった。名前まで正確に覚えていなかった。

 もう一人の仲間は覚えていた。麦の神の信徒、スーデ・イー=ラパツヨ超司教様だ。私は教会の運営する孤児院で育った。そこで超司教様に憧れて活動する人たちに何人も出会った。それで、記憶に残っていた。 


 

 三日後。私はベッドの上でゴロゴロしている。

 神官戦士の女性が回復スキルの"ヒール"を使ってくれていたみたいで、体の調子はすこぶる快調だ。

 すると、前世の私が「冒険に行きたい」とうずき始めた。心を抑えるため、ミルルムさんに死んだら生き返れないと言われたことを思い出す。

ゲームだと、タイトル画面に戻ってセーブポイントからやり直せた。そんなことができる訳ない。でも、何度もタイトル画面に戻った記憶がある。試してみようと考えてしまうけれど、我慢する。

 


 次の日、連絡があったらしく、移動することになった。服を着替えて、別の村へと馬で向かった。野営地の近くにあるログハウスを借りたらしい。そこでミルルムさんたちと合流した。


 ゴブリンロードは討伐された。もしも私の住んでいた街が襲撃されていたらと思うと、ゾッとする。退治できて良かった。  


 丁度、お昼になった。ご飯を食べながら、討伐の様子を教えてくれた。

 ロード以外にも上位種のゴブリンが多数いたらしい。アーチャー、メイジ、ライダー、ジャイアントなどなど。さらに、チャリオットを操縦するゴブリンがいたそうだ。百年ほど生きているミルルムさんでも、初めて見たらしい。

 騎士たちが手柄を語り合う。トムさんは笑顔で相槌を打っていた。


 私はというと、ご飯に夢中になっている。特に気になるのが"赤角レッドホーンラムとジャガーモのシチュー"だ。見慣れないジャガーモという野菜に興味津々だ。黄色く大きな塊。ふかふかしている。そして、前世の私が「これはジャガイモ」と呼び掛けてくる。知らないのに知っている。不思議な感覚。

 シチュー全体を見て、「肉じゃが?」と前世の私が呟いている。醤油ではなくオリーブオイルで味付けしていると予想が立てられた。

神官戦士のマリアンヌさんがジャガーモについて教えてくれた。イー=ラパツヨ超司教様が勇者との冒険の際中に発見したらしい。新しい食料源になると考え、持ち帰ったそうだ。

 けれども、いくら肥料を与えても実が付かなかった。ジャガーモは高地で育つ植物だったのだ。それでも、綺麗な花が咲くこともあり、アルベーデン領に毎年植え続けた。そうして、八十年くらい経って、とうとう大きな実を付けるようになった。

現在、超司教様の遺言に従い、ジャガーモを普及させるべく、西部で色々と活動しているそうだ。



 食事が終わると、まだ休んでいるようにと言われた。

 皿洗いくらいならできる。手伝いを申し出ようと考えた。けれども、こういう時は大人の言うことに従うのが今生の私だ。おとなしく、部屋に行く。

 

 しばらくすると、また冒険に行きたいとうずいてきた。

 おかわりしたから? 血糖値が上がって、テンションが高まっている。

 軽く運動しよう。シャドーボクシングのようなことをしてみる。


 シュッシュッ


 遅い。

 

 シュシュ、キック! コテン!


 転んだ。この調子だと、当分の間、戦えそうにない。

 すると、ドアをノックする音が聞こえた。


「お~い、何してるの?」


 ミルルムさんだ。ドアを開けて返事をする。


「何も…」

「嘘つけ、コノヤロー」


 ミルルムさんが部屋の中に入ってきた。

 ファンタジーに出てくるエルフは、耳が良い設定が多い。原典とか知らないけれど、このゲームでもそうだったのだろうか?

 そうなると、暴れていたのは完全にバレている。


「じっとしてろよ。川に流されて、体力落ちてるんだからさ」


 怒ってる。正直に答えよう。


「狩りに…」

「ダメ」

 

 一蹴された。


「まぁ、元気なら今後のことを話そうか。ロクナグラ商会だよね? 私の方にもちょっかい出してきた。気に入らないんだよね」


 ロクナデラ…何だったかな?

 そうだ。私がこれから勤める会社の名前だ。


 この世界の成人は15歳。その前に、12歳で洗礼式を受けることになる。そこで神様からスキルを授かる。

 私が授かったのは"ポーション作成"。錬金術師の素質があるってこと。

 そうなると、錬金術の勉強を始めればいい訳だ。しかしながら、お金がたくさん掛かる。孤児には学費どころか道具代も出せない。正直、"はずれ"だと思った。


 しばらくして、孤児院のスポンサーでもあるロクナグラ商会から、私を引き取りたいと連絡がきた。錬金術を学ぶ学校への学費も出してくれるとのこと。

 驚いたけれど、私は錬金術に興味はなかったので特に嬉しくはなかった。

 それから、先輩や職員さんが裏の事情を教えてくれた。勉強させてもらう代償として、一生を大商人ロクナグラ様の為に働くことになるらしい。

 

「社畜じゃないですかー!!!」と、今の私なら叫んでいた。


 前世の記憶が目覚める前の私は、内気で人見知りをするタイプだった。スポンサー様の手下と思われる職員やシスターたちの猛攻に耐えられる訳もなく、契約書にサインをした。

 そうして、私は悪の商人の元へと運ばれていった。


 その途中で、ゴブゴブされかけて、異世界転生で勇者して、エルッフフフされたのだ。


「討伐が終わって、他の冒険者や兵士と一緒に休んでいたんだ。そこに現れて、高圧的な態度であれしろこれしろと私たちに命令を始めたんだよね」


 兵士にまで命令するなんて…。

 大きな商会で、近隣の領主も頭が上がらないと聞いていた。本当みたいだ。


「現場にいた人たちから悪い噂もたくさん聞いた。けれども、商人の相手は難儀でね。すぐにどうこうはできないんだ。で、ここからが本題ね」

「はい」

「このまま死んだふりをして、私と一緒にアルベーデン領に来て欲しいんだ」


 死んだふり?死んだことにするってこと?


「あなたの存在を隠す必要がある。悪意を持つ物に、この世界の秘密を知られる訳にはいかない」


 この世界には多くの謎がある。

 例として、私たちの住んでいる地域。横長の長方形になっている。

 この長方形の範囲から出ることはできない。北には雪山、南には海、東には険しい山脈、西には霧の森がある。奥に進むと、いつの間にか元の場所に戻ってしまう。

 誰にも理屈がわからない。神話や伝承にも答えはない。

 その真実は、ゲームの舞台がこの中で完結していたからってことらしい。

長方形なのもゲーム画面がそうだから。


「当分は私の家に住んでもらう。望むなら、戦い方を教えるよ」 

「そのチュートリアルってスキップできないんですか?」


 早くバトルしたいニャ。


「何度も言うけれど、この世界も現実だから。子供の体で戦うのは無理だよ。どう?例の戦闘力を表す数値は見つかったかな?」


 何度か確認したけれど、ステータス欄からレベル表記が消えていた。STRもAGIも出てこない。今生の私も存在を知らない。

 戦うには、純粋に肉体を鍛えて、力を付けないといけないらしい。


「セーブポイントもね。スーデが躍起になって探していたけれど、とうとう見つかることは無かった」

「スーデ?」

「あー、うん、トムから私のことは聞いたよね。一緒に冒険したスーデ・イーラパツヨという女性がいてね。彼女があなたの前にいた転生者。そして、ゲームを作った張本人だ」

「えっ!?」

「あの酔っ払いが世界の創造主だとか、信じ難いよ。まったく」


 酔っ払い?

 清貧を尊ぶ御方だと教わったけれど…。

 しかも、作った!?


「私たちの冒険は中途半端な所で終わっていたんだ。停滞していたストーリー、それが今になって動き出した。ジャガーモの実が付いたのも、そう」

「ジャガーモもゲームに出ていたのですか?狩りしかしていなくて…」

「フライドポテトが彼女の好物でね。それでイベントに取り入れたんだ。王都でジャガーモを使った料理のコンテストが開かれたり、とか。他にも、料理アイテムの最上位が"黄金のフライドポテト"だとも言っていたよ」


 知らなかった。ドワーフと相性が良さそうな料理アイテムだ。

 それにしても、フライドポテトが好物の酔っ払い。聖職者とは程遠いイメージ。どんな人だったのだろう。


「現在、この世界の秘密を知るのは私だけ。私だけが異変を感じていた。魔王がこの世界に降ってくる日も近い。でも、誰にどう説明すればいい?正直、不安だった。そんな中、二人目の転生者が現れた。それも勇者として」


 ミルルムさんが仰々しく手を差し伸べながら、こっちを見る。


「私のことですか?」

「そうだよ。私はあなたの邪魔をするつもりはない。むしろ、冒険には積極的に行って欲しいんだ。魔王を倒すために」

「その、魔王って何なんですか?急に出てきて、バックボーンも無くて。私が見逃したのかもしれないけれど…」

「スーデは物語を知的で奥深いものにしたかったらしい。でも、結末を思いつかなかった。だから、魔王を出して強引に締めたそうだ」

「えー」

 

 確かに、登場のタイミングもおかしかった。

 中盤から王国の政争に巻き込まれ右往左往していた。そこに突然、魔王が出てきた。すると、共通の敵に団結する形で、いざこざはあっさり解決してしまった。

 ようは、広げた風呂敷を畳めなかった訳だ。


「馬鹿スーデのせいで世界の危機だよ。何とかしないといけないのだ」

「それ、断ることは…」

「魔王討伐の方はいいよ。無理させるつもりは無いから。ただ、転生者としての秘密は厳守してほしい。だから、私と一緒に来て。もう、断ると誘拐しないといけない。だから、断らないで」

「えぇ…」


 どうするべきか?

 このまま商人の所に行っても、ろくな目に合わないのは確かだ。

 他に当てもないけれど…


 急に涙が出てきた。

 体が震える。倒れるように、身をすくめる。

 私は動けなくなった。

 

 前世の私はたくさんのゲームや漫画に興じていた。プチオタクだった。その視点では、ミルルムさんの話はよくある設定だと思えた。

 でも、今生の私には違った。本来なら、魔王なんて想像もできない。

 それにエルフから誘拐なんて言われたら、それは恐ろしいものだ。この世界のエルフは人を惑わせ、どこかへ連れて行くと言われている。怖い伝承をいくつも聞いて育ってきた。


 落ち着いてから、ミルルムさんは誤ってくれた。

 しかし、私も気を付けるべきことだった。


 私。


 私は、サンドラ。


 ひとまず、ベッドで休むことになった。

 眠れない。

 ふとんの中で思索に耽る。


 私が魔王を倒さないといけないのか。

勇者なら、もう一人いた。ミルルムさんが彼の存在を知らないなんて事は無いはず。私に振る以上、何かあったのだろうか?

 正直、大役を押し付けられても困る。大勢の前で目立ちたくない。

 どうせなら、こっそりソロで攻略できないだろうか? 人知れず、魔王を倒してしまえばいい。

 ゲームだと、勇者職の特徴はレベルが上がるのが早いこと。そして、遊び人職と種族固有のものを除いた全てのスキルを覚えられること。

 イージーモードでプレイしたい場合は勇者職を選択するようにと、説明書に書いてあった。私は読まずに始めて、ドワーフの戦士を選んだけど。

 一度クリアして、ある程度の知識はあるので上手く立ち回れば可能なのでは?

 そう考えていると、強い後悔の念が襲ってきた。


 「攻略サイト、見ておけばよかった……」


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